概要
ロイ・マスタング大佐が東方司令部に在籍していた頃の直属の上司にあたる。
周囲からは「変人」として名高い人物で、女好きで怠け者だが気前が良く何処か憎めない好々爺といった老人である。しかし、それらはあくまで対外的な表向きの姿に過ぎず、その本質は謀略に長けた策士そのもの。マスタングに策謀を教えた師匠でもあり、作中のマスタングの「女好きの遊び人」という表向きの姿は、彼からの指導で彼に倣って作り上げた対外向けの人物像である。
情報戦においてもマスタングの更に上を行っており、東部に在していながら現在の中央の状況を熟知している。更にイシュヴァール帰りの屈強な兵士で構成された直属の部隊を抱えている。
かつては彼も中央司令部に在籍しており、マスタング同様に大総統の座に立とうと目論んでいた野心家だったが、ホムンクルスの仲間に引き込もうとしたレイヴン中将からの「不死の軍団に興味はないか?」という誘いを、「不死など下らん」と一蹴した結果、田舎の東方司令部にまで左遷されてしまい、出世街道から外れたという経緯を持つ(彼に限らず、ホムンクルスの計画に同調しなさそうな改革派は上に疎まれ悉く地方に飛ばされている)。ただし、それでも自らの野心を忘れた訳ではなく、虎視眈々と起死回生の機会を狙っており、東部では昼行燈な老人を演じながら、中央の動向に常に目を光らせつつ、自らが動き出すタイミングを見計らい準備を進めていた。
自分と似たところがあるマスタングの事を気に入ると同時に、同志としても信頼しており、彼が東方司令部に在籍した際には重用し、策謀について様々な指南や助言を行う事で、マスタングを現在の策士に育て上げた他、一体どこまで本気なのか「孫娘を嫁に…」とまで発言している。
その一方で、前述の野望の為であるならば、例え愛弟子である彼であっても見捨てる(尚且つ保身の為に利用する)と、はっきりと宣言もするなど狡猾な面も見せている。ただし、これについてはマスタングも承知の上で、且つマスタングの方も場合によっては彼を利用するつもりで、どちらかが倒れてもどちらかが大総統の座につければ良いと考えていた模様(実際に、最終的にマスタングが彼に大総統の座を譲る事にした際にも、「彼になら任せて大丈夫だ」と発言している)。
その野心の根底にあるのは、マスタングと同じくブラッドレイ率いる現在の軍事国家アメストリスへの疑問や不信と、国をより良い方向に改革したいという強い想いである。決して権力欲から地位を求めている訳ではなく、それはレイヴンの誘いを一蹴した事からも窺える。このようにマスタングとはただの策謀の師や同志を超えて、ある意味ではもう一人のマスタングとすら言えるような人物である(案外マスタングが順当に歳を重ねれば、こんな人物になるのかも知れない)。
名前の元ネタは、アメリカの航空機メーカー「グラマン(現ノースロップ・グラマン)社」から。
作中での活躍
中央司令部へ転勤となったマスタングから、東方司令部内の部下数名を同行させたいと要望されて快く承諾する。また、この時に普段両者が興じていたチェス盤セットも「餞別」として贈った。
以降は長らく登場する事はなかったが、大総統であるキング・ブラッドレイ(及びホムンクルスの息のかかった軍上層部)からの圧力により、信頼できる腹心の部下達と引き剥がされた上に、軍内での行動に制限が付くなど窮地に追いやられたマスタングは、予めチェスの駒に収められた暗号でグラマンに秘密裏に連絡し、殉職したヒューズ中佐(特進により准将)の墓前で密会する。この時には、老婦人に扮して現れてマスタングを驚かせている(変装のクオリティは普通に高く、一見すると本当に老婦人にしか見えず、マスタングすら最初はグラマンだと気付かなかった)。
マスタングからの要請を受けて、長年の野望が再燃したグラマンは、時が来たら東方司令部でクーデターを起こす事を約束する。ただし、もしマスタングが志半ばで失敗するような事があれば、彼を「悪役」に仕立てて自身が軍の掌握に乗り出す事も宣言し、マスタングもそれを承諾する。
そして「約束の日」の直前に、北方司令部との合同演習を開催し、不審に思ったブラッドレイを東部へ誘き出す(ただし、ブラッドレイが直接演習場にまで来たのは想定外だった模様)。更に自分達を怪しむハクロ少将がブラッドレイに密告する事まで見据えて、敢えて彼が「グラマン中将たちは囮で、本当の狙いは手薄となった中央司令部」だと進言するように仕向ける。結果ブラッドレイは、早急に中央へ戻ろうと列車を利用するが、鉄橋の爆破により彼らの乗る列車を谷底へ落下させた(実行したのは彼が囲っていた、イシュヴァール殲滅戦時代のマスタングの元部下達である)。
しかし、すんでのところでブラッドレイは脱出しており、アームストロング少将率いるブリッグズ軍が占拠した中央司令部に到達する。更にはお父様の発動した国土錬成陣により、国中の人間の魂が吸い上げられた事で、他の国民や兵士達共々一時的に絶命したが、ホーエンハイムが事前に行っていた錬成陣潰しによる失敗で、他の者達と同じく魂が返還されて無事に息を吹き返した。
ブラッドレイを含めたホムンクルス達が全滅し、彼等の計画が阻止された後は、一連のクーデターは、全て大総統の地位を狙う軍部上層部の者達(ホムンクルスの協力者達)が起こしたものと偽装して、ブラッドレイとその義息のセリムは、暴動内で命を落としたというシナリオを公表した。
ホムンクルスに協力していた殆どの上層部の将校達が、騒乱の中で死ぬか事件後には罪人として捕縛され、マスタングも(イシュヴァール復興の為に)身を引いた結果、空位となった大総統の座に見事に納まる事に成功し、遂に長年の野望を成就させるに至った(そもそもマスタングは、この時点で大総統になるには、年齢的に若すぎるという問題もあったのかも知れない)。
その後は、周辺国との対話や和平交渉を進め、イシュヴァール復興政策を初めとした融和政策の方向に国家の舵をきっており、国を平和への道に導こうと意欲的に励んでいる。本人的にはまだまだ現役のつもりであるらしく、当面は若い世代に大総統の座を譲るつもりはないとの事(これについてはマスタング達に大総統の座を譲る前に、国の安定化と地盤固めの役割を請け負っているのかもしれない)。いずれはマスタングの構想と同じく、「国家錬金術師制度」の廃止を含めた各方面の緩やかな軍縮や、議会に政治的実権を返還する事で、アメストリスを議会制国家に戻す等の政策も実施していくつもりだと思われる(下記する2003年版アニメでは実際にそれを行っている)。
最終話では、ブラッドレイ夫人との談話をしつつ当時の出来事を振り返り、彼女が改めて養子として迎えたセリムの様子を見ながらその行く先について監視を続け、もしホムンクルスとしての記憶を取り戻して再び牙を剥くようなら容赦なく処刑すると釘を刺している。そしてそれに対して「私がそうはさせません」と返した夫人の返答に満足気に笑い、「人間とホムンクルスの共存」という新しい未来の可能性に「ワクワクする」と言いながら楽しそうに去っていった。
2003年版アニメ
本作でも同じ外見の同一人物が登場するが、名前は出ていない(クレジットでも「将校」とだけ表記されている)。
原作と同じく東方司令部司令を務めているが、同時に中央司令部のアメストリス軍上層部にも大きな影響力を持っているらしく、有事の際には中央の軍部上層部による会議等にも召集される人物である。マスタングとは原作のような師弟関係まではなく、おそらくホークアイの親族でもない。
また本作では、あくまでブラッドレイ(本作においてはホムンクルスの司令塔「プライド」の正体で、セリムは只の人間)が個人的にホムンクルスとして軍を動かして暗躍していただけで、軍部上層部自体はホムンクルスの事は何も知らず、当然ながら彼自身もブラッドレイの正体やホムンクルスの暗躍については何も知らなかった(第5研究所の人体実験等も、殆どブラッドレイとバスクらの独断である)。
作中では、原作同様にマスタングの中央司令部転属の際に初登場しているが、原作と違ってマスタングとの裏の繋がり等はこの時点ではなかったらしく、チェスの駒の暗号等の「餞別」もない。
その後は、マスタングへの軍上層部の査問会の席で再登場し、マスタングの「ブラッドレイ直属の秘書官ジュリエット・ダグラス(正体はホムンクルス・スロウス)が、軍への反逆を企む不穏分子である」という話に興味を示していた。しかしその話はブラッドレイに半ば遮られる形で打ち切られ、査問会は無理矢理終了されており、この件で彼がブラッドレイへの不信感を強めた可能性は高い。
最終話で、ブラッドレイや彼を裏で操っていたダンテが倒された後に、原作に先駆ける形で新たな大総統の座に就任する。自身が大総統に就任した後は、政治的実権を議会に返還してアメストリスを議会制国家に戻し、原作と同じく周辺国との対話や和平を通じた融和政策を押し進めている。原作でマスタングが構想していた国家の改革案を、原作以上の速度で成し遂げた事になる(上記の通り原作では、議会への実権の返還までは少なくとも作中の時点では成し遂げていない)。
ちなみに実際にブラッドレイを暗殺したマスタングや、北方で陽動の為のクーデターを起こしたアームストロング少佐らへの処罰は殆どしておらず、むしろブラッドレイを行方不明扱いにする等の隠蔽工作を自ら行うなど、やはり原作と同じく元々ブラッドレイへのクーデターを目論んでいた可能性が高い。また、原作のように他の軍部上層部のメンバーの多くが消えた訳でもないのに、ブラッドレイが死んだ後に次期大総統にかなり早い段階で選ばれた辺り、元々軍部上層部内でも重要なポジションにいたらしく、同時に彼の息のかかった人間も相当数いた事が窺える。
立場こそ微妙に違うが、原作同様に現在のアメストリスの在り方に疑問を抱く改革派の人物であったらしく、最終的には大総統となって国を平和な方向に導こうと改革を進めるなど、物語上の役割は原作と殆ど変わらない(おかげで原作の結末部分のネタバレにもなってしまったが)。
改革派の彼のような人物が、東部にいながら中央にも大きな影響力を持っていた事からも、本作のホムンクルスやその黒幕であるダンテは、原作のホムンクルスや黒幕のお父様のように軍部上層部を掌握・制御できてはいなかった事が窺える(実際に、留守中の大総統代理をハクロ少将に任せていたくらいで、逆にブラッドレイの息のかかった者は上層部内でも意外に少なかった模様)。
これに関してはダンテの個別項目を参照して貰えば分かるが、彼女は「お父様」とは異なり、「ただ長生きして、その都度快楽を楽しめればいい」という比較的小規模な欲望で満足していた事もあるのかもしれない(むしろ欲望そのものは原作の軍部上層部の連中のそれに近い)。
余談
公式ファンブック『パーフェクトガイドブック2』によると、グラマンはマスタングの副官であるリザ・ホークアイ中尉の母方の祖父にあたり、前述のマスタングの嫁にと勧めていた孫娘とは、実はリザの事だったと思われる。同時にマスタングに錬金術を教えたのはリザの父親である為、つまりマスタングはリザの父親と祖父によって、現在の在り方に育て上げられたのである。
ただし、両親が親族と疎遠だった事から、リザ自身は彼が自分の祖父である事は知らない。
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