概要
『COM』に1967~1968年にかけて連載された、『火の鳥』の第2章。
少女クラブ版のローマ編等を除くと、シリーズ全体では2番目に発表されたエピソードだが、火の鳥の世界の物語が一度収束する場所となっている。
『鉄腕アトム』が廃刊により打ち切りとなり、虫プロが大赤字を迎えたという手塚治虫にとって鬱の真っただ中だった時点で執筆された作品であり、連載当時の冷戦構造もあって中盤はきわめて陰鬱なエピソードとなった。ただし、最後には希望のある終わり方を迎えている。
舞台は西暦3404年、もはや地上は荒廃しきり、世界にわずか5つしかない地底都市メガロポリスから物語は始まる。
本作で登場したムーピーと、ロビタ&猿田博士は後に『望郷編』、『復活編』でも登場する。
メガロポリスはそれぞれユーオーク(YUOAK:米国)、ピンキング(PINKING:中国)、レングード(LENGUD:ソ連)、ルマルエーズ(RMALÄIS:欧州)、ヤマト(YAMATO:日本)と呼ばれている。
なお、アニメ版では本エピソードが最終章となったが、前後編で纏めるというどう考えても無謀な尺になった為、原作最大のトラウマエピソードであるナメクジ文明は全て無かったことにされてしまった。
あらすじ
時は35世紀。人類の文明絶頂期から1000年を過ぎ、人類文化は明らかに退廃を極めていた。地上は放射能で満たされて野生動物は全て絶滅し、人類は地下にメガロポリスと呼ばれる都市を作り暮らしていた。そして、メガロポリスの文明を維持する上級公務員は「人類戦士」と呼ばれていた。
しかし、そんなメガロポリスにおいても衰退の色は隠せなくなっており、市民はスーパーコンピューターにおんぶにだっこ状態で、事ある事に過去の世界に縋り現実から目を背けていた。人類戦士たちはそんな市民に更なる堕落を齎す宇宙生物ムーピーを害獣と認定し、飼育を禁じ抹殺を命じる。
だが、ヤマトの人類戦士の一人山之辺マサトは、美しい女性型ムーピータマミと同棲していた。その事を知ったマサトの上官ロックは、マサトにタマミの殺処分を命じ、明日までに行わなければタマミごと処刑すると脅す。
マサトはタマミを殺すことが出来ず、二人はよそのメガロポリスに亡命すべく、死の大地にエア・カーで繰り出す。その最中、二人は遭難してしまうも、地上に生命を復活させようと尽力していた老人猿田博士とその助手ロビタに救助される。
マサトの逃走を知ったロックは、彼を始末すべく人類戦士を動員する。だが、既にロックを含む人類戦士や議員らはヤマトのマザーコンピューター「ハレルヤ」に依存しきっていた。その事が、人類すべてを巻き込む最大の惨禍の引き金となってしまう…。
登場人物
- 山之辺マサト─火の鳥に不死にされ、火の鳥にある使命を与えられる。
- タマミ─不定形生物ムーピーにしてマサトの恋人。
- 猿田博士─猿田一族の孤独な博士。
- ロビタ─博士の助手。その正体は復活編で語られることに。
- ロック・ホーム─マサトの上司。冷酷非道だが……?
余談
手塚没後に『朝日新聞』で連載された小説版『火の鳥大地編』(桜庭一樹)では、主人公たちの配役としてロック、マサト、タマミが客演している(別に先祖とかではなく読者が脳内でイメージしやすいように配役しているだけ)。
関連タグ
老年期の終わり:藤子・F・不二雄の短編。本作に比べるとまだ希望のある内容だが、それでも「衰退しきった人類文明の蝋燭の最後の輝き」を描いた作品。