概要
和名 | テナガエビ |
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学名 | Macrobrachium nipponense (De haan, 1849) |
分類 | 節足動物門汎甲殻亜門多甲殻上綱軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目抱卵亜目コエビ下目テナガエビ上科テナガエビ科 |
体長 | 9㎝ |
分布 | 日本では青森県以南の本州・四国・九州。南西諸島には分布しない。国外では朝鮮半島、中国、台湾。東アジア固有種だが、世界各地で外来種化 |
名称
漢字表記は手長海老・草蝦。
属名Macrobrachiumは、ギリシャ語で「大きな腕」を意味する。
種小名nipponenseはラテン語で「日本産の」という意味。
(学名では、ほぼ同じ意味のjaponicusやjaponicaが使われることが多いことを考えると、珍しい表現ではある)
英名はOriental River Prawn。
漢名は日本沼蝦、青蝦など。
形態
雄成体は第2胸脚(腕)を伸ばした状態では18㎝を越えるものがいる。これは両側回遊型の雄の特徴で、陸封型の雄は第2胸脚がそこまで長大化しない。
体色は暗い緑褐色から黄褐色。第2胸脚も同系色。頭胸甲には雲状の不明瞭な黒色斑が入る。腹節や尾肢の黒色素胞が目立つ場合も多い。
額角は水平で幅広く、先端はほぼ水平で、触角鱗先端に達する。上縁歯数は10~14(頭胸甲上には2~3歯)、下縁歯数は2~4。
第2胸脚は左右相称形で長さも同一。掌部断面は円筒形。全体にごく小さな小棘を呈する。可動指・不動指ともに僅かに内側に彎曲し、咬合面に剛毛が多数生じる。可動指は掌部の0.5倍程度、鉗は腕節の1.5倍以上、掌部は腕節の0.8倍程度。
生態
河川の中流域から河口域、溜池や沼、湖まで幅広く棲息し、北海道を除く本土ではスジエビやヌマエビと並んで川エビの普通種と言える。
基本的には夜行性で、昼間は抽水植物の根元や岩陰、テトラポットの隙間に潜み、薄暮時から夜間に掛けて特に活発になるが、薄曇りの日には日中に活動することもある(特に若い個体)。
食性は極めて肉食性が強い雑食性で、小魚や水生昆虫、貝類やミミズ、同種を含めた甲殻類を好み、水草や藻類も多少囓る。動物の死体にも群がり、捕食者と分解者の両面の性質を備える。
大型の雄は縄張り意識が強い。
日本での繁殖期(抱卵期)は5月から9月。両側回遊型は長径0.5㎜程の卵を4000~13000卵、陸封型では長径0.7㎜程の卵を1000~4000卵ほど抱えるという、卵サイズと卵数には反比例の相関関係がある。(さらに言えば、生涯を汽水湖で暮らす半陸封型の卵サイズと卵数は両側回遊型と陸封型の中間の値をとる)
産卵から3週間から1ヶ月弱で孵化し、1ヶ月程で変態を終えて稚エビになる。
性成熟には1年程度を要し、寿命は3年程度とされる。
人間との関係
柴漬(ふしづけ)や筌(うけ)といった罠型の漁具での漁獲の他、琵琶湖や宍道湖など大規模な湖沼では刺し網を用いたり、逆に山間の小川ではタモ網や簎(ヤス)による目視での採捕も行われてきた。
また、レジャーも兼ねて、本種自体も釣りの対象となる。夜間の方が釣れやすいが、当然ながら懐中電灯などの光源の携行は必須で、足許にも要注意。また、地域によっては漁業権の対象種に指定されていたり、資源管理のために採捕禁止期間が設定されている場合もあるので、各自確認されたし。
小型のものは佃煮や唐揚げ、大型のものは塩焼きやエビ煎餅にして賞味される。いずれの品々も非常に美味。本種に限らず淡水甲殻類は吸虫や顎口虫などの寄生虫の中間宿主となっている場合が非常に多く、生食は厳禁。
比較的簡素な設備でも養殖が可能で、また陸封型の場合、淡水で累代飼育可能であることから、内陸国を含めた発展途上国での新たな水産資源の一つとしても検討されている。一方で、養殖場から脱走または遺棄された本種が外来種化している事例が知られており、ベトナム・シンガポール・イラン・イラク・カザフスタン・ウズベキスタン・ハワイなどから記録がある(一部の個体群は、バラスト水による移入とする見解もある)
身近な淡水生物ということで、水族館や動物園で展示されることも多い。また、ペットショップや熱帯魚店で売られることもある。飼育は容易な部類だが、複数飼育は難しく、単独飼育が推奨される(水質管理に注意すれば長辺30㎝程度の水槽で終生飼育可能)。
余談
海産種のアカザエビも長い鉗脚をもつことから、テナガエビと呼ばれることがある(特にフレンチレストランで提供される出る「テナガエビ」はほぼアカザエビと思って良い)。こちらはザリガニやロブスターと同じくザリガニ下目分類され、鉗脚も第1胸脚変化したものと、全くの別物である。