概要
ひゅうが型護衛艦は、海上自衛隊が運用するヘリコプター搭載護衛艦である。先に就役していたはるな型護衛艦2隻の老朽化に伴い、その後継艦として建造された。2004年(平成16年)に予算がおりたことから計画時は16DDHと呼ばれていた。
広い全通甲板に右舷に寄せられた艦橋という空母のようなシルエットで、同世代の諸外国の軽空母と同程度のサイズと排水量となっているが、ハリアーやF-35BのようなSTOVL機などの固定翼機の運用は全く考えられていない。あくまでヘリの集中運用プラットフォームとしての全通甲板であり、よって防衛省と海上自衛隊はヘリコプター搭載型護衛艦「DDH」だとアナウンスしている。
同型艦は2隻。
共に太平洋戦争で名を馳せた伊勢型戦艦『日向』『伊勢』の名を引き継いだ。戦艦時代とは姉妹の順序が逆になっている。
本型の就役をもって、はるな型護衛艦「ひえい」が現役を退いたことにより、はるな型は全艦が有事に巻き込まれることなく日本の守りを全うした末に退役した。
性能
航空運用能力
飛行甲板には4ヵ所のヘリ発着スポットがあり、同時に3機の発着艦が可能。搭載機用エレベーターと兵装運搬用小型エレベーターをそれぞれ前後に2基ずつ備える。艦内格納庫には最大11機のヘリを搭載するが、通常はSH-60J/K/L哨戒ヘリ3機とMCH-101掃海輸送ヘリ1機の計4機を搭載機の定数としている。
自衛隊が運用するすべてのヘリの離発着が可能であり、実際にテストも行われている。海上保安庁や警察の航空隊など、我が国の公的機関が用いる殆ど全てのヘリも整備運用可能で、こちらの方も離着艦テストが行われた模様である。近年では米軍との共同演習でV-22オスプレイの離着艦がテストされ、本型で運用可能なことも確認された。
武装
艦自体の固定武装はCIWSとしてファランクス20mm高性能機関砲を2基、VLSが16セル、3連装魚雷発射管2基6門。海自護衛艦としては初めて機関砲以外の砲熕兵装無し、とかなり割り切った構成となっている。この他に昨今の海上テロを警戒して12.7mm機関銃用の銃架が存在しており、必要とあらば相当数を搭載可能である。
一見淡白な武装であるが、VLSの中にはESSMや垂直発射型アスロックが満載されており、ESSMに至っては定数16発に加えて予備が1セット揃っている。更には「潜水艦狩り」に対して狂気に等しい執念を持つ海自ならではの、197mの巨体の3分の1に達する巨大ソナーまで搭載しており、対空対潜攻撃能力は非常に高い。
総評
本型は搭載ヘリの他、対潜ソナー、短魚雷、VLSのアスロック、さらに対空ミサイルまでも搭載し、一見純粋なヘリ空母のように見えるが、自らが対潜・対空攻撃を実施する、自称だけではないバリバリの護衛艦である。
ただし全長200m弱、満載2万トン弱にも達する巨体は自ら対潜戦闘できる艦のサイズとしてはほぼ限界であり、次級いずも型護衛艦はヘリ空母としての機能を追求して更に大きくなったため、自艦での直接の対潜戦闘は諦め、VLS、短魚雷発射管は搭載せず、対空レーダー、ソナーも簡略化された。そのためひゅうが型といずも型は大きさが2周りほど違うにもかかわらず、建造費用は同程度とのこと。
余談
海上自衛隊の護衛艦としては初めて明確に旧国名が冠された艦となる。ひゅうがの船内には、宮崎県の東国原知事のサインと、航空戦艦『日向』と護衛艦『ひゅうが』のツーショットのイラストが飾られている。前者は東国原知事が「日向の名を持つひゅうがの活躍を県民一同期待して」という祝電と共に贈ったものである。後者は米ロッキード・マーティン社が贈呈したもので、こちらはいせにも同様の『伊勢』と『いせ』のツーショットが飾られている。
まだ計画段階だった時期に、防衛省からは
「船体の前後にヘリ甲板があり、中央部分のバカでかい上部構造物で前後甲板が分断されている」
という設計案が出されていたのだが、ヘリ母艦として見ると非効率で意味不明だったうえ、上構の片側がほぼ内部構造の無い壁のみのハリボテみたいな構造だったため、当時から海軍系ミリオタや軍事評論家などの間では「ハリボテ部分は空母型なのを誤魔化すため追加しただけのダミー案なのでは?」という疑念が出ていた。
実際に輸送艦でしかないおおすみ型でさえ「空母みたいな形の船だから侵略戦争に使える」などと因縁をつけられた例もあったため、こうした裏読みもあながち筋違いなものではなかったのである。
関連タグ
伊勢型戦艦:名前の元。航空機運用する重武装艦船というコンセプトも類似。