CV:松岡禎丞
概要
下級貴族のモチャラス男爵家の三男坊。次男は病死、跡継ぎの長男は『大虐殺』で死亡した事により、なれない筈だった次期当主に繰り上がる。
ナザリックの手先となった『八本指』のヒルマの影響力を背景に、同様の経緯で当主に成り上がった若手貴族らを糾合、旧貴族派閥・王派閥のいずれにも属さない新興派閥を形成し、影響力を強めている。魔導国宰相アルベドにも接触せんとするが----。
人物像
上述の内容だけを見れば、優れた才能を持ちながらも芽が出なかったいわば不世出の英傑に見えると思われる。だがその実態は、スペアのスペア程度でしかない無能。
モチャラス男爵家は貧乏貴族故に三男にまで教育するリソースを割けなかった。そのためか最低限の道理さえ弁えておらず、その上単に『教育不足』という言葉だけでは言い表せない、当人の資質にも人格にも問題のある人物。魔導国の危険性を全く認識出来ておらず、「都市を1つ持っているだけの小国」と下に見ている。
更に非常に傲慢かつ自分を有能だと信じて疑わない全力勘違いな自信家(「自慢」の領地経営計画も穴だらけ)で、おまけに身の程知らずの野心家という、「ボンクラ」などという言葉さえ足りない天井知らずの超絶馬鹿。
あのバルブロやアルチェルでさえまだマトモに見える程で、ヒルマやアルベドからは「貴族としての礼儀や知識が一切欠けた無能」・「馬鹿中の馬鹿」・「知性に欠ける糞」・「自分は特別だと思う究極の無能」と蔑まれている。
そもそもヒルマが彼と手を組んだのは、作らせた新派閥をフィリップを通して操作する為であって、実態としては手を組むどころかけしかけられて踊っているに等しい。
空想に空想を重ねた発想に酔って妄想を暴走させ、一国の宰相位に匹敵する地位のアルベドを自分の妻にしようと企んでヒルマからドン引かれ、挙句の果てに魔導王を傀儡にして魔導国を支配することを企むという身の丈に合わない大望を抱く。
読者の間でも「(それまで愚者の双璧を成していた)アルチェルとバルブロをも凌駕する大馬鹿者」と評判になり、更には「“フィリップ”という単語は、自分を優れていると勘違いしている馬鹿の代名詞」として浸透したというのだから、彼の愚物ぶりが知れるというものである(某所原作スレッドでは「頭フィリップかよ」、某所のアニメスレッド上では「頭モチャラスかよ」といった具合に、使われ方も異なる模様。なお「頭モチャラス」と総称してしまうと、モチャラス男爵を襲名していたフィリップの父や先祖も含まれてしまう。→風評被害)。
容姿
原作では容姿に関する記述は特に無かったが、アニメ四期にてビジュアルが判明した。ファンからは「思っていたよりイケメン!」と評判が良い。初登場は第2話からだが、PVでも少しだけ登場している。茶髪を短く切り揃えており、目の色は青で垂れ目気味。中肉中背で、身長はアルベドとほぼ同じ位。
コミカライズ版では第二部『〈新〉世界編』の第3話から登場。アニメ版と比べるとやや老けた様なデザインとなっている。
アニメ公式Twitterで公開されたビジュアルはこちら。
強さ
一般人の域を出ず、戦闘力そのものは極めて低いかほぼ皆無。ただ、ヒルマから貰ったマジックアイテムの全身鎧(フル・プレート)を装着し、その重量に苛まれながらも何とか動き回れる程度の身体能力はある模様。
暴挙と末路
発端
そしてあまりにも馬鹿過ぎたがために、書籍版14巻では作中の誰もが予想できなかった暴挙を大真面目にやらかし、結果として王国滅亡の引き金を引いてしまう。
家督を継いだは良いが、栽培法の指導も無しに商業作物への切り替えを強要するなど机上の空論にも等しい経営計画が上手くいく筈もなく、領地の食糧生産率は下がる一方だった。
しかも、その事で領民達に蔑みの目で見られても自分に非があるとは一切思っていないため、何故上手くいかないのか憤りを覚えながら日々を過ごしていた。
そんなある日、彼は同じ新興派閥のヴィアネ・デルヴィとイーグ・ロキルレンに唆され、リ・エスティーゼ王都に備蓄されていた魔導国の支援用食糧(大虐殺の敗戦で疲弊した王国と、ヤルダバオト騒動の影響で疲弊した聖王国を助けるためのもの)の存在に目を付け、
「魔導国の食糧が無くなれば国内の農作物の値段が上がり、魔導国は両国に食糧と恩を売れなくなって打撃を受け、その隙に自領の農作物売り捌けば大儲け!」
↓
「しかも自分は、憎き魔導国に打撃を与えるという功績を挙げた大英雄!」
↓
「力も名声も挙がり、しかも敵の勢力も削れて一石三鳥の名案!最終的に三国全てを支配する、王の中の王として君臨する!」
…という謎の結論に至り、手始めに手勢を率いて『聖王国に支援用備蓄食料を輸送中だった、魔導国の支援部隊を襲撃する』という作戦に出た。
フィリップを唆したデルヴィとしては襲撃が失敗すると踏んでおり、これによって敗走してきたフィリップを反逆者として処刑し、自身が新興派閥のリーダーに成り代わりつつ、八本指の傀儡にされている彼を排除しようという目的があった。
実際この時、輸送部隊の警備を担っていたのは八本指の密輸部門に属する腕利きの傭兵たちであり、まともに戦えばフィリップたちに勝ち目は無いはずだった。しかし、部隊を率いていたクリストフェルは偶然にもヒルマの紹介でフィリップと顔を合わせたことがあった為、フィリップと八本指(ヒルマ)が繋がっている事を知っていた。結果、八本指と繋がっているはずのフィリップが、当の八本指の部隊が輸送している支援物資を、わざわざ名乗りを上げて堂々と姿まで晒して襲撃するという異常事態に混乱し、深読みした結果、八本指と繋がっているフィリップを殺すのはマズイと判断した末に戦わず撤退し、結果的に何と襲撃が成功してしまう。
波及
この大義名分もへったくれもないこれまでのお膳立てを全て台無しにする前代未聞の愚挙に、襲撃を受けた支援部隊やそれを有する魔導国の守護者たちも、彼の属する王国の貴族達も揃って混乱・深読みさせられ、アルベド・デミウルゴス・ラナーらの知恵者さえ苦慮、長考を余儀なくされた(なお唯一アインズだけが、愚者としての視点から「何も考えずに行動しただけ」という真相に辿り付いている)。
最終的にこの愚挙はナザリック勢の王国に対する方針を『裏から支配する』という、その過程で多少の血は流れるにしても比較的穏当なもの(実質的に魔導国の傀儡ではあるが無能な貴族を整理し、危険な八本指も制御下に置かれるという、大きな視点で見れば王国側にも十分な実利のある方針だった)から、他国への見せしめとしての『侵攻による完全殲滅』へと急転直下に転換させるという凄まじい結果を招く。
なお襲撃事件を知ったラナーは素で驚いてしまい、一時「魔導王に見捨てられたのではないか」と戦々恐々とさせられた。
フィリップ本人は与り知らぬ事ながら、“精神の異形種”と称される彼女を心底から混乱・困惑させたのである。ある意味凄い。
末路
「馬鹿を用意するつもりだったけど、ここまでの馬鹿とは想像もしてなかったわ」
エピローグでは魔導国の侵攻により王国が瓦礫の山と化してもなお、「自分は何も悪くない」とひたすらに信じ続け、恐怖に震えながら自宅に引き篭り酒浸りの日々を送っていた。
酒を持って来いという命令に誰も応えない事に激怒しながら部屋から出ると、いつの間にか屋敷内へ上がり込んでいたアルベドから、あまりの苦痛を受けたのか悍ましいまでに歪んだ表情を浮かべたデルヴィとロキルレンの生首を贈り付けられ、屋敷から無理矢理引きずり出される(ちなみにその際、「おれがなにをしたっていうんだよぉ」とみっともなく泣き喚いていた)。そして屋敷の前に広がる惨殺された村人達の死骸が立ち並ぶ光景を見せられ、恐怖が限界に達して失神した。
そのまま彼自身もアルベドによって始末されたかと思いきや、15巻では未だ生存しているらしい描写があり、氷結牢獄内でアルベドの『特別な情報収集』の練習台となっているらしい。
自領のみならず王国をも救い、更に魔導国に大打撃を与える英雄となる事を目論んでいた彼に残されたのは、『王国滅亡の引き金を引いた大罪人』という未来永劫拭えない汚名だけであった。
余談
これまでの通り救いようのない程の愚かさを遺憾無く発揮したフィリップであったが、作者が14巻雑感にて「ここまでの馬鹿になったのはやはり親(教育)が悪いんだと思います」と、一応のフォロー(?)を入れている。
また同項で「想像力が欠落しているタイプとは逆の、想像力だけは豊かな馬鹿(意訳)」とも評しており、その想像力に知性や慎重さが加わっていたなら、少なくとも本編の様な事にはならなかったのかもしれない。
また、己の能力を過信した馬鹿ではあったが、その一方で王国を内外から蝕んでいた麻薬や奴隷売買などといった犯罪行為には手を出していない。貴族派閥に代表される、利権の為に民を食い物や慰みものにするクズ貴族達よりはいくらか清廉であった部分があったのも事実である。
…まぁ、そんな不正を行う頭すら無かったと言われればそこまでなのかもしれないが。
なお、フィリップの暴走が王国の滅亡に繋がったのは事実だが、ここまでの暴走を起こす程に増長させるお膳立てを行ったのはナザリックであるという事実は留意しておくべきだろう。
フィリップ単身では精々自領の食糧生産量の少なさに毒吐く三流貴族でしか無かった筈であるし、仮に本編と同じ様な食糧強奪を謀ったとしても、ヒルマの後ろ楯が無いならば護衛部隊に軽々と返り討ちに遇っていたのは確実である。
また、フィリップのあまりの馬鹿さ加減に内心辟易としていたヒルマの「今からでも傀儡役を変えた方が良いのでは?」という打診を蹴って傀儡役を続行させたのもアルベドであった。
フィリップの立場からあえて擁護をするのなら、そもそも当初の次期地方領主という立場の時点で既に能力不相応だったところに、ここまで度を越した権力や待遇を外部からトントン拍子に与えられてしまえば、(フィリップ程の馬鹿でなくとも)自分が何でも出来るかの様に錯覚し、宝くじ成金的な万能感が芽生えてしまっても致し方なかったと言えるだろう。
アルベドは本来フィリップの欲望にブレーキを掛けなければいけないところを、逆にカタパルトに載せてブッ飛ばしてしまった訳である。
アインズの指摘によって事件がフィリップの単独犯である事が確定してしまっている以上、魔導国による王国乗っ取り計画の背景を知っている者からすれば件の騒動は、『フィリップの馬鹿さ加減を読み誤り、増長をコントロール出来なかったアルベドの大失態』という事になってしまうのだ。
ちなみに14巻のサブタイトル『滅国の魔女』にちなんで、一部ではフィリップを「滅国の馬鹿」や「滅国の愚者」などと呼ぶファンもいる。
更に付け加えると前述の14巻のサブタイトルはラナーを指しており、タイトル通り彼女の暗躍により王国が滅亡したのは間違いないのだが、フィリップの犯した愚行のインパクトが大き過ぎたために、メインの筈のラナーが霞んでしまっている感が否めない部分がある。
関連タグ
- 父親(CV:ふくまつ進紗)
フィリップの父親。先代モチャラス男爵。派閥内の寄子として特筆する事は無いが、目立った特産品も無い貧しい領地を無難に運営していたと思われる。当のフィリップからは、「奴隷根性が染み付いた親。こうはなりたくないものだ」と内心で侮蔑されている。
フィリップの行動には当然思うところがあった様で、上述のエピローグでは処刑される直前にアルベドに「あの馬鹿に皆の苦しみを教えてやってくれ」と頼み込んでいた事が明かされており、原作ではアルベドに殺害されたと思われるが特に描写はされず消息は不明、アニメ四期最終話ではデルヴィとロキルレンの生首に混じって彼の首も贈られていた。
- 兄(長男)
モチャラス男爵襲名直前にカッツェ平野の戦いに領内の農夫20名を伴い参戦、死亡。
- 兄(次男)
病弱であり、モチャラス領には金銭的余裕が殆ど無かったために、神官による治療を受けられず王国・帝国の開戦前に病死。
WEB版のみの登場人物。上述の通りフィリップが登場するまでは、彼が作中屈指の大馬鹿者と読者の間で評判になっていた。
作中では明らかにならなかったフィリップの父親の名前が、“アルチェル”になる予定があったとの事。
フィリップに匹敵する愚者その2。奇しくも、王国の下級貴族という点も同じである(もっとも、チエネイコの方が地位は高いだろうが)。