概要
手塚治虫による漫画作品。1970年4月~11月に「週刊少年キング」において連載された。
性愛を主軸としており、耽美でエロチックな描写と、残酷で救いのないストーリーの中に「愛とは何か?」という重いテーマを盛り込んだ作品となっている。
70年代における若者の学園紛争などをはじめとした殺伐とした世相を反映しているとされる。
本作は主人公自身の物語の合間合間に、オムニバス形式で主人公の見る長い夢の物語が描かれる。
ひとつの物語の合間に小エピソードの積み重ねて進行するという形式は、鳥人大系などでも見られる。
タイトルの「アポロ」とは、ギリシャ神話におけるアポロとダフネの物語が由来。
アポロはニンフのダフネに一目惚れし我が物にしようとするが、ダフネは父である河の神ペネイオスに助けを求め、月桂樹へと姿を変えられてしまう。
それを後悔したアポロは彼女を忍んで、月桂樹から冠を作り身に着ける事にした…というお話。
あらすじ
愛を嫌悪する少年、近石昭吾は、ある時不思議な夢を見た。
目の前にいた愛を司る女神から、何故愛を憎むのかと尋ねられる。
彼は幼い頃からふしだらな母親に邪魔者扱いされており、父親すらも知らない状態であった。
ある時、母親が連れ込んだ男と情交に耽っているのを目撃してしまい、激昂した母親に酷い虐待を受ける。
更に自身を生んだ理由も「男と女がくっつくと勝手にできてしまうから」と開き直られ、この件が彼の心に深い傷を残す。
以降、彼は愛し合う人間や動物を見て激しい憎悪を覚えるようになり、暴行を加えるようになってしまう。そのことで警察に逮捕され、精神病院に送られていたところであった。
女神は昭吾に愛を呪った罰を与える。
それは、永遠の人生を与える代わりに「愛する女性が何度できても、結ばれる前に自分か相手のどちらかが死んでしまう」という呪いであった。
以降、彼は過酷な運命に翻弄されながら、愛すること、そして愛されることを知ってゆく。
登場人物
近石昭吾
主人公。母親からの虐待が原因で、愛することや愛し合う者たちへの憎悪を募らせている。
カップルを襲ったり、交尾する虫や小動物などを殺すなどの犯罪を繰り返しており、それゆえに精神病院送りになる。
女神からの罰により、幾度もの人生を体験し、その度に女性を愛しては悲劇的な結末を繰り返している。
榎
昭吾の担当医。作中ではロールシャッハテストや催眠術等を用いている様子が見られる。
戦時中に人を殺した体験について「胸がスーッとした」と語っており、自身が正気だとは思っていない。
昭吾の母親
名前は不明。数多くの男を連れ込み、息子の昭吾をいらない子扱いしネグレクトしているなど、典型的な毒親。
しかし、昭吾が事故に遭いかけた際には本気で心配しているような素振りを見せており、それについては昭吾も戸惑いを見せている。
昭吾が愛した女性たち
渡ひろみ
メインヒロインとも言うべき人物。元陸上選手との触れ込みだが、実際は榎の教え子の女医で、治療の一環で昭吾にマラソンをさせる。
山部という陸上選手の恋人がいるが、ひろみが事故で盲目になったことを知ると助けを呼ぶふりをして逃亡するクズ男であった。
エリーゼ
第一の夢に登場した少女。この夢の中で昭吾はナチスの兵士であり、ユダヤ人捕虜であった彼女を愛してしまう。
しかしエリーゼからは両親を奪った仇として銃撃され、またエリーゼ自身も他のナチス兵に捕らわれてレイプされるという凄惨な展開を迎える。
名前の由来は「エリーゼのために」で、作中でも言及されている。
ナオミ
第二の夢に登場した女性。高飛車でわがままなカメラマンで、パイロットである昭吾とはいがみ合う仲。
しかし、飛行機が不時着して辿り着いた無人島は、動物たちが愛を謳歌する楽園であり、そこで二人は生活を続けるうちに次第に惹かれ合い…
女王シグマ
第三の夢に登場した女性。容姿はひろみによく似ている。
この夢の舞台は人類に代わって「合成人」と呼ばれるヒューマノイドが地上を支配している近未来であり、彼女はその合成人たちの女王。
人間の生殖に強い興味を抱き昭吾を拉致するが、次第に本当に昭吾を愛するようになり、人間の女性に近づくために性器を形成する改造手術を受ける。
しかし、そのことで合成人たちからは裏切者として見なされ…