※この記事には、R-18に該当する性的な内容が含まれています。
概要
1986年1月に桃園書房が発行する文庫レーベルの桃園文庫から刊行された。カバーでは「SF風冒険小説」と銘打たれており、ストーリーの大部分がシュリンカー(縮小化)状態となった主人公が自分の妻を始めとする複数人の女性の体内を宇宙人の案内で探検するというものになっている。
著者の泉大八は1928年生まれで、電電公社(NTTの前身)から小説家へ転身し直木賞にノミネートされたこともある。デビュー当初はプロレタリア文学を執筆していたが後に官能小説へ転身し、特に痴漢モノで一世を風靡した。
発行されたのが昭和末期と言うこともあり、本文に挿絵は一切無くカバーにカラーで描かれた写実的な女性の肖像(画・脇庄次)が唯一のイメージイラストとなっている。文芸評論家の針生一郎は「SF的手法を用いて生命と性の本質を探った力作」と評しているが、出版社の倒産により絶版のため読むのは困難である。
ストーリー
日曜日の朝、都内に住む平凡なサラリーマンのノリ彦が目を覚ますと自分の周囲にあるものが途方もなく巨大化したように見える異変に見舞われた。実際はその正反対で、自分の方がまるでノミのように小さくなってしまっていることに気付いたノリ彦は隣で寝ている妻のヤス子になんとか助けてもらおうと考える。しかし、気持ち良さそうに眠っているヤス子の全身は縮小状態のノリ彦から見て余りにも巨大で、起こすにもどうすればいいかわからないのでひとまず体をよじ登ることにした。
ネグリジェの裾から侵入したノリ彦はヤス子の腋毛をロープ代わりにして胸元へ這い上がり、山のようにそびえるおっぱいの急勾配を前進しようと試みるが、その時にヤス子が目を覚まして体を起こしたのでノリ彦は山の頂上にたどり着けないまま腹まで転げ落ちてしまう。ノリ彦は振り落とされる間際でヤス子のへそに潜り込み、なんとかやり過ごそうと考えるがそこへ同じ集合住宅で隣室に住む石橋氏が訪ねて来る。
石橋氏は「何日か前から妻のケイ子と連絡が付かなくなっているので何か知らないか」とノリ彦夫妻に尋ねようとしていたが、ヤス子は「特に心当たりが無い」と答える。ところが、石橋氏はノリ彦の姿が見当たらないとみるや唐突にヤス子を口説き始め、最初は抵抗していたヤス子も石橋氏の強引さに根負けして遂に体を許してしまう。ヤス子がスカートを脱いだ拍子に縮小状態のノリ彦はへそから転げ落ち、パンツの中で陰毛に絡まって身動きが取れなくなってしまった。
(恐らくコンドームを装着して)準備万端の石橋氏はヤス子をベッドへ押し倒し、クンニを済ませると自慢のポールを挿入して激しく犯した。ヤス子の陰毛に絡まったまま、大量の愛液で溺れかけながら隣人からの寝取られの一部始終を至近距離で目撃させられることになってしまったノリ彦は絶望のどん底に突き落とされたような気分を味わうが、そこで不意に現れたノリ彦と同じサイズの「イズミシキブサン」と名乗る女性に声をかけられる。宇宙人のイズミシキブサンが母船から地球を観察していた時にノリ彦の潜在的な願望をキャッチし、その願望を叶えた状態が今の「1000分の1人間」なのだと説明する。そして、ノリ彦を「生命と性の神秘を探る冒険」へ案内すると言い、石橋氏に犯されたオーガズムの余韻でベッドに横たわるヤス子の膣から子宮の中へノリ彦を案内した。
イズミシキブサンはその後もノリ彦を連れてヤス子の肛門から侵入して大腸、小腸、胃……と消化器を逆走して鼻の穴から脱出するルートを案内したり、母船に招待して宇宙の様々な星で暮らす友人たちを紹介するなどの体験を用意してくれたが、不意にヤス子のことが心配になったノリ彦は母船のモニターで「ヤス子の様子が見たい」と言い出す。すると、ヤス子は石橋氏に誘われて東伊豆で不倫旅行の真っ最中だと言うことが発覚する。しかも、石橋氏は海岸に人の気配がないと見るや岩陰にヤス子を誘い込んで押し倒し、またもや犯してしまう。嫉妬にさいなまれたノリ彦は激しく取り乱し、モニター視聴を中断して妻への未練を振り切るかのようにイズミシキブサンやその友達との交友を楽しむことにした。
翌日、イズミシキブサンは思い詰めたような表情でノリ彦にある事実を告げる。それは不倫旅行で石橋氏が中出しした精子がヤス子の卵管の中で卵子と出会って受精し、初期細胞分裂を始めたと言うものであった。同時に、イズミシキブサンはヤス子が以前に「子供は当分作らない」と言っていたのでもし妊娠に気付いたら中絶を選ぶのではないかと強く危惧していることを打ち明け、可能ならば着床する前に卵管内を移動する受精卵を回収して別の星で育てたいと提案する。ノリ彦は「ヤス子がこのことを知っても賛成すると思う」とイズミシキブサンの申し出に賛同し、ヤス子の胎内に瞬間移動して卵管狭部で子宮に到達する寸前の受精卵を自らの手で回収した。一仕事を終えたノリ彦に対し、イズミシキブサンは彼氏との初体験で胎内に新しい生命を宿したことにまだ気付いていないチヨ子と言う少女からもヤス子と同じように着床前の受精卵を回収したいと提案する。ノリ彦は母子家庭で育つチヨ子が妊娠に気付いたら苦悩するであろうことを慮ったイズミシキブサンの深慮に感銘を受け、二つ返事でこの提案を承諾すると休む間もなく見知らぬ少女の胎内へ瞬間移動し、2つ目の受精卵を回収した。
その後、カリブ海でバカンスを満喫する世界的に有名な女優の胎内へ侵入して本人が気付かない間に子宮筋腫を治療したり、親同士の不仲で引き裂かれそうになったため心中する寸前だった浩一と珠美の2人を助けて珠美の子宮で胎児の様子を観察したりしながら、全員で「セクストピア」と呼ばれる宇宙の性の楽園に向けて母船を出発させるところで物語は幕を閉じる。
登場人物
ノリ彦
- 主人公。平凡なサラリーマンだが、宇宙人に選ばれて1000分の1サイズ(約1.7ミリ)に縮小されてしまう。その後は案内されるがまま妻やその他の女性の体の中を探検したり宇宙船に乗って科学が進歩した太陽系外惑星の住民の性生活について見聞を深めたりしながら新生活を満喫するが、隣人に寝取られた妻のヤス子のことを気にかけている。
ヤス子
- ノリ彦の妻。職場結婚して3年半になるが、美人でスタイルが良いため周囲からは羨望の的になっている。1000分の1サイズに縮小したノリ彦が助けを求めて自分の体に寄生していることには全く気付かず、隣人の石橋氏から強引に口説かれて肉体関係を持ってしまう。その後も縮小した夫が同じサイズの宇宙人に案内されて自分の子宮に侵入したり、肛門から侵入して消化器管を逆走したことには全く気付いていない。
イズミシキブサン
- 宇宙空間の母船から地球を観察していた宇宙人の女性。名前の由来は平安時代の歌人・和泉式部だが、どうしてそう名乗っているのかについては「ご想像にお任せする」としている。ノリ彦の再誕願望をキャッチして気を利かせ、1000分の1サイズに縮小した後に妻を寝取られて途方に暮れるノリ彦の前に現れ、10日間の予定でヤス子の体内を案内したり太陽系外惑星に住む友人を紹介したりのツアーへ誘う。
石橋氏
- ノリ彦夫婦と同じ集合住宅で隣室に住む男性。数日前から妻のケイ子が行方不明になっており(実はノリ彦と同じく宇宙人に選ばれて縮小化し、ツアーに招待されている)、最初の内は気に留めていたがノリ彦の不在を知るとかねてから目を付けていたヤス子を強引に口説き落とし、そのまま寝取ってしまった。さらに不倫旅行へ連れ出した東伊豆の海岸でヤス子を犯したが、この時に中出しした精子がヤス子の卵子と受精してしまう。
チヨ子
- 父親を交通事故で亡くした母子家庭の少女。本人は気付いていないが、交際相手との初体験で彼氏が中出しした精子が卵子と受精して卵管内で初期細胞分裂を始めている。イズミシキブサンの提案によりヤス子の受精卵を他の星で育てるために回収した後、ノリ彦が瞬間移動でチヨ子の卵管に侵入してヤス子と同じように着床前の受精卵を回収した。
浩一・珠美
- 両親の不仲で引き裂かれそうになったため駆け落ちし、南伊豆の海岸で心中しようとしていた所を宇宙船に保護された少年と少女。珠美は浩一の子供を妊娠しており、ノリ彦と浩一はイズミシキブサンの案内で縮小して3人で珠美の子宮の中へ胎児が育つ様子を見に行った。
書誌情報
- 泉大八『セクシートラベル』(桃園書房:桃園文庫 い01-01)
- 1986年2月15日初版発行 ISBN 4-8078-0052-3
備考
桃園文庫では本作と同じ年の5月に刊行された宇能鴻一郎『巡回診療魔』(『小説CLUB』連載の『姐御探偵』から改題)や1993年に刊行された豊田行二『浮気なエイリアン』(1990年に桃園新書で刊行された作品の再録)でも、縮小能力を手に入れた主人公が女性の膣内へ侵入するシチュエーションが存在する。