概要
アルメニアにおいて、キリスト教が伝わる以前に信仰されていた神々の神話で、アルメニア人の歴史家モーセス・ホレナツィによって5世紀に書かれた『アルメニア史』に記述されているものが知られるが、それ以外にはあまり記録が残っていない。
古くは自然崇拝が中心であったが、英雄譚が神話となったものや、ペルシアのゾロアスター教やアッシリアの神話、ギリシャ・ローマ神話の影響を受けた多神教の痕跡が見られるという。
アルメニア神話に関連する事柄
神々
- アストヒク(Astghik, Arusyak, Աստղիկ):愛と美の女神で雷神ヴァハグンの恋人や妻とされる。
- アナヒット(Anahit, Անահիտ):アラマズドの妻ともいわれる豊穣の女神でアナーヒターが由来。
- アマノール/ヴァナツール(Amanor, Vanatur, Ամանոր):年神。
- アライ(Aray):知られざる戦争の神。
- アラマズド(Aramazd, Արամազդ):創造神。アフラ・マズダーと英雄アラ・ゲゲツィクの伝承が結びついたものといわれる。
- アラレズ(Aralez, Արալեզ):戦争で傷ついた者を舐めて癒やす古き犬の神。
- ヴァハグン(Vahagn, Վահագն):雷神・軍神であり、竜退治の英雄神でもある。
- スパンダラメット(Spandaramet, Սպանդարամետ):冥府の女神。
- ツォヴィナール/ナール(Tsovinar, Nar, Ծովինար, Նար):水に関わる事象の女神。
- ティール(Tir, Tiur, Տիր):知恵の神。
- ナネ/ナネー/ナン/ナナイ/ナナヤ(Nane, Նանե):アラマズドの娘である愛と戦争、知恵を司る地母神。
- ハウディ:ウラルトゥで崇拝された主神。
- バグマスティ:ハウディの配偶神。
- バルシャミン(Barsamin, Barshamin, Բարշամին):天空神でセム族のバアル・シャミンが起源であると考察される。
- ミフル(Mihr, Միհր):アラマズドの息子である太陽神でミスラが起源であるといわれる。
英雄
- アラ・ゲゲツィク(Ara Geghetsik):美麗王アラと呼ばれる伝説の英雄で、あまりに美しい彼を欲しいと思ったアッシリアの女王セミラミスが戦争を仕掛けてきたという伝承が知られる。
- ハイク・ナハペト(Hayk Nahapet):アルメニア人の始祖である伝説の射手。
魔物
- アイス(Ays, Այս):風の悪魔。
- アズガボン(Azgabon):アバドンのこと。深淵の天使とされる。
- アル(Al, Ալ):妊婦や乳幼児を襲う小人姿の悪霊。
- マイルン・アリン(Mayrn Alin):アルの母。
- アルフムン/アフリマン/ハラマニ(Arhmn, Ahriman, Xaramani, Kharamani, Արհմն, Ահրիման, Խարամանի):アンラ・マンユのこと。ハラマニには蛇という意味もある。
- ヴィシャップ/ヴェシャピ(Vishap, Վիշապ):竜のことで、雷神ヴァハグンに退治されたという伝承がある。
- ウルヴァカン/ウルヴァガン(Urvakan, Urvagan, Ուրվական):幽霊のこと。東アルメニアではウルヴァカン、西アルメニアではウルヴァガンと呼ぶ。
- サタナイ(Satanay):サタンのこと。
- スリク(Slik):サタナイの二人娘の一人。
- ブリク(Blik):サタナイの二人娘の一人。
- サンタラメタカンス(Santarametakans):冥府に住む悪霊。
- ジェラハルス/チェラハルス(Jerahars, Cherahars, Ջրահարս):人魚のこと。東アルメニアではジェラハルス、西アルメニアではチェラハルスと呼ぶ。
- シャハペト/シャハペット(Shahapet, Shvaz, Shvod, Շահապետ):蛇の姿の守護神であるが、祟り神でもある。
- ダハナヴァル/ダカナヴァル/ダチナヴァル(Dakhanavar, Dachnavar, Դախանավար):19世紀にドイツの民話収集者であったアウグスト・フォン・ハクストハウゼン男爵の、アルメニアおよびコーカサス地方の調査記で報告された吸血鬼。366の谷の守護者として洞窟に棲み、山中にある谷の数を数えようとする旅行者を尾行し、休んだところを足裏から血を吸って殺してしまう。ニンニクとお互いに足を隠した2人以上の旅人に弱い。
- デヴ(Dev, Դև):空気で身体が構成された天使のような精霊で、起源はダエーワである。
- シラキ・デウ(Širaki Dew):蠅の姿の悪魔。
- タパライ(Tʻapalay):四つ眼で四本腕に四本の槍を持った悪魔。
- フンバル(Humbaru):廃墟に住むデヴ。妖精とされる場合もある。女性の人魚あるいは鳥もしくは蜥蜴のような姿をしている。
- ドジョフク(Dzhokhq, Դժոխք):一般的には地獄を意味する単語だが、悪魔や妖怪の一種でもある。
- トプラ(T‘pgha, Tʻpła, Թպղա):尻尾を有する毛むくじゃらの人型妖怪。
- ヌハング(Nhang):女性に化けて男を水底に攫い生き血を吸う水龍。
- バハルン(Bahałn):蠅の悪魔、悪魔たちの頭領。蠅を飲み込むものであり、全てを覆い尽くすという。
- パリク(Parik):キリスト教徒のエズニクによれば信仰の対象になっていた女精霊とされる。
- ハンバル(Hambaru, Համբարու):セイレーンのこと。キリスト教徒のエズニクによれば信仰の対象になっていた女精霊とされる。
- ピアテク(Piatek):翼の無いグリフォンのような魔獣。
- フレーシュ/フラシュ/フラシ(Frēš, Hraš):怪物のこと。
- ベル:バビロンに住んでいた邪悪な巨人族。ベルの王は英雄ハイク・ナハペトと対立し射殺され、死体は晒されたという。
- ペルゼウォン/ペルゼーオン(Pełcewon, Pełcēon):ベルゼブブのこと。悪の天使とされる。
- マルダガイル(Mardagayl, Մարդագայլ):人狼のこと。
- ムラプ(Mrapʻ):睡魔。
- ムルジュマナリウチ/ムルジウナリウチン(Mrǰmanariwc, Mrǰiwnaṙiwcn, Մրջմանառիւծ, Մրջիւնառիւծն):ミルメコレオのこと。
- ユシュカパリク(Yushkaparik, Yuškaparik, Յուշկապարիկ):廃墟に住むオノケンタウロス。キリスト教徒のエズニクによれば信仰の対象になっていた女精霊とされる。
- ラズキ(Lazky):叙事詩に登場する六本脚の馬。