概要
第13話「ダゴモンの呼び声」(脚本:小中千昭/演出:角銅博之/作画監督:海老沢幸男)に登場するデジタルワールドではない謎のエリア。
「ダゴモンの海」の異名を持ち、その名の通りダゴモンが徘徊しており、人間界やデジタルワールドではない、
所謂『並行世界』だが、常に霧に覆われており、デジモンなのかさえも不明な謎の存在が住み、彼らの神を崇めている。
時々空間の位相がずれて迷い込む者がいる。迷い込む人間のタイプは八神ヒカリや一乗寺賢の様に光や闇の力に敏感な者が迷い込みやすく、賢は「人の悲しみ等の感情が集まった世界」と解釈している。実際、普通の人間やデジモンがこの世界に迷い込んで長期間そこにいるだけであっても、命の危険に関わる程の環境となっている模様。
『02』の前半にて、デジモンカイザーに変貌してしまった賢がデジタルワールドの各地に建てていたダークタワーも、本来はこの世界に存在していた物であるが、何故この世界にダークタワーが存在していたのかは明かされなかった。
またデジモン文字でインスマウスと書かれた看板が立っている。
この世界での出来事
『無印』と『02』の間となる時期にて、ベリアルヴァンデモンの支配下に置かれていた及川悠紀夫がこの世界からダークタワーのデータを獲得し、2年前に兄の一乗寺治を交通事故で喪って塞ぎ込んでいた賢にメールを送って誘導。
この世界に迷い込んだ賢のデジヴァイスを「暗黒デジヴァイス」に進化させ、更にはミレニアモンとの死闘の末に賢の体内に埋め込まれていた暗黒の種を活性化させる事で、デジモンカイザーへと変貌させている。
ダゴモンの事件後は、単純な力押しでも太刀打ち出来無い上に人間界とデジタルワールドを自由に行き来出来る脅威であったデーモンを全員の力で暗黒の海へと追放している。
デジモンアドベンチャーtri.では、バクモンに拒絶され失意のどん底に陥った姫川マキがこのエリアに迷い込み、消息を絶った(監督曰く「電子に分解されて消滅した」らしい)。
残された謎/小ネタ
『デジモンアドベンチャー02』は様々な謎を残して今日に至るわけだが、この暗黒の海は詳細が全く明かされていない事で有名である。
ダゴモンの正体
全くの謎。そもそも眷属がデジモンではないので、この世界に存在するダゴモンも「ダゴモンというデジモンの姿を取った何か別の存在」という線も考えられる。
とはいえ、デジモンではない存在を使役するデジモンは数多いので、ダゴモンがこの世界を管理するデジモンだったとしても矛盾は無いと言えるだろう。
一方、ハンギョモン擬きの元ネタは言うまでもなく深きものである。
本当にデジモンカイザー(一乗寺賢)が関与していたのか?
ハンギョモン擬きは「新しい神」の存在を示唆しており、話の流れ的にもこれが黒幕であるのは間違いない。が、その「新しい神」の正体がデジモンカイザーやベリアルヴァンデモンであるという憶測は早計過ぎる部分が多い(あくまでも、ハンギョモン擬きが付けていたイービルスパイラルを見たヒカリが、そう推測したに過ぎない)。
というのも、デジモンカイザーはデジタルワールドで一種の陣取りゲームをしている真っ最中であって、まだデジタルワールドを完全制圧していない上に、そもそもデジタルワールドですらないこの世界に干渉する必要性すらも無いので、ダークタワーを建てる道理すらも無い(それ以前に、ダークタワーは元からこの世界に存在している物の為、「デジモンカイザー」が建てたという解釈自体が間違いだったと言える)。
ましてや、この世界の住人をイービルスパイラルで縛ったり、エアドラモンをさし向ける必要性も全くないのである(そもそもこのエアドラモンですら、本当のエアドラモンかどうか怪しく、「ハンギョモン=深きもの」と同様、エアドラモンと酷似した存在がクトゥルフ神話にいる)。
元ネタになったクトゥルフ神話は宇宙的な世界観であったが、奇しくも『デジモンアドベンチャー』の三年目の構想は『進化を否定する地球外の敵』と戦う内容であったが(02最終回で石田ヤマトが宇宙飛行士になったのはこの名残)、及川がこの世界で進化を抑制するダークタワーのデータを入手したのもそれらの技術が地球外の敵=新しい神に由来するものと考えれば辻褄が合う。
しかし、全ては憶測に過ぎず、三年目構想と本当に関係があるのかは全くの不明である。
加えて、追放されたデーモンの残した「いずれ後悔する」というセリフの意味も明かされていない。デーモンとクトゥルフに対抗する神性ハスター(※)を関連づける考察もあるが、そもそも小中氏は第13話のみの参加、デーモンの登場回はまさきひろ氏と前川淳氏の担当回であり、関連付けとしては弱い所がある。
なにはともあれ、この異世界が『アドベンチャー』シリーズで重要な要素である事には違いない。
なぜヒカリはこの世界に呼ばれたのか?
これはハンギョモン擬きの口から明言されており、「新たな神に対抗しうる子を産ませる」ため。
しかし、なぜ「ヒカリ」を標的にする必要性があったのか不明である。ただ、ヒカリは選ばれし子供の中でも特異性のある存在で、前述の進化を抑制するダークタワーの存在からそれと対をなす「光」の力(ヒカリに割り当てられた紋章で「進化」に深く関わる力である)を求めたのかもしれない。
また、この話における数々の描写からヒカリは大人に近づいた事をうかがわせる節があり、戸惑いから精神が不安定に陥っていたと言えるヒカリがこの世界に引き込まれてしまったのも、それが理由なのだろう。
なお、賢がこの世界に足を踏み入れたのも、同じ様に多感な時期を目前にした頃であった。
登場の経緯
ライターの小中氏のツイート(参考)によると、無印制作途中に設定を担当していた角銅氏がダゴモンの存在を認知、デザイナーの渡辺けんじ氏にモチーフの確認をとった後、クトゥルフ神話フリークである小中氏に脚本を依頼したが、諸事情で02にずれ込んだ…これがダゴモンの海登場のきっかけの一つ(ちなみに、ダゴモンの初登場は1998年12月頃発売の「デジモンペンデュラム2」である)。
もう一つは角銅氏(参考)のツイートによれば、デジタルワールドから見た異世界ウィッチェルニーの存在があり、それを(『アドベンチャー』の)デジタルワールドとの繋がりを考える上でのきっかけとして登場させたとの事である。
なお、メフィスモンやデーモンと旧神の関係性についてはデザイン担当ではないのでわからないと補足している。
つまり、このエピソードは脚本家の趣味に走った回…ではなく、デジモンの世界観を広げるためのエピソードだったというわけだ。
また、小中氏は『デジモンテイマーズ』に登場したデ・リーパーとの関連を疑う考察にも触れている(参考)。
脚注
(※)ちなみにハスターは風属性。今回登場したエアドラモンはカードゲームなどではウィンドガーディアンズという勢力に属しており、そちらの方面から考察するファンも存在する。
また、ローブを纏ったデジモンであるワイズモン(祖先の必殺技が「エルダーサイン」)との関連を疑う声もあるが、そもそも彼の初登場は『デジタルモンスターカードゲーム アルティメットバトルセット ロイヤルナイツセット&十闘士セット』(2002年)であるので、今の所、関連性はないと見ていい。
関連タグ
デジモンテイマーズ:デジモンアニメの3作目で小中氏がメインライターを担当。こちらでもクトゥルフネタ多し。
デジクオーツ:同じくデジタルワールドではない異世界。