概要
和名 | コブシメ |
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学名 | Ascarosepion latimanus (Quoy & Gaimard, 1832) |
分類 | 軟体動物門介殻亜門頭足綱鞘形亜綱十腕形上目コウイカ目コウイカ科 |
胴長 | 50cmに達する |
分布 | 日本では薩摩半島南部から南西諸島にかけて。国外では西部太平洋からインド洋の亜熱帯・熱帯海域(オーストラリア北東の珊瑚海からインド亜大陸を越え、マダガスカルを含む東アフリカ沿岸まで)。 |
名称
和名のコブシメは、琉球語での呼び名「クブシミ」「クブシミヤー」からの転訛とされる。
「クブ」が「大きい、甚だである」の意、「シミ」「シミヤー」は「墨」から転じて「イカ」の意で、「大きなイカ」といった意味合いである。
漢字表記は拳目・拳身だが、音のみの宛字である。
(但し、後述する形態的特徴に全く合致しない訳でもない)
属名Ascarosepionは、「ascaro」はスワヒリ語由来のアラビア語で「偉大な戦士」、sepionはラテン語で「コウイカ」を意味する。
種小名latimanusはラテン語で「幅広い手の」という意味である。
英名はBroadclub cuttlefish。
漢名は白斑烏賊、寛腕烏賊など。
形態
腕を含めた全長は80㎝以上、体重は10kg以上と、同属別種のオーストラリアコウイカA. apamaと並ぶコウイカ目最大級の種。
背面は紫褐色から黄褐色の基色に、小白斑が散在する。同時に、縹色より幾分白みがかった蛍光を帯びる横縞が多数走り、腕や鰭の基底で明瞭であることが多い。この特徴は雄成体で特に顕著。雌成体は同系色の細かな水玉模様が入ることが多い。体色変化能力は高く、基色は非常に濃い紫色から朽葉色、限りなく白に近いクリーム色まで瞬時に変化することが出来る。通常背面は平滑だが、岩礁への擬態時や同種同士の闘争時に、多数の皮弁を突出させることがある。
腕は胴長(より正確には外套長)の半分程度でコウイカ科としてもやや短めで、腕を畳んでいる状態を口側から見ると、人の握り拳のようなシルエットになる。また、眼も大きく幼児の拳ほどもある。眼の周辺は黄色く縁取られる。
腕長式(触腕を除いた腕を背から腹にかけての並びを1-4として、その中で長いものの順に並び替えたもの)は4-3-2-1だが、最長腕と最短腕の長さの差は5%程度。
触腕頭(または触腕掌部)は半月形で幅広く、種小名や英名、一部の漢名の由来である。5列の吸盤が並び、中央列の吸盤は他列の吸盤と比べて直径が3倍程度で、最大で18㎜に達する。
甲は幅広い舟形。内円錐(甲の先端近くにある構造体。腹足類の螺塔とは相同器官に当たり、痕跡器官とされる)は低く、外円錐(内円錐のさらに外側にある構造体)先端嘴部の棘は太く鋭い。この特徴はAscarosepion属としては特異的(同属他種では嘴部の棘は目立たないものが多い)で、これを以て別属Acanthosepionとして分類される場合もある。
生態
サンゴ礁周辺に棲息し、幼体はタイドプールで見られることもある。成体はやや深い場所を好むが、水深30m以深ではほぼ見られない。
縄張り意識はかなり強く、繁殖期を除いては単独で生活する。
基本的には夜行性で、日中は底砂に体の半分を埋もれる形で休息していることが多い。
主に魚類を補食するが、エビやカニも好み、同種を含めたイカを捕らえることもある。
11月から3月にかけて、成体はサンゴ礁の縁辺に集合しペアリング活動を行う。雄は蛍光色の横縞より一層輝かせて雌へのアピールを行い、一方で同性の他個体に対しては基色を濃く暗く変色させ、ウミヘビを彷彿とさせる威嚇色を呈する。この体色変化は同時に見られることもあり。即ち、個体の左側に雌、右側に雄がいれば、正中を境にして左側はアピール体色、右側は威嚇色のように変わり分けることができる。(要するにこんな感じ。肉体の性別まで変わるわけではないから、むしろこれか)
ペアリングが成功すると、雄は雌と第1腕と第2腕を絡ませあい、雄は雌に精莢(精子の詰まったカプセル)を渡すことで、交接を終える。
交接を終えた雌は、枝振りが複雑なサンゴ(シコロサンゴPavona decussataやハマサンゴPorites australiensisなどが多い)の奥に、白いピンポン球大の卵を産み付ける。この間、雄は雌の近くをホバリング遊泳し、雌を見守っていることが殆どである(なお、産卵が終了するとペアは解消され、体力が続く限り雄雌それぞれ別の個体を求める)。雌は一度に100から200卵ほどを産み、それを2ヶ月間に渡って数度繰り返し、合計で1000~2000卵ほど産むと、やがて力尽きて死亡する。
卵は1ヶ月から1ヶ月半で孵化する。孵化直後の幼体の胴長は1.5㎝ほどで、一度外洋に出て海流によって分散し、再び沿岸のサンゴ礁域や藻場に辿り着いたものが、小魚や小エビを捕らえて猛烈な速度で成長し、1年から1年半で性成熟する。
人間との関係
水族館で飼育展示されることもあり、日本国内ではサンシャイン水族館・鳥羽水族館・美ら海水族館などで展示実績がある。ただし、生活史の短さや幼体育成の難しさから、常設展示している園館は少ない。
瞬発力はあるものの、普段の動作は緩やかで、浅場に多く、スクーバのみならずスノーケリングでも見られる可能性があるため、ダイビングウォッチの対象として根強い人気がある。
老成した個体はやや大味であるが、若い個体はアオリイカと並んで大変な美味である。
刺身・炒め物・天ぷら・フライ・ステーキなどで賞味され、イカ墨も多く取れることから、沖縄では伝統料理のイカ墨汁によく用いられている。
分布域が非常に広く、種全体の個体数は安定的だが、コウイカ目全般が海洋酸性化現象に関連すると思われる個体数減少傾向にあり、また一部の地域の漁獲量は乱獲といえる水準に達しているのが懸念される。