概要
2002年9月28日放送。『犬神家の一族』のパロディ。
登場人物
野原家
酢乙女(綾倉)家
酢乙女佐兵衛
(CV:藤本譲)
酢乙女家当主。
表向きは孫娘のあいを溺愛する好々爺であるが、ななこの両親の死後彼らの経営する会社を買収しており、使用人からは陰で悪評が絶えない。
本話では佐兵衛の孫娘。父親は銀行の頭取で、ロンドンに住んでいる。
あいの従姉。両親を交通事故で亡くしたため、佐兵衛に引き取られた。
元ネタにおける野々宮珠世のポジション。
メイド。
あいの家庭教師。
あいの執事。
本話でもあいのSPを務める。
綾倉家に仕えて5年になる使用人。ななこが佐兵衛とあいに陰でいじめられているのを知る数少ない人物。
運転手。
屋敷に出入りする庭師。
スケキヨ
愛犬。ゴムマスクを被ったブルドッグで、マスクの下の素顔は大人ですら怯えるほどの強面。
名前の由来は犬神佐清で、ゴムマスクを被っている点も共通している。
その他
聖者
(CV:田の中勇)
洞窟の奥に安置された黄金の像。
カメラマン。
話の流れ
突然の予告状
日本のとある豪邸の庭の噴水脇で集合写真が撮影される。しかしシャッターが切られた瞬間、どこからともなく矢文が飛んで来た。辺りが怯える中、この家の老主人・酢乙女佐兵衛翁が一人冷静に手紙を手に取り読む。それは「近日中に三つの家宝『うん・こく・さい』をいただきに参上す。大人しく出さぬ時は酢乙女一族を亡き者にする」という怪人エンチョーマンからの脅迫状であり、佐兵衛はうろたえ出す。
正直者の聖水
その頃、野原一家はどこかの洞窟を探検しており、既に大きな石板と子供2人を背負い疲労困憊のひろしをみさえは「もう少しで秘宝『正直者の聖水』が手に入る」と構わずにさらに歩かせる。そしてついに「嘘つき者に飲ませると何でも正直に話す」と言われる『正直者の聖水』を発見するが、肝心のそれは黄金の像の口の中にあり、像の手の平には古代文字で「この聖水は今まで嘘をついたことがない者のみが手に入れられる。聖水が欲しければ聖者の問いに全て『いいえ』で応えよ」と書いてあった。早速みさえに促されたひろしが聖者像の口に手を入れる。すると「私ハ聖者。私ハ何デモオ見通シ…」という声が。続けて「先日内緒デ、28000円ノぱたーヲ買ッタ」という質問に咄嗟に「いいえ」と答えるひろしだったが閉まる口に手を挟まれ、みさえからげんこつを食らう。続いてしんのすけに対しては「先日母チャンニ黙ッテじゃんぼちょこびヲ食ベタ」という質問が出され、しんのすけは「いいえ」と答え閉まる口に手を挟まれひろしより多めのげんこつを食らう。ここでみさえは「ひまわりがやればいい」と彼女の手を聖者像の口に入れる。流石の聖者像も嘘のつけない赤ん坊に出せる質問が思いつかず…
「…持ッテ行クガ良イ(汗)」
こうして野原一家は『正直者の聖水』を手に入れるが、自分達ばかりやらされてご立腹のひろしは「お前もやってみろ」とみさえの手を聖者像の口に入れる。家族に内緒で40000円のワンピースを買ったことがバレて手を挟まれるみさえ。
しんのすけやひろしが「そんな水売れるの?」と尋ねる中、携帯電話にメールが。それは日本から来た仕事の依頼であり、旅費がなくなった野原一家はそれを引き受けることに。
酢乙女邸へ
長い塀の先にある酢乙女邸の大きな門に着いた野原一家は黒磯に迎え入れられ、屋敷に通される。しんのすけはヴィーナス像、ひろしはこの家の先祖のものと思われる鎧兜に目を輝かせるが、持ち主の名前は「十二代 綾倉千万太」とあり、姓が違うことに疑いを持つ。
そこへ佐兵衛が現れみさえと握手すると、彼女に先の脅迫状を渡し協力するよう頼み込む。「私はお宝探しが本職であってボディーガードじゃない」と語るみさえに、佐兵衛は警察が動こうとしない中、彼女の探偵としての腕前を買い今回の事件を依頼したと語る。しかしエンチョーマンと言えばもっぱら「弱気を助け、強きを挫くみんなの味方」と噂されており、人の命を狙うなど考えられない。そう呟くみさえの服装はいつの間にかチューリップ帽に書生服になっており、それを見たひろしやしんのすけも探偵の格好に(しかもしんのすけの場合はわざわざナレーション役でおケイまで連れて来ていた)。
そこへ佐兵衛の孫のあいとななこも広間に来ており、しんのすけもひろしもななこを目の前にして鼻の下を伸ばし談笑。その時あいがしんのすけを気に入り、彼の手を引き屋敷を案内に走る。
しんのすけは嫌がるが、ひろしは「これも仕事だ。お嬢さんをしっかり見張っててくれ」と促し、自分はななこから聞き込みしようとするがみさえからげんこつを食らい噴水まで吹っ飛ばされる。そこへメイドのまつざかがティーセットを持って現れ、何かを隠すように笑っていた…。
消えたお嬢様と濡れた窓
酢乙女邸の畑や厨房では、使用人達が先程小耳に挟んでいたみさえの話題で持ちきりだった。そこへしんのすけとひろしがそれぞれ聞き込みに訪れると、ななこは綾倉家唯一の後継者であり、両親の死後遠縁にあたる祖父の佐兵衛、従妹のあいがこの屋敷を乗っ取ったという噂を耳にする。
あいの呼ぶ声がしてしんのすけは逃げ出し、メイド達からさらに詳しく話を聞こうとしたひろしは逃げられるが、目の前に庭師が剪定した木の枝が落ちて来る。ひろしは庭師にも屋敷のことについて尋ねるが庭師は「お庭のこと以外何も知らん」と返答。
夕食の時間、みさえが完食した皿をメイドが下げる。すると皿の上のスプーンを落とし、すかさずさるボーが鼻水を伸ばしてスプーンを掴むと、何事もなかったかのように皿に戻した。(なんて器用な鼻水…)と息を呑むみさえ。夜も更けて野原一家が2階の寝室で寝ようとすると、ななこがあいの名前を連呼しドアを何度もノックする音が。野原夫妻が駆け付けると、そのドアの向こうのあいの部屋から怪しい物音がしたが返答がなく、しかもドアは内側から施錠してありどうにもならないと言う。ひろしと黒磯は2人でドアを破ろうとするがそこに合鍵を持った佐兵衛が現れ鍵を開ける。ところが部屋には犬のスケキヨがいるだけで、あいのベッドは空だった。しかし窓は雨戸ごと鍵がかかっており、みさえは「完全な密室誘拐事件」と断言。窓の下には「お嬢様は頂いた。返してほしくば三つの家宝を用意しろ」という怪人エンチョーマンの書置きが残されており、みさえが開けて調べた窓を見ると昼間庭師が剪定していた木が目の前にあり、サッシ部分は透明だが粘っこい液体で濡れていた…。
エンチョーマンを追え
野原一家と佐兵衛は家宝「うん・こく・さい」を手にリムジンでエンチョーマンが待つビル街へと赴く。
みさえはビルの屋上に登り、家宝入りのバッグを置いて見張っていた。時計が12時を指したその時、男の高笑いと共に上空に気球が現れる。間違いない、怪人エンチョーマンだった。
エンチョーマンは鼻水を伸ばし家宝入りバッグを持って行くが貯水槽の上にスタンバイしていたしんのすけが飛び上がり、バッグをお尻やぞうさんを使って取られまいと引っ張る。
取っ組み合いの末結局バッグはエンチョーマンの手に渡ってしまい、みさえも負けじとエンチョーマンの気球にロープを結び付けて登り「あいちゃんの居場所を言わないなら家宝は渡さない」と食い下がるが、エンチョーマンは気球を手放し、縋りつくみさえにダイナマイトを渡して気球に戻ると逃走。取り逃がしたみさえは商店街のゲートの上で呆然と立ち尽くしていた。
翌朝、今度は酢乙女邸の玄関扉に矢文が。黒磯が手に取ると「バラ園にて待つ」と書いてあった。そしてバラ園に向かうと、白いベンチに横たわるあいの姿が。あいは一瞬目を覚まし、「く…ろ…い…そ…」と呟くとまた眠りについた。黒磯はあいが目隠しをされて何も覚えていなかったことを野原一家に話す。
事件の真相
野原一家が屋敷に戻ると、既にホールには家族、使用人全員が集まっていた。みさえは犯人はこの中にいると言い、事件を一から説明する。そしてさるボーに「犯人はあなた」と告げる。
- あいが誘拐された時、スケキヨは吠えなかった。これはスケキヨが普段からよく見知っている人間による犯行だから。
- さるボーは菊園に設置された男性の菊人形に入り、エンチョーマンに変身。エンチョーマンは木に登り、鼻水を伸ばして窓の鍵を器用に操る。これがサッシを濡らしていた液体の正体。
すると今度はまつざかが「最初の矢文が飛んで来た時、全員がその場にいた」ことを思い出すと、黒磯がバラ園で発見した弓矢を提出。弓矢には糸が括りつけられていた。みさえはこれも蚊取り線香か何かを時限装置に無人で矢を放ったものと推理。そしてななこの方を見ると、「あなたが首謀者なんでしょ?」と発言。絶句する使用人達を横にななこは頷き、鎧兜に入っていた家宝を出す。
「私はこの三つの家宝を返してもらったら、黙って出て行くつもりでした。でもこの家宝は偽物。おじい様、本物はどこ!?」
佐兵衛は「そんなもん知らん」とシラを切るが、ななこは続けて話す。
「この家は代々続く綾倉家のものだった。それなのにお父様とお母様が交通事故で亡くなった後、あなたがズカズカと入り込んで来ていつの間にか…」
「落ちぶれた綾倉家を救ってやった」とのうのうと語る佐兵衛に、ななこはその交通事故も佐兵衛が仕組んだのではないかと尋ねる。佐兵衛はなおも知らぬ存ぜぬの態度を貫き、使用人達が騒然となる中ななこは泣き出してしまう。彼女の表情を見たさるボーは「ななこお嬢様が可哀想だ!!」と滅多に見せない怒りを老当主にぶつける。その時…
「証拠ならここにある!!」
一同は声がする方に向かい、表に出る。屋根を見るとエンチョーマンが立っており、その手には本物の「三つの家宝」が。
交通事故の真相――綾倉家の当主とその妻が乗る車が山道に差し掛かった時、銃弾がタイヤに命中しパンク。車はそのまま滑り崖から転落、爆発炎上した。しかし、猟銃を持った男(佐兵衛)は家宝を見つけることが出来なかった。それもそのはず、一足先に現場に降り立ったエンチョーマンが拾っていたのだから……。
佐兵衛は「そんな嘘に騙されるな」となおも抵抗するが、孫、使用人、そして「探偵」一家から一斉に睨まれ、最早自分に味方する者はいないと悟ると埒が明かなくなってスケキヨにまたがり逃走。
ようやく畑で追い詰めるも、佐兵衛はスケキヨの怖い素顔を見せてびびらせる。ここでみさえはあの聖水のことを思いだし、瓶を佐兵衛目がけて投げる。しかし後方の肥溜めに落ちてしまい、激怒した佐兵衛は再びスケキヨの怖い素顔を見せようとするがエンチョーマンが手鏡を持って両者間に割って入る。鏡に映ったスケキヨの素顔に怯えて後ずさりする佐兵衛はそのまま肥溜めに落ちてしまう。
「ななこ、ごめんなさい。私が全て悪いのです」
佐兵衛は聖水が混ざった肥えを飲んでしまったようで、全てを白状する。エンチョーマンはななこに「君のお父様から本当の正義を教えてもらった。『うん』雲のように雄大に『こく』穀物の恵みに感謝し『さい』犀のように強く慎ましく生きる、これぞ雲穀犀の教えなり」と語り、本物の家宝を彼女に返却し、その上で当主夫妻を助けられなかったことを謝罪。
野原一家は一件落着と再び旅に出るが、あいを乗せたリムジンが追いかけて行った…。
結局のところ、さるボーではなかったエンチョーマン。その正体はあの庭師だったのだろうか。真相は本人のみぞ知る……