SVD
えすべーでー
その他のドラグノフという名のものについてはドラグノフを参照。
ソビエト連邦は第二次世界大戦の教訓や実戦における兵士の声から実際の市街地や山岳地における戦闘は300~500mが中心である事を実感し、市街地においても素早く多目標を沈黙させ得る強度と信頼性のある小銃ないし狙撃銃を必要としていた。そんな中、小銃としての安定性と高い生産性を併せ持つAK47に注目したエフゲニー・F・ドラグノフがAKの基本構造を参考に作り上げた。
狙撃銃とは言うもののAKと同等にロシアでの過酷な環境下でなおかつ小隊(30~50人程度)規模で運用する為に安価で強固なものを必要としており、これらの部隊が戦闘を行うのは市街地などであったため長射程、精密射撃は想定されておらずむしろ近距離における速射性を想定しているがために厳密には狙撃銃というよりも現在で言うところの近接支援火器とでも言うべき役割を担う。
狙撃専用弾を使用した場合、最初期型なら1.04 MOA、徹甲弾に対応した70年代以降の型なら1.24 MOA(重い徹甲弾に対応するためバレルの転度を大きくした影響で初速が低下し、命中精度が劣化している)。ちなみに2016年にアメリカ陸軍に採用されたM110A1 CSASSの命中精度は専用弾で1.3 MOA(採用試験時の要求値。実際は不明)、NATO標準弾を使用した場合1.5 MOA(メーカーのカタログスペック)なので、60年代の設計であることを一切考慮せずとも、セミオート狙撃銃としてはなかなかの命中精度と言える。
ただし、良好な命中精度を期待できるのは狙撃専用弾を使用した場合のみで、同規格の機銃弾を使用した場合は2.21 MOAまで命中精度がガタ落ちする。ここまで来ると命中精度が落ちると言うよりも暴発はしないというレベルである。米軍とCIAが莫大な賞金を懸けた甲斐もあり、第4次中東戦争とベトナム戦争でSVDの鹵獲に成功したが、専用弾の鹵獲には失敗した(と言うか、ソ連がまともに供与したいたかが疑わしいが)ため、当時の米軍はSVDの命中精度に対してボロクソの評価を下している。この評価はイラクやアフガニスタンで米軍がSVDと直接対決するまで変わることはなかった。
銃ではなく射手に求められる命中精度は、静止したマンターゲットに対して200mの距離で90%、500mの距離で80%、800mの距離で50%。狙撃としては割と緩く、ソ連/ロシアの運用思想が窺えるところである。800mを超える射撃についてはロクな命中精度が期待出来ないため、指揮官は弾が命中することを前提とした命令を下したり作戦を立案したりしてはいけない事になっている。SVDの有効射程は800mとされることが多いが、要はこれの事である。とは言え800mを超える目標に対してもハッタリや牽制目的で撃つことはよくある。実際、自他ともに認めるまぐれ当りではあるが、1350mもの長距離狙撃がアフガニスタンで記録されている。
2010年代までは通常、PKMと同レベルの小隊下車歩兵部隊の支援火器として扱われていた。時代、兵科、乗車する装甲車等によって編制は異なるのだが、BMP-2歩兵戦闘車3両で構成される小隊を例に取れば、以下の通り。BMP-2の兵員搭載量は7名だが、1号車の車長を兼ねる小隊長と3号車の車長を兼ねる第3分隊長が下車するため23名編制となっている。2号車の車長は車両部隊全体の指揮官として2号車に残る。また、上級ライフル手は耳慣れない言葉かと思われるが、これは副分隊長兼ポイントマンのこと。
・小隊長
・機関銃手(PKM装備)
・機関銃助手
・狙撃手(SVD)
・衛生兵
・6人編制の分隊(分隊長・RPG手・RPG助手・RPK手・上級ライフル手・上級ライフル手助手)3個
フル編成(正直言って定員完全充足なんてことは滅多に無い)でも23人しかいない小規模部隊なため、SVDを担当する狙撃手にも通常の銃撃戦にライフル兵として参加してもらわなければ困る。それがSVD運用の大前提である。そしてその大前提をこなした上で、長距離射撃・指揮官や通信兵といった「高価値目標」の排除・牽制射撃・制圧射撃などを行うのが小隊狙撃手の任務だった。
ソ連軍・ロシア軍に限らずドンパチ慣れした軍隊にはよくあることだが、規定の編制を軽く無視して現場指揮官の裁量で状況に応じた特異な編制をとることは珍しくなかった。例えば車両パトロール部隊に対する長距離アウトレンジ攻撃が頻発したアフガニスタンでは、長距離火力に極端に偏重した4人編制分隊(分隊長・RPG手・機関銃手・狙撃手)がとられることがあった。どういう訳か日本ではいまだに4人制分隊に1丁のSVDという編制がSVDの標準のように語られる事が多い気がするが、これはソ連軍の歴史の中でもかなり特殊な状況下でのみ用いられた極めてイレギュラーな編制だったりする。
ラトニク2
ロシア軍の歩兵装備近代化計画である「ラトニク2」ではSVD(シリーズ)は小隊編制から消え、旅団装備となった。狙撃手を契約兵(志願兵のロシア的言い回し)だけで固めて練度を大幅に向上させるだけでなく、狙撃戦術も大幅に変更されている――らしいのだが正直良くわかっていない。
KSVK(12.7mm弾を使用する対物狙撃銃)とSVDが二人一組で行動していたり、SVD(SVDM)を前衛に置いて長距離狙撃銃(おそらくはT-5000あたり)でそれを後方から支援するなど、従来あまり見なかった戦術が実際の戦場でとられている――らしい。とりあえずウクライナ軍とウクライナ国家親衛隊はそう言っている。
イギリス陸軍やアメリカ陸軍が分隊装備に7.62mm弾を使用するマークスマン・ライフルを導入したのと同時期にロシア軍が逆方向に舵を切ったのは(もし事実であるなら)興味深いところではある。
ラトニク2ではSVDの後継としてSVDMが採用された。なんとも身も蓋も無い結果となったが、これはSVDの後継狙撃銃の開発に失敗した結果であって、本来ロシア軍が目指していたものでは無い。
1990年代後半(1998年?)ロケット砲兵総局の元で、以下の3種の狙撃銃を開発する<Взломщик>と言う計画が開始される。<Взломщик>は英訳されるときは大体BreakerかBurglarの訳が当てられる。Breakerは直訳でBurglarは意訳である。
・7.62mm弾を使用する近距離用精密狙撃銃。SV-98として完成。
・新開発の9mm弾を使用する中長距離用セミオート狙撃銃。SVDの後継となるはずだった。
・12.7mm弾を使用する対物狙撃銃。OSV-96として完成。
当時ロシアではラプアマグナム弾とそれを利用する狙撃銃が大きな脅威となると捉えられていた。このままではロシアの狙撃兵が一方的に撃たれまくる状況が当然予測されたからである。そこでラプアマグナム弾を超える優秀な弾道特性と射程を持った新型9mm弾とそれを発射可能なセミオート狙撃銃の開発し、それをSVDの後継とすることとなった。
開発には困難が予測されたため、とりあえずの暫定措置として大型獣用の狩猟弾である9.3×64mm弾を使用するSVDKを開発、部隊配備された。SVDKはロシア軍兵器体系内の立ち位置が曖昧ながらも、現場では簡易対物ライフルとしてそこそこ高い評価を得ることになる。
そして本命である新型9mm弾を使用するセミオート狙撃銃はどうなったかと言うと、銃どころか銃弾の開発にすら失敗した。ラプアマグナム弾より優秀な弾を発射可能な前線で歩兵用小銃として使用可能なセミオート狙撃銃などというぼくのかんがえたさいきょうの狙撃銃が完成するほど現実は甘くない。計画は結局、全面的にキャンセルされる。
結果として、SVDの後継とラプアマグナム弾(やさらに登場したノルママグナム弾等)を使用する長距離精密狙撃銃に対抗できる狙撃銃のアテを一気に失ったロシアでは、この種の狙撃銃の調達が2010年あたりまで混迷を極めることとなり、情報機関や治安機関の特殊部隊に至っては「ロシア製より安くてよく当たるから」という理由で西側製の狙撃銃を調達し始めるという有様だった。
上述のラトニク2では夢から醒めたように現実路線に立ち返り、SVDの後継と「距離1600mで十分な対人狙撃能力を持つボルトアクション狙撃銃」を別途調達することとなった。ただ長距離精密狙撃銃については全候補がロシア軍の要求する能力を満たせず不合格となってしまい、グダグダな状態が継続している。
ただ軍用の長距離精密狙撃銃が何もないなどという訳にはいかないので、T-5000等を実際の戦場では使用しているようである。シリアやウクライナでは時々これらの銃が鹵獲されている。
参考:
SV-98に関する補足
SV-98は情報機関系・内務省系特殊部隊から強い要望のあった、(狙撃としては)近距離から確実にヘッドショットを狙うための狙撃銃である。おかしな誤解がちょくちょく見受けられるようだが、別に長距離狙撃用でもなければSVDの後継というわけでもない。
と言うか、前線での歩兵用小銃としての使用を考慮したセミオート狙撃銃(西側で言うところのマークスマンライフル)の後継に、戦闘重量が8kgに迫るボルトアクション狙撃銃を持ってくるようなアホな真似はロシアに限らずどこの国でもどこの機関でもしない。SV-98とSV-98Mを大量調達しているロシア国家親衛隊でもそれは同様である。
AKシリーズと同様に社会主義国…というか反米政策を取っていた国に広く供与したためか旧東側諸国や第三世界での採用が多い。
ロシアでは現在も運用しており、中国でもライセンス生産され、冷戦時代にはその斬新なコンセプトから旧西側諸国に畏れられた。
ソビエト/ロシアではその本来のコンセプト通り市街地や近接戦において大きな成果を上げ現在はAKの命中精度を補う為に分隊(4人程度)に一丁で配備している。その戦果は西側諸国によって畏れられアメリカが死にものぐるいで対抗策を考えるほど。くわえて、メンテナンスのしやすさ、AKばりの頑丈さに安価な製造費から多くの紛争地域、中東やアフリカ、インドなどでも運用されている。
また、その独特の見た目からか二次元でも多く運用されている。ロアナプラで最も怖いお姉さんの部下も使用する。ヨーロッパのロリ部隊の少女も使用する。何故かナチスドイツの将校服に身を包んだ人物が手にしていたり、作中で長距離精密射撃をさせられたりと恐ろしく忙しい毎日を送る。
ゲームにおいても初期に手に入れられる狙撃銃である事が多い。
特色
現在見かけるセミオートマチックの狙撃銃と比べて木製パーツを多用しているが、その独自のストックや形状から運搬が容易で、また比較的軽量でもあり(セミオート狙撃銃として有名なPSG-1は8.1Kg)専用のスコープもアイアンサイトもついている為様々な状況での運用が可能。
ソビエトやロシアではSVD向けに調整された専用の弾薬(7N1 7N14)が存在する。
機関銃向けの弾薬よりは精度が期待できそうではある。
近代化
現在はアルミや樹脂パーツを用いたモデルも多く出回っており以前以上に軽量化されている。
SVDSと呼ばれる折りたたみストックのカービンモデルも登場している。
ストック以外ではバヨネットラグ付フラッシュハイダーが変更されているが、重量はオリジナルのSVDより増している。
しかし、M14が華麗にレールデビューし役立たずという汚名を返上したにもかかわらず本銃のレール化はあまりなされていない。
商品や改修メニューとして無いわけでは無いのだが、「狙撃銃として使うならゴテゴテしたオプションは不要」ということだろうか。
が、誰得なのかは知らないが実はブルパップ化されたSVUというモデルが存在していたりするので近代化に興味がない訳ではない模様。
しかし、どうしても長距離射撃が必要であると考えたロシアは後年、軍で使われているモシン・ナガンを完全に駆除すべくボルトアクション方式のSV-98を開発・配備する。が、一般部隊はSVDのままである。
最近ではついに精度と射程が問題となり、引退の可能性が出てきた。(時代が対テロ戦で)
しかし可能性が出てきただけで、現場的にはSVDで充分らしく、当分はまだまだ運用されると思われる。
民間用にタイガーという猟銃も登場した。(AKやサイガも猟銃版がある)
7.62×54mmR弾以外に7.62×51mmNATO弾、9.63×64mm弾に対応しており、ストックはサムホールタイプのものへと変更されている。
またユーゴスラビアではM95が、ルーマニアではSVDを参考にしたFPK(PSL)が開発されている。
組み立てて使うという携行性重視にしたVFFがある。
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