鉄道車両に設けられているリクライニングシートの一つ。
概要
国鉄の在来線特急3等車(のち普通車)および準急・普通列車用2等車(のちグリーン車)には、1958年(昭和33年)頃から約15年ほど回転クロスシートが標準的に用いられた。これを採用した車種としては151・161・181系・157系・481・483・485系電車・キハ80系・キハ181系気動車の普通車、キハ55系気動車(キロ25)・153系準急用(サロ153)・113系電車のグリーン車である。
後にサービス改善の一環としてか、これらにもリクライニング機構を設けることになったが、問題として座席間隔が特急グリーン車に比べ狭いこと、構造が複雑とされたこと、がある。そこで簡素化のため、座席の傾斜角は所与と最大傾斜の二択(当然特急グリーン車より浅い)、背もたれを倒すだけでなく座布団も前にずらして傾斜を得る、肘掛けのロックを外すことにより動作させるが傾斜中はロックされず単に座っている乗客の体重でバネを押さえているだけとし、布団も簡素なものとされた。
掛けごごちは、現在の座席と比較すれば、未発達な設計のため比べ物にならないほど低い劣悪なものである(回転シートのほうがマシだったとの声もある)。
当然ながら、乗客が何らかの理由で腰を浮かすと復元バネが戻って傾斜が0になり、背もたれと座布団が台枠に「バタン!」という車内に響く大きな音と共に勢い良くぶち当たる。「バッタンコシート」という俗称は、この特徴から付いたものである。この騒音は夜行列車に供された場合安眠妨害になるため大変不評で(しかも座布団などが簡素なため必ずしもかけ心地が良いと言い難く、「リクライニングしないほうがマシ」と評されたことも)、後年の改良はまずロックがリクライニング後も動作する構造に改めること、ついで特急グリーン車用の角度や寸法を手直しした形の通常構造のリクライニングシートに取り替えることでなされた。これらの改良は夜行運用に入る車両をまず重点的に行われた。
とはいうものの、1972(昭和47)年頃から特急普通車・普通列車グリーン車の座席として標準的に用いられ、電車では普通車が183系・381系・485系後期車・781系、グリーン車が113系の内サロ110として新製増備された分、気動車ではキハ183系初期グループ(900番代試作車・0番代量産車)の普通車が該当する。
後にフルモデルチェンジのR-55(新幹線200系普通車のR-53(2列側)や211系グリーン車R-54が嚆矢)をはじめとする普通車用フリーストップ式リクライニングシートが登場しかなりの数が交換されたが、全てをとり変えるにはコストがかかるため、ロックの追加(R-52)や小手先のクッション改良だけですませられた車両も多い(廃車までそれすらなされなかった車両もまた多い)。かなり手間をかけてバケット型クッションに交換された車もあるが、やはり基本形状が悪いためR-55以降の新型に比べると一歩劣ると言わざるを得なかった。
結果的に定期優等列車では最後に使用されていたのは14系座席車を使用していた急行「はまなす」が最後になった(利用者の立場からいえば、自由席に使われていた、ロック機構だけが付いた掛け心地がえらく悪かったあの座席である)。
国鉄末期~JR初期には座席交換で大量発生したR-51簡リクシートを、急行・快速運用に入る急行型車両に対し、接客設備向上としてロック追加・クッション改良のうえ既存のボックスシートと交換する事例が多く見られた。元々がいずれも1970年頃までに製造(12系後期車を除く)の経年が高い車輛であったため、寿命を迎える2000年代後半までにはあらかた廃車となっている。
現在実用されている物では、最後の特急用であった波動用のあさま色189系長野車が廃車になった今では、廃車発生品がJR北海道のキハ54で使用されているのが見られる。
現在東武鉄道が走らせているSL大樹用の14系座席客車は国鉄→JR東海→JR四国と渡り歩いた車両であるが、ロック機構も(アトラクション的に)あえて原型に戻した(腰を浮かすと戻る「バッタンコ」式の)R-51簡易リクライニングシートである。