もしかして→笑い男(妖怪)
概要
劇中で俗に『笑い男事件』と呼ばれるセラノゲノミクス社社長アーネスト瀬良野(セラノ)誘拐と、その後のウイルスプログラムをばら撒くという手口を使った、マイクロマシンメーカー6社に対する脅迫、及びこのサイバーテロによる劇場型犯罪の犯人とされる人物の俗称。
なお、正式名称は「広域重要081号事件」。
事件内容
アーネスト瀬良野誘拐事件
2024年2月1日、アーネスト瀬良野が誘拐され、同時期に身代金100億と金塊100㎏が要求されるという事件が起こる。
瀬良野は誘拐以前から何者かに電脳ハックされた人物達から犯行予告を受け取っていたが、まともに取り合っておらず、この誘拐は状況を甘く見ていた彼自身が招いたと言っても過言ではなかった。
この時点では身代金が常識外の、一般的な誘拐事件だと思われていた。
しかし、報道管制によって捜査当局は公開捜査に踏み切れず、捜査は難航。何の手がかりも掴めないまま2日経ったある日、事件は予想だにしなかった方向へと動き始める。
2024年2月3日、警察庁会談直前の天気予報のTV生中継現場に拳銃を持った謎の青年が瀬良野を連れて現れ、何かを謝罪するよう瀬良野に要求した。青年は駆けつけた警官を見て逃走、瀬良野は解放された。
その際、青年は現場にいた全ての人々や駆けつけた警察官の電脳、AIつきのロボットカメラ、更には逃走経路にあった監視カメラなどの画像機械の記録にいたる、全てのネットワークにつながるものに記録された自分の顔を、過去にさかのぼってまでリアルタイムに「笑い男マーク」に書き換えてしまった。
しかもただ顔を隠したのではなく、人々の電脳の認知領域にまで干渉して書き換えを行ったことで、目撃者達は笑い男マークが青年の顔であると何の疑問も無く認識している状態であった。そのため、騒動直後の捜査当局での似顔絵作成の際に、目撃者たちが大真面目に笑い男マークを犯人の似顔絵として描いてしまうという珍事が起こり、これまた世間に衝撃を与えることになった。
結局、捜査当局は瀬良野を保護できたものの、有力な手がかりを得ることはできず、青年の行方も掴むことはできなかった。
そして特A級クラスのハッキングスキルを持つにもかかわらず衆前に姿を晒した大胆さと、それに不釣合いなポップなマークから、やがて人々は犯人を「笑い男」と呼ぶようになる。
笑い男連続企業脅迫事件
瀬良野が保護されてしばらく後、笑い男はセラノ社を「マイクロマシンに殺人ウイルスを混入する」と脅迫。
主力商品であった医療用マイクロマシンの業績悪化によってセラノ社の株価が暴落すると、今度は同様の手口で他の大手マイクロマシンメーカーを次々と脅迫していった。さらにこれと並行して各地に「笑い男マーク」を出現させて大々的に犯行予告を行い、世間を騒がせた。
この脅迫事件は約3ヶ月続き、被害に遭ったメーカーは犯行予告による風評被害で売り上げと株価が暴落して経営破綻寸前にまで追い込まれた。事態を重く見た政府は被害メーカーへの公的資金を導入を決定する。その際に何故かセラノ社のみ資金が少なかった。公的資金導入が決定されると、まるでそれが目的であったかのように脅迫は止み、事件は終息。
結局、犯人に関する手がかりはおろか、犯人が何をしたかったのかもわからないまま、事件は迷宮入りとなった。
笑い男ブーム
センセーショナルな事件に世間は笑い男一色に染まり、ネットを中心に事件や犯人に関する様々な憶測や考察が飛び交うようになる。
さらに「笑い男は大企業が隠蔽している何らかの悪事を暴こうとしたのだ」とする噂が流れたことで、「笑い男」を英雄視するファンも続出し、規模自体は非常にチープで微々たるものだが「笑い男」の模倣犯までもが大量に出現。
遂には「笑い男マーク」がプリントアウトされたTシャツやカバンといった数々の関連グッズも販売された他、映画やライブにまで使われたことで社会現象にまで発展、推定約20兆円規模の経済効果を生み出すこととなった。
ちなみに完全なる余談になるが、この時に「笑い男マークは自分が考案し、犯人にパクられたものである」と主張するデザイナーがいたものの、事件後、彼はデザイナーとして注目されるようになった。
真相
瀬良野誘拐事件とそれ以外の事件とは、犯人は全く別である。
誘拐事件の犯人はアオイという、特A級のハッキング技術を持つ青年であった。
だが、彼の起こした事件は、瀬良野社長誘拐とTVカメラ前での脅迫のみで、それ以外はアオイの犯行を模倣し、「笑い男」という虚像を作り上げた別の人間たちの仕業である。
- 事件の背景
そもそもの発端は「電脳硬化症」(電脳化によって脳細胞が徐々に硬化していく不治の病)の特効薬「村井ワクチン」が厚生労働省中央薬事審議会によって薬として認可されず、セラノ社の電脳硬化症用マイクロマシン療法が異例の早さで認可されたことにあった。
表向き、これは村井ワクチンが偶然の産物であり、効用のメカニズムが解明しきれていなかったことが不認可の理由とされている。
しかし、この一件には裏があった。当時の医療業界ではマイクロマシン療法の推進派が多数を占めており、旧来のワクチン治療である村井ワクチンを容認することで、マイクロマシン療法の開発・発展に影響が出るとの懸念があったのである。
さらにマイクロマシン療法推進派の先鋒でもあった薬事審議会理事・今来栖尚の、村井ワクチンの開発者である村井博士に電脳硬化症治療の功績を先に取られてしまうという嫉妬心もあった。
そこで今来栖ら薬事審議会は村井ワクチン潰しのためにマイクロマシン療法の優位性をアピールするべく、たまたまその時申請が出されていたセラノ社の新型医療用マイクロマシンに認可を出したのである。
だが、セラノ社はあくまで「アイディアを同業他社に盗られないように、とりあえず特許の申請をかけておいた」だけで、当時のマイクロマシン自体は未完成であり、治療効果は殆どない状態であった。
これにより、電脳硬化症患者の元には本来効果がある筈の村井ワクチンではなく、当時は何の効果も無かったマイクロマシン療法が提供されるようになってしまった(セラノ社のフォローために言っておくと、アイディア段階で特許の申請を出すのは現実でも行われているごく普通の営業戦略であり、セラノ社と厚労省に始めから癒着があったわけではない。認可が下りるまでの期間でマイクロマシンを完成させるつもりだったセラノ社にとっても、このたった三ヶ月という早すぎる認可は想定外の事態であった)。
知らず知らずのうちに村井ワクチン潰しの陰謀の片棒を担がされてしまったセラノ社だったが、結果的に莫大な利益を上げることになり、後発メーカーゆえの弱みと焦りもあって瀬良野は事態を黙認。
また、今来栖が理事を務めるマイクロマシンインダストリアル社のマイクロマシンも、治療効果が殆どないにもかかわらず認可され、同社もこれによって年間1兆円程の利益を上げている。
ところがその後、一度は不認可とされた村井ワクチンは、2021年4月に突如として特定指定者有償治験薬として認可される事になる。
この件は一般には公表されず、村井ワクチンを使用している患者も表向き存在しない事になっている。
これにより上流階級の人間のみに特権的に村井ワクチンが受けられることになり、この件に関わった人間は更なる利益を上げるようになった。
この一連の陰謀の影で暗躍していたのが、当時の厚生労働大臣であり、警察上層部やそれと繋がりがある政治家や自衛軍に影響力を持つ連合与党幹事長・薬島薫だった。
今来栖とも親密な関係にあった薬島は、認可のために厚労省トップとしての力を使って各所に圧力をかけていたのだ。
しかし、これら国家主導による詐欺行為と言える陰謀に気づく者もいた。
2021年、誰とも判らぬその人物は、当時のマイクロマシン療法の無効性と村井ワクチンの有効性を比較検討した論文を基に、陰謀の真相を糾弾する匿名の脅迫メールを作成、瀬良野に送りつけた。
だがメールは黙殺され、何の影響も及ぼすことも無くネットの片隅へと埋没していった
- そして『笑い男事件』へ
それから3年後、黙殺された脅迫メールを偶然ネットの片隅で発見したアオイは、正義感から瀬良野に対し真実を公表するよう脅迫。それに応じない瀬良野を電脳ハッキングし誘拐した。
3日間にわたり討論を繰り返すうちに公表の約束を取り付けるが、直前になって瀬良野が逃亡しようとしたことで、これに対しアオイは拳銃で脅迫し、謝罪を要求した。
これが2月3日の事件の真相である(制作陣曰く全くの偶然の結果とのこと)。
この事件を利用したのが他ならぬ薬島だった。
元々、村井ワクチンと医療用マイクロマシンに纏わる秘密を使った裏金作りを目論んでいた薬島は、瀬良野社長誘拐事件発生と同時にその計画の一部を変更、事件に乗っかる形で実行に移した。
まず、薬島一派はアオイによる瀬良野誘拐事件の陰で、彼の仕業に見せかけて莫大な身代金を要求。
その後、「笑い男」を騙って大企業への脅迫を繰り返し、世間を扇動するために大々的な工作活動を行い、劇場型犯罪として演出した。
そして脅迫され、風評被害によって破綻寸前まで追い込まれた企業へ公的資金導入が決定すると、頃合いを見計らって被害企業に使いを送り、「脅迫を止めさせる事が出来る代議士を知っているので、もし無事に犯行終結した暁にはその人物へ『献金』をしてほしい」と要求した。
この時、瀬良野は要求された金額が政府から導入された公的資金と誘拐事件のときに犯人の要求金額を合わせたものと同額であったことから、薬島こそが全ての黒幕であったことに気づくも、破綻寸前の会社とマイクロマシン療法の秘密を守るためには黙って要求に屈する他無かった。
これにより薬島一派は脅迫した企業に導入された公的資金を含む多額の金をマイクロマシンメーカーからそっくり横取り同然に巻き上げることに成功、さらに公的資金導入による株価変動を見越した被害企業の株の空売りで莫大な金を手にしたことで目的を達成したため、事件の幕を引いた。
瀬良野には余計な発言をしないように、警護の名目で監視を付け軟禁状態に置いている。警護役の警官には「インターセプター」と呼ばれる監視カメラ的なナノマシンを仕込んでおり、もちろん事実は伝えていない。
アオイは目的を達成できなかったばかりか、自分が起こした犯行を利用し私腹を肥やす悪が居るという醜悪な現実に絶望し、事件から手を引き行方を晦ませた。
その後紆余曲折を経て、物語開始時点では授産施設に忍び込んでいた。
事件発生から5年後、笑い男事件特別捜査本部の刑事・山口が、警察内部で不審な動きがあることを察知し、元・同期であったトグサに捜査協力を依頼しようとするも、車の運転中に彼の目にも仕込まれていたインターセプターを操作され、事故死してしまう。
山口が遺した捜査資料を受け取ったトグサは独自の調査からインターセプター不正使用の事実を突き止め、そこから公安9課が事件の真相を暴くべく調査を開始する。これがS.A.Cの物語の主軸となる。
「笑い男」のマーク
メイン画像にある「笑い男マーク」、シンプルだが様々な要素が詰め込まれている。
外周をグルグル回る文字列は"I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes.(僕は耳と目を閉じ、口をつぐんだ人間になろうと考えた)"となっており、これはサリンジャーのライ麦畑でつかまえての一節である(蛇足だが、サリンジャーは「笑い男」というタイトルの作品も書いている)。
なお、顔に見える部分は作内のコーヒーチェーンのロゴ(更にこれも現実にあるコーヒーチェーンのもじり)をもじった事になっている。
関連イラスト
関連リンク
笑い男編の真相(yahoo! 知恵袋)