概要
幕末期の日本で起こった内戦。「戊辰」という名称は戦争が起こった慶応4年・明治元年（1868年）が干支の「戊辰」に当たるため。
前戦
佐幕派と討幕派の対立が続く江戸時代末期。江戸幕府の武力討伐を計画する薩摩と長州に対し、慶応3年10月（1867年11月）幕府15代将軍・徳川慶喜は日本統治権を天皇と朝廷に返上する「大政奉還」を実行。将軍職を辞した慶喜は、徳川家と雄藩による合議制の新体制国家での再起を図ろうとした。
しかし、薩長や土佐・尾張・安芸の雄藩は12月（1868年1月）に御所を占拠し、幼い明治天皇から「王政復古の大号令」が発せられ、朝廷と雄藩による新政府が発足。「明治維新」が始まった。
続いて小御所会議が開かれ、慶喜の地位や財産、権力の返上と剥奪が決定。これを受け慶喜は幕府軍を率いて大阪城に入り、各国公使に対外交渉権は幕府にあると主張。各国代表もこの事態に不介入と傍観を決めた。
西郷隆盛は浪人達を江戸で集め、江戸市中での暴行や略奪を起こさせて幕府を挑発し、幕府方の庄内藩士が薩摩藩邸を焼き討ち。これを知った大阪の幕府軍は薩長との交戦を主張し、非戦派であった慶喜は主戦論に押され薩長討伐を決断した。
京都戦
慶応4年・明治元年1月（1868年2月）、鳥羽・伏見で旧幕府軍1万と薩長の新政府軍4500による「鳥羽・伏見の戦い」が発生。戊辰戦争が勃発した。数で勝る旧幕府軍に対し、最新鋭武器を有し戦意が強い新政府軍が緒戦で勝利し旧幕府軍を圧倒。
さらに朝廷は仁和寺宮嘉彰親王を征討大将軍に任じ、岩倉具視の発案で「錦の御旗」を与えた。これにより新政府軍は天皇の軍＝「官軍」となり、これに刃向かう慶喜と旧幕府軍は天皇の敵＝「賊軍」「朝敵」となってしまった。
敗北状態で大阪に退いた旧幕府軍はまだ戦力が残っていたが、慶喜は自分が「逆賊」となることを恐れ、松平容保などの側近を連れて軍艦・開陽丸に乗って江戸へ敗走。残された旧幕府軍は総大将の逃走を受け戦意を喪失し、彼らも江戸へ陸路で敗走。
東海道戦
江戸に帰り着いた慶喜は徳川家存続を図るため、徹底抗戦を主張する小栗上野介や大鳥圭介を罷免し、勝海舟を陸軍総裁に任じて、朝廷への恭順姿勢として上野の寛永寺に篭った。登城停止になった容保は会津へ戻った。
一方西日本のほとんどを味方にした新政府は有栖川宮熾仁親王を大総督宮とした東征軍を組織し、東海道・東山道・北陸道の三方向から東日本の江戸へ向け進軍。
勝は新政府軍の江戸総攻撃を避けるため、新政府軍との交渉を開始。山岡鉄舟を事前交渉の使者として駿府の西郷の下に向かわせ会談を取り付けた。熾仁親王の元婚約者の和宮、薩摩藩島津家出身の篤姫、寛永寺の輪王寺宮公現法親王（後の北白川宮能久親王）なども徳川家の助命と存続の嘆願を新政府側に伝えた。西郷と関係の深い英国公使のハリー・パークスは横浜居留地が戦火に巻き込まれることを恐れ、新政府に総攻撃の中止を求めた。
総攻撃直前の3月、江戸薩摩邸で勝と西郷が会談し、旧幕府軍の武装解除と徳川家存続が約束され、江戸総攻撃が中止。江戸無血開城となった。
しかし、江戸治安を目的とした彰義隊と新政府軍との争いが相次ぎ、5月寛永寺に篭る彰義隊を大村益次郎率いる新政府軍が攻撃し壊滅させた。榎本武揚は江戸湾の軍艦8隻を率いて北へ。
関東各地でも大鳥が陸軍を率いて抗戦を続け、近藤勇が率いる新撰組は甲陽鎮撫隊として甲斐へ向かうも間に合わず、これを機に隊は分裂状態となった。
赤報隊を率いた相楽総三は新政府軍として東海道を転戦し、年貢半減令の許可を新政府に認めてもらえた。しかし、新政府の方針変更によって白紙化され、さらに赤報隊は偽官軍と見なされ、総三は捕縛され処刑された。
北陸・東北戦
新政府軍は京都守護職を務め攘夷派志士を摘発した会津の容保を残る朝敵と見なし、1月に東北各藩に会津討伐を命じた。これに対し仙台藩や米沢藩を中心に東北・北越の諸藩は閏4月（6月）に「奥羽越列藩同盟」を結成。輪王寺宮を「東武皇帝」に即位させる計画もあった。
しかし、新政府軍の進撃に東北各藩は次々に敗北し、秋田藩や弘前藩は新政府軍へ寝返った。北越方面では河井継之助率いる長岡藩が新兵器のガトリング砲で抗戦の末に一時は新政府軍を押し返すも敗北。同盟はほぼ瓦解同然となった。
ついに乾退助率いる新政府軍は同盟の中核である会津若松へ攻め込み、会津藩は若松城で篭城を続け、山本八重や白虎隊、斎藤一なども戦うも、激戦の末会津は壊滅状態となり、9月に降伏。
北海道戦
10月、北海道は函館にいた榎本は大鳥や土方歳三とともに、旧幕府海軍を中心に独立国家「蝦夷共和国」を計画。欧米各国に国家承認を働きかけるも各国共に中立とした。
新政府軍との攻防が続き、明治2年（1869年）に新政府軍が総攻撃のため上陸し、榎本軍は五稜郭で篭城するも、土方は戦死し、5月に降伏。
函館の攻防の終結をもって、戊辰戦争は終結した。
戦後
前年7月に新政府は新首都を江戸と決め、明治帝が江戸城に入城。江戸遷都となり、江戸は「東京」と改名。9月に元号を「明治」と決定。近代国家に向けて新時代が幕開けした。
幕末を生き抜いた者達は一転して文明開化・富国強兵・脱亜入欧に走った。大名は華族となり、徳川家も現代に到るまで存続。大名に仕えていた武士たちの多くは金禄公債だけ与えられて解雇され生活に困窮する者も多く出た｡政府の西洋化政策・武士切り捨てについていけず西南戦争を起こした西郷のように離反する者も出た。
しかし、この戦争は少なくとも坂本龍馬が望んでいた平和的政権移譲や革命ではなかった。
