概要
『火の鳥』第5部。『COM』1969年8月号から1970年9月号まで描かれた。
時系列的には第12部『太陽編』過去パートの後に当たり、後に平安時代末期を舞台とした第9部『乱世編』に本作の登場人物が登場している。
『火の鳥』の中で最も輪廻転生について掘り下げられている回であり、仏教の死生観並びに政治と宗教の結び付きが題材となっている。火の鳥シリーズでは珍しくW主人公制になっており、猿田一族の我王と若き仏師茜丸の二人の心情の移ろいが物語に深みを増している。
なお、火の鳥シリーズではよくある事だが史実から乖離した設定が多く、(本作では政敵同士であるものの)実際は吉備真備は橘諸兄の弟分である。
1986年にはアニメ映画化もされたが、尺の都合上茜丸の視点が多く、我王の出番は大幅に減っている。ナレーションを担当したのは城達也。
ファミコンソフト『我王の冒険』は本作が題材になっているが、一切内容は関係ない。
あらすじ
時は奈良。権謀術数渦巻く平城京にて、二人の男の運命が交差する。
一人は我王。生まれながらに隻眼隻腕の傷を負い、幼い頃より周囲から差別されてきた苦悩と怒りから数多の人を殺め、盗賊にまで落ちぶれた醜い男であった。囚われた我王は老僧良弁に引き渡されて出家させられ、苦しむ民を救う内に、彫刻師としての才を露にしていく。
もう一人の名は茜丸。若き天才仏師と謳われた彼は、その容貌も作り出す仏像も美しい男であった。我王に斬られた傷で右腕に障害を負い、行き詰まる茜丸であったが、不良娘ブチとの出会い、遥かなる西国への憧れにより再起を果たす。
やがて二人の仏師の運命は東大寺大仏殿の建立という国家プロジェクトに翻弄されていく。
登場人物
CVは映画版
主要人物
CV:堀勝之祐
通称・尾鷲の我王。尾鷲(現在の三重県南部尾鷲市)の漁師の息子として生を受けるが、生まれた日に共に崖から転落した父は死亡、本人も隻眼隻腕の身となり、母はショックで気が触れてしまった。周囲からの差別と迫害に耐え兼ねて殺人を犯してからは山賊にまで落ちぶれ悪名を馳せるが、誤解とすれ違いから唯一心を許していた女性速魚を手にかけたことで心の拠り所を失い、役人に捕まる。そこでかつて足蹴にした良弁に引き渡され、彼の下で苦しむ人々と触れ合う内に、理不尽な苦難への「怒り」を爆発させ、仏師としての才を得ていく。
前半は完全なる悪人でありながら、後半は誰よりも清らかになって行った男。
また、この作品の大きなテーマの一つとして東大寺の大仏殿建立と言う国家プロジェクトとそれにまつわる人物の人間ドラマが挙げられるが、彼だけは最後の対決以外ではこの大仏殿建立に関わらないという、特殊な立ち位置についている。
CV:古川登志夫
通称・大和の茜丸。大和国(現在の奈良県)出身。若き仏師として名をはせていたが、旅の途中で出くわし、その身の上に嫉妬した我王により右腕を斬られ、右腕が使えなくなる。その後、ブチとの出会いや西国の鳳凰伝説への傾倒で左腕を用いた彫刻術に目覚め、橘諸兄に(強引な形で)召し抱えられる。
我王とは逆に、清廉な心を有していたにもかかわらず、保身と政争に巻き込まれたことで薄汚れていった男。
(画像左)
CV:小山茉美
詐欺や窃盗を繰り返していたチンピラであったが、茜丸との出会いで改心した少女。茜丸を兄として慕うが、徐々に茜丸が権力に目が眩んでいったことで失望していく。アニメ映画版では役人に斬られてしまう形で死亡してしまったが(原作では重傷ながら物語の最後まで生存)、亡霊のような形でその後も茜丸の前に現れていた。しかし終盤に茜丸から振り払われてしまい、以降の茜丸はブチの幻影すら見えなくなってしまうのであった。
CV:麻上洋子
雪女のような風貌の儚げな美少女。茜丸の妹を名乗り我王に接触する。我王に一方的に求婚されて夫婦にされる。我王が盗賊に落ちぶれてもなお側に付き添い、鼻の病に苦しんだ我王に薬を処方するが、逆効果となってしまい、茜丸の仇討ちと誤解した我王に殺される。
その正体は・・・・・・・。
作中に登場する実在の人物
主人公に対して大きく影響を与える立場として登場するが、かなり史実とはかけ離れた描写となっている。
実在の人物。野盗時代の我王が出会った旅の僧。独特の死生観を有しており、達観した所がある。実は名のある高僧で、大仏建立運動の立役者の一人。出会った時は我王から暴行されるも、その人となりを一方的に気に入り、我王が捕縛された際は彼の身元を引き受け弟子とする。後に、大仏建立が自身の手を離れたものとなり、救世どころか民の苦しみを増すことになったことに絶望。即身仏になる(餓死しミイラになるという修行のこと)という形で自決する。アニメ映画未登場。
実在の人物。都随一の権力者で皇族の血をひく名門貴族。横柄な性格で、茜丸の腕を見込んで鳳凰像を彫らせ、できなかったら殺すと脅迫する。短気で激情家のため、真備からはバカにされている。アニメ映画では「真備の政敵」という役割は藤原仲麻呂に集約されており、未登場(茜丸を強引に召し抱えたのは真備に変更されており、事実上、映画版の真備は原作の諸兄と同じ立場にある)。中年男性として描かれているが、史実では真備より年上で、この頃は既に70歳近い年齢である。
CV:大塚周夫
実在の人物。遣唐使帰りの学者から抜擢された経歴をもつ貴族。かなりの老け顔で老人のような風貌をしている(史実では50代後半位の年齢)。茜丸を諸兄から引き抜こうとする。腹黒く抜け目が無い性格。原作では終盤に都から地方に一時的に左遷させられてしまう形でそのまま退場するが(史実ではその後、中央に返り咲き、藤原仲麻呂が失脚・滅亡しても尚、健在であり、80代で死去するまで政治の一線にあった)、アニメ映画では失脚せず最終盤まで登場し続けた。
実在の人物。聖武天皇の義理の甥(光明皇后の実甥)である新進気鋭の貴族。原作では諸兄の政敵として、映画版では諸兄同様の立ち位置にあった真備の政敵として終盤に登場。映画版でも劇中の振る舞いは原作に近い。茜丸のパトロン(原作では諸兄、映画版では真備)の鼻を明かしてやろうと我王を都に連行し対抗馬として擁立した貴族達の中心的存在。
実在の人物。国家をかけた大プロジェクトとして奈良の大仏を所望する。顔は一切描かれない(御簾かヒョウタンツギで隠されている)。アニメ映画未登場(ナレーションで存在のみが触れられている)。
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