概要
子母澤氏はかつて江戸時代に活躍した房総地方の侠客を取材するべく当地を旅した際に知らされた、盲目の侠客「座頭の市」に興味を覚え、彼について原稿用紙にして十数枚に書き記し、これを題材に短編小説『座頭市物語』を執筆。当時雑誌に連載していた『ふところ手帖』の1篇として掲載され、以降、子母澤氏の小説全集にも収録されるなど広く知られるようになる。
1962年に勝新太郎主演で大映によって映画化されて以来、勝氏の渋みのある演技とともに大ヒットし、26作品に及ぶシリーズタイトルが公開され、現在でも国内はもとより日本国外にも多くの根強いファンがいる。勝氏は、後に監督としても本作に関わるようになり、以降も同じく勝主演で舞台・TVドラマシリーズが製作されるなどライフワークにもなっていた。
リメイク作も数多く制作され、有名所では舞台をベトナム戦争後のアメリカに置いたルトガー・ハウアー主演の洋画『ブラインド・フューリー(1990年公開)』、国内では2003年にビートたけし(北野武)が監督・主演を務めたリメイク版が、2007年には綾瀬はるか演じる初の女性版『ICHI』が制作され、話題を呼んだ。2010年にSMAP(当時)の香取慎吾主演の『座頭市 THE LAST』で一応の終幕を飾っている。
時代劇としての座頭市
兇状持ちで盲目の侠客である「座頭の市」が、諸国を旅しながら驚異的な抜刀術で悪人と対峙するアクション時代劇小説。強烈な殺陣シーンと深い物語が多くの時代劇ファンを引き付ける。
作風は現在の時代劇に比較するとバイオレンス色の濃い娯楽時代劇であるが、同時に、勧善懲悪という単調な枠では括れない「人情」や「人間の業(最初に 無二の親友平手造酒を斬る)」を描いた脚本が多くの人々を魅了し、キューバのカストロ前議長も座頭市シリーズの熱心なファンとして知られている。
人物としての座頭市
本作の主人公であり、日本諸国を旅する盲目の按摩師。
盲目でありながら達人級の居合の腕前を持つ剣客であり、原作では得物が長ドス(白鞘の刀)であった(そして原作の座頭市はそもそも作中で戦っていない)が、勝のアイディアで仕込み杖に変更されており、現在まで語られる座頭市像は同じく勝や監督らのアイディアがふんだんに盛り込まれた存在となっている。
「座頭の市」という呼称は元々、「座頭」は盲人の一階級、「市」は按摩師が使う仕事用の名前である。この呼称はあくまで役職上の名前であり、本名は現在まで作中でも制作側からも明かされずにいる。
基本的に平和主義者で、普段は誰彼にも丁寧で愛想良く振る舞う温和な人物。
困った人を放っておけず、目が見えないなりに何かと手助けをしたがる世話焼き、人情家な面もある。そのため、作中では相手の頼み事を受けた結果、大きな事件に巻き込めれていくことがほとんど。コミカルな側面も強く、大飯食らいで握り飯を口いっぱいに頬張って食べたり、盲目故距離がつかめず物を取り損ねたり、火を焚べようとして薪と間違えて大根を火に放ってしまったり…など、よくドジを踏むことも。また、無類の博打好きでもあり、サイコロの転がる音で出る目を聞き当てられる特技を持つ。
しかし、自分やその友人・恩人を殺そうと刀を抜いてかかってきた者は容赦なく斬る。目は見えずとも相手の殺気を即座に察知し、多勢を相手にしても瞬く間に斬り伏せる凄腕の剣客。ただし、相手が女子供とわかると手出しができず、こうしたときは逃走して危機を逃れている。
大映座頭市シリーズ
作品名 | 公開年月 | 監督 |
---|---|---|
座頭市物語 | 1962年4月 | 三隈研次 |
続・座頭市物語 | 1962年10月 | 森一生 |
新・座頭市物語 | 1963年3月 | 田中徳三 |
座頭市兇状旅 | 1963年8月 | 田中徳三 |
座頭市喧嘩旅 | 1963年10月 | 安田公義 |
座頭市千両首 | 1964年3月 | 池広一夫 |
座頭市あばれ凧 | 1964年7月 | 池広一夫 |
座頭市血笑旅 | 1964年10月 | 三隈研次 |
座頭市関所破り | 1964年12月 | 安田公義 |
座頭市二段斬り | 1965年4月 | 井上昭 |
座頭市逆手斬り | 1965年9月 | 森一生 |
座頭市地獄旅 | 1965年11月 | 三隈研次 |
座頭市の歌が聞える | 1966年5月 | 田中徳三 |
座頭市海を渡る | 1966年8月 | 池広一夫 |
座頭市鉄火旅 | 1967年1月 | 安田公義 |
座頭市牢破り | 1967年8月 | 山本薩夫 |
座頭市血煙り街道 | 1967年11月 | 三隈研次 |
座頭市果し状 | 1968年8月 | 安田公義 |
座頭市喧嘩太鼓 | 1968年12月 | 三隈研次 |
座頭市と用心棒 | 1970年1月 | 岡本喜八 |
座頭市あばれ火祭り | 1970年8月 | 三隈研次 |
新座頭市・破れ!唐人剣 | 1971年1月 | 安田公義 |
座頭市御用旅 | 1972年1月 | 森一生 |
新座頭市物語・折れた杖 | 1972年9月 | 勝新太郎 |
新座頭市物語 笠間の血祭り | 1973年4月 | 安田公義 |
座頭市 | 1989年2月 | 勝新太郎 |
シリーズ最大のヒット作は岡本喜八監督の『座頭市と用心棒』。しかし大映の撮影現場で東宝流を貫く岡本のスタイルは宮川一夫カメラマンと対立し、現場は険悪な雰囲気に陥ってしまった。
さらに大映のスタッフは時間にルーズであり、時間厳守の東宝出身である岡本と三船敏郎だけが定時出社し、スタッフが監督と準主演を待たせるという事態も見られた。
亜流作品
大映座頭市シリーズのヒットに伴い、東映の東千代之介主演『めくら狼(1963年)』、松竹の松山容子主演『めくらのお市(1969年)』シリーズなど他社でも類似した盲目の剣豪が活躍する映画が作られた。
テレビドラマ
- 「座頭市物語」(1974年-1975年)
勝新太郎主演。フジテレビの開局15周年記念番組として製作された。
- 「新・座頭市」(1976年-1979年)
勝新太郎主演。「座頭市物語」の続編で第3シリーズまで作られた。
リメイク映画
盲坊主 対 空飛ぶギロチン 盲侠血滴子 THE BLIND SWORDSMAN'S REVENGE
1977年、屠忠訓監督作品。勝新太郎のモノマネタレント酒巻輝男が「勝利太郎」名義で出演。座頭市かぶれの日本帰りの中国人という設定。
ブラインド・フューリー
1989年、フィリップ・ノイズ監督作品。ルドガー・ハウアー主演。舞台はベトナム戦争後のアメリカ、座頭市に相当する人物はベトナム戦争の帰還兵という設定。
座頭市
盲目の居合の達人という座頭市の設定以外は完全オリジナルのリブート作品。
ちなみにビートたけしはこれ以前にも座頭市をパロディしたコントをやったことがある。
ICHI
主人公の座頭市を女性にした女座頭市。
座頭市 THE LAST
「LAST」の由来は映像化権を持っていた制作会社が映像化権を子母澤寛の遺族に返上することに伴う。
ただし2037年をもって「座頭市」はパブリックドメインになるため、以後の映像化は自由となる。
関連動画
関連タグ
座頭市をモデルとするキャラクター
プリミティブドラゴン(特撮番組『仮面ライダーセイバー』)