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概要編集

大自在天とは漢訳仏典における表記で、サンスクリット語の「महेश्वर、Mahesvara、マヘーシュヴァラ」の意味「大いなる自在なる主」を訳したもの。読みを写した摩醯首羅(まけいしゅら)という表記もある。

「自在天」という名称を持つ者として他に「大聖歓喜自在天」「他化自在天」がいるが、シヴァとは別人である。

それぞれ歓喜天マーラおよび彼が住まう天界を指す。


梵天帝釈天と共に仏教に取り入れられたインド神話の神々の一人。上座部仏教で用いられるパーリ経典では、『サンユッタ・ニカーヤ(相応部)』に収録された「シヴァ・スッタ(シヴァ経)」に登場する。

漢訳の『雑阿含経』にも尸毘天(尸毘天子)という響きの似た名の神が登場する。内容的にシヴァ・スッタの対応箇所と思しい。

『法華経』等の大乗顕教経典でも「自在天」「大自在天」が釈迦の説法の聴衆として言及される。「観世音菩薩普門品」という章では観音が変化する姿として「自在天身」「大自在天身」が挙げられる。このように、大乗仏教の世界観では名前が重複する複数の神がいる位置づけとなっている。


大乗密教経典、金剛乗仏教での描写編集

密教経典ではシヴァ本人だけでなく、シヴァにまつわるヒンドゥー側の信仰をも相対化・解体していった。

『大乗荘厳宝王経(Karandavyuha Sutra)』ではシヴァをはじめとするヒンドゥーの神々が先んじて存在していた観世音菩薩の体の各部位から生じたとされるだけでなく、凡夫たちはシヴァを誤って創造主なる原初神(アーディ・デーヴァ)、万物の基盤として崇拝するようになる、と観音からシヴァに語られるシーンがある。このシーンではシヴァのシンボルである「リンガ」も否定的に言及されている。

この経典ではシヴァはブッダに跪いて記別(将来悟りを得るという予言)を求める。ブッダは観音のもとに彼を導き、観世音菩薩はシヴァは未来にヴィヴリタ(Vivrita)という世界において「バスメーシュヴァラ(Bhasmeshvara、聖灰の自在者)」という覚者になると予言する。


別の経典では他の著名な神と異なり「仏教に反抗した」という特徴を持たされている。具体的には烏摩妃(ウマー、パールヴァティー)共々、仏陀の至高性を認めず、自分こそ世界の主と主張していたという。チベット仏教では息子ガネーシャも同様の性格を持たされている。


その結果、大日如来の遣わした不動明王に屈服させられたり、降三世明王に屈服させられたり、チベット仏教では観世音菩薩の化身である大黒天マハーカーラ)に息子ガネーシャも屈服させられる。

アチャラナータ(不動明王)やマハーカーラ(大黒天)はもともとシヴァの異名であり、トライローキャ・ヴィジャヤ(降三世明王)やアヴァローキテーシュヴァラ(観自在菩薩、すなわち観世音菩薩)もシヴァの属性を含んだものである事を考えると皮肉な話である。


複数の大自在天編集

仏典によって、大自在天(摩醯首羅)の描写には差異があり、大乗仏教が説く複数人説も相まってそれぞれを別々の神格とする解釈もなされた。


インドの堅意(Sthitamati)は『入大乗論』において、浄居天に住まい「十地菩薩」の境地にある摩醯首羅と、仏教に反抗的な神としての摩醯首羅を別神としている。


天台宗の僧侶・安然の『悉曇蔵』では、『金剛頂経』で不動明王に降伏させられた大自在天=毘遮舎摩醯首羅、『大日経疏』に記された一つの世界においてのみ大自在であり、三千世界における大自在ではない、と大日如来に否定された大自在天=商羯羅、『金剛寿命経』で后と共に降三世明王に降伏させられた第六天の主=伊舎那の三柱が居るとされている。


第六天の主、伊舎那天は音の似たイザナギイザナミと同一視もされた。


「第六天の主としての大自在天」は中世の日本に於いて展開された「中世神話」において、第六天魔王とも重ね合わされ同一視されていくことになる。


とはいっても肯定的な認識でも扱われており、関東に建立された「第六天社」の中には「魔王天神社」を社名とする神社もある。


信仰編集

最終的に明王および憤怒尊に調伏されたとされるものの、大自在天として単体でお堂に祀られる例は、少なくとも日本ではかなり稀。

栃木県下都賀郡壬生町に大自在天堂がある。「天皇神社」の別名がある。


他の神仏と祀られている例としては、大阪の正圓寺がある。秘仏として大自在天像と伝わる神像があり、本堂に祀られている。

寺の本尊は歓喜天であり、この大自在天像も象頭で手に大根を持つという歓喜天ぽい像になっている。


日本においてはシヴァの一相である大黒天のほうが信仰されている。チベット仏教と異なり、中国より仏教を取り入れた日本では大黒天は観音ではなく大自在天の化身とされる。


関連タグ編集

大黒天 韋駄天

降三世明王:仏像においては、右足で烏摩妃、左足でこの大自在天を踏んだ姿で現されることが多い。

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