二階堂地獄ゴルフ
にかいどうじごくごるふ
『二階堂地獄ゴルフ』(以下『二階堂』)は、『モーニング』(講談社)にて、2023年38号から連載されている漫画作品。
ゴルフシーンではプロゴルファーの武市悦宏が協力している。
作者の福本伸行は近年ではギャンブル・デスゲーム系の作品がメインなことで知られる。だが、ここ最近では本来の作風である人情ものに回帰しつつあることがにわかに話題になってもいる。
端的に言えば、本作は同じ福本作品である『最強伝説黒沢』(以下『黒沢』)でも熱くかつぬるりと毒々しく描写されてきた「俺はこのままでいいのか」「殺してえ…こんな自分を殺してえ…」「取り返す!…ワシは取り返すんや…!」」といった悔恨の日々を送るオッサンが、寄る年波からくる焦りや仲間たちとの交流によって逆境からの逆転を期し、同時に無為のままに失われてきたアイデンティティの再獲得に向けて奮闘していく………というストーリー。
……平たく言えは、建築会社が舞台であったのが『黒沢』だが、その舞台をカントリー倶楽部に置き換えたのが『二階堂』とも言える。
だから爽やかさなんてものを期待して読むものでは決してない。主人公は大井とんぼちゃんよりも沖田圭介とのほうが話しが合いそうなキャラクターで、ストーリー全体の雰囲気もそんな感じであることを心して読むべし。
桜武カントリー倶楽部にキャディーとして雇われた二階堂(26歳)はゴルフ未経験ながら才能を見出され、桜武初のプロゴルファーになることを期待される若者であった。
それから10年、35歳となった彼は未だプロテストを通過できずにいた。
進むも地獄‥戻るも地獄‥悶絶のゴルフ道、開幕!
その1%を掴む為に進むんだ‥‥!
二階堂 進(にかいどう すすむ) ※メイン画面左
本作の主人公。26歳の時に桜武カントリー倶楽部にキャディーとして雇われるが桜武理事長に誘われた打ちっ放しでドローを打ったことからゴルフの才能を見出され研修生となり、僅か半年で最終プロテストにまで辿り着く程の実力を見せつけた。しかし、10年たってもプロテストを合格できずタニマチから見放された。夢をあきらめきれず地獄のような環境になりながらもプロの道を目指す。
松永ひろし(まつなが ひろし)
桜武カントリー倶楽部の理事長。二階堂のゴルフの才能を見出した当人であり、プロゴルファーを目指す若者応援プロジェクト「グリーンジャケット会」を設立した。「彼(二階堂)がプロテストに合格するまで支え続ける」と意気込む人情家。期待していた二階堂が全くプロに上がれず心労で狭心症を起こしている。
松永孝幸(まつなが たかゆき)
桜武カントリー倶楽部の専務理事であり理事長の息子。かつては二階堂のプロテスト合格を期待し「グリージャケット着てみたい!」とはしゃいでいたもの現在は後悔している。研修生のプロテストチャレンジは4年目までという新たな方針を立ち上げる。
桐島 裕二(きりしま ゆうじ)
桜武カントリー倶楽部の研修生。二階堂も認める実力者。
瀬戸 架純(せと かすみ) ※メイン画面右
スナックアンダルシアでバイトをする女性で、地下アイドル「文々少女」のメンバー「斎藤カフカ」でもある。
タイパだなんだと中身が薄い価値観に終始する周囲に嫌気が差している。このため、泥臭い価値観に終始し現状打破に足掻く二階堂の姿勢を垣間見て感じ入り、彼へ自身からの評価を熱くぶちまける。
近年の福本作品において明確にヒロイン枠に位置付けられる珍しい立ち位置のキャラでもある。
スマ太郎
本名不詳の少年。なかなか本名を明かさないため、常にスマートフォンをいじっていることから上記の渾名で呼ばれている。この人とは関係はない。
ひょんなことから何とかプロテスト一次試験を突破できた直後の二階堂と対面し、しょせんは偶然で幸運は長続きしないと嘲笑う。
しかし、実は自分はマンガ家志望なものの、その奇抜ともとれる作風を理解してもらえるか自信が無くコンプレックスを拗らせてしまい、この前日に自殺未遂を引き起こしていた。このことを知った二階堂に自分の才能に自信を持つよう諭される。
「『二階堂』の連載に集中するため」として、本作の連載開始に前後して『賭博黙示録カイジ』(以下『カイジ』)シリーズの連載が休載となっている。
もう一度いう。『二階堂』連載開始の代償として『カイジ』の連載中断が決定したのである。
本当である。作者が霜降り明星とのインタビューで暴露したんだからしょうがない。
言い換えれば、『二階堂』の連載がひと段落するまで『カイジ』の再開は絶望的といえる。
『カイジ』シリーズの最終章を目前にしてこれである。
この状況に現在のユーザー界隈がざわ…ざわ…となっているのは言うまでもない。
作者の福本はかつてかざま鋭二の下でアシスタントをしていたのは有名なはなしだが、
そのかざまが2022年10月2日に鬼籍に入り、結果的に彼の絶筆となった作品こそヘビー系ゴルフ漫画として知られる『風の大地』(坂田信弘原作)である。
『二階堂』の連載はかざまの没後間もなくより始まっている。
当時、福本はかざまに師事していたものの肝心の技術はからっきしで、結局はかざまに「トラックの運転手にでもなれ」(意訳)とクビを宣告されている。二階堂同様、福本も事実上の挫折をここで味わったわけである。もっとも、福本本人は面倒をみてくれたかざまに感謝の念を抱いていること『よろしく純情大将』でデビューした際にのべている。
自分の師と同じヘビー系ゴルフ漫画を執筆することになった福本の心境やいかに……
また、福本のゴルフ描写は本作が始めてではなく、『賭博覇王伝零ギャン鬼編』冒頭での変則ギャンブルとしてゴルフが扱われている。
ここでも、『接待パーティーを催して後援者から支援を引き出そうとする有望若手選手の父親』とか『自分をプロゴルファーになるまで育ててくれた父親を尊敬しつつも政治目的でおっさんおばさんの接待をすることに嫌気が差しており内心では他人を見下している学生ゴルフチャンピオン』というある種の業界の闇が描写されている。