エギーユ・デラーズ
えぎーゆでらーず
「繰り返し、心に聞こえて来る祖国の名誉のために…ジーク・ジオン!!」
ジオン公国軍残党組織「デラーズ・フリート」の指導者で、『連邦による地球圏の主権掌握の阻止』を掲げている。また、常に冷静沈着で、軍人の枠を超えた戦略眼を持っている。
ギレン・ザビの熱烈な信奉者であり、その思想を色濃く受け継いでいる。そのためコーウェン中将は彼を『ギレンの亡霊』と揶揄している。
機動戦士ガンダム0083公式ホームページではシーマ・ガラハウをデラーズ・フリートに引き入れ自らが導こうとした人柄から、ギレンの掲げた「スペースノイドの自治権確保」という主張に心酔していただけなのかもしれないと解釈されている。
そもそも、この「シーマを導こうとした」と言う話自体も「毒ガスなんて外道なことをしたシーマでも更生することはできる」と、シーマの感情を逆なでする行為であり、最期の最期までシーマと言う人間を見ることも理解することも無かった。
性格はややロマンティストな面があり、ガトーとのやり取りや、「茨の園」、「星の屑」といったネーミングにその性格が現れている。
自分専用のリック・ドムを持っており、ストーリーの冒頭でガトーが乗り込もうとしていた機体がそれである。
なお、公式スタッフによると頭髪は剃っているのであって禿ではないとのこと(頭の手入れに2時間もかけるという噂があるらしい)。
ア・バオア・クー防衛戦においては麾下艦隊を率いていたが、防戦中に安全であるはずの要塞最深部での不自然なギレン戦死の報、そしてキシリアへの指揮の移行の報を聞き、彼の死がキシリアによる暗殺とすぐに看破。
麾下艦隊を率いてSフィールドより戦場を離脱した。
カラマポイントでの協議において、連邦への服属を拒否する旧ジオン公国軍の大半がアクシズ行きを選ぶ中、抵抗継続を望む者達を率いて地球圏に残留。
デラーズ自身は協議の前から潜伏拠点「茨の園」の建設に着手しており、早期に地球圏残留の意志を固めていたようである。
宇宙世紀0081年8月15日ジオン公国国慶節を以ってゲリラ活動を開始、以後デラーズ・フリートを名乗り、地球圏において地球連邦に対するゲリラ戦の指揮を執った。
同志の潜伏や補給等の面では、サイド6政府関係者やアナハイム・エレクトロニクス社に代表される月面企業連合体との非公然の協力関係にあった。
しかし連邦の地球偏重政策に抗し得ず、アクシズの地球圏帰還を地に潜って待つか、乾坤一擲の総力戦による大戦果を目指すかの二択を迫られる事となる。
デラーズはガンダム開発計画の情報を得た事で、後者を選択した。
宇宙世紀0083年、星の屑作戦を発動。
トリントン基地での核弾頭搭載ガンダム強奪事件に端を発したこの一連の騒動は地球圏を席巻し、後に彼の名を冠してデラーズ紛争と呼ばれることとなる。
以後状況を楽観し腰の重い連邦軍を翻弄し続け、作戦の真の目的であるコロニー落とし成功まであと一歩の所まで行くが、コロニーの大気圏突入直前にジオンに怨みを抱いていたシーマの裏切りにあい座乗艦の艦橋を制圧される。しかしデラーズは動じず、自身を犠牲にしても目的を達成するようガトーを促す。
デラーズ「行けガトーよ!意地を通せ!現にコロニーはあるのだ!」
シーマ「狂ったか!?何を!?」
デラーズ「行け!わしの屍を踏み越えて!」
シーマ「黙れっ!」
デラーズ「わしを宇宙の晒し者にするのか!?ガトーよ!」
シーマ「馬鹿野郎!ソーラ・システムが狙ってるんだ!冗談じゃないよ!」
デラーズ「ジーク・ジオン…!」
その言動に激昂・動揺したシーマに射殺されるが、ガトーの奮闘でコロニーは最終軌道修正を果たし、遂に地球に落着する。
アクシズ艦隊のハスラー少将はコロニー落着を見届けると、亡き戦友への敬意を込めてそれを「男達の魂の輝き」と評した。
ちなみに一年戦争終結後、上層部が存在しないに関わらず三階級昇進している経緯は不明。
『公式百科事典 GUNDAM OFFICIALS』によると(以下引用、103ページより)
中将への昇進時期は不明であるが、糾合した公国軍残党のなかでの推挙、アクシズとの共闘関係樹立の際の昇進、あるいはその両者(推挙後、アクシズによる承認)であると推測される。
公国軍残党中、地球圏最大の戦力を率いる人物であるから、相応の階級が必要なため昇進したのは間違いない。
とのことである。
なお、シーマが裏切りに動くほどジオンに恨みを抱いていた理由は、1年戦争開始時に上官であったアサクラによって行われた「催眠ガスと偽って毒ガスを渡され、それをコロニーに注入する羽目になった」こと及び「前述の行為の責任をアサクラに押し付けられ、アクシズ脱出を許されなかった」ことに由来しており、これによりジオン、とくにその上層部に対して恨みを抱くこととなった。
漫画版である「REBELLION」ではシーマと同じく元海兵隊だったゲール・ハントに「戦争を繰り返す愚かな指導者」と罵られて射殺されることになる。
本作では狂信的なギレン派だが、派閥関係で同胞を差別的に扱うことはない人格的な一面や戦術家の能力から連邦からも智将と称される。しかし、同時に同胞の死を無駄だったと認めたくないあまりに新たな戦火を撒き散らすことも躊躇わない面もあった。さらに、シーマやゲールの戦犯としての苦しみも戦争に負けたからに過ぎないと、どこか軽く見ている節もある。
上記のキシリアによるギレン殺害によって、戦線から撤退した事について、よくネットでは敵前逃亡と言われている。
しかしギレン死亡後の最高司令官がキシリアだとしても、デラーズのなかでは(状況的にもその推測は間違いではないであろうが、あくまでも彼の推測ではある)それは非合法な方法で引き継いだ指揮権であり、更に彼がギレン直属の親衛隊ならばデラーズの上官はギレンだけであるためキシリアの命令を聞く理由はなく、デラーズにすればこの撤退行為は軍法及び現場判断的に間違ってはいないものであったであろう。
そんな彼からすればキシリアは弑逆者であり、彼女のために戦う義理などない。
またデラーズは確かに停戦命令前の時点(11:00)で撤退したが、公式では『逃亡』ではなく『撤退』で一貫していることから、後にキシリアへの指揮権移譲が非合法である事が判明した、もしくは、ギレンから特別に彼の部隊には戦況によっては独自に行動できる権限が与えられていたのかも知れず、その為に公式に敵前逃亡のような不正行為には該当していないとされた可能性がある(デラーズ艦隊が総帥直属であることに裏付けられている)。
キシリアは軍を動揺させない為にギレン死亡は伝えないのがベストであったといえ、ギレンを戦死という形にしてデラーズ(もしくは戦線全部の部隊指揮官)に伝えたのは大きなミスであるが、もしキシリアがギレンによるデギン殺害に言及したうえで、ギレン粛清公表と指揮権の引継ぎをすれば一応の正当性はあり、デラーズが信じるかどうかはやや疑問だが信じさえすれば停戦命令前の撤退はしなかった可能性はある。
このようにデラーズにとってはあの撤退は敵前逃亡では無かったが、もしキシリアが勝利をおさめるか、生存してグラナダに撤退していれば、彼女はギレン謀殺を封印してジオン最高指導者として、政敵であったギレンの派閥の重鎮であるデラーズを敵前逃亡罪という大義名分で糾弾し、軍法会議で処刑するか、実力で排除しようとした可能性が高い。
また有力なデラーズフリートの戦線離脱を見て、ジオン側には動揺して後退する部隊が出て裏崩れが発生し、既に勝機は逃しているとはいえ戦線崩壊を早めた可能性はある。
また、長らくIGLOOでのEフィールドから撤退する艦隊がデラーズ艦隊だと勘違いされていたことから、学徒兵を含む味方を見殺しにした卑劣漢であると中傷を受けてきた。
しかしIGLOOで撤退していた艦隊はEフィールドを通過してNフィールドから撤退したこと、所属している艦種が違うことなどからデラーズ艦隊ではないことが分かっている。
これに加えて、カスペン戦闘大隊が友軍の退路を確保すべくEフィールドを守り続けたのに対し、デラーズは友軍を助けようとするガトーを制止して撤退したこともこの批判を後押ししている。
しかしカスペン戦闘大隊の場合、オリヴァーや学徒兵たちが停戦命令に従い戦闘を止めたにもかかわらず、連邦軍が無視して攻撃してきたため、継戦するしかなかったという事情もある。
またカスペンとデラーズは当時の階級こそ同じだが、方やモビルスーツ(モビルポッド)部隊の指揮官で自らもパイロット、方や艦隊司令官という立場の違いがある。
戦線に突出して多数の敵を惹きつけ、それを拘束して戦線を支えてきた主力空母2隻轟沈により戦況の潮目は一気にジオン不利に傾いており、更に総帥の死亡により陣を保てなくなっていたため、兵を無駄死にさせずに速やかに撤退したデラーズの判断は、艦隊司令官として間違っているとは言い難い。
他にデラーズフリートの規模の大きさも問題視されるが、『星の屑作戦』の艦隊勢力がそのまま当時のデラーズの艦隊兵力だったわけではなく、敗北後に合流したり、アクシズに向かわず地球圏への残存を希望してデラーズフリートに組み込まれた艦艇も多かった可能性もある。
また漫画作品『光芒のア・バオア・クー』では、撤退途中で助けられる兵は救助していたことも分かっているものの、本編での敵前逃亡ととらえられる行いが災いして、ネット上各種サイトでは過剰な批判に晒されているといえる。
その一方、『星の屑作戦』に関しては批判されても仕方ない面も強い。確かにデラーズの作戦は成功し、連邦軍に多大な損害を与えることはできた。しかしデラーズ艦隊も壊滅状態に陥り、ジオン残党にとって貴重な精鋭と装備を失うこととなった。
そしてこの紛争が連邦側のティターンズ結成に繋がり、スペースノイドたちに更なる災禍をもたらすことになってしまったのである。
シーマの裏切りを予測できなかったことも含め、長期的な見通しよりもギレンへの狂信やロマンチズムからくる、自己陶酔的な行動であったことは否めない。
そもそもデラーズ・フリートは「スペースノイドの権力強化」「ジオン再興」を旗印に掲げているが、実際にはサイド3においてジオン共和国が成立している。
デラーズはこの共和国を「ジオン共和国を騙る売国奴」と名指しで批判しているが、実際には連邦を相手にそれなりの発言権を確保して存在感を示しており、後の0090年代においては連邦の議席を少なからずスペースノイドが占めている事が明らかになっている。
こうした「平和的に発言力を確保しようとしたスペースノイド」を否定するどころか敵視し、軍事による連邦への掣肘のみをよしとしたデラーズの行動は、スペースノイドのためなどとは到底言えないとする意見も目立つ。
穿った見方をすれば、デラーズが地球圏に残ったのは、あまりにも存在が大きすぎたギレンが死亡した事でギレン派は一気に凋落しており、ジオン残党の根拠地であるアクシズはマハラジャ・カーンを指導者としてミネバ・ザビを擁する以前はザビ家内では政治的に最弱であったはずのドズル派が握る逆転現象が起きている状態で、その中では自分の立場は弱い事を自覚していた為であり、ギレン亡き後のデラーズの関心は、「スペースノイドの権力強化」「ジオン再興」を掲げながらも、無自覚のうちにその実は如何に己の人生の終焉を飾る滅びの美学を行なうかにしか無かったのかも知れない。
もっともこの傾向に関してはデラーズに限らず、多くのジオン残党が似たような傾向にあるのだが。デラーズの前にも後にも、連邦や共和国を批判し現実を見ないジオン残党は、雨後の筍のように湧いてくるのである……(メタ的な事情を言うなら、この辺りは「派生作品を出したい」「その際の敵として、ジオン残党が都合が良い」と言うサンライズやバンダイの意向も大きいだろう)。
付け加えるなら、連邦とジオンの交渉は公王であるデギンの命によるものであり、デラーズによる売国奴という批判は完全に的外れであり、その点を考えればデラーズフリート含めたジオン残党勢力はジオンにとってもテロリストや反逆者といえるものである。
まあ、一年戦争以前からザビ家内部はおろかジオン全体ですら一枚岩だったとはいえず、それを含めてもスペースノイドが一枚岩でないことは明確であり、戦争終結時の戦後処理での意見の相違の末に分裂してジオン残党が出てくるのは自明である。これは、どれほど派閥争いがあってもただ1つの例外を除いて決定的な武力対立を招く事がなかった地球連邦とは対照的といえる。
そしてジオン残党鎮圧を名目に、その「ただ1つの例外」……すなわちティターンズが勃興してエゥーゴの設立を招いたこと、さらに後になると何の因果かティターンズ残党がジオン残党と合流したことは、歴史の皮肉といえるだろう。
トリントン基地での核弾頭搭載ガンダム強奪事件の後に行われたデラーズの演説にて、ジオン公国の健在と一年戦争は継続していることを理由に『地球連邦を南極条約に違反している』と罵っている。しかし、一年戦争は地球連邦とジオン共和国の政府間で終わっている。一将校に過ぎないデラーズがどうこう言うのはお門違いな発言であり、その時点で地球連邦の南極条約違反も的外れと言うことになる。
さらに問題になるのは、デラーズの言うジオン公国が健在で、南極条約は有効であるが事実とした場合である。ジオン公国の将校であるデラーズの星の屑作戦は「核兵器の使用」と「コロニー落としと言う大質量天体落下戦術の運用」と言う2つの南極条約違反が重なっており、特に後者は星の屑作戦の本命となる部分である時点で南極条約の違反が前提になっている。「南極条約を守れ!」と言ってる側が南極条約を率先して破るのだから、もはや詐欺師か何かの類い。
結局のところ、地球連邦の南極条約違反の宣言は自分たちの南極条約違反から民衆の興味をそらすためのリップサービスと言える。
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