概要
首都の方言ということもあって、イギリス英語の中では容認発音に次ぐ知名度を誇る英語であるが、独特の隠語や訛りの強い発音ゆえに非ネイティブの習得は極めて困難であるために非ネイティブの話者はほぼ存在しない。日本においては英語習得時の教材の都合によって、同じイギリス英語の中ではリヴァプール訛りのスカウスに堪能な人間の方が多く、場合によっては標準語である容認発音よりも堪能な人間が多い。
映画「マイ・フェア・レディ」のヒロイン(イライザ・ドゥーリトル、オードリー・ヘップバーン主演)の母語として有名であり、同映画の主題は彼女のコックニーの矯正教育である。
特徴
オージー英語の元になったと言われるが、発話速度は対照的に極めて速い。否定形においてはbe動詞が活用せず、「am not」「is not」「are not」などは全て「ain't」となる。さらに「have/has not」も「ain't」である。フランス語に似て語頭のhが脱落し、ハ行がア行に変わる。押韻スラングという独特の隠語が存在し、たとえば「legs」のことは「bacon & eggs」、「believe」のことは「Adam & Eve」のように、単語の前半の音節と後半の音節のそれぞれが共通する二単語で言う。さらにこの一方が脱落する場合もあり、(例:lies←pork pies←porkies)、非ネイティブの理解を極めて困難にしている。
コックニーに見られるこれらの音韻学的、表現的特徴は、容認発音と比較した場合、東京弁の山手方言に対する江戸弁や、京言葉に対する河内弁などの特徴と極めて共通項が多く、こう言った訛りは首都近郊の下町言葉としては万国に普遍的に発生しうる現象なのかもしれない。
余談であるが、実際に洋画における日本語字幕・吹き替えにおいては、コックニーで話されている箇所が江戸弁やそれに似た言葉遣いで翻訳されることが多い。小説などの文学作品も同様であり、業界では「コックニー=英語版江戸弁」という概念が半ば暗黙の了解として定着していると思われる。
評価
労働者階級の野鄙な英語であり、かつ首都の方言ということもあって「地域による多様性の尊重として保護に値する英語」との認識も持たれなかったことから、方言矯正教育の対象として真っ先に槍玉に上げられてきた歴史がある。そのため、今日では話者をほぼ喪失しており、代わって容認発音をベースにコックニーが折衷し、アイルランドや米国、スコットランドなどの訛りも取り入れた河口域英語に取って代わられた。しかし、文学の世界においては今なお社会的底辺に喘ぐ主人公を描写するために象徴的に用いられる英語でもあり、目にする機会も多い。