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それはまさしく宇宙の終端。逃れられない絶対の終わり。


おにごっこをしていた。逃げ手に勝利条件などなかった。


概要編集

項目名:犭貪あるいはウロボロス

オブジェクトクラス:Euclid→Ain


メタタイトルの「犭貪」は本来1文字であり、「トン」と読む。


このオブジェクトは、ヘルクレス座かんむり座グレートウォールとしてその一部を観測することが出来る、不明な規模(恐らくは宇宙全土に広がっている)の、平坦トーラス面である。

SCP-1690-JPとは、正確には3次元平坦トーラス体であるこの宇宙における、特定方向ループの境界面を示すナンバーである。


この3次元平坦トーラス面において、垂線方向に直線運動をおこなった光や物体は、いずれ出発地点へと帰ってくる。

一般にヘルクレス座・かんむり座グレートウォールとして知られている銀河の集団の正体は、SCP-1690-JPを通して観測できる宇宙の領域が、地球からの距離及び宇宙の加速膨張により、有限の天球領域として観測されたものである。


先ず、ドーナツを思い浮かべてほしい。一般にイメージされる、真ん中に穴の開いたリング状のアレである。

乱暴に言えば、トーラス面とはドーナツの表面である。これの曲率、要は空間が曲がっている割合をゼロにしたものが平坦トーラス面である。

1990年代の家庭用ゲームのRPGでは、上下左右がそれぞれループするマップを持ったゲームがあったが、それをそのまま三次元的に拡大したようなものである。


文章で説明するのは非常に難しいが、元記事には概念図があるのでそちらを参照いただきたい。


理解しきれない、というのであれば、「宇宙は端まで行くと、ぐるりとループする構造になっている」と思ってもらえれば、とりあえず十分である。

ドーナツ型の構造の、表面が宇宙なのだ。その上をまっすぐに、ドーナツに対して垂直に辿ってみよう。すると、元の位置に戻って来る。そういう構造なのだ。ドーナツと違って真ん中に穴はなく、ワームホールじみた何かがあるが、繋がっているので同じことである。


因みに現実世界の宇宙も実際にこんな構造であるという説が存在する(とは言え宇宙の曲率は限りなく0に近い事が分かっているため、可能性は低い)。

さすがに三次元平坦ではなく、普通のトーラス構造だが。


さて、当オブジェクトが何をしているのかと言うと、地球と反対側の空間を、光速を遥かに超えたスピードで呑み込んでいるのである。

当然ながら、呑まれた空間にあった銀河は消滅する。

この境界面=SCP-1690-JPの反対側を観測できる、という事実から、電磁波や重力波を遮らず、通過させる性質を有していることもわかっている。しかし、宇宙の連続性という視点から見ても、恐らくその向こうには本当に何もなくなっていると思われる。


空間侵食の速さが光を超えているため、現状どこまで宇宙が喰われているかは不明。宇宙の膨張よりは速いと見られているが、地球が現在まで存在していることから、宇宙自体の広がりは我々の想像をはるかに上回っていると思われる。


だがそれは、この太陽系のある銀河が安全圏に存在することを意味しない。


さらに、現在観測されている侵食の速度は、100億年前のものである。つまり、今現在侵食がどこまで進んでいるかは全くわからないのだ。わかる時が来たならば、恐らく地球は存在していない。



対策会議編集

当初、このオブジェクトは不明な原因による銀河消滅現象として、Euclidクラスオブジェクトに指定されていた。

その原因を探ることが特別収容プロトコルだったが、観測精度の向上によりその原因と、宇宙の構造が判明。

これに伴い、上に挙げたSCP-1690-JPの性質が判明。

財団はこれに対し、上席研究員1000名以上を出席させての緊急対策会議を行った。

その中で、以下の三つの主要な提言がなされている。


  • ネフスキー博士の提言

概要:現実改変能力者による宇宙構造の改変。


計画要領:現実改変能力者による大規模な改変事象においては、これまでにも恒星配置や物理定数などの宇宙規模の変化が発生するケースが確認されている。この事から宇宙構造自体への干渉も可能である可能性があり、財団のコントロール下にある能力者に対してSCP-1690-JPの説明を行い、その無力化を行うよう指示を与える。


検討結果:宇宙規模の改変はそれ自体がCK-クラス:再構築シナリオに該当する上、改変後の世界においても財団ひいては人類種の連続性を保てるか否かが不透明な事や、高レベル現実改変能力者に対する記憶処理洗脳処理を実施した場合は、予測不可能な能力の暴発とそれによる収容違反を誘発する可能性がある。

以上の観点から、実施時のリスクが計り知れない為、残念ながらこの案は却下となった。


  • 南方博士の提言

概要:亜光速航行による極限までの時間遅延。


計画要領: 独立軌道コロニーを建造し、加速し続けながらSCP-1690-JPへ向けての航行を行う。継続的な加速を行うことで船速は光速へと漸近するため、相対性理論による主観時間の遅延が極大化し、SCP-1690-JPの到達を主観的に極限まで遅らせることが出来る。所謂時間稼ぎで有る。

ただし航行中のスペースコロニーは外部からの補給が不可能な状態となるため、通常の手段では燃料エネルギーがある時点で枯渇してしまう。そのため、熱力学第1法則を破るアノマリー(=永久機関)の搭載とその制御が必須であり、コロニーの建造と並行して行う。


検討結果:熱力学第1法則を破るアノマリーについて検討した結果、現状では持続可能な安定制御が難しいとされる。しかし実現出来る可能性は存在するため、財団は計画実現に向けた研究への予算投入を決定した。


  • ホフマン博士の提言

概要:既知の平行宇宙への移住。


計画要領:現在まで財団は様々な平行宇宙への時空間ポータルを発見・収容しており、これらの世界の中には基底宇宙と基本構造が異なる宇宙に繋がるものが存在する可能性がある。よって、これらの宇宙について可能な限りSCP-1690-JPの有無の調査を行い、人類生存の可否も含めた上で移住先を探す。要は別次元への引っ越しである。


検討結果:大規模な調査用資源の投入の必要はあるが、現時点での実行が可能という点も含めて最も有効な手段であると判断。即時の計画実行を決定する事となった。



これらの結果により、このオブジェクトは確保も収容も不可能であり、その脅威を秘匿したまま人類の正常な社会を保護することも絶対に不可能と結論され、回避するには最低でも地球圏を放棄しなければならない事が決定された。

これにより、SCP-1690-JPは回避できないK-クラス:シナリオを齎す究極の脅威である、としてAinクラスに指定され、特別収容プロトコルは全て破棄

代わりに、特別隠蔽プロトコル(Special Cover-up Procedures)として、とにかくこのオブジェクトに関する情報を外界から隠すという対処法が策定された。


そして、「Exodus(脱出)計画」の準備が開始され、南方博士によるコロニーを使った脱出プランは「E-1計画」、ホフマン博士による別次元への逃亡プランは「E-2計画」と名付けられ、実行に向けてあらゆる用意が進められていた。






…だが、現実は上手く行かなかった



補遺編集

ある時、地球圏外の各観測施設においてらしんばん座方向からの特定パルスを繰り返す微弱な軟X線信号が観測され、解析の結果、その内容はDNAの塩基配列と考えられる約70億ビットのデータ列、幾つかの文章記録と翻訳の手がかりとなる絵と単語の対応図表だった。

発信した知的生命体が人類に似た二足歩行生物であったため、文章記録の翻訳は容易に完了し、大半はその生物種が歩んだ歴史についての記述だったが、最後の部分にSCP-1690-JPへの言及と考えられる文章が複数存在した。以下はその抜粋である。


  • 文章記録"Pul-██████-1690-JP"

この記録は我々の墓標に刻む言葉である。


"大いなる脱出"から一千有余年、我々は幾世代にも渡ってこのコロニーを維持し、種を存続させ続けてきた。しかし閉塞された環境と限られた資源は停滞を促し、目的地の存在しない旅路と全てがルーチン化された生活はあらゆる者を無気力にした。

500年を過ぎた頃には出生率は100%を切り、文化維持のために禁止され続けてきた人工繁殖をやむなく実施した。すると700年を過ぎた頃には最大の死因が自殺となり、平均寿命は30を切った。

800年代に一人の狂人が始めた終末論的な宗教は大規模なテロリズムへと発展し、制圧運動に端を発した社会混乱は泥沼の内戦を誘発した。その時には、我々は最早守護者ではなく、皆をこの大きなに閉じ込める刑務官でしかなかった。


約200年前に戦争が終結した後、我々はコロニーの設備の運営だけを担当する小さなコミュニティに成り下がり、半数以上の住民は荒廃し配給システムが機能しなくなった都市区画を捨て、環境保護区画での原始的な生活を始めた。しかしそれまで他生物との接触を絶っていた故に、千年の間に変異した多数の細菌ウィルス種への抵抗力は無く、彼らは数世代の間に全滅したと思われる。

そして、彼らによって強感染性に変異したこれらの疫病は都市区画にも蔓延し、遂にはこの管理区画に残された僅か100人余りが最後の生き残りとなってしまった。

先の内戦で人工繁殖システムや医療施設の大半が失われた今、おそらく100年も待たずに我々は絶滅するだろう。


思えばかつて我々が異常な存在から種を保護するために存在する組織だった頃、あの宇宙を食い尽くす存在を発見してしまったのが全ての始まりだった。

あれを知らないままでいられれば、どのような手段をもってしても防ぐことが出来ないその終焉に怯え、亜光速で運動する船の中で永遠に近い存続を目指すような事は無かったはずだ。


願わくば、”大いなる脱出”の時に袂を分かった同胞たちが我々よりも長く生きながらえ、この記録を受け取っていることを切に願う。


どうやら、この「人類」の社会にも財団が存在し、SCP-1690-JPから逃れるためにE-1計画と同じ計画を実行したらしい。

だが、希望の見えないただ逃げるだけの旅路と、必要最低限しかない資源を浪費できないギリギリの生活は、やがて人から人らしさを奪い、最終的に彼らは絶望に追い込まれてそのまま滅亡してしまった。


この「前例」の存在を受けE-1計画のコロニー運営プランは、抜本的な見直しを余儀なくされる事となった。



残された希望はE-2計画のみとなったが、こちらにも問題が発生。


対策委員会の提言を元に、E-2計画の一環として既知の平行宇宙についての安全性の調査が行われた。

その結果、既知である372651の並行宇宙の内172662について調査が完了したが、この内SCP-1690-JPの存在が確認できた宇宙は、僅か127だった。

しかし、これ以外の宇宙についても、空間曲率の測定から3次元平坦トーラス体である可能性は否定できなかった。

基底宇宙においては、SCP-1690-JPが偶然地球から観測可能な領域に存在していたため発見が可能だったが、広大な宇宙の殆どは宇宙誕生からの時間と光速度の関係でSCP-1690-JPが観測不可能な領域であり、SCP-1690-JPが発見されなかった宇宙が基底宇宙と同様の空間曲率を持つということは、時空間ポータルの出口に当たる観測点がこの領域にあるだけでSCP-1690-JPは存在するという可能性も否定出来ないことを意味している。

このため現在調査の焦点は、「空間の曲率が異なる3次元球面宇宙などのSCP-1690-JPは幾何学的に存在し得ない宇宙の発見」に向けられている。

しかし宇宙モデルについての研究を進めている財団基礎物理学部門と天文学部門の合同チームは、現在までの調査結果を踏まえると、「3次元平坦トーラス体である基底宇宙と時空間ポータルで繋がることが出来るほど隣接した宇宙は、幾何学的に同様の曲率を持つものに限られる=この宇宙と次元ポータルで繋がっているのは、同じような曲率を持つ、SCP-1690-JPが存在しうる宇宙のみではないか?」という見解を示している。


また、過去に発見された時空間ポータルについての財団内のレポートを調査した結果、154件の報告において予兆なしに消失したケースが確認された。この全てがSCP-1690-JPによるものであるという証拠は存在しないが、時空間ポータルの安定性についての理論より、その可能性は極めて高いと見られている。

この事実は、SCP-1690-JPが基底宇宙に隣接する並行宇宙において普遍的な存在である可能性を強く示している。


要するに、この宇宙とそれに隣接する並行世界において、この消滅現象は普遍的な存在であり、逃げる術は実質ないのである。


E-2計画における並行宇宙探査は、新規の時空間ポータルの捜索を含めて引き続き継続されている。


管理者からの言葉編集

SCP-1690-JPというのは、まさに宇宙の終端そのものである。それはある日突然我々の存在を根こそぎ消し去り、誰も消滅したことにすら気づくことは出来ないだろう。そしてその後に待っているのは、絶対的な"無"である。SCP-1690-JPの現在の位置がわかっていない以上それは明日にも訪れる出来事かも知れないし、太陽系が滅びた後に訪れる出来事かもしれない。しかし座してその時を待つという選択では、その存在に気付いてしまった我々は恐怖に怯えながら日々を過ごさねばならない。故に我々はこの2つの逃げ道について、可能性がある限り追究し続けなければならない。たとえそれが、ほんの一縷の望みであっても。 —"管理者"


関連タグ編集

SCP_Foundation 消滅 ループ ウロボロス

どうあがいても絶望 どうあがいてもKクラスシナリオ


CC BY-SA 3.0に基づく表示編集


SCP-1690-JP 犭貪あるいはウロボロス

by physicslike

http://ja.scp-wiki.net/scp-1690-jp

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