概要
士郎正宗の原作コミック及び押井守の劇場版とは異なり、「もしも草薙素子が人形使いと出会うことなく公安9課に残っていたら」というパラレルワールド設定で描かれたTVアニメシリーズ。
2002年にスカパーのパーフェクト・チョイスにて初めて放送された。
監督には押井守の弟子筋にあたる神山健治、音楽には菅野よう子。そして原作者である士郎正宗もプロットを書き起こしており、タチコマのデザインを行っている。アニメーション制作はProduction I.G。
作品解説
時代設定や主人公・草薙素子を含む登場キャラクターの設定、ストーリーを始め、多くの相違点があり、本作は「第三の攻殻機動隊」とも言われる。ストーリーは完全オリジナルではあるものの、原作や映画版に対するオマージュが随所に見られる。
基本的に一話完結型だが、『笑い男事件』と呼ばれる劇場型犯罪を中心にしたエピソード群に単発のエピソードを絡めた構成となっており、劇場版では殆ど出番の無かった9課メンバーの活躍にもスポットが当てられている。
内容としては「電脳化・義体化社会における人間の定義」という哲学的なテーマを扱った原作と劇場版よりも、近未来を舞台に薬害や汚職、少子高齢化社会、ネット倫理など現実の現代社会にも通じる社会問題を主題とした娯楽色の強いものとなっている。
原作及び劇場版はそれぞれの作者の作風を好むコアなファン向け要素が強かったが、そういった濃い要素を受け継ぎつつ、単純な勧善懲悪物に収まらず、主人公達自身でさえ自身の行動を絶対的な正義と定義出来ず、わだかまりを残す結末を迎えるエピソードもあるなど、様々な要素・立場・事情が絡みあった一筋縄ではいかない深い作風が特徴と言える。
作画・演出・脚本の完成度の高さ、一話完結型のTVシリーズで、尚且つ(攻殻シリーズの中では)比較的わかり易くライトな作風ゆえのとっつき易さもあり、本放送時から大きな人気を博し、現在一般的に認知されている「攻殻機動隊」及び「草薙素子」「公安9課」のイメージの元となった作品でもある。
放送から20年以上経て、内外で様々なシリーズが展開された今でもなお、攻殻入門編として名を挙げられる機会は多い。
第2話の「暴走の証明 TESTATION」が「平成14年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞」、そして『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ全体が「東京国際アニメフェア2003 公募・アニメ作品部門優秀作品賞」をそれぞれ受賞した。
2004年に続編であるTVシリーズ第2弾『攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG』が全26話が放映。
2005年には『笑い男事件』を描いたエピソードを160分にまとめて再構成した『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』が制作され、DVDでリリースされた。
2006年にはシリーズ第3弾『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』が長編OVAアニメ作品(約105分)として制作され、2011年にはこれを3D立体視アニメーション化した『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』が劇場公開された。
番外編としてPS2にて『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』が、PSPでは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX −狩人の領域−』が発売されている。
2018年12月8日、2020年に新作アニメシリーズとして『攻殻機動隊 SAC_2045』がNetflixで全世界配信(※中国本土除く)された。
初のWebアニメ及びフル3DCGアニメとなる。
監督は、神山と共に『APPLESEED』シリーズの荒牧伸志氏による“ダブル監督”制を採り、制作はI.GとSOLA DIGITAL ARTSが手掛ける。
物語
西暦2030年、電脳化が一般化され情報ネットワークが高度化する中で、光や電子として駆け巡る意思を一方向に集中させたとしても、「孤人」が複合体としての「個」となるまでには情報化されていない時代。
複雑化・凶悪化する犯罪に対抗するため、内務省直属の独立防諜部隊として公安警察組織「公安9課」(通称「攻殻機動隊」)が設立された。草薙素子に率いられた9課は、サイバー犯罪の捜査やテロリズムの抑止・検挙、要人警護、汚職摘発など多岐に渡る任務を極秘裏に遂行していく。
そんなある時、数年前に世間を騒がせた「笑い男事件」の特別捜査本部の刑事が謎の事故死を遂げる事件が起こる。警視庁時代に彼の同期だったトグサはその死を不審に思い、彼が遺した捜査資料を基に単独で捜査を開始。
これをきっかけに、9課はやがて事件の背景で蠢く政界の闇へと斬り込んでいくことになる。
登場人物
公安9課
内閣
自衛軍
米帝CIAスパイ
笑い男事件
マーシャル・マクラクラン(CV:松田洋治)
ネットマスター・オンバ(CV:入野自由)
マルコ・アモレッティ(CV:郷里大輔)
クルツコワ・ボスエリノフ(CV:弥生みつき)
東北自治区
択捉
作中用語
- 電脳硬化症
電脳化に使用されるマイクロマシンとの拒絶反応によって脳細胞が徐々に硬化を起こし、最終的に脳死に至る健康被害。
発症率は極めて低いが、電脳化した者ならば誰でも罹患し得る。根本的な治療法は発見されておらず、現状は主にマイクロマシン療法によって進行を抑制することしかできないため、ガンやエイズと並んで21世紀の不治の病の一つとされる。
- 村井ワクチン
医学博士の村井千歳博士によって偶然作られた電脳硬化症の抑制に効果があるとされるワクチン。
当時は開発途上で電脳硬化症への効果が不明であったマイクロマシン療法に比べ、確かな効果を持っていたが、なぜ効くのか薬効の詳細なメカニズムを解明することができなかったため国の認可が下りなかった。
2024年に発生した医療用マイクロマシン製造企業セラノ・ゲノミクス社長アーネスト瀬良野誘拐と身代金要求事件に端を発し、その後発生した同業他社への連続企業脅迫事件の俗称。正式名称は「広域重要081号事件」。
犯人とされる人物が生中継中のテレビカメラの前でアーネストを拳銃で恫喝した際、その場にいた大勢の目撃者やカメラ、警察の視覚情報上にある自分の顔を過去に遡るものまでリアルタイムに「笑い男マーク」で上書きするという芸当をやってのけたことからこの名前がついた。
脅迫された企業の数だけで言えば戦後最大規模の企業テロであることや、特A級のハッキングスキルを持っているにもかかわらず人前に姿を晒すという犯人の大胆さ等、あまりにセンセーショナルな事件だったため、その後「笑い男」のファンや模倣犯が続出し、「笑い男マーク」がバッグやTシャツにプリントアウトされてポップカルチャーとして流行するなど一種の社会現象となった。
- 電脳閉殻症
電脳化によって極稀に発生することのある障害の一つで、重度のものになると自閉症や統合失調症に似た症状を発する。
電脳閉殻症患者は一般的には電脳不適合者のイメージを抱かれているが、実際には電脳との適性が高過ぎるがゆえに起こるもので、電脳空間においては極めて高度で特異な才能を発揮する者が多い。
- インターセプター
セラノ・ゲノミクス製の視聴覚素子。別名・盗視覚素子。
人間の視神経に取り付けることで、外部からその人物の見ているものを映像としてモニターすることや視覚情報への干渉ができる。
倫理的にかなり危ういデバイスだが、許可を貰った上で取り付ければ違法ではなく、警察の捜査等に利用されている。
- 海坊主
海上自衛軍に属する秘密特殊部隊の俗称。
正式な組織名を持たず、公安9課同様に公表された組織図上には存在しない非公開組織。
戦闘能力・諜報能力ともに秀で非合法な手段も取れるプロフェッショナル集団として既存の公的組織よりも有能に描かれてきた公安9課を、組織力や動員数を始めとしたあらゆる面で上回り一方的に打ち負かしたシリーズ初の存在。「質」で「量」には対抗出来ない事、そもそも「質」で他を上回っているという認識が正しいとは限らない事を明確に示してみせた。
- ひまわりの会
厚生労働省に対して村井ワクチンに関する情報の公開を求めているNPO団体。
- マトリ
厚労省の実働部隊として、麻薬に関する凶悪犯罪の取り締まりを目的とする法執行機関であり、麻薬対策を名目に容疑者の射殺の権限が与えられている。陰では暗殺や破壊工作といった非合法活動においても動員されている。
任務の都合上、班員達は顔を変えた上で普段はヤクザやミュージシャン、ホームレス等として職業を偽装して市井に潜伏して生活しているため、人員を把握するのが非常に困難。
ちなみに現実にも厚労省の下部組織として存在する麻薬取締部のことをマトリと呼ぶ(いわゆる麻薬Gメン)。
- スタンド・アローン・コンプレックス
草薙が笑い男事件に纏わる一連の社会現象に対して名付けた造語。
それぞれ繋がりを持たない独立した個人(スタンドアローン)が自分の意思で行動を起こしながら、結果的に集団的総意(コンプレックス)を反映ないしは補強するかのような行動を見せる現象を指す。オリジナルが不在のまま、一人歩きし始めたコピー(模倣者)の群れ。
ざっくり噛み砕いて言うと、命令されたわけでもなく自分の考えで動いているはずなのに、その他大勢と同じような行動をとってしまう現象のこと。
これは個人が電脳を介してネットを通じ不特定多数と情報を共有することにより、無意識下で意識や知的水準、思想傾向が並列化されながらゆるやかな全体の総意を形成し、またその全体の総意が個人を規定するために発生するという、高度ネットワーク社会が舞台であるが故の現象である。
ちなみに現実でも起こり得る現象であり、2010年に起きた尖閣ビデオ流出事件や伊達直人騒動における模倣者や騙りの大量発生や、Twitterのパクツイなどはその一例として挙げられる。
特に近年のSNSの隆盛で多数の人々がリアルタイムで瞬時に情報を共有し合えるような状況は、作中で語られた人々が均一に並列化されるネットワーク社会に近い物であるという指摘もある。
- マイクロマシン米
PS2版で主題となる作物。
育成や品種改良にマイクロマシンを用いた農作物の一種で、現実の米同様に様々な品種がある。
通常の作物と比べて育成が楽である等の利点があるが、特許が問題となり高額な使用料や更新料により普及は進まない面もある。
米自体にマイクロマシンを含むため、マイクロマシンをいじる事でウィルスコードを仕込み、時限式や遠隔式で摂取した対象を殺傷する作物とすることも可能となるが、同時にワクチンプログラムによる対処も可能。
- ハチハチ文書
PSP版で主題となる書類。
クーデター未遂を引き起こした道場陸将補の取調べ調書で、正式名称は「警察庁警備局管理文章分類記号/ホ-88」。
一般公開を控えた矢先に保管先の新浜国立公文書館でテロリストが人質事件を起こしたことで公安9課が介入することなった。
主題歌
オープニングテーマ
「inner universe」
作詞 - Origa、Shanti Snyder / 作曲・編曲 - 菅野よう子 / 歌 - Origa
「GET9」
作詞 - Tim Jensen / 作曲・編曲 - 菅野よう子 / 歌 - jillmax
エンディングテーマ
「lithium flower」
作詞 - Tim Jensen / 作曲・編曲 - 菅野よう子 / 歌 - Scott Matthew
「I do」
作詞・歌 - Ilaria Graziano / 作曲・編曲 - 菅野よう子
OP1
関連タグ
GHOST_IN_THE_SHELL/攻殻機動隊 イノセンス(攻殻機動隊)
攻殻機動隊S.A.C. - 攻殻機動隊S.A.C.2ndGIG - 攻殻機動隊S.S.S.