CV:津田英三(THE ORIGIN)/長克己(SDガンダムGジェネレーションスピリッツ)
概要
スペースノイド(宇宙居住民)による国家の建設を目指すコントリズムと、全人類が宇宙へと移民して地球環境の保全を図るエレズムを統合した思想「ジオニズム」の提唱者にして政治家。
『機動戦士ガンダム』の本編開始時点では故人であり、基本的にシャアによる回想等で大まかに触れられるのみの存在のため台詞もない。彼の詳細な部分は後に整理された設定、小説版、および、それらも参考にした本編のパラレルワールド的な位置づけである『THE ORIGIN』などが占めるところが大きい。
以下の家族構成も『THE ORIGIN』のものである(本編では妻とその間に産まれた子供が2人いたことが解るのみである)。
正妻:ローゼルシア・ダイクン
内妻:アストライア・トア・ダイクン、第一子:シャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)、第二子:セイラ・マス(アルテイシア・ソム・ダイクン)
来歴
彼は元々は地球連邦議会の議員でハト派の人物であった。宇宙移民の自治権を拡大すべきというコントリズムを提唱するもスペースノイドの画一的な管理を是とする連邦政府内に於いてその思想を受け入れられる事は無く、孤立していた。
宇宙世紀0052年には、持ち前の行動力を持ってコントリズムを実践する為にサイド3へ移住、翌年に同サイドの首相に就任する。
そしてサイド3が単独での自給自足を可能とするまでに成長した宇宙世紀0058年にサイド3の独立宣言を行い、ジオン共和国を樹立。同時にジオン国防隊を設立した。
だが、彼の行動は連邦側の警戒を呼び起こし、サイド3への経済制裁や連邦軍の派遣といった軋轢を生み、それがやがてサイド3の反連邦感情を呼ぶ。
そのような中でもダイクン自身は地球連邦政府と粘り強く交渉することで共和国の、ひいては宇宙移民全体の自治権を確立しようとしていたが、宇宙世紀0068年に志半ばに病死(公式発表)。二代目首相にデギン・ソド・ザビが就任するが、デギンはジオン共和国に公王制を敷き、やがてジオン公国とそれに連なる組織の誕生に繋がっていく事になる。
彼の死は、公には病死したという発表が劇中では為されている。実際にはデギンによって暗殺されているなど示唆されているが、今のところ不明。デギンは平和的思想を持つダイクンと独立の方法に関して対立しており、自分が公王に就任するとダイクン派を弾圧・排斥した。本編内でデギンはダイクンについて「所詮は民間レベルの政治運動家に過ぎず、(自分の作った)公国によって初めて連邦に対し、その存在を認めさせるに至ったのだ」と明言している。
なお、冨野監督は「ダイクンはデギンに暗殺された」と小説『密会 アムロとララア』で明言している。
ジオニズム思想
ジオン・ズム・ダイクンが掲げたジオニズムは、単なる宇宙移民者の独立を唄うのみならず、究極的には全人類を地球から宇宙へ移民させる事で地球の保全を進めるものであった。
しかしダイクンの死後、彼が提唱したコントリズムは、宇宙移民者による既得権益獲得の拠り所となり、民衆を扇動する格好の呪文として時の権力者たちに用いられてしまう。
ダイクン自身が主張したかった事は、穏やかな生き方のはずであったが、人の口の端にのぼるたびに、移民者達の胸にくすぶっていた不満を形にして噴出させ、連邦政府がかかえる諸問題を改めて民衆の前にさらけ出したのである。
結果論として彼の主張は、一年戦争以降およそ30年におよぶ大小の抗争の火種となってしまった。
また彼は、地球から最も遠いラグランジュ・ポイントに建設されたサイド3という、果てしなく厳しい環境で世代を重ねた自分たちこそが、新たなる体制を獲得し得る「ニュータイプ」としての素養を持つのであると共和国民に説き、地球から隔離されたという意識に囚われた移民者達に精神的な潤いを与えようとした。このニュータイプ論もまた、ダイクンの死後に紆余曲折を経て宇宙世紀の歴史の根幹を成す事になった。
後の外伝『機動戦士ガンダムUC』では、この思想は偶然にも連邦政府が秘匿し続けていた「ラプラスの箱」の正体に迫るものであった事もあり、スペースノイドとアースノイド間の対立をより一層深める遠因を作ってしまった、という設定が加えられた(連邦側としても無闇に箱の事を暴露すればとんでもない大混乱を招きかねないので隠蔽せざるを得なかった)。
ただし、ダイクンの語ったニュータイプ論は、あくまでもサイド3という僻地に移民させられたスペースノイドの拠り所をつくるためのものであり(つまり一種の方便)、本質的にはダイクンの自己欺瞞に過ぎないと実子であるキャスバル・レム・ダイクンは見抜いていた(こちらも上記「密会」において詳しく触れ直されている)。
そして、何の因果かダイクンがお題目として掲げた”宇宙空間という厳しい環境下に適応した新人類”たる「ニュータイプ」という概念は、一年戦争という極限の戦場において実際に現れてしまったのである。
詳細はジオニズムの記事を参照。
『機動戦士ガンダムTHEORIGIN』では
コロニー・ムンゾの民衆や政治家達の期待を背負った希望の星ではあったが、当人は独善的な人間であり、家族を含めた多くの人間を結果として不幸へと巻き込むことになった。
地球圏からの重税によって物価が上昇し、極限まで治安の悪化したサイド3において、宇宙移民の独立および自治権獲得を実現すべく、地球連邦との徹底抗戦と軍拡路線を主張するタカ派的人物として描かれている。政治家としての能力には疑わしい点がいくつもあるが、民衆を扇動する能力に長けていたとされる。
時計塔で行われた息子キャスバルの誕生を聖誕として演出しようとした他、自身をゴルゴダの丘で磔刑にされるイエス・キリストに喩えるなど強烈な自己崇拝と選民思想の持ち主であり、後世における聖人的な人物評とは異なり実際はある種の誇大妄想と狂気に取り憑かれた危険なカリスマであったとされている。
彼にはローゼルシア・ダイクンとアストライア・トア・ダイクンの二人の妻がおり、キャスバルとアルテイシアはアストライアとの間にできた子供である。
裕福な生活を営んでいるが、ダイクン家の財産は資産家でもある正妻ローゼルシアのものである。彼の思想に共感したローゼルシアによって多額の出資を受けていたが、彼女は子供が産めなかった為に疎遠になっていた。後に傍らにいた歌手のアストライアとの間に男児を儲けたことで彼女を愛人から正式に妻とする。そのような事情から正妻ローゼルシアがアストライアを激しく妬み憎んでいた。
『THE ORIGIN』でのダイクンの死因はあくまでもただの病死だったのだが、ザビ家はジオン国内の反連邦の機運を高めるべく「地球連邦による暗殺」説を喧伝し、対するジンバ・ラルは執拗に「ザビ家による暗殺」説を喧伝したことで、ザビ家一派とラル家一派の対立とダイクンの後継者を巡る政治的混乱がさらに深まる結果となった。
民衆の中には暗殺の首謀者はジンバ・ラルと信じ込むものもいたが、ジンバ・ラルと親しかったダイクンの子であるシャアは、ザビ家が暗殺した上で濡れ衣を着せたと信じてしまった(或いは自らの境遇を脅かした復讐の大義名分として信じ込もうとした)という本編とは全くの別解釈が取られている。
ちなみにダイクンの死因が病死であると明言した理由について、『THE ORIGIN』を手掛けた安彦良和は「(ダイクンが)暗殺されたという設定だと、ザビ家は政権を乗っ取った悪役だという勧善懲悪ものになってしまう。それはガンダム的じゃない」と述べている(あくまで安彦氏の見解であることに注意。上述のようにダイクンがザビ家に暗殺された、あるいはそれに近い立場をとっている本編や富野氏による外伝などは『THE ORIGIN』より前から存在しているが、そちらは特に勧善懲悪にはなっていない。むしろ穏健に理想を目指した故にダイクンとその政権が限界を見せて行き詰まり、その反動ゆえに強行的であれど実利路線をもたらしたザビ家が台頭する、という点を描いている)。
関連項目
シャア・アズナブル セイラ・マス デギン・ソド・ザビ アストライア・トア・ダイクン
指導者ヒイロ・ユイ、ジョージ・グレン、イオリア・シュヘンベルグ:似たようなポジションのキーパーソン。