「ただ助けたいと口にして誰かを助けられるほど、これは生易しい試験じゃない」
概要
『ようこそ実力至上主義の教室へ 10巻』で行われた特別試験。
3学期末テストを終えた綾小路たち1年生は、この時点でA〜Dクラスまでの生徒は誰一人として退学する事なく、最後の試験のみが残る3月に突入していた。
‥‥そのはずだったのだが、学校側にとって退学者がこの時期までに一人も出ていないことは『予定と異なる』らしく、学校側は1年生から退学者が出ていないことを考慮し、その『特例措置』として、追加の特別試験を行うことになった。
その追加の特別試験として行われるのが『クラス内投票』である。
退学者が出ていないという理由で追加の特別試験をやらされることは、生徒側からすれば理不尽極まりない仕打ちであり、教師側も追加試験で生徒たちに負担をかけさせてしまうことを重く受け止めているが、上からの命令なのでどうする事も出来なかった模様。
ただ、特別試験の内容自体は歴代の中でもかなりシンプルで、退学率もクラス別に3%未満など他の特別試験に比べると、難易度で見れば簡単そうに見える。
だが、1年生に待ち受けていた本当の地獄はここからだった。
ルール
試験内容
- 試験当日までの4日間で、クラスメイトに対して評価をつける。
- 賞賛に値すると思った生徒を3名、批判に値すると思った生徒を3名選択し、土曜日の試験当日に投票する。
- 誰が誰に投票したかについては永久に公開されない『匿名方式』が取られ、最終的な投票数は結果発表まで分からない。
ルール1
賞賛票と批判票は互いに干渉し合う。
賞賛票−批判票=結果
ルール2
賞賛、批判問わず自分自身に投票することは出来ない
ルール3
同一人物を複数回記入すること、無記入、棄権などの行為も一切不可
ルール4
クラスで首位と最下位が決まるまで試験は繰り返し行われ、首位はプロテクトポイントという1回限りの退学回避権が与えられ、最下位は退学処分を受ける。
ルール5
他クラスへの生徒に投じるための専用の賞賛票も各自1票持っており、記入は強制
注意事項
- 首位と最下位が決まるまで試験は続くので、クラス全員で団結して投票をコントロールして賞賛だけされる生徒も批判だけされる生徒も0となり、誰も最下位が出ないように調整するなどの小細工は一切出来ない。
- 最下位が2名以上になれば決選投票を行い、それでも決まらない場合は学校側が用意した方法で優劣を決める。1位が2名の場合も同様である。
- 学校の元々のルールに則り、2000万prを学校側に支払えば批判票で1位になった生徒の退学を回避できる。
- あくまで特別措置で起きた追加試験なので、退学者が出てもクラスポイントがマイナスされることはなく、同様に退学者を2000万prで救済しても更に必要な300クラスポイントを支払う必要はない。
要点
- つまり、ほぼ確実に各クラス1名退学者が出る試験である。
- クラスで最も批判票を獲得した生徒が退学処分となり、最も賞賛票を獲得した生徒がプロテクトポイントを獲得する。批判票と賞賛票は打ち消し合い、最終的に残った票で優劣を競う。
- 自分がクラス内で賞賛する生徒を3名、批判する生徒を3名、それぞれ絶対に記入しなければならない。
- また自クラス以外にも他クラスへの生徒に対する賞賛票もそれぞれ1票ずつ持っており、これも最終的な結果に反映される。
動向
この試験の通達時点では、2000万プライベートポイントという大金は1年生のどのクラスも持っておらず、確実に誰か一人退学者を出さなければいけない状況に追い込まれる。
基本的な動きとして、Aクラスは既に坂柳の完全な支配下に置かれており、彼女の独裁で批判票1位で退学する生徒として葛城を迷わず指名、葛城の側近の戸塚のみ反発した。
Bクラスは誰も退学者を出さないように2000万prを試験日までに何とか集める方針を立て、一之瀬を中心にBクラスの全生徒からポイントを集めるが、集まった金額は全て合わせても1600万を下回る額だった。
残りの400万ポイント分の穴埋めとして、一之瀬は生徒会長の南雲から借りようと協力を依頼するが、南雲は融資の条件として自分との交際を一之瀬に突き付けた。
Cクラスは試験通達直後から阿鼻叫喚の嵐で、平田の声も届かずクラスは分裂。疑心暗鬼が広がる中、誰もが退学にならない事だけを考えて行動に動く。
全クラスで最もまとまりがなく、誰もが自分のことだけを考える中、クラスの裏切り者によって、綾小路が批判票のターゲットにされ、自分が助かることのみを考えるクラスメイトはそれに便乗することになる。
Dクラスはクラスが降格した元凶として、表向きは石崎たちに喧嘩で負けたことで大人しくなった龍園が批判票1位の最有力となっており、クラスメイトの大半は龍園に批判票を入れることで一致していた。
ちなみに龍園本人は、本気で試験に動いた場合は退学回避も楽勝との事らしいが、今まで好き勝手をしてきた責任とクラスメイトを想って一人退学を受け入れようとしていた。
この時点では、綾小路・龍園・葛城の3人がそれぞれ各クラスで批判票のターゲットになっており、かなりピンチな状況となっている。
一之瀬も南雲と援助交際をしなければ、クラスメイトの誰かが犠牲になってしまうということで非常に追い詰められてしまう。
終始、地獄絵図のような展開が続く10巻だったが、全てのクラスが思いもよらぬ結末でクラス内投票は終了する。
試験結果(ネタバレ注意)
Aクラス
- 1位「坂柳有栖」(賞賛票36票)
当然、Aクラスのリーダーである坂柳が賞賛票で1位を獲得しプロテクトポイントを獲得した。
- 最下位「戸塚弥彦」(批判票36票)
実は坂柳が葛城を指名したのはただのブラフで、彼女の本当のターゲットは葛城の一番の側近である戸塚だった。
理由として、戸塚はAクラスでも下位の成績で何もメリットを生み出さず、反対に葛城は敵対はしているが間違いなく優秀な人材であることに変わりはないので残された。その他にも、坂柳を裏切って葛城の派閥に着いた生徒は弥彦のように退学にさせるという見せしめも兼ねて葛城をあえて残し、改めて自クラスへの支配を強めたのが真の狙いだった。
Bクラス
- 1位「一之瀬帆波」(賞賛票98票)
圧倒的な人気とカリスマ性を誇る一之瀬は、自クラス最大の39票を超え圧巻の98票の賞賛を受け、プロテクトポイントを獲得した。
理由は後述になるが、Aクラスの殆どが綾小路に他クラスへの賞賛票を入れた結果から見れば、かなりの生徒が一之瀬を評価していることが分かる。
- 最下位「なし」
Bクラスは試験当日までに2000万prを集め、全クラスで唯一退学者を出さずに試験を終えた。だが、一之瀬は別に南雲との援助交際を受け入れたわけではなかった。
実は前夜に綾小路の仲介で、無人島試験以降にAクラスから搾取した龍園が保有している大量のポイントを、石崎と伊吹からとある契約を結んで受け取っている。これにより2000万prの不足分を補い、批判票を全て引き受けた神崎の退学を取り消し、南雲と交際することなく犠牲者ゼロでBクラスは試験を終えた。
Cクラス
- 1位「綾小路清隆」(賞賛票42票)
坂柳によって1位にさせられた。
理由は正直これに尽きるのだが、簡単に説明すると実は坂柳自身は綾小路に退学になって欲しくないのでAクラスの生徒の殆どが他クラスへの賞賛票を彼に入れた。
そして、初めから坂柳はCクラスの最下位の人物を陥れる為に動いており、一度その人物に綾小路に批判票を集めさせたのも、最終的に自分たちがそれを上回る賞賛票を入れればどう転んでも綾小路は退学にはならないという計算の上だった。真の理由は下述。
- 最下位「山内春樹」(批判票33票)
そして試験中盤に綾小路への批判票集めを主導していたクラスの裏切り者こそが山内である。元々、意中の人物である坂柳の指示で綾小路を狙っていたが堀北によってその裏切り行為をクラス全員の前で告発され、批判票の的となる。
坂柳からはAクラスが持つ他クラスへの賞賛票を山内に入れると約束していたが、口約束だったのであっさり反故にされ、その賞賛票は結局全て綾小路に入った。
Dクラス
- 1位「金田悟」(賞賛票27票)
龍園の後釜として一時的にこの頃のDクラスのリーダーを務めていた金田がプロテクトポイントを獲得するという結果に終わった。ちなみにプロテクトポイントを獲得したキャラの中では賞賛票が最少数である。
- 最下位「真鍋志保」(批判票不明)
試験当日まで、誰もが龍園の退学を信じて疑わなかったが、実は伊吹と石崎、椎名によって批判票を調整されており、龍園がリーダーを降りてからはクラスの支配者のように横暴に振る舞い、知らず知らずのうちにヘイトを溜めていた真鍋が退学となった。突然の退学に真鍋は阿鼻叫喚となった。
ちなみになぜ、龍園が助かったかと言うと上記の一之瀬と伊吹が結んだ契約が理由である。龍園の多額のポイントをBクラスに一方的に譲渡する代わりに、Bクラスの他クラス分の賞賛票の全てを龍園に与えるという契約を結んだからである。これにより龍園は賞賛票と批判票が打ち消しあってほぼ0票となり、伊吹と石崎にヘイト移動された真鍋が退学するという結果で終わった。
真相
実はこの「クラス内投票」は綾小路清隆を退学にする為に設けられた試験だったことが10巻終盤で明らかになる。
彼をホワイトルームに連れ戻す為に、父親からの刺客として月城理事長代理が高度育成高等学校に送り込まれてくる。
そして、この試験そのものが最初から月城が考案した試験であることが発覚し、月城は試験前に坂柳に対し、綾小路を退学させるように働きかけていた。
しかし、最初から綾小路を退学にするつもりがなかった坂柳により、逆に彼に退学1回無効権であるプロテクトポイントを与えるという大きなミスをしてしまう。
そしてこの結果が、次の「選抜種目試験」の結果に大きく繋がることになる。
試験の余波
Aクラスは終始たった一人の支配体制内で退学者を決めたことで、坂柳は完全にクラスを支配下に置いた。
だが、これにより葛城は坂柳に対し深い憎悪と憤りを抱くようになり、2年生編ではこの一件がかなり大きな要素へと変化していく。
Bクラスは全員が助かる選択を選んだことでまた一つチームワークと絆が強くなったように見える。
しかし、実はBクラスのほぼ全員が終始一之瀬に選択権を任せきりという、異常なまでに彼女への盲信じみた行動を取り続けており、折角3月まで貯め続けていたポイントも全て吐き出してしまった。また振り返れば、この試験からBクラスの低迷が始まることになる。
Cクラスは見事山内の裏切りを見抜いた堀北によって、Aクラスを目指す上で必要な人材を残すことに成功した。この試験を終えて最も成長したのは間違いなく堀北鈴音だと言える。綾小路の仕込みもあったが、兄との対話を経て改めて自分が何をしたいかを明確にする事が出来た。逆にこの試験で最も弱体化したのが議論するまでも無く平田である。クラスメイトたちがお互いを非難し合い山内が退学したことに嫌気が差し、試験終了後は完全に自暴自棄になってしまった。
また自らの思惑から、山内の批判票集めに協力していた櫛田の関与も明るみに出ており、これは次年度の満場一致特別試験へと繋がっていく。
Dクラスはお金の力で解決するという、ある意味龍園らしい方法で試験を乗り越えた。また龍園自身は退学を甘んじて受け入れるつもりだったが、伊吹や石崎たちが敵である綾小路や一之瀬と組んでまで勝手に自分を助けたことに関してはさすがに思うところがあるらしく、次の選抜種目試験において最も転機が訪れるクラスとなる。
このように、全てのクラスがそれぞれの特色が見えるやり方で試験を乗り越えており、いずれも無傷では済まない状況下で試験に対する答えを出している。
また、今回の試験において、Cクラスの担任である茶柱佐枝は「社会に出れば誰かを切り捨てなければならない事態というものは必ず訪れる」と評している。
このクラス内投票は一見理不尽に見える試験だが、実は社会に出る上で必要な局面を先取りして詰め込んだ重要な試験であると言える。
試験で求められる事
この試験はある勢力の差し金によって突発的に行われた物であるものの、乗り切る為の条件は決して無理な物ではない。
「クラス内での評価が最下位にならなければ退学は免れられる」という事は、ようは「クラス内で揉め事の様な問題を起こさず、真面目に授業を取り組んで成果を出していれば良い」という事で、つまり学生としての当たり前の本分(将来の社会進出に備えて真面目に授業を受け、良い成績を出す)を忘れてさえいなければ、まず最下位(退学処分)に落ちる事はないのである。
例外があるとするならば、「高度育成高等学校入学前(中学時代以前)に起こした問題行為をクラスメイトに暴露されてしまった場合」となるが、それでも「入学前の事でしかない」と割り切ってしまえばそれまでの話であり、入学前の問題行為が余程酷い内容だったり、高等学校在学時に問題さえ起こしていなければ、やはり最下位にまで落ちる心配はないと言える(逆に暴露した人間の方が、信頼を失って最下位に落とされる可能性が高いと言える)。
実際、最初に行われたクラス内投票においても、最下位候補となった者や実際に最下位となってしまった者には、そうなって当然とも言える理由は十分にあった。
最下位候補
- 綾小路(C):問題児という訳では無くクラスメイトの裏切りによって陥れられたのが理由だが、交友関係が狭く、助けてくれる生徒もクラスの半分以下しか居ないなど、普段の学校生活で親しい友人を増やして来なかった彼にも問題はある。しかし綾小路はこの試験の正解を最初からわかっており、自身が退学候補になった場合、自らがクラスの不要な人間を炙り出す裁判を計画していた。
- 龍園(D):恐怖でクラスを支配し、数々の校則違反及び暴力行為に走った挙句、堀北クラスに敗れて自身のクラスを「C」から「D」へと降格させてしまう失態を犯しており、クラスメイトからの多大な反感を買っていた。
- 葛城(A):二度の特別試験で失態を繰り返しており、特に無人島試験では、クラスメイトに多大な負担を掛ける取引を龍園と行った結果、戸塚以外のクラスメイトから恨みを買っていた。
実際の最下位
- 山内(C):成績がドベも同然、授業態度も最悪、教師にまで平然と嘘を吐く、空気を読まずトラブルを起こす、女子の着替えを盗撮しようとする等、もはや論外レベル。挙句の果てには、利己的な理由で他クラスに自身のクラスメイトを売る裏切り行為に働いたので、最下位に落とされるのは当然で、親友の池と須藤ですら最後には擁護出来ない状態であった。
- 真鍋(D):強者には弱腰で弱者には高圧的かつ暴力的と、元々の性格に多大な問題があった。龍園失脚後はより増長している様子も見せ、殆ど手が付けられない状態で、クラスメイトからのヘイトを稼ぎまくっていた有様だった。
- 戸塚(A):Aクラス所属だが、クラスメイトの中ではクラスに貢献出来る程優秀な訳では無く、リーダー格の一人であった葛城の威光を笠に着て他クラスの生徒に威張り散らす虎の威を借る狐であり、クラス内どころか同学年全体から嫌われていたと言える。
上記からも、試験の内容は決して「理不尽」とも言い切れない部分もあり、特に実際に最下位となって退学処分を受けた者達は、在学し続けていてもクラスに貢献するどころか足手まといにしかならなかったと言えるのである。
誰だって「自分の学園生活の妨げになる様な人間と一緒にいたい」などとは思わないし、「そんな人間の為に自分の将来が潰されかねない事態になってしまうなど避けたい」と考え、いっその事退学してくれる事を望む…。それは決して「理不尽」などではなくむしろ「当然」の事なのでは無いだろうか…。
読者からの評価
数ある特別試験の中でもぶっちぎりで高評価である。
この一巻で提示された伏線もほぼ全て綺麗に回収しており、ちゃんと退学者を出したという点を高く評価している読者が非常に多い。
特別試験を軸にした物語の中では最も人気の高いエピソードの一つで、全クラスが読者にとって納得のいく結論を出したことが高い評価に繋がっている。
堀北の成長と坂柳の本来の実力を丁寧に描き、そこに綾小路と学を絡めて終盤に繋がる展開の完成度は非常に高く評価されている。
また人気ヒロインである一之瀬が南雲と付き合う方法を取らずに退学者を出さなかったこと、そして同じく人気キャラである龍園が退学しなかったことに安堵したファンは非常に多く、良くも悪くも読者をハラハラさせた展開が続いたと言える。
2年次にもこの試験に似た満場一致特別試験が行われることになるが、こちらは賛否両論となった。