概要
海藤裕哉は第32話に登場したゲストキャラであり、突然いおなに「お前のことが好きだ、つきあってくれ」とあまりにストレートに告白をしてきた。
いおなは面食らいどうしていいかわからなかったが、仲間たちからとりあえず相手のことを知るために一度デートでもしてみればという話になって、仲間たちと一緒に動物園デートをすることになった。
裕哉はなかなかデートでのリードがうまく、デート初体験だったいおなも自然と一日を楽しむことができた。
その手際のよさから、いおなは彼を女慣れしている遊び人タイプと思っていたようだが、実は彼はかなり背伸びして「女慣れしている自分」を演じているだけだった。
彼は最近になって笑顔を見せるようになったいおなを「可愛い」と偽りなく惚れ込んでおり、その笑顔を見たいがゆえに彼女を楽しませようと必死だったのである。そしていおなが自分に笑顔を見せてくれたことに感謝し、告白についても順序も踏まずに自分の気持ちを押し付けた形になってしまったことを謝罪した。
自身の優等生ぶりを憧れられる経験はあっても、自分のことを「魅力的な異性」と言う視点で見られるいう経験は、いおなにとっては結構な衝撃であり、いおなは裕哉に対して告白の返事をしないといけないと思いつつも言葉が出なかった。
とりあえず間をもたせるために飲み物を買ってくるといって彼の傍から離れた隙に、裕哉はナマケルダによってサイアークにされてしまう。
裕哉のいおなへの純粋な恋心を踏みにじるナマケルダにいおなは怒りを燃やしつつ、いおなは封印された裕哉に対して告白の返事を語りかける。
「海藤くんが話してくれたこと嬉しかった。なのに逃げたりしてごめんなさい。」
「気持ちはちゃんと受け止めました。でも、恋とか付き合うとかまだわからないの。だけど、わたしのことを見ていてくれて嬉しかった。」
「わたしも海藤くんのことが大切です・・・・・・! あなたを、守ってみせる!」
この決意こそ、いおなの「イノセントな愛」の覚醒であり、いおなはイノセントフォームへの強化能力を手に入れることになった。
戦いが終わったあと、いおなは先ほどの言葉をちゃんと伝えようとするが、逆に裕哉は自分が突然の告白をしたことでいおなを追い詰めた形になったことを改めて謝罪し、無理に返事する必要はないと示唆した。
しかし裕哉は最後にいおなに向かって挑戦的な笑顔で語る。
「でも・・・ 俺のこと嫌いじゃないだろ?」
いおなもまた挑戦的な笑顔で、それに答えた。
「嫌いじゃない。でも今は・・・」
裕哉はいおなにみなまで言わせず、代わりに返事をする。
「いいんだ、お前の気持ちはわかってる。俺、いつまでも待ってるから」
いおなの前で相変わらず無理して格好つけてるだけなのか、それとも封印されていたときに語り掛けられたいおなの言葉を本当に覚えているのか、どちらともとれるようなシーンでこのエピソードは幕を閉じた。
恋人としてつきあうかどうかの返事は「保留」という形になってしまったが、いおなはこのデート回の後も裕哉から変に距離をとったりはせず、一人の友人として良好な関係を築いている。
40話では本の貸し借りなどをしている様子も描かれていた。
この40話はプリキュアたち各個人が自分たちが過ごす日常の大切さを再確認するというエピソードであり、その中で裕哉との交流シーンが描かれたのは感慨深いところだ。
プリキュアとしての戦いが終結した最終回の後、いおなが裕哉に告白の返答をしたのかどうかは明確には描かれていない。このあたりは視聴者の想像に任せるところだろう。
プリキュアと男女交際
この32話では、プリキュアシリーズの歴史上で革命的なイベントが二つ起こっている。
それは、
- プリキュア変身者が設定上で重要な関係にない男子から明確な「交際」を前提とした告白をされたこと
- デートシーンとして本当に交際が描かれたこと
である。
プリキュアシリーズではプリキュア変身者の恋愛描写について慎重であることが知られているが、それ以上に慎重なのがプリキュア変身者の男女交際を想起させるシーンである。
過去シリーズでも、プリキュア変身者が男性キャラとデートのようなシチュエーションになること自体はたまにあった。しかしそれは、別の用事や偶然が重なってデートのような状況になった、というのがほとんどである。
そもそもプリキュアシリーズで扱われる男女間の人間関係はセックスアピールを核にするものではなく、コミュニケーションの積み重ねで芽生えるプラトニックな恋愛感情か、もっと大きな意味での家族的な絆として描かれるのが通例であった(本作で言えば誠めぐの関係がその形にあたる)。
このあたりは本当に徹底されていて、男子がプリキュア変身者を「可愛い」と評価する状況自体がほぼ排除されていた。
ただし、プリキュア変身者が男性を「カッコイイ」と憧れることは普通にOKではある。慎重に扱われているのはあくまで、男性キャラがプリキュア変身者を女性的魅力で評価する点である。
なお、女性キャラがプリキュア変身者の女性的魅力を同性の視点から評価するシーンは頻発される。「美人」や「可愛い」という設定があるプリキュア変身者のほとんどは同性から憧れられることになる。
(これがpixivなどのファンアートで百合キュアが活発化する最大の要因なのだが)
だがこの話では、裕哉はいおなを「女の子」として「可愛い」と思って「付き合いたい」と中学生男子としての欲望に忠実に行動し、デートにまでこぎつけている。
裕哉は基本的に紳士的なキャラでとても健全な男女交際として描かれたのだが、従来のプリキュアシリーズでは裕哉の動機の時点で健全とは扱われなかったのである。
そしていおなも、作中で明言しているように裕哉へは恋愛感情というほどのものはもっていない。
この話で重要視されているのは、いおなが裕哉の中学生男子的な欲望から避けようとせず、「自分を異性として、女の子として、ちゃんと評価してくれてありがとう」と感謝したということである。
あえて俗っぽく言えば、「男子にモテてちょっと嬉しい」という気持ちだとも言えるが、いおなだって健全な中学生女子なのだから、男子から「可愛い」と評価されて嬉しいという思うことは何もやましいものではないのである。
むしろ、そこから「相手を守りたい」という感情が生まれるならばプリキュアとしては「大切にすべき思い」(=「イノセントな愛」)だとしている。
『フレッシュプリキュア』で「ふつうの中学生らしい健全な男女の交遊風景」を描くことを目的に蒼乃美希に「男子にモテる」という設定をつけたが、プリキュアで男女交際的な想像ができる描写が描かれることへのクレームを受けてしまい、そういうモテ描写が作中ではほとんど描けなくなったことを考えると、この裕いおの展開は『フレッシュ』から実に5年ぶりのリベンジである。
本作は「幸せの形は人それぞれである」というテーマから、従来のシリーズでは避けられたり否定されたりした要素もあえて取り上げられている作風ではあるが、この裕いおのカップリングもそういう側面が色濃く表れているといえよう。
関係者の見解
長峯達也(シリーズディレクター)
『アニメージュハピネスチャージプリキュア増刊号』
長峯SDはインタビューでいおなの恋愛話について
「いおなは恋愛に関係ないところで生きてきた子なんですけど、そこで『自分に好意を持つ男の子が来た時にどう反応したらいいのか?』という話でした。少女もの作品の男の子って女の子に対して気弱だったり腰が退けてたりするキャラクターが多い気がするんだけど、それは男の子が自分の気持ち優先で女の子に接してる部分があるように感じたんですよ。だから第32話の裕哉に関しては、自分の気持ちをちゃんと受け止めてもらえるかというドキドキ感はあるにしても、やっぱり相手も戸惑うだろうというのをちゃんと分かって引っぱっていく男の子にしたかったんです。相手に変に気を遣ったり、自分をよく見せようとするのではなくて、『俺はお前のことが気になってる』とまず言って、それで相手の気持ちを確かめる。それでダメならダメで、嫌じゃなければ付き合ってくれと。正しい男女交際ですね(笑)。相手に好かれるための努力は大事だと思うんです。そこの努力をせずダメと言われて勝手に『あ~!』って嘆くのではなくて、覚悟を持ってまず告白する・・・・・・そんな『自分がありたかった男子像』を投影してみました(笑)」
とコメントし、
「女子に対してごく普通に振る舞える男の子で、彼の真心の部分が出せたらいいかなって。誠司はめぐみに対して妙に気を遣ったりもするんだけど、もっとそこのバランスのいい子をいおなには絡ませたかったんですね。」
と語った。少女もの作品では珍しいキャラクターである裕哉について思い入れがあり、いおなに片思いする男子キャラの設定をよく考えていたのが窺える。
戸松遥(いおな役)
『アニメージュハピネスチャージプリキュア増刊号』
『アニメージュハピネスチャージプリキュア増刊号』のでいおな役の戸松は座談会でいおなの印象に
残っている回は第32話であるとし、
「いおなは当初からブルー様に『なぜ恋愛をしてはいけないのですか?正しいとは思えません!』とバシッと言ってた子ではあったんですけど、そんな彼女がようやく恋愛に絡む回がきたなと思いました。アフレコでは、今までのいおなとは少し違うものを求められました。いおなは強くて凛とした子ではありますが、素直な感情をストレートに出すのは苦手で、嬉しい気持ちがあっても、照れくさくてわざとツンとしちゃうような・・・周りから見たらバレバレなんですけどね(笑)。そういう不器用なところもある子なんですが、あの回は、そっちのいおなを前面に出した感じです。あの回の時点では、いおなはまだ好きとか恋愛とかの域に達していないと思うし、恋愛ってなんなのか、まだはっきり分からないまま終わったと思います。でも、男の子との交流で初めて知った戸惑いの気持ち、まさに中学生の子が経験するような、ちょっと複雑な心境をデリケートに描き出してゆくシーンがすごく多かったです。その気持ちから、イノセントファームになれたんですね。そういう意味でも、これまでの積み重ねを感じました。」
と思春期の少女らしい恋に戸惑ういおなを意識して演じたと明かし、いおなの心情について語った。
プリキュア新聞での座談会でも第32話について、
「いおなの中で、海藤くんに対して揺れている感情が好きなのか、どうなのか・・・戸惑っている回でした。そこに対して、彼を守りたいと思うから成長する回、強くなる一つの要素ではありました。悲しい恋では全くなく、明るい未来の回です。」
と戸松は裕いおについて肯定的な見解を示した。
『ハピネスチャージプリキュア オフィシャルコンプリートブック』
『ハピネスチャージプリキュア オフィシャルコンプリートブック』でいおなが隣のクラスの海藤くんから告白された際にはとても戸惑った表情を見せましたねというインタビューアーのコメントに対し戸松は
「今回のシリーズでは恋愛が軸になっていることは以前から聞いていたのですが、3話で「恋愛禁止!」とブルーに言われたにもかかわらず、言われてからのほうが恋愛話が多いのが面白かったです。いおなと海藤くんの姿は、等身大の中学生っぽさがあって微笑ましかったし、大人っぽく見えても、いおなもやっぱり中学生なんだなと感じられました。『プリキュアファン』の子どもたちには、いおなの恋愛がどう見えていたのか気になります。」
と裕いおの恋愛で大人っぽく見えがちないおなから等身大の中学生らしさが感じられて微笑ましかったと感想を言いファンの子ども達がいおなの恋愛がどう写っていたか気になるとコメントした。
インタビューアーのシリーズの中でも恋愛の話は印象に残っているか?という質問に対し戸松は
「そうですね。海藤くんとのデートは普段ポンポンと言葉を紡ぐいおなが、戸惑ったりためらったりする間があることが不思議な感じで。気まずさとか照れくささとか、甘酸っぱさが詰まっていて印象的でした。海藤くんに関しては中学生でここまで大人っぽいこはいないでしょうという話にもなりましたが(笑)」
と普段普通に言葉を選んで話すいおなが中学生にしては大人っぽい裕哉の前では戸惑ったり照れくさくななってしまう姿に甘酸っぱさがあるのが印象的であると言った。
また
「海藤くんはストレートに誠実に思いを伝えられる人だったので、女性キャストからの評価は高かったです。」
とストレートに告白出来た裕哉は女性キャストの間で評価が高かったと明かした。
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ハピネスチャージプリキュア!カップリング プリキュア男女カプ
裕いおのような過去作のどちらかが恋愛感情を抱いている一般人とプリキュアのカップリング
楽ちと:中の人が被る(後者はBOMIC版)CP。但しこちらは後に公式化した。
ホリミヤ:中の人同士が主人公とメインヒロイン役で共演している恋愛アニメ。更にあちらは本当に恋人関係になっている。