概要
明治の初めに史上最悪の呪術師として名を馳せた加茂憲倫によって生み出された、九体の呪物の総称である。なかでも後述する九相図一番〜三番に関しては、両面宿儺の指と同等か、それに近いレベルの「特級呪物」という扱いであり、作中の時点では宿儺の指と共に呪術高専に回収され、忌庫にて厳重に保管・封印されていた。
しかし、夏油傑の提案で自然呪霊達が呪術高専の交流会を襲撃した際に、真人によって宿儺の指と共に一番から三番が盗まれた後に受肉を果たし、自然呪霊側の新たな戦力となった。
内容
呪胎九相図の正体は呪霊と人間の混血児。即ち、半人半呪霊である。
明治の初め頃に加茂憲倫はとある寺を所有していたのだが、ある時、その寺に呪霊との間に子供を孕める特異体質を持った娘が訪れる。呪霊との間に子を成してしまった彼女は身に覚えのない懐妊と異形の姿の赤ん坊を出産した事で、親類縁者からの想像を絶する風当たりにさらされ、赤ん坊の亡骸と共に呪術師が運営していると一部では知られていた憲倫の寺に助けを求めて訪れた。
しかし、そんな彼女の体質に知的好奇心を刺激された憲倫は彼女を実験材料として利用し、具体的な手段は不明だが、彼女と自身が用意した呪霊との間に子供を九度も堕胎させた。そうして取り出された九体の胎児は、強い呪力を持った呪物と化して百五十年もの間封印される事になる。実験の詳細やその後、九相図の母胎となった彼女がどうなったのかは記録が破棄されて詳細は明かされていないが、悪行を企てた者の目的や性格を考慮すると想像を絶する様子や結末になった事は想像に難くない。
なお、劇中ナレーションがまだ存在しなかったアニメ1期では、この場面をその行為を行った黒幕が解説するという自作自演に近い形になっている。
その製造過程からも分かる通り、九相図はそれぞれが血の繋がった実の兄弟である。
この世に誕生して封印されていた時からそれぞれに自我や意思は存在していたようで、兄弟達の存在のみを拠り所として長年の間封印を保ち生き続けてきた(互いに会話や意思疎通が出来ていたかは不明)。
吹き出し内の説明のみとはいえ、呪霊の子を産み迫害を受け助けを求めた女性を己の目的の為に九度も呪霊によって孕ませ、堕胎させ弄ぶという少年誌的にもギリギリのラインかつ呪術のキャラでも最も悲惨な誕生過程である。
そんな呪霊としても人間としても悲惨なその生い立ちからか、封印から解放され受肉を果たして以降は、互いに兄弟の存在を第一とする強固な兄弟愛を持ち、あくまで兄弟のために行動する。脹相が新たなる弟を見つける前の渋谷事変まで自然呪霊達に協力していたのもその方が異形の姿をしている弟達のためにも都合が良いからというだけで、決して彼等の思想に賛同している訳ではない。
形状
堕胎された未発達の胎児の標本のようなものであり、封印中は破壊できない代わりに周囲に害を及ぼさないという“縛り”で存在を保っている為、それ自体は特に人間に害は与えない。
しかし、これを人間に飲ませる等の形で摂取させる事で、その人間の肉体を自分達の身体へと変形させ“受肉”する。要は人間を一人生贄にする事で肉体を手に入れる事ができるのである。
これ自体は他の魂を宿した呪物も同様であり、死滅回游で登場する過去の術師達も全員が同じ方法で受肉して現代に復活している。1話の宿儺復活も同じ理屈なのだが、宿儺の場合はその強すぎる呪力と毒性から器となり得る人間が作中の虎杖まで千年もの間現われず、虎杖はその高い器としての耐性から宿儺の自我を抑え込む事に成功し、その為に肉体の変形も殆ど起こらなかった。
番号
彼等はそれぞれが試験管に入れられて標本のような状態で保存されており、保存されている間は生まれた順に番号を割り振られて呼称されていた。受肉を果たしてからは、元ネタの九相図になぞらえた名前を名乗っている。最終的に生き残っているのは、呪胎九相図一番こと長男の脹相だけであり、脹相は高専にまだ保管されたままの四番以降の弟達の亡骸を回収したいと考えている。
生得術式
脹相は加茂家相伝の術式である赤血操術、壊相と血塗は蝕爛腐術を操る。
いずれも血液を操る術式であり、蝕爛腐術も加茂家相伝、あるいはその発展形の術式の可能性がある。
また、呪霊とのハイブリッドである彼等は呪力を血液に変換する特異体質を持ち、それ故に本来これら血を操る術式の弱点である失血のリスクを完全に克服している。さらに半分呪霊のものである彼等の血液は、術式の効果とは一切関係なく生物の体内に侵入した場合は猛毒となる。同じく赤血操術を操る加茂憲紀の血液は、逆に呪霊側にとって猛毒である。
受肉以降の動向
そもそも呪霊と人間との間に子供を作るという行為自体が無謀であったのか、単純に封印に耐えうるだけの生命力が無かったのか、百五十年に亙る封印は九相図にとっても相当に負担がかかるものであったらしく、四番以降の兄弟達は既に死んでおり、ただの呪力を持った亡骸と化している(本編に先んじて2021年2/27にCSで放送されたケンドーコバヤシの漫道コバヤシにおいて、既に死んでいる事や今後劇中には登場しない事が作者インタビューによって明言されている)。
しかし、受肉を果たした脹相、壊相、血塗の三人は、一人の例外を除いて人間・呪術師に対して基本的には悪意や敵意は無く、三人の根本的な願いは兄弟と共に穏やかに暮らしたいと言う実に人間的な動機で動いていた。呪霊側についたのも別に人間に対する敵対心ではなく、異形の肉体を持つ壊相と血塗は人に受け入れられることはないと判断し、人として苦しむ弟達を見たくなかった脹相にとって、その願いを達成する為には、呪霊側の方が都合が良いからついただけに過ぎない。
ちなみに長兄の脹相のみ母親の事を覚えているらしく、母親に対しても明確に情を抱いている。
そのスタンスと互いの兄弟の絆故に、彼らと直接対決を果たした虎杖悠仁や釘崎野薔薇の両名に命を奪った事に罪悪感を抱かせ、虎杖にとっては初めて自分の意思で人を殺した苦い経験となった。
また、彼等の存在は渋谷事変以降に始まった死滅回游の序盤において、様々な意味でキーとなっている。
ネタバレ
※ここから先には単行本16巻及び単行本未収録の物語の内容が含まれます
加茂憲倫がこの呪物を制作した目的は、「人間」や「呪霊」という呪力の形の新たな可能性を探求する為だったが、結局は彼の希望に叶う程の存在ではなかったらしく「自分の手から生み出される以上は自分の可能性の域を出ない」と失望を見せて百五十年間も放置していた。
作中で受肉させたのも、彼等を指の収集や渋谷で五条を疲弊させる為の一時的な戦力として利用する為であり、彼等が死んでも自分を裏切ってもほぼ無反応どころか、虎杖に壊相と血塗が倒されたという報告を受けた時には、思わず笑ってしまっていた程だった(作者の一問一答によると加茂憲倫としては「作ってみても受肉させてみてもそんなだった」との事である)。
後に、天元を巡って脹相と加茂憲倫が対峙した際にも、改めて呪胎九相図への失望を露わにしており、脹相達を「つまらない」「失敗作」と吐き捨てて足蹴にしている。
血縁者
呪胎九相図の第一子の両親は産みの母と父にあたる呪霊である。
ただし、脹相~焼相が人間の母と父にあたる呪霊との間に加茂憲倫の血を混ぜる形で生み出されており、実際に脹相自身も「“俺”には三人の親がいる」と説明している。その為に彼は加茂家相伝の赤血操術を使える。
さらに渋谷事変で脹相の術式の副次的効果で、虎杖悠仁は加茂憲倫の血と共通した血縁関係にあると判明した。冗談のような関係だがそれぞれの血縁関係は以下の通りである。
【第一子】
人間(母)+呪霊(父)
【脹相~焼相】
人間(母)+呪霊(父)+加茂憲倫(血を混ぜた親)
【虎杖悠仁】
かなりややこしいのだが、脹相らと悠仁は異親であり異母兄弟と言える関係にある。
ちなみに脹相は長兄を自負しているものの、上記の通り正確には第二子である。第一子は母親が迫害されるきっかけとなった最初に出産した子供であり、前述通り生まれた直後に死んでいる。
男だったのか女だったのかも不明だが、脹相は「十人兄弟の兄」を自称しているので、上の存在を知らないのか、生まれた時には既に死んでいた為に数に入れていないのかは不明。
なので、産みの母の子は第一子と呪胎九相図の十人。加茂憲倫の血を引く子は脹相~焼相と悠仁の十人となる。
余談であるが、168話のカラー表紙では脹相、血塗、悠仁、壊相の四人のイラストが描かれた。衣装がアラブ系のもので揃えられており、キャッチコピーは「血は呪いよりも濃い」。
アラブは血の繋がりをより確固な絆とし、血族の軽視を罪とする血縁主義国家である。閉鎖的で血統に拘る呪術界と重なる部分もあり、呪胎九相図もまた血縁の絆にのみ固執している。
四人は純粋な人間ではない呪物の受肉体であり、その兄弟で並んで描かれた姿は実に意味深い絵となっている(ただし、九相図の3人は受肉している側で、悠仁は受肉されている側だが)。
出会いが異なれば脹相が視た夢の通り、仲睦まじい兄弟になれたのかもしれない…。
高専に保管されていた四番以降の亡骸は宿儺への決戦に向けて虎杖が飲み込んだ為、虎杖の中で生きている。脹相も「弟達はオマエの中で生きられる」と誇らしげに語っている。
関連イラスト
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九相図:元ネタになった仏教絵画。