概要
『機動戦士ガンダムSEED』PHASE-17「カガリ再び」にて、キラ・ヤマトがサイ・アーガイルに向けて放った台詞である。続けて発言した「本気でケンカしたら、サイが僕に敵うはずないだろ…」とセットで語られることが多い。
ざっくりとした流れとしては、サイ・アーガイルはフレイ・アルスターから一方的に別れを告げられ、突然の事に納得できないサイは話し合いたいとフレイの後を追う最中、フレイはキラ・ヤマトを見つけて腕に抱きつき、フレイはサイに対してキラと自身が男女の仲であることを告げる。
気まずい空気の中、キラは「もうよせよサイ。どう見ても、君が嫌がるフレイを追っかけてる様にしか見えないよ。昨日も戦闘で疲れてるんだ。もうやめてくんない?」と言い放ち、その余りにもな物言いに憤りを感じるサイ。フレイの肩を抱きAA内に戻ろうとするキラの背後からサイは肩を掴もうとするが、キラは逆にサイを押さえつけ、その後に放った言葉...というのが上記の台詞となる。
実際にはこの話に至るまでに色々と複雑な要因が絡むが、基本的な流れとしてはこうである。
発言の解釈
上記のセリフ自体はあくまでも皮肉的な表現、且つ断片的に切り取られたものであり、実際にはこの直後に続けて(怒りつつも涙を流しながら)放たれた「フレイは優しかったんだ。(中略)僕がどんな思いで戦ってきたか、誰も気にもしないくせに!」という発言を含めて解釈・考察する必要がある。
経緯を補足すると、彼らが乗る母艦アークエンジェルで、ザフトのMSに対抗しうる戦力はストライクガンダムのみであり、それを操縦できるのはコーディネイターであるキラのみだった。
また、アークエンジェルの乗員たちは繰り返し戦闘が行われる中で、キラが命がけで戦闘することも、同胞であるコーディネイターの敵兵を殺害することも当然と認識するようになりつつあった。キラとイージスガンダムのパイロットが仲の良かった友達である事をサイとトール・ケーニヒとミリアリア・ハウは(キラとラクスの話を盗み聞きした)カズイ・バスカークから聞かされてるので知っている。
元は戦争を嫌う優しい少年でありながら、望まぬ戦いに巻き込まれ、友達を守るために仕方がないから戦い、「今まで守ってくれてありがとう」と折り紙で折った花をくれた少女を死なせてしまったことで、さらに精神的に追い詰められてしまう。そうした孤立無援の状況下のキラを気にかけ、実際に感謝の言葉を伝えたのは(反コーディネイター的思想であった上、とある出来事からキラを憎み、自分に都合のいい道具として籠絡しようとしていた)唯一フレイ・アルスターのみであり、キラにとってフレイは新たな「アークエンジェルを守る理由」として、戦う度に傷つき苦しむ中で心の拠り所と言うべき存在と化していった。
そして、こうした状況を全く理解できていなかったサイとのすれ違いの結果として、前述の様な事態と発言に至る。また、サイ自身は極端なコーディネイター差別主義者(ブルーコスモス)ではないものの、コーディネイターに対する無意識の差別発言(ラクスの歌を「キレイな声だな。でもやっぱ、それも遺伝子弄ってそうなったもんなのかな」と評する)や第11話において食堂に入るキラを意図的に無視する(尚この直後に来たフレイには態々席を立って駆け寄る)等の差別的行動から発し、直接及び間接的にキラを傷つけていた。こうした水面下で溜まっていた不満が「サイが(遺伝子を弄って超人的な肉体を与えられた)僕に敵うはずない」という、ある種自虐を込めた皮肉に繋がったのである。
なお、ヘリオポリス組はみんな程度はどうあれコーディネイターに差別意識を持っていて、ミリアリアはフレイにラクスのとこに食事を持っていかせようとしてフレイと揉めている(キラとラクスが食堂を出た後も食堂でフレイとカズイと居るのだから、他に予定があった訳じゃない)。つまり、ミリアリアもコーディネイターと関わりたくなかったのであろう。
SEEDの基本描写として「口にしなければ伝わらない、口にしたら伝わってしまう」という特徴があり、上記を一例として様々な発言の積み重ねやすれ違い(心配したり気遣っていても対象者本人へ伝えていない)があったことや、戦時下の劣悪な環境による過度なストレス(死への恐怖や殺人による強い罪悪感)の蓄積がこの台詞が放たれる状況を作ってしまった事は留意しなければ、キラはおろかこの台詞に対しても正しい評価は出来ない。(ブライト艦長の「殴ってなぜ悪いか!?」を初代ガンダム放送当時の時代背景も作中の背景も考えず体罰肯定の発言と非難するのと同じである)
また未だによく勘違いされているが、サイとフレイは婚約の話が出ていた段階で婚約者な関係ではなかったし、お互いに恋愛感情もない関係性だった。
その後
この後、サイはコンプレックスの爆発からストライクを操縦してorzとなったり、キラもフレイと別に拠り所となってくれる少女が現れ、更にフレイが自分を利用していたことを察してしまうなどで、三人の溝はより大きくなっていく。
しかしイージスとの死闘の末にトール・ケーニヒがKIA、その後立て続けに今度はキラがMIA(しかし誰もがKIAと判断した)となり、サイは自分がキラを大切な友人だと思っていたことに改めて気付き、身勝手にも縒りを戻そうとするフレイを拒絶する。
更にその後、キラが新たなる剣を駆ってアークエンジェルの危機を救うと、サイはキラが生きていたことを心から喜ぶと同時に、これまで抱えていたキラへの劣等感を共に吐き出す。キラはそれに対し、「君に出来ないこと、僕は出来るかも知れない。でも、僕に出来ないこと、君は出来るんだ」と優しく告げる。
そして、キラの言った通り友情と死の恐怖の板挟みになる友人を、サイは優しい言葉で送り出すことに成功する。それを物陰から見ていたキラは、優しく、そして何処か誇らしげな表情をするのであった。
ネットの反応
キラのことが好きになれないという人達からは、この一件を理由として言及される事がある。劇中においてあまりにも印象的なセリフだったのでネットミームにもなった。
しかし、はっきり行ってこのシーンのみを切り取ってキラを評価するのは、自分をろくに本編を見ていないと自白しているに等しい。
実際一連の流れをざっとでも見ているなら、こうなっても仕方ないと思わされる程度には丁寧に追い詰められていく描写がされているので、初めから否定ありきで見ているかこの場面だけを見ているなど恣意的に貶めようとしてない限り上記の結論には至り得ない
他媒体において
小説版
細かな心理描写の補完に定評のある、そして重要そうな場面がカットされていたりもする小説版でもしっかり描写されている。
まず時系列がいろいろと圧縮されており、ストライクでアークエンジェルの船体にカモフラージュネットを掛けた後、カガリがキラの元にやって来てヘリオポリスで別れた後何がどうしてこうなったのか尋ねるシーンの直後の出来事となっている。
その関係で、原作では通り掛かりだったカガリは小説版ではキラ、サイ、フレイらのただならぬ気配を感じて咄嗟に隠れたと描写されている。
セリフが微妙に変わっている部分はあるが概ねそのまま再現されている。
やはりキラとしても別にサイを見下していた訳ではなかったものの…唯一の救いだったフレイが奪われようとする事や、今まで散々フレイとの仲を見せ付けて来たことへの怒りから、
一瞬で沸点まで達してしまった事でつい口を衝いて出てしまった発言と描写されており、またキラとしてもサイはサイなりに良くしてくれていた事も自覚していた事から、
怒りと同時に勢いでつい言ってはならない事を言ってしまったという罪悪感も感じている。
一方でサイも、当該シーンでは詳細な心理描写は無かったものの、直後のタッシル襲撃の報告を受けた後に場面が追加されており、フレイが自分を捨ててキラに擦り寄っていくことに対して(キラなんて、コーディネイターじゃないか……)とつい思ってしまい、口ではキラを仲間だ何だと言いつつも自身の根底にはコーディネイターに対する無意識な差別意識があった事を自覚してしまい、
フレイを奪ったキラへの憎悪と同時に、そのような自分への自己嫌悪を覚えている様子が描かれている。
なお、地面に倒れるサイとそれを見下ろすキラの図は挿絵付きである。
機動戦士ガンダムSEED 友と君と戦場で。
GBAにてリリースされた作品。
ミリアリアがシチューを作ってくれる(だが不味過ぎて食べたキラが気を失う)とかムウがカガリにセクハラを働くなど、
本編に描かれなかった面白エピソード目白押しな本作でも「やめてよね」イベントは発生するが、「やめてよね」という発言自体はまさかのカット。
場所がアークエンジェルの廊下になっている以外、キラとサイが口論になるまでの流れは原作と同じだが、
「昨夜も戦闘で~」の下りの後でサイが掴みかからず、そのままキラの「フレイは、優しかったんだ……」に飛んでいる。
その後は場面転換となるため、この会話は原作通りのタイミングで終了する。
本作はキラを操作してあちこちで会話イベントを進めながら時間とストーリーを進めて行くのだが、
会話イベントの進め方によっては、野戦任官により少尉殿と二等兵らという関係になってしまった学生組が、
「情勢故に止む無く上司と部下になってしまったが、これからも関係と友情は変わらずに行こう(要約)」という心温まる会話の直後に発生してしまう。
なお、この問答の後のフレイの表情は、原作ではキラを気遣う様な優しい表情だったが、
本作でのそのシーンでのフレイの顔グラは悪事が思い通りに行ってほくそ笑むかの様な物凄い悪人面になっている。
『SEED』のシリーズ初参戦作となった本作ではほぼ完全に再現されている。
しかしこの作品ではキラ含むアークエンジェルはヘリオポリス出港時点からオリジナル主人公含む、今や幾度もの修羅場を乗り越え百戦錬磨にして精鋭無比となったロボットチーム「αナンバーズ」と行動を共にしているので原作のような深刻さはない状況。
しかもキラと似た性格と境遇・経験のパイロットも居たため、キラにとっても頼れる者や近い目線から彼をケア・フォローできる者が若干名居た。
つまり似ている様で原作での深刻さとは遠い状況だったのに再現されてしまったことで、勘違いしたユーザーも居ると思われる。
更に他のαナンバーズの仲間にまで喧嘩を売る様な発言をし始めたため、カミーユ・ビダンにはそれを自惚れや甘ったれなどと断じられ、カトル・ラバーバ・ウィナーや碇シンジといった同年代かつキラ同様に穏やかな気性ながら戦う者にも嗜められるというオリジナル展開に繋がっており、そのせいで『ただ傲慢でナチュラルを見下す意識が垣間見える』な台詞になってしまっていたりする。
一応次シナリオで気晴らしとしてバナティーヤの街に買い出しに行かせる際に特殊な立場が作った心の壁を打破した先輩やαナンバーズの跳ねっ返り娘の先輩(?)、人為的な背景で生まれた存在の先輩を同行させて心のケアを図っていたりもする。
それにしても「い、いくらカミーユさんでも、僕には…!」とは言っていたが、前述の通りαナンバーズは死線を幾度も乗り越えていてカミーユ以外にも心身共に強いメンバーが大量に居るので、
カミーユの「その台詞を俺達全員に吐く気か!?」も道理であり、シナリオライター的にも難しい場面だったことは理解できるがおかしな場面となっている。
なお『SEED』の参戦が少ないことと、そもそも再現が難しいシーンであるため第3次α以外ではあまり再現されていない。
というか第3次αではこれに限らずSEEDのシナリオ再現は例えばニュートロンジャマー関連でも相当無茶な描かれ方をされており、
当時は『とにかく再現しよう』ということで手一杯だったことが覗える。
そんなわけで『スーパーロボット大戦J』では「やめてよね」のシーンが再現無し。
『スーパーロボット大戦W』では砂漠の虎関連の再現が決着シーンから始まるためカット。
『スーパーロボット大戦X-Ω』ではキラが南十字島に漂流するところから始まるため再現無し。
キラにとってもサイにとっても厳しいシーンであるため、あまり再現されないのも寧ろ幸福かもしれない。
関連タグ
ガンダムSEED キラ・ヤマト フレイ・アルスター サイ・アーガイル
もしかして(外部リンク): モウヤメルンダッ!!
SEED FREEDOMにて
「仕方ないだろ。君らが弱いから!」
ラクスに捨てられるし(キラ視点) 戦っても何も変わらないわで心を折られたキラはファウンデーション王国と戦うことを拒否。
アスランに「自分だけが戦ってるつもりか!」と指摘されて返した言葉が上記のものである。
その言葉をアスランは真っ向から殴り伏せ、頭に血が上ったキラの拳を全て捌き逆に殴り返しながら「僕がやらなきゃ駄目なんだ!嫌だけど必死で」と言い募るキラを「なんで言わない?頼まない?誰かに。お前一人で何ができる!」と殴り飛ばした。反撃する気力を失ったのかキラは座り込んだまま「ラクスに会いたい.....ただ隣で笑っていてほしい..」というありふれた願望であり、紛れもない本音を言うことができた。
ガンダムSEEDからDESTINY、FREEDOMと長い間精神をすり減らし、自分を追い詰め、必要以上のものを背負わされ続けてきた彼が、ようやくガンダムSEED砂漠編を象徴する本項目の台詞を言い放った時の精神状態にまで持ち直してきたことの証でもあり、それですらかなりマシといえるような凄惨な精神状態のまま戦い続けてきたという事をも物語っている。
上記のやめてよねも本質的にはその後の 僕がどんな思いで戦ってきたか、誰も気にもしないくせに!の方である。
福田監督は「君らが弱いから!」が好意的に受け止められた事は予想外だったようで、「君らが弱いから!」はシナリオ時から、これきっと見た人から怒られるだろうなと思ってたのに、歓迎されてるのが解せぬ。と述べられた。