ラプラス事件
らぷらすじけん
『機動戦士ガンダムUC』本編にて明かされた、宇宙世紀0001年1月1日に発生したテロ事件。
地球連邦政府の首相官邸が置かれている宇宙ステーション「ラプラス」が、西暦から宇宙世紀への改暦セレモニー中にテロリストによって爆破され、連邦初代首相のリカルド・マーセナス首相ら政府首脳陣を始めとした大勢の人間が命を落とした。その後の宇宙世紀の歴史に暗い影を落とすこととなった事件である。
本事件の直後に現場から偶然に回収されたものこそが「ラプラスの箱」である。
西暦から宇宙世紀への改暦以前、人類は急激な人口の増加、環境破壊、資源枯渇といった地球規模の問題を多く抱えていた。それらの問題解決のために、人類は宇宙移民計画を実行に移すためにスペースコロニーの建造と移民の計画に着手。
その地球規模での政策実現には国家間という枠組みを超えた協力が不可欠となり、従来の国連よりも強固な政策推進機関として人類規模の初の統一政権である「地球連邦政府」が発足した。
また、この副産物として、国境が廃止され全ての国家が一つとなることで、従来の国家の枠組みにより発生していた様々な過ちを全て過去のものとし平等に批判できることにも、リカルド・マーセナスは言及している。
しかし政治的・経済的等多くの理由から連邦政府の発足には反対意見も多かった。
従来の国家の枠組みを首脳陣が廃止しても、大衆の中にある国家間や宗教観といったわだかまりは消えるはずもなく、政治家と大衆の価値観がずれたままに強行されていく政策は大きな歪を産んでいる。
また、連邦が目指す移民政策は人口問題という危急の問題により半強制的な側面があるため、政策実現時に移住させられるのは貧困層で、富裕層は移住しないという点も、格差社会の問題を助長し反対の一因となっていた。
それらの勢力によって地球各地で少なくない紛争が勃発し、紛争を引き起こした勢力は「分離主義者」と呼ばれて断罪され、連邦政府の軍事力で容赦なく叩き潰されていった。
前身機関発足から50年あまりが経過した後、地球外居住施設として実用段階のスペースコロニー建造に成功した連邦政府は、宇宙移民開始を持って西暦から宇宙世紀への改暦を取り決めた。
かくして西暦最後の年の[[12月31日」」、地球の低軌道上に位置し、地球連邦政府首相官邸が置かれている宇宙ステーション「ラプラス」にて改暦セレモニーが執り行われる事となる。
地球連邦初代首相であるリカルド・マーセナスを始めとした各国代表が参加し、1月1日へと切り替わると同時に改暦を宣言。新しい時代の憲章である宇宙世紀憲章を発表する予定であった。
しかし改暦へのカウントダウン終了後、宇宙世紀0001年改暦と同時にラプラスは突如大爆発を起こし瓦解。リカルド首相や各国代表・官邸職員・マスコミ、周辺を警備していた連邦軍艦隊を巻き込み多くの犠牲者を出してしまった。
事件の後、死亡したリカルド首相に代わる新政権を直ちに発足させた地球連邦政府は、この事件を分離主義派によるテロであると断定し、「リメンバー・ラプラス」を合言葉に反政府勢力への徹底的な弾圧に乗り出した。
テロを画策した分離主義組織はそれを支援する国家共々、連邦軍の強大な軍事力で徹底的に叩き潰された。この闘争は宇宙世紀0022年に連邦政府が「地球上の紛争の全ての消滅」を宣言するまで続けられ、結果的に国家的基盤をゆるぎないものとし、宇宙世紀に移行した世界は地球連邦という統一政府の下に統べられるという歴史的なパラダイムシフトを推進させた。しかしこうして確立された体制は官僚主義への傾倒により政府体制の腐敗を招くこととなり、ティターンズの台頭、ジオニズムやコスモ貴族主義等反地球連邦主義を生むことになる。
事件後のあまりの手際の良さにより、テロはリベラルだったリカルド・マーセナス政権の転覆を狙った連邦政府内の極右派による陰謀ではないかとまことしやかにささやかれていたが、一般大衆は只のありきたりな陰謀論として信用せず、概ね連邦政府のテロ対策を支持していた。
しかし後になって、やはりこの事件は自作自演(もしくは政府内の内部抗争)であったことが明らかとなった。
この事件の首謀者はリカルド首相の息子で、後に地球連邦政府第3代首相となるジョルジュ・マーセナスを筆頭とした保守派勢力で、真の狙いは下記にある3つの目的を達成する、いわば一石三鳥の陰謀であった。
- リカルドや彼と近しい各国代表を暗殺する
- 分離主義派にテロ実行の濡れ衣を着せて弾圧する
- そうして連邦の権限を強める
『ガンダムUC』ではこの事実が、リカルドとジョルジュの子孫にあたるリディ・マーセナスとその父ローナンの心を苦しめることになった。
もちろん、このような大規模な計画が政治家1人の一存でどうこうなるものではない。
事件によって宇宙世紀憲章の石碑も失われ、レプリカが複製され地上の首都に再設置されたが、条文の一部が削除されるという事態となっている。この削られた条文は、半ば御伽噺のような「祈り」でしかなかったが、世襲という血族支配の多い権力者達にとってはそれを揺るがしうるものであった。
すなわち、連邦政府の中にも、宇宙世紀憲章は全会一致はしておらず、反対勢力も存在していたのである。
そしてセレモニーでは石碑はもちろん、推進派を中心とした要人、さらにその情報を知りうるマスコミまでが一堂に会しており、さらに完成間もない技術であるスペースコロニーは後年のそれに比べまだ脆弱であった。反対派にとっては、不都合な政策をその賛成勢力もろとも一網打尽にするまたとないチャンスであった。
結果、首相を式典会場ごと殺害するという前代未聞の計画は、その事後処理も含め見事な手腕で成功してしまい、事件の真相は闇に葬られ、ジョルジュ・マーセナスの意図も不都合な条文の廃止も成功してしまう。
…ただ一点、その証拠品であり検証されれば事件が明るみに出るきっかけになりかねない「ラプラスの箱」が遺されてしまったという点を除いては。
事件によって崩壊することとなるラプラスは、上下に展開する銀盤型巨大ミラーブロックが中央で回転するドーナツ型居住ブロックを挟み込む形で構成されている「「スタンフォード・トーラス型」(以下トーラス型)と呼ばれる宇宙ステーションであった。ちなみにこのタイプの宇宙ステーションは実際に現実世界において、スペースコロニーの設計案の一つとして公表されたものである。
トーラス型の設計において居住ブロックに太陽光を送り込むミラーブロックは一つ当たり1000枚にも及ぶ凹面鏡の集合体であり、制御プログラムによって居住ブロック内に気象変化を細やかに再現することが出来る。セレモニーではこの凹面鏡を動かして太陽光を反射し、夜の大気層に「Good bye,AD Hello,UC!」という文字を描くというパフォーマンスが行われる手はずとなっていた。
しかし凹面鏡の稼働は指定のプログラムにより全体が揃ったパターンでしか行えない仕組みになっていた為、このパフォーマンスを行うためには、各凹面鏡個別制御装置に角度変更プログラムを直接インストールするしかなかった。この作業を依頼された電機メーカーの作業員を装ってラプラスに侵入したテロリスト(実際は暗殺者)達は、この凹面鏡の角度を地球ではなくラプラスの構造部の一点に向けるように操作されるようにプログラムをインストールしていたのである。
こうしてインストールされたプログラムに従い、ミラーブロックによって反射された太陽光はその一点…居住ブロックの一画にある環境システムにつながる水の循環パイプに向けて高温の熱線となって収束する。熱線が収束された循環パイプの内部の水は瞬時に沸騰し、急膨張した水蒸気の圧力で循環パイプは破裂する。これに連動して居住ブロックの気圧も上昇すると、やがて水蒸気から分離した水素ガスの影響で水素爆発が発生。爆発によって居住ブロックは内側から崩壊した上、噴出した水素爆発の流れはミラーブロックの凹面鏡を粉砕して居住ブロックとミラーブロックをつなぐメインシャフトをも捻じ曲げ、周辺で警護していた多数の連邦軍サラミス級宇宙警備艇を巻き込みながらラプラスを崩壊させたのだった。
凹面鏡の角度を変更した暗殺者たちはラプラス崩壊を見届けた後、ラプラス宙域からの脱出を試みたが、小石程度の大きさのスペースデブリが燃料パイプに命中し足止めを喰らってしまった。
この時、当時17歳で貧困から報酬目当てでこの作戦に参加したサイアム・ビストが確認の為船外活動を行おうと外に出た直後、作業艇が爆発。サイアムは宇宙に吹き飛ばされてしまった。この爆発は、暗殺をテロリストの仕業にしたい地球連邦保守派による口封じであった。
命綱が途切れ、死の恐怖におびえるサイアムはスペースコロニーが地球の引力に引かれて落下していく幻を見るが、天文学的な偶然から自分の体と相対速度が同じだったラプラスの残骸の中に地球の光を反射して輝く箱状の物体、ラプラスの箱と遭遇することとなる。
箱そのものはただ条文が消される前の石碑に過ぎないが、その真相を知る者にとっては、もしも箱が公表されて第三者による検証が進めば、そこから事件の隠蔽が綻ぶ危険性はある。
つまり「連邦政府が転覆する秘密」とは、ジョルジュ・マーセナス達前政権要人を暗殺して形成された後継政権の転覆のことである。
このため、それを公表しないことを条件に連邦とサイアムの癒着によってビスト財団が生まれ、その資金がアナハイム・エレクトロニクスの発展にも寄与し、事件は思わぬ形で後の歴史を大きく変えていくことになる。
そして、ジオン・ズム・ダイクンとニュータイプの登場により、「消した条文がもしも残っていたら」の意味が変わってしまう。
その詳細は当該項目を参照。
首相をコロニーごと暗殺、そのどさくさで条文を存在ごと抹消という途方もない結果から、この陰謀は実現性が無いと指摘されることもある。
しかし、作中の西暦末期は地球が統一政府という現代国家政府とは比べ物にならない強権体制を得た世界であり、半強制的な移民政策を実施するという現代国家では人権的に困難なことが目的であるため、現代基準よりも政府の権力・統制は強い状態にある。
また、スペースコロニーや後年のモビルスーツから誤解されがちだが、民間レベルの生活水準は現代と比べても劇的に進化した未来というほどではなく、情報ツールやメディアは統制不能なほどの水準には達していない。
加えて本セレモニーは、地球連邦発足以来の一大イベント、数千年の歴史に区切りをつける劇的な日(現代で考えるなら、紀元前・紀元後の改暦を祝うようなもので、2000年以上前のことである)、そして史上初の官邸コロニーといった、歴史的に前例の無い盛大なものであった。
このため、警備や情報統制にも「前例」が無いために穴は多かったことが推測され、実際にコロニーの脆弱性がテロに利用されたことの他にも、穴があった可能性はある。
条文と一概に比較はできないが、日本の元号の改元のように、関係者だけは知っているがマスコミ等の外部に流出させないように進められること自体は現代でも存在している。政策においても、国会討論や会見の前段階においては、リークされない限り非公開で草案がまとまることは多い。
殺害・隠蔽を前提として考えれば、反対派にとっても不都合な条文をリークするより、非公開に協力し非公開のまま葬れば良いため、結果的にサプライズ発表したい推進派と抹消したい反対派が情報統制において利害一致していた可能性は高い。
条文の内容が科学的基準の無い、決定後に公表してもその時点では大衆に何の影響も無い(むしろ将来的には移民対象大衆の特になりうる)ものであった点も、情報の秘匿しやすさの一因と考えられる。