概要
「スパッツ(Spats)」はもともと英語で「脚絆(ゲートル)」を指す言葉である。これに対し「レギンス(Leggings)」は同じく脚絆を指す言葉であったが、現在では本稿で紹介するようなパンツタイプのボトムスのことを指し、フランス語の「カルソン(caleçon)」に相当する。
長いスパッツは以前から「ロングスパッツ」という名で存在していたが、「レギンス」と呼ぶ場合は2006年以降に(主に女性向け)ファッション用品として普及した物を指す。
形状としては股引に近く、足首のないタイツ・パンティストッキングのような外見である。
多くは日常生活向けと割り切って、耐久性を落として装飾性を高めた作りをしており、柄付けやレース加工等が施された物も見られる。
タイツと同じくナイロンやポリウレタンなど化学繊維製の薄手のものが主流だが、綿やシルクを用いた柔らかい風合いの生地や、厚手のニット生地が使われているものもある。
ロングスパッツは日本では主に「スポーツ用品」として普及しており、レギンスの名称が一般的になった現在でもスポーツ用品店で取り扱われることが多い。
ファッション用品として特化していった下着には、他にハイソックスやタイツも存在するが、それら2種は保温の役割が重視されているのに対して、レギンスはスポーツ用品譲りの通気性や伸縮性を持っており、暖かい時期に着用されることも多い。
この特性から、ミニ丈のボトムが流行していた2000年代中頃〜後半にかけて、「ミニスカートやショートパンツでサンダルを履きたいけど生足はちょっと抵抗が…」といった年頃の女性の声に応える形で広まっていった。
また、2008年ごろから流行した森ガール系の重ね着(レイヤード)ファッションとも相性が良く、ブームの下地を作った。
2009年頃からは生地を更に延長して足部を部分的に覆うデザインも流行し始め、「トレンカ」として独立したカテゴリを作った。また、保温性を持たせた冬用の物や男性用の物も普及し、パンツ・ズボンに似せたデザインで重ね着以外のシーンでも着用できるようなレギパン(パギンス)が登場するなど、現在進行形で研究が進んでいるファッションである。
類似する形状を持つ他の下着との見分け方としては、膝下丈(脛~足首丈)が「レギンス」、膝上丈が「スパッツ」、足の甲や土踏まずまで覆われていると「トレンカ」、足全体が覆われていると「タイツ」・「パンティストッキング」となり、股上が無いと「ハイソックス」、脚部のみだと「レッグウォーマー」となる。
ただしレッグウォーマーはその特性上綿やウール、アクリルなどのニット生地で作られることが多く、また靴下よりはゲートルに近い存在であるため、他のレッグウェアとは利用目的に差があり、日本で言うスパッツ・レギンスとは基本的に全くの別物となっている。
ちなみに一般的なレギンスは、締め付けが強く厚みがあるため、就寝時などリラックスしたい時には適さないとされる。
似たような経緯で若者向けのファッションアイテムとして定着したレッグウォーマーやステテコなどと違って、部屋着やパジャマとしてはあまり親しまれておらず、部屋着やパジャマとして販売されているレギンスも、むくみ防止・改善のための着圧タイプ(着圧ソックスの派生)や、防寒目的でパジャマの中に着るインナーとしてのものが大半である。
ただし、ワンピースタイプの部屋着などの下に履くズボン状のフィットするものとして、綿や柔らかいニット地で作られたものが「レギンス」の名称で販売されていることもある。
名称論争
日本における「スパッツ」が英語圏の意味からかなり離れたものになっていた事や、スパッツ自体の人気が低下傾向にあった中での発表だった事、業界の大人の事情が重なった結果、販売に際してかなり強引なイメージ戦略が行われ悪い意味で鮮烈なデビューを飾った事でも知られる。
酷い時には「“スパッツ”は昨シーズンから“レギンス”と呼ぶことになっているのでご注意を(笑)。年齢がバレますよ」と言った脅迫紛いのキャッチコピーまで打ち出され、ターゲットにしていたはずの女性層から総スカンに遭っても仕方が無い程のゴリ押しぶりであった。
そのような状況に対し、かねてからマスコミに対して不信感を抱いていたネット上の男性達が猛反発。スパッツ消滅を危惧していた愛好者も加わって煽られている女性そっちのけで代理戦争を始めるというわけのわからない事態も発生した。
実際、2020年現在は日常生活における「ロングスパッツ」の呼称はほとんどレギンスに吸収されて死語となっており、そのような中でも膝上限定ながらも「スパッツ」が残存した要因の何割かは彼らにあると言っても過言ではない。
着用を取り止めたり彼らに殊更に感謝したりする必要は無いが、レギンス好きならば心の隅に留めておいてほしい事実である。
一方、反発した男性の中に「レギンスを着用する女はマスコミに踊らされるスイーツ(笑)だ」「女達がスパッツ消滅に加担している」といった過激な意見を発する者が見え隠れした事もまた事実であり、成人女性のお洒落そのものをバカにする過激なロリコンや「見せるなら見せる、隠すなら隠すではっきりしろ!」という極端なそもそも論も入り混じって当時のファッション界は相当に混沌とした状況であった。文字通り賛否両論である。
もちろん男性が全員批判的な意見を持っていたわけではなく、テレビ番組などでスカートの下にレギンスを履いたタレントやファッションモデルが取り上げられたこと、漫画やアニメでもそのような女性キャラが2000年代後半辺りから散見されており、好意的な目で見ている男性も増えていた。
女性の間でも、折からの流行のほか、気軽にスカートやミニ丈のボトムが履けること、デニール数の高いものが多いのでパンストのように転んでも破れにくいこと、パンチラしないこと、防寒具になること、(毛糸のものを除き)静電気が立ちにくいこと、毛糸のパンツとは違い、お洒落着洗い以外でも洗えるものが多いこと、パンツ以外の乙女の恥じらいも隠せることなどが好意的に受け取られていき、徐々に論争は収まった。
商品は一切悪くなく、広めた団体のやり方が悪かっただけである。
スパッツ派にも言える事だが、決して過去の過ちを繰り返さず、ファッション自体の魅力と共存共栄の心掛けによって愛好者を増やしてゆくようにしていただきたい。
pixivではスパッツとの投稿数に差が付けられているが、レギンスをフェティシズムの対象ではなく普段着の一部として見ている人が多い証拠だと思いたい(黒脚フェチはいる模様)。
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