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戦略爆撃機

せんりゃくばくげきき

爆撃機の一種。航空機の多用途化やミサイルの発展に伴って、要撃戦闘機などとともに徐々に活躍の場が狭まっている。
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概要編集

戦略爆撃機とは、前線より奥の敵支配地域にある戦略目標(存在が戦争の大局に大きな影響を与えうる目標)を攻撃する事を目的として設計、製造された爆撃機である。


戦略目標は、補給基地、司令部、工場発電所トンネル高速道路鉄道港湾施設民家など。

これらを攻撃することで、敵の作戦の遂行を不可能ないし大幅に遅らせたり、軍や政治、経済を麻痺させたり、厭戦気分を煽ったりする事が主な任務である。

加えて冷戦時代は核兵器による核爆撃も戦略爆撃機の重要な任務であった。


前線を超えて、敵地奥深くの(頑丈な)目標に確実なダメージを与える、というのが理想ではあるが、精度や迎撃の問題があったためなかなか思うようにはいかなかった。

結局真に戦略爆撃機らしい活躍ができたのは、現実にはB-2ぐらいのものだったりする。


求められる条件は…

  • 航続距離が長いこと。
  • 速度が速いこと。高高度性能が良いこと。
  • 積載量が大きいこと。
  • (最近は)ステルス性。

…などなど。


歴史編集

第一次世界大戦まで編集

Gotha G.ⅣツェッペリンL70

敵軍を迂回して敵の補給路や拠点を破壊せんとするのは古来から戦争の常道であり、航空機と言う格好の迂回手段が登場してから、戦略爆撃機の誕生までは時間がかからなかった。

軍用機の運用手法としては偵察機の次に古い。

歴史上最初の戦略爆撃は伊土戦争の最中である1912年、アルバトロスF.2がトルコの鉄道駅を目標としたものと言われている。


以降航空機は目覚ましい発達を遂げ、第一次世界大戦では飛行船を含む大型爆撃機が参加国の間を飛び回って戦略爆撃を繰り返し行った。

しかしながら、盛んにおこなわれた戦略爆撃は早くも限界を露呈した。

戦闘機や対空砲など迎撃技術が急速に発達しており、鈍重な戦略爆撃機は迎撃が困難な夜間の攻撃を余儀なくされた。夜間は照準が困難であるため爆撃精度は大幅に低下し、思惑通りに敵の拠点を的確に破壊することは最早不可能に近かった上、全く迎撃されないわけではなく、爆撃機側の犠牲はゼロにはならなかった。


第二次世界大戦まで編集

[pixiimage:15844366:s]

現代では非人道的と批判されることが多い無差別戦略爆撃だが、当時はむしろ「クリーン」な戦争手段だと考えられていた。

第一次世界大戦の直後、機関銃と大砲の組み合わせがいかなる地獄を産み出すかを思い知った世界は、陸戦を経ずに戦争を終わらせる(かもしれない)戦略爆撃機に強く惹かれていくようになる。


特に強く惹かれていたのが英米だった。

地続きの敵国を持たない米国は必然的に海軍国であったため、陸軍の肩身は狭くなりがちだった。

しかしながら海を越えて敵国に痛打を与え戦争を終結に導く戦略爆撃機があれば、陸軍は海軍以上の対外攻撃能力を手に入れることになり、海軍に一泡吹かせられるかもしれない。

独立したばかりの英国空軍でも事情は似たようなもの。確たる伝統と歴史を持つ海軍と比較して新興の空軍の存在感は大きいとは言えず、単なる陸海軍の補佐役に留まらない能力を持つために、戦略爆撃機は魅力的に映った。


この時問題とされたのが第一次世界大戦で発生した迎撃による被害だが、当時の軍部はこれが航空機の性能向上により解決可能だと考えていた。

莫大な搭載量の一部を装甲と火器に充て、密集編隊の大火力によって戦闘機を跳ね返すことができれば、迎撃されるとしても護衛は不要だった。

大型の戦略爆撃機は大型のエンジンを多数搭載可能であり、大出力により戦闘機以上の速度と高度を実現すれば、そもそも迎撃が不可能となる。


防御力と火力に物を言わせた好例はB-17であり、速度と高度により振り切ろうとした例はB-29であった。

結果から言えばどちらも失敗した。

大型とは言え所詮は航空機、搭載可能な装甲と火力には限界があり、戦闘機を迎え撃つには全く足りなかったためB-17は多大な犠牲を出した。

一方B-29は迎撃を回避することには成功したものの、高速高高度からの投弾では爆弾が散らばってしまい、精密爆撃はもちろん、「無差別爆撃」をやると考えても命中精度が小さすぎた。


結局戦略爆撃は、夜間ないしは高高度から当たるも八卦で爆弾をばらまくか、大量の護衛機により念入りに制空権を確保したうえで爆撃を行うしかなかった。

このように戦略爆撃機の限界が改めて露呈し、各国はようやく目を覚ますことになる……ことはなかった。

核兵器の誕生が、戦略爆撃機にもう少しだけ夢を見せることになる。


ベトナム戦争まで編集

絨毯爆撃XB-70 ヴァルキリー 【戦闘機ワンドロ 61】

核兵器の凄まじい威力と範囲は、爆撃機の精度不足を完全に解決したと思われた。

通常爆弾ならば目標施設の数メートル以内に落とさねばならなかったところが、キロメートル単位のズレも許容されるようになったわけで、高速高高度爆撃機の実用性が大幅に向上した……と、いくつかの国は判断した。


この流れで誕生したのが、英国の高高度爆撃機ヴァリアントバルカンヴィクターからなる「3Vボマー」、米国の超音速爆撃機B-58XB-70である。


しかしながら、核兵器はその破滅的な威力により、一方の滅亡まで決して止まらない終末戦争の引き金となりかねず、結局「最終手段」として維持され続け実際の仕様は行われなかった。

これに加えて核爆弾の運用手段としてICBMが発達した。無人であり、超高速で超高高度より飛来するICBMは、超音速爆撃機よりも確実性が高かった。

核運用の切り札としての立場を奪われ、またそれ以外の通常爆撃に使うにはコストパフォーマンスが悪すぎた超音速爆撃機は早々に見限られてしまった。B-58は早期に退役し、XB-70は完成することもなかった。

一方で3Vボマーの方は低空飛行でレーダーを回避し通常爆弾を投下する運用に切り替えられることになる。

ヴァリアントを除けばこの方針転換は一定の成功を見せたが、3Vボマーの退役以降英国が戦略爆撃を配備することはなかった。


そして60年代に発生したベトナム戦争が、新時代における無差別爆撃戦術の新たな問題を明らかにした。

無差別爆撃は敵の士気をさほど傷つけなかったばかりか、むしろ味方の士気を大幅に傷つけるようになったのである。

この戦争に於いて、米国は[北ベトナム>ベトナム]の士気を破壊するために、第二次世界大戦以来の苛烈な絨毯爆撃を敢行、北ベトナムの軍事力とインフラを粉砕したが、それでも北ベトナムの士気は折れなかった。

爆撃中止と引き換えに締結させたパリ協定で停戦は成ったものの、北ベトナムは爆撃中止と同時に猛烈な勢いでインフラを復旧、戦力を再整備、米軍撤退後に進軍を再開するや瞬く間に南北ベトナムを統一してしまった。

一方で発達した放送技術により米国民の眼前に届けられた被爆地の映像は、あまりの悲惨さにより米国民に罪の意識を芽生えさせ、また味方であるはずの西側諸国からも非難の声が上がるようになった。

自国に被害を及ぼしているとなれば反省の色を見せないわけにはいかず、以降爆撃戦術には高い精度が求められるようになっていく。


現代編集

B-1B ランサー 【戦闘機ワンドロ 73】B-2 Spirit

冷戦後、戦略爆撃機にとってはプラスとなる技術が開発された。

1つは誘導兵器である。

戦略爆撃機最大の難点はその鈍重さにあるが、爆弾そのものが自ら機動して目的地に向かってくれるならば母機が細かく動く必要は無い。

そしてもう一つはステルス技術、特に対レーダー。

従来機よりも大幅にレーダーに見つかりにくいステルス機であれば、敵のミサイルに狙われることもなく目的を遂行できる。


この二つの技術を導入されたF-117は、規模的に戦略爆撃機と見做されない機体ではあるものの、「敵地深部に侵攻し、目標に大打撃を与え、そして帰投する」という、航空機開発以来空軍が夢見て止まなかった「戦略爆撃」の理想を、史上初めて現実のものとした機体であった。この発想は後のB-2につながる。

誘導兵器の誕生はB-52のような非ステルスの戦略爆撃機にも活路を与えた。

80年代以降開発が盛んになった超長射程の巡航ミサイルは、敵の防空網の外側から重要施設を攻撃する手段となり得たが、大量の燃料を搭載する都合どうしても大型化、大重量化してしまい、戦術爆撃機には少数しか搭載できない。

これの運搬手段として選ばれたのがB-52であり、湾岸戦争では開戦初日にイラクの重要目標を攻撃した。


また別の用途としては、主にB-1Bが担わされた近接航空支援が挙げられる。

近接航空支援とは、地上の味方に近接している敵を攻撃することで味方を直接的に支援する爆撃戦術である。

味方が間近であるため爆撃には高い精度が求められ、従来は小回りの利く戦術攻撃機を使わなければならない任務であったが、誘導兵器により戦略爆撃機が近接航空支援に従事することが可能になった。

小型の戦術爆撃機には搭載量と航続距離の問題があり、長時間爆撃任務を続行することが難しい側面があったが、戦略爆撃機であれば長時間にわたり上空に待機し、味方の支援に応じて速やかに爆弾を投下できる。しかも安全に。


完全に戦術爆撃機の代替が可能と言うわけではないが、戦略爆撃機による近接航空支援は効果の高い戦術であると認められ、B-52、B-1ともに小型誘導兵器の搭載を前提とした改修が施され、戦術爆撃用の照準ポッドにも対応している。


将来編集

B-21 "Raider"

未だ有用であるとはいえ、大型の機体を維持するコストを許容できる財政状況の国家は多くなく、現在戦略爆撃機を運用し、また新型機の開発を進めているのは米国、中国ロシアのみである。

それぞれB-21、H-20、PAK-DAという名前が公表されている。公式に想像図が公開されているのはB-21のみだが、他の機種もB-2に倣った全翼機設計を予定しており、ステルス性の追求はもはや戦略爆撃機としては必須の要件となった。


また確定的な情報ではないが、米ロの計画には空対空戦闘能力が含まれるという報道がされている。

戦闘機にはステルス性と電子戦能力が運動性に先んじて求められるようになってきている現代、戦略爆撃機は鈍重ではあるが、その分大型のレーダーや豊富な電子戦装備を搭載可能であるため、この能力を活かして機動することなく敵を堕とすというのも夢物語ではなくなってきている。

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