概要
「殺っちゃえ!!宇喜多さん」とは重野なおきによる戦国時代四コマ漫画である。
「信長の忍び」「軍師黒田官兵衛伝」のスピンオフ派生作品で、備前の大名・宇喜多直家を主人公とした作品。
2021年、「コミック乱ツインズ」2021年4月号より連載開始。さらに2021年8月より、コミックボーダーにて5か月遅れで無料公開されているが、2022年9月2日を以って第4話から第11話の公開が終了となり、今後の話は約4ヶ月間限定で公開される。
そのため、書店で探す際には「信忍」「官兵衛」のある白泉社の棚ではなく、リイド社の棚を探すように。
あらすじ
世は戦国時代。一人の大名がいた。
その男、目的のためなら手段を選ばず、謀略と奸計をめぐらし、そして敵対する者は
「暗殺で、殺っちゃいましょうか。」
と次々と暗殺し、勢力を拡大。周辺勢力からは「暗殺大名」として畏怖されることになる。
男の名は宇喜多直家。
これは戦国屈指のダークヒーローの波乱に満ちた生涯を描いた物語…。
物語の流れについて
単行本第1巻のあとがきにて、作者は「備前軍記を参照に描いている」「直家の暗殺説話は真偽不明な部分が多い」「あくまでも物語として楽しんでほしい」と記している。
ピクシブ百科事典の宇喜多直家の項目にて記されている通り、近年の史料研究の結果、説話と実情が異なっている点が多いため、下記の登場人物の紹介が史実に沿っているとは限らない。
第1話の時点で「説話になぞらえた展開」と気づいた読者も少なからずいたと思われる。
登場人物
宇喜多家
宇喜多直家(宇喜多八郎)
主人公。戦国三大梟雄の1人に数えられる暗殺大名(ダークヒーロー)。予告編においては、不気味な笑顔で左手に扇子、右手に毒針という出立ちで描かれた。
プロローグでは「暗殺を駆使して成り上がった大名」と酷評される一方で、「目的のためなら手段を選ばないのは戦国大名としては当然でむしろ立派」とする声もあることがナレーションで語られる。
幼名は「八郎」で第8話で元服し「直家」と称する(本項では特記ない限り「八郎=直家」とする)。
6歳で兵法書を読破し、尊敬する祖父のように立派な武将を志すも、その祖父が殺され、家は没落。流浪を経て阿部善定の下で庇護され、祖父の仇討ちと御家再興をどんな手を使っても成し遂げるべく、周りの目を欺きながらも静かに牙を研ぐ日々を送り、1543年、15歳で浦上家に仕官。
強靭で平静な心の持ち主で、武芸はからっきしだと語りながら、書物を読み漁ったことで得た知識を大いに活用し、初陣では恐怖を微塵も感じず見事兜首を挙げ、乙子城主となる。
乙子城主となってからは、忠家や家臣たちと共に城の改修、耕作、海賊相手に掠奪、数日おきの絶食(兵糧として蓄えるため)を行い、着実に力を着けていく。
そして宗景の命令により、同族である浮田国定を討伐するが、予想外の反撃に遭い、4年にもわたって繰り広げられる事態に。最終的に討ち取ったものの、正攻法では時間がかかり過ぎた、そしてその結果自分について来てくれた家臣や将兵を死なせてしまったと悔い、目的である御家再興を果たすにあたって、被害を少なく、効率よくなすための方法を模索することを決意する。
戦後、褒賞として新庄山城を追加され(最初に出された褒美は「宗景とタダ酒飲める札(3枚)」であり、「一瞬謀反を考えた」と直家を内心キレさせた)、更なる発展・増強を目指す。更に1551年には、宗景の命令により、中山信正と姻戚関係を結ぶ。政略結婚故に乗り気ではないが、命令服従・跡継ぎの必要性を考えて割り切っている。
忍耐力と時勢を読む力にも長けており、祖父の仇・島村盛実に対しては、怒りに任せず、互いに牽制しあいながら、首を狙っている。そして1559年、遂に主君より島村の討伐命令がくだるが、同時に義父・中山も討伐するように、さらに年内に始末するように命じられる。
忠家・戸川・岡・長船の4人を呼んで密議を開き、改めて「御家再興のためなら手段を選ばない」姿勢であることを宣言し、損失を少なくして効率良く達成する手段として「暗殺」で島村・中山両名を始末することを決意する。目的の為なら悪名の謗りを受けることも覚悟の上で…。
そして迎えた決行の日、鷹狩・酒宴を愉しんだ後寝所に向かった中山を「背後から自らの手で刺殺する」形で暗殺。忠家に沼城を制圧させ、狼煙を上げて宗景に合図を送り、島村を招き入れることに成功し、王手をかける。
島村と対峙した際、祖父の敵討ちについてはどうでもいいとしたものの、宇喜多家没落の恨みは十分あり、「先に進むためにも殺す」と宣言。「家臣の一斉攻撃」の形で元凶・島村を暗殺。25年にわたる復讐劇に幕を下ろす。直後に妻が自害し、ますます黒く染まりながらも宇喜多家拡大に向けて更なる一歩を踏み出す。
島村・中山の領地を得て力を得たことを機に「浦上家からの独立」「三村家への対抗」を目指し,更なる力を得るべく西備前の有力勢力・穝所元常を標的にし、忠家を大将に任命して攻撃させるも敗退。正攻法では不可能であることと宇喜多家には「一騎当千」「天才軍師」といえるほどの人材がいないことを痛感させられる。一方で情報の有益性もこの戦いで知ることになり、忠家がもたらした情報をもとにハニートラップ作戦による暗殺を計画。美形の小姓・岡清三郎を刺客に差し向ける。なお清三郎に対して「殺ったあとできるだけ生きて帰るよう、焦らず状況を見て動く」ように厳命しており、家臣を大切にし、暗殺の実行役を使い捨てにしない姿勢が窺える。
龍ノ口城攻略後、宗景に呼び出され、浦上家と三村家親が完全に敵対するようになったと告げられ、改めて三村家との対抗手段を模索するようになる。そのような中、三村に滅ぼされた美作三浦家の未亡人・お福と跡取り息子・桃寿丸が備前に潜んでいることを知り、忠家の提案を受け入れて2人を宇喜多家に招く。
登城した2人を労いつつ、お福の目的が「夫の敵討ち」であり、「宇喜多家を利用しようとしている」と看破する。「敵討ちをしなければ先に進めない」と発言した彼女にかつての自分を見出し、三村家と事を構えることを改めて決意するも、戦力差は余りにも大きく(直家曰く3〜5倍)、暗殺しようにも近づくことすら難しいため手詰まりに近い状態のまま日々を過ごす。
年が明けて1566年、善定の勧めで鉄砲を導入。命中率の低さから暗殺には不向きと考えるも、「訓練すれば誰にも使える」「当てれば必殺の威力を持つ」ことから、鉄砲隊の編成を目指す。同時に三村家親を「鉄砲で暗殺」することを画策し、「家親の顔を知っていて厳重な警備を掻い潜れる鉄砲の名手」を探すように家臣に命じる。そして卓越した腕を持つ遠藤兄弟が招かれたことで、家親暗殺計画を実行に移す。
妻との死別後、「正妻不要」「恋愛感情は弱点になり得る」「跡継ぎ息子は適当に側女探して産ませればいい」と考えるようになる。お福に対しても警戒を強めていたが、彼女の才色兼備なところや芯の強さから、ふとしたことで年齢差を意識して困惑しつつ、復讐にとらわれる彼女の心身を案じるように。そして家親暗殺成功後、三村との争いはまだ続くとし、引き続きお福・桃寿丸親子の宇喜多家滞在を認めることに。商取引にきた善定から理由を聞かれた際には「なんとなく」「少しぐらい華がある方がいい」と答えている。
宇喜多忠家
直家の弟。異母弟だが兄から影武者に仕立てようかと考える程に似ている。
プロローグでは「城攻めが上手くいっていない」と兄に報告し、「仕方ないので暗殺で決着をつける」と言い出した兄に恐怖していた。またこの時点で鎖帷子を身につけていることがナレーションで語られた。
阿部善定を外祖父に持っており、島村の一件では母と共に阿部家にいた為に難を逃れる。幼名は作中記されておらず、直家から名前を呼ばれるのは第13話になってからである。
勇猛かつ実直で、無茶振りをかます兄に一番に振り回されながらも、御家再興を目指す兄の力になるべく奮闘する。その一方で短気で早とちりな面を見せており、兄を困らせることも。
砥石城返還がならなかったことに激しく憤り、兄から落ち着かせるために兄特製のしびれ薬を飲まされそうになる。その後兄から更なる発展を目指すにはうってつけという点で納得していることを聞かされ安心したが、緊張が切れたためか、放置されていたしびれ薬をうっかり飲んでしまい、兄をドン引きさせていた。
密議において、暗殺で決着をつけると言い出した兄に対し、「義父殺し」「卑怯者」と謗りを受けると危惧するが、当の兄や戸川・岡・長船の様子を見て覚悟を決める。ただ「別の機会で汚名返上すればいい」と考えており、兄から「まだ覚悟が中途半端」と評される。
決行の日において、侍女の悲鳴から「中山の暗殺が成功した」と判断し、口笛で合図をかけて軍勢を招き入れ、沼城の制圧の指揮をとった。
決着後、直家の妻が自害したことを報告し、兄の命令により、代理で手厚く弔った。御家再興・安泰に拘るが故に人としての幸せを捨て去ろうとする兄の心身を案じ、人として繋ぎ止められる「強く、聡明で、暖かな」女性を伴侶に迎える必要があるとし、探すことを決意する。
本作におけるツッコミ役兼イジられ役といえる存在。回を重ねるにつれてシリアスな空気をぶち壊すような言動や失言が多くなり、その度に兄から針を投げられる等の制裁を受けるようになる。回数を重ねるにつれ、至近距離で投げつけられた針を手で受け止めるまでになり、家臣から「防御力が上がっている」と評された。本人も自覚があるようで、「失言の多い身内に対する制裁」を理由に遠藤兄弟から鉄砲を教わろうとする兄に対し、「それ絶対自分」と慌てて止める程である。
一方で「軍を率いる大将としての腕前は自分より優れている」と認められている。穝所元常討伐戦で大将を務めるも難攻不落の龍ノ口城を落とせず、反撃を受けてしまい撤退した。
美作三浦家が滅ぼされた際、お福と桃寿丸が備前に落ち延びたという情報を入手し、三浦家の旧臣引き込みや三村家討伐で役に立つかもしれないとし、宇喜多家に招くことを提案する。お福の美貌に酔いしれるも、身一つの状態ながらも「夫の敵討ちを果たせる力を持つ勢力」を慎重に選び、直家に対して臆することなく互角に張り合える程の聡明さと芯の強さを持つ彼女に驚愕する。
お福
直家の妻(継室)で八郎(秀家)の母。初登場は軍師黒田官兵衛伝。泣きぼくろがトレードマークの美女。
コミック乱ツインズ2021年3月号に掲載された予告編にて直家と隣立って描かれており、本作におけるヒロインとして登場することが示唆されていた。
第19話で初登場。美作の実家にて勉学に励み、「周りへの簡単かつ最高の貢献」として「笑顔」の鍛錬にも励み父親を感心させていた。なお、彼女の出自は諸説伝わるが、本作では言及されていない。
第23話では、美作高田城主・三浦貞勝に嫁ぎ、嫡子・桃寿丸をもうけるも、三村家親の攻撃を受けて高田城は落城し、夫と死別する。近隣の諸勢力から誘いを受ける中で桃寿丸の安全を最優先し、その聡明さから亡命先の備前でもっとも勢いがある宇喜多家を選ぶことを決断。
1565年、直家と対面を果たす。「夫の敵討ちを果たせる力を持つ家」として宇喜多家を利用しようとしていることを直家に看破され、これを認める。「三村と結ぶにあたっての手土産にされるとは考えなかったのか」という直家の問いに対し、「浦上・三村・宇喜多の当主の関係性・動向を総合的に考慮してそれは絶対にない」と答え、忠家や周囲を驚愕させた。そして「夫の敵討ちを果たさなければ先に進めない」と発言したことで、直家から庇護を認められることに。客人ではあるが居候の身であることを考慮して城内の清掃や修繕に励み、笑顔を見せたことで直家から意識されるようになる。一方で家親暗殺が成功した場合、庇護される理由がなくなるとして宇喜多家を去ろうと考えている。そして家親暗殺成功を直家から聞かされた際、「ようやく先に進める」と涙を流して感謝した。その後、三村との争いはまだ続くとして引き続き庇護されることになり、「しっかり働きます」と笑顔を見せて答えた。
三浦桃寿丸
お福と三浦貞勝との間にできた息子。
高田城落城後、母や僅かな従者と共に備前に落ち延びる。後に母と共に宇喜多家に招かれるが、独特の雰囲気を持つ直家を怖がる。
八郎(秀家)の異父兄にあたる人物である。
中山信正の娘(名前不明)
第13話で初登場。文字通り中山信正の娘で、1551年、宗景の命を受けた父の意向により、直家に嫁ぐ。
彼女自身は没落を経験した家に嫁ぐことに不満を示し,祝言の場で直家に対して愛想笑いをして挨拶したものの、内心では「貧相で陰気な男」と酷評した。
8年の時を経て、娘を多くもうけるも、直家とは屋敷内で文通とつかず離れずの間柄で、「夫としては面白味はない」としながらも、当主としての力量と政治手腕の高さは評価するようになる。
常に無表情であり、父に対しても素っ気ない対応であるが、父からもらった打掛を着続けており、忠家曰く「ツンツンしてるけど父想い」。温室育ちのお姫様気質ゆえに、直家からは戦国の世を生きる覚悟が出来ていないと評されたが、夫婦としての知見を得られたことには内心感謝されている。
侍女から、父が直家に暗殺されたと聞かされた際にはかつてないぐらいに驚愕し、「何のために嫁いだ」「こんなことがあっていいのか」と絶望して落涙したすえに自害した(自害の直接のシーンは描かれなかった)。
直家自身は別れることになると予測はしていたが、忠家から訃報を受けた際には「これで完全に最低最悪の夫になってしまった」と自嘲し、「自分に弔ってほしくはないだろう」と忠家に代理で弔わせた。
宇喜多能家
直家の祖父。備前砥石城主。
浦上家臣で、智勇兼備の名将であったが、初登場の時点で老齢であり、関節痛も患って歩行困難な状態。
現当主である息子・興家の暗愚さを嘆いており、嫡孫・八郎を「宇喜多家希望の星」として期待をかけ、全てを教え込もうとするが、その矢先に島村盛実に襲撃され、逃げきれないことを悟り、家族を逃すことを条件に自害した。
生前阿部善定の才を見出し、御用商人として取り立てており、直家による御家再興の礎となる。
彼の死により直家の復讐劇が幕が上がるものの、「本当に立派だったのか」と疑問視され、25年を経て仇敵・島村と沼城で対峙した際には「戦国武将としては甘かった」「自業自得」と直家に酷評され、「そりゃないよ八郎ー!」と言わんばかりのリアクションを背後でとったが、直後「大好きなことには変わりない」とフォローされ、「ならいいかー」と救われた表情を見せた。
宇喜多興家
直家の父。
自他共に認めるほどの暗愚で通っており、武芸も学問もまるでダメだが、八郎曰く「おなごにてをだすのははやい」とのことであり、母性本能をくすぐられるのかモテる。
一方で島村の一件について「主家である浦上家も関わっているのではないか」と推察し、備前にいること自体が危険と判断。正妻と八郎と共に備後へ亡命。
後に舅である阿部善定に誘われて再び備前に入り、牛飼いとなったところ見事に才能を開花させ、「牛飼い王にワシはなる‼︎」と宣言。
八郎に対し、「ワシとは違って立派な武士になるのだぞ」と諭すが、病により元服を見届けることなく急逝。八郎・忠家・正妻・側室はもとより世話していた牛も彼の死に涙した。
「暗愚と酷評され、精神を病んで自害した」という説を完全否定するほど強靭な心を持ち合わせており、その心は直家に引き継がれたと取れなくもない。
八郎(直家)の母
興家の正室で、文字通り八郎の母。
頼りない夫とは対照的で、貧窮で辛い思いをする息子・八郎に対し「山賊ブッ殺して金品を奪う」と発言し、八郎をして「母上が当主だったらな」と言わしめる程の気丈さを見せる。
夫に対しては頼りなさに加えて、通い妻の家で牛飼いに精を出すようになったため、当初はブチ切れて往復ビンタかましたが、自分が我慢すればいいということで阿部家に居候する。
一方で夫が急逝した際、「寝る間も惜しんで働き、周りから慕われ,辛い時でもへこたれなかった」と讃えた(
直後「そのやる気を武将時代に発揮してほしかった」と発言したが)。
その後八郎を姉のいる尼寺に預け、浦上家に侍女として出仕。島村からの嘲りに耐えつつ熱心に奉公し、同時に主君・浦上宗景に対し八郎の仕官を説得を続け、遂に取り付けた。登城する八郎を見送るシーンを最後に回想を除いて登場しない。
ちなみに彼女が発した「山賊から奪う」という精神は、乙子城主となった直家が忠家や家臣たちと共に敢行した海賊相手の掠奪という形で受け継がれていると言えなくもない。
史実を反映させてか名前が設定されておらず、重野氏の戦国作品としては珍しいケースである。
阿部善定
備前福岡の豪商。興家の舅で忠家の外祖父にあたる。外見はかなり若々しい。
かつて能家に見出されて御用商人となり、遂には豪商となった。その恩義から没落した宇喜多家を探し当てて屋敷に迎える。
娘が興家から寵愛され、子供も成していることから八郎から「自分の孫に宇喜多家を継がせようとしている。」と疑われ、隠し持っていた毒針で殺られそうになる。
もっとも当の本人は、八郎の御家再興において武器や情報を売り捌くことで宇喜多家の勢力を拡大し、同時に自分も儲かり、販路を拡大できるという勝者〜勝者の関係となる「利」を求めて八郎の後見役となり、政治情勢の伝授や金銭支援を行う。
ただし八郎に対して見込みが無かったら追い出すと発言したり、夫の死によって阿部家を出る八郎の母に対して何百倍の利を求めて投資したのですがと発言したり、乙子城主となった直家に対して(浦上家から託された資金があることを踏まえて)早速商取引に出たり、浮田国定討伐戦終盤にはそろそろ貸した金返してほしいと発言したり、穝所元常に関する情報料として500文を請求したり、鉄砲の購入を渋る直家に対して「数で命中率の低さを補える」と説得して大量に買わせようとしたりと良くも悪くも商人としての矜持が強い。このため宇喜多家の家臣から敵なのか味方なのかとつっこまれる有様であった。
忠家の母
阿部善定の娘で文字通り忠家の母。
武将時代の興家に気に入られて通い婚状態となり、忠家を出産。
温室育ちの豪商の娘で興家にベタ惚れしている。
ナレーションではさらに息子・春家を出産したことが語られる。春家は父の臨終の際、悲しみにくれる母と忠家と共にいる幼少の姿が描かれているのみに留まっている。
戸川平介(秀安)・岡利勝・長船貞親
直家の御家再興に大きく貢献する宇喜多三家老。
各地に散らばっていた他の旧臣たちと共に乙子城主となった直家の下に駆けつける。
ナレーションでは直家の側で苦労と恐怖を一身に浴びる三人と紹介される。ただし1559年の時点では15年も仕えてきただけあってか、「主君としては面白すぎる」と評し、直家の無茶振りにもだいぶ慣れてきているようである。密議に招集された際には信頼されていると大いにはしゃいだため、直家から「大声出したら殺す」と釘を刺される事態に。そして直家から暗殺で決着をつけると決めた際には3人とも覚悟を決めており、忠家からは「さすがは兄が見込んだだけのことはある」と評されるが、内心では「反対したら逆に消される」とかなりびびっていた。
決行の日、忠家の口笛の合図に合わせ、軍勢を率いて沼城に突入して制圧し、来訪した島村に一斉攻撃をかけて討ちとった。また、妻を喪って黒く染まっていく直家に対し、家や自分たちを守るためだと理解して「どこまでもついていく」と激励し、直家から感謝された。彼らにとって直家は「最恐で最高の主君」なのである。
その後3人とも家老職に任命され、「三家老」と称されるようになる。自信家ぶりを発揮したり、お福来訪の際にはいつもより良い着物でキメたり、屋敷用意するにあたっては「自分の隣空いてる」とはしゃいだりするため、その度に忠家につっこまれ、直家の頭を悩ませている。
- 戸川秀安は軍師黒田官兵衛伝にも登場しており、最晩年の直家が殉死を求めてきた際には「はぁ?しないっすよ」とバッサリ断っている。決行の日において伝達役を務めるも、緊張のあまりギグシャクした行進をとってしまい、直家から「バレますよ」と内心突っ込まれた。
- 岡利勝は本作で初登場。自称「宇喜多家の一騎当千」。槍の使い手で、浮田国定との戦において、国定を討ち取った。
- 長船貞親は本作で初登場。自称「宇喜多家の天才軍師」。「であります」口調で喋る。密議では戦力分析を行い、宇喜多家が不利な状況であることを直家に進言した。
岡清三郎
宇喜多家の小姓で、家中随一の美少年。第21話で初登場。直家からは「清三郎くん」と呼ばれる。
男色家で通る穝所元常の刺客となる。潜入にあたり、「無実の罪で拷問を受けて出奔した」というシナリオが直家によって作られて、やり過ぎなぐらいにかまされた後龍ノ口城へ向かう。
そして城下にて尺八を(拷問の傷の痛みに耐えつつ)奏でている所を元常にナンパ…もとい声をかけられて穝所家に入る。その際一部の家臣から宇喜多からの刺客と疑われるも、その美形と純粋さで家臣の心をも掴むことにも成功する。
直家からは「焦らなくていいから、任務達成後生きて帰って来るように」と命じられ、半年にわたって穝所家ですごし、元常の人柄の良さから情が移ってしまいそうになりながらも任務遂行を最優先させ、布団に入った所を喉元を掻き切って暗殺し、首をとる。
脱出する際、見回りの家臣に見つかり、血まみれの状態であることを指摘されるが「殿が自分の裸を見て興奮して噴き出した鼻血がかかった」と弁明し、切り抜けることに成功。
宇喜多家に帰還した際、三村家の使者が頻繁に龍ノ口城に出入りしており、穝所と三村につながりがあったと直家に報告した。
その後、三村との抗争の際、「まだ討たないのか」と宗景が苛立っていると直家に報告した。また、遠藤兄弟に対して手厚い褒賞が与えられた際、「自分の時にもちゃんと与えられた」と発言(史実における岡清三郎こと岡剛介の知行高は700石)。
遠藤又次郎・遠藤喜三郎
鉄砲の名手・遠藤兄弟。又次郎が兄、喜三郎が弟。
第25話で初登場。三村家親の顔を知る鉄砲の名手として招かれ、卓越した腕を見せつけて暗殺の任を受ける。
「必ず家親を討つ」と啖呵を切るも、いざ拠点に戻ると「(鉄砲使っての狩猟を生業としているが)暗殺なんてやったことない」「(悪名高い直家のことだから)事が済んだら用済みとして消されるんじゃないか」と大パニックに。
腹を括って狙撃計画を練り、城に忍び込むのは危険なので出陣する時期を狙うことに。だがその時期がなかなか来ないまま時を過ごすことになり、手持ちの弾薬を切らしたり火縄を湿らせてしまったりと三村出陣を知らせに来た監視役の忍びをして「心構えしかできていない。」と呆れさせた。
準備完了後、行軍する三村の軍勢を捕捉。警備が厳しく近づけずにいたが、喜三郎が行軍状況から興禅寺に宿泊すると推察し、同地を狙撃地点に定める。
そして予想通り三村軍が興禅寺に入ったため夜の闇にまぎれて潜入。歌声が響いていたことから家親が本堂にいることを察知し、見張りが離れた隙をついて本堂に向かい、障子一枚先で酒宴を愉しむ家親の姿を捕捉。又次郎が短筒に弾2発を込めて、引き金を引いた…が汗で火縄が湿っていたため火が消えており不発。しかも予備の火種も汗で消してしまっており火種をどう作るか(敵陣、しかも標的を前にして)大パニックに。
そんな中、打開を図るべく喜三郎が見張りがいる篝火に「暖を求める雑兵」を装って堂々と近づき、袖口に灯火を灯すという危険極まりない方法で火種を入手。その間に家親がいなくなったと思いきや仏壇にもたれかかって眠りこけているというまさかの最大の好機に。喜三郎が見張りが戻らないか様子をうかがい、「外したらもう終わり」という極度の緊張状態の中、改めて又次郎が引き金を引く。放たれた銃弾は…1発は頭をかすめ、もう1発は胸部に命中。混乱の中脱出を図り、よりにもよって短筒を現場に置き忘れて慌てて取りに帰るというドジを踏みながらも宇喜多家に帰還する。三家老をはじめ宇喜多家全体から褒め称えられるが「用済みとして消されることなくちゃんと報酬もらえるのか」という疑念が消えず、直家から「100石与えようかと思ったが気が変わった」と言われ、「やっぱり消される」とパニックに陥りそうになったが、「(当初の10倍である)1000石」を与えられ、正式に宇喜多家臣として登用した上で「宇喜多家鉄砲大将」に任命されるという破格の褒賞が与えられることになり、あらためて直家に忠誠を誓う。
浦上家
浦上宗景
備前天神山城主で直家の主君。第6話で初登場。
宴会が大好きなパリピ。直家が仕官してきた際にも歓迎会と称して宴会を開いており、「こんな戦国大名いるの?」と(母や善定から事前に聞いていたとはいえ)直家を唖然とさせる程である。
兄・政宗とは敵対関係にあり、「独立性が強く、勝手に動く家臣が多い」浦上家中を纏めることに苦労しながらも、勘の鋭い一面も見せており、なかなかの切れ者と言える。
だがそれ以上に理解不能な行動に出ようとすることが多く、島村をして「暗愚なのか切れ者なのか全く分からん」と言わしめる程であり、直家も「ついていけますかね」と内心でつぶやいている。宴会不参加者は不忠者扱いであり、ノリの良し悪しで忠誠心の有無を感じとっている。また宴会を通して独自の情報網を築いているようであり、島村・中山の鞍替えもこの情報網で知った模様。
さらに「去る者は殺す」主義であり、自分に反旗を翻したとして1545年に浮田国定、1559年には島村盛実、中山信正の討伐を直家に命じる。島村・中山を討伐にあたり直家から協力を要請されて応じ、直家による中山暗殺と沼城制圧の成功の狼煙を見て、島村に沼城へ向かうよう命令する使者を送る。「落ちぶれた奴を救ったことでとても忠実な駒になった。」と直家が逆らえないことをいいことに、自分の手を汚さない。また三村家に対する当て馬としても見ており、敗北した場合は不忠とみなして然るべき処罰を検討している。
今後の展開において直家の最大の敵対者と言える存在と目される。外交手腕の高さは直家も認めており、慎重に事を運んでいく。
島村盛実
浦上家重臣。家中きっての猛将。
「浦上家先代当主・村宗の遺命に従い、謀反人・宇喜多能家を討伐する」という名目で砥石城を襲撃し、能家を死に追いやり、宇喜多家を没落させた。その後もますます勢力を伸ばし、権勢を振るう。
宇喜多家からの報復については、興家・直家父子が暗愚であることから(直家は演技)、何もできまいと意に介しておらず、数年間全く警戒していなかった。このため直家が仕官してきた際には驚愕しつつも「邪魔になったら消す」と警戒するようになるが、着実に力をつけて浦上家での地位を高めていく直家に対して迂闊に手が出せなくなり、「能家との約定を反故にしてでも消すべきだった」と苛立ちを見せていく。
直家にとっては不倶戴天の仇敵といえる存在だが、ただ報復するだけでは飽き足らず、「増長しているところで地獄に落とす」と定めている。初陣を控えた直家を最前線に行かせるよう宗景に(半ば戦死を狙って)進言した際には逆に直家から感謝される有様であった。
国定没後砥石城主となるが、1559年、中山と共謀し、三村家に内通して鞍替えしようと画策している。しかし1549年の時点で宴会でのノリの悪さから浦上家離反を見破られており、宗景の命令により、深夜に向かうことに疑問を感じながらも沼城へ向かうが、到着後に直家がいることに驚愕し、岡と長船によって退路を塞がれる。
祖父を死に追いやったことの恨みはないと発言した直家に対し、共闘を持ちかけるが、「宇喜多家没落の元凶」の恨みは十分あるため却下され、「これをやらなければ先に進めない」「自分にとって島村を殺すことがまさにそれだ」として「宇喜多軍の一斉攻撃」という形で暗殺された。
「卑怯者とは言わないが、お前ごときの策に嵌められたことが口惜しい」と言い残して事切れる。
浮田国定
浦上家臣。能家亡き後の砥石城主。第5話で初登場だが名前が出るのは第8話。
宇喜多家とは同族であるが、宇喜多家没落の際、知らぬ存ぜぬで通し、全く支援を行わなかった。また「読みは同じで字が違う」「宇喜多を名乗れない方のウキタ」であることをかなり気にしている様子。
島村、中山と並ぶ宗景の重臣であったが、直家が乙子城主となって1年後、評定に顔を出さなくなる。長船曰く「臆病者」。
1545年、兄・政宗側に寝返ったと判断した宗景の討伐命令を受けた直家の攻撃を受けるが、籠城戦を繰り広げて撤退させる。さらに別働隊を迂回させ、乙子城を攻撃し、直家を苦戦させており、島村からも評価される程の戦巧者である。
4年後、攻撃を仕掛け続けると同時に力を蓄え続けた宇喜多軍による夜襲で砥石城は落城し、逃亡を図るも捕捉され、岡によって討ち取られた。
討ち取られる間際、直家に対し「お前も宗景にいいように使われ続けて捨てられる」と叫ぶが、直家は「それが乱世」「離れる機を見誤っており、戦国武将としては力量不足」と一蹴した。
中山信正
浦上家臣。備前沼城主。第8話で初登場。
初陣で兜首を挙げた直家を「只者ではない」と評する。
浮田国定が寝返った際、評定の場において「浦上家は明確な主従関係のある家ではない」と堂々と発言し、宗景を内心苛立たせた。
1551年には宗景の命により、娘を直家に嫁がせる。
宗景が警戒する程の野心家であり、命に応じたのもいざという時に直家を利用するためである。
かなりの親馬鹿であるが、娘からはつれない対応である。直家をしばしば鷹狩に誘って交友を持とうとするも、なかなか心を開いてもらえず、「こんな奴が夫で娘は大丈夫か」とぼやき、島村を呆れさせた。
やがて宗景に見切りをつけ、島村と共謀して三村家への鞍替えを画策する。
1559年、いつものように鷹狩・酒宴を一通り愉しんで、深酔いした身を案じた直家に付き添われて寝所に向かう。その途上で直家に三村家へ誘おうとした直後、直家によって「背後からの刺殺」という形で暗殺された。
島村とは対照的に宗景や直家を侮る様子を見せていたが、完全に命取りになってしまい、直家の暗殺の最初の犠牲者となり、野心は脆く、そして呆気なく崩れ去った。
穝所家
穝所元常
備前龍ノ口城主。西備前の有力者。第20話で初登場。
宇喜多家とは親戚筋であるが関わりは薄いという。
勇猛果敢の武将であり、難攻不落の居城に絶対の自信を持ち、攻め寄せた忠家の軍勢に対して巧みな籠城戦を指揮し、撃退した。誰とでも分け隔てなく接するため、家臣からの人望も高い。
軍記物で記される「男色家」というエピソードを拡大解釈しており、以下のような展開となっている。
- 本人曰く「直家・忠家兄弟はタイプじゃない」
- 龍ノ口城に絶対の自信を持つが故に、落とせるほどの武将なら逆にホレると発言。
- 城下にて尺八を奏でている岡清三郎を見かけるやいなや、ベタベタな口説き文句でナンパをかます。
- 清三郎が拷問を受けたことを証明するため着物を脱いで傷だらけの体を見せた瞬間、「誘ってる?」と鼻血ブー。
- 「宇喜多からの刺客」の可能性があると言う家臣の意見を取り入れ、直々に取り調べをしようとメチャクチャ嬉しそうにラブホ…ではなく居城に連れ込もうとする(結局家臣が忍びを使って調べさせ、拷問・出奔は事実であると報告。元常本人はこれで家臣に取り立てられると満足していた。)
そして清三郎を家臣に取り立てて半年、夜伽の相手として彼と寝ようとしたところを、清三郎に喉元を掻き切られて殺された。
ハニートラップによる暗殺であるが、元常自身は薄ら笑いを浮かべながら斃れた。
三村家
三村家親
備中の大名。
第16話において回想で登場する。この時点では顔の上半分が描かれていない。
中山によると「宗景より遥かに優秀」とのことであり,宗景を見限った島村・中山両名が鞍替えする家として選ばれた。また中国の覇者・毛利元就からも「家親なら備中一の勢力になれる」と高く評価される。
第22話で本格的に登場。浦上家と敵対することとなり、備前・美作方面への進出を図り、手始めに美作高田城を攻撃する。
鬼と見紛う程の風貌・言動とは裏腹に美作・備前平定後は「街路の整備」「戦火にさらされた地域の復興政策として年貢を減らす」と宣言。家臣から「見た目と言動で損している」と評される程の名君であり、宿泊先の興禅寺に入った際にはありったけの酒を用意させて「みんなで楽しめ」と家臣を労っており、人望は高い。結局家臣に勧められて呑んだようであり、「ワシは家親様だ!」と名付けていい歌を熱唱する等して楽しんだ後、仏壇にもたれかかって眠りこける。しかし外にまで響いていたためが故に遠藤兄弟に居場所がバレてしまい、うたた寝から目覚めるも、胸部を被弾。「無念」の言葉を遺して斃れた。
「日ノ本初の鉄砲での要人暗殺事件」として戦国史に刻まれる。
軍師黒田官兵衛伝では(本作に先駆けて)最期の瞬間が描かれており、官兵衛をして「あれはびびったなぁ」と呟かせた。
三村五郎兵衛
三村家一族。第29話のみの登場。
家親を暗殺した直家に対して激しい憤りを見せ、周りの家臣が引き止める中、弔い合戦を行うと宣言。わずか80の兵と共に向かうも、直家が繰り出した3000の兵で皆殺しにされた。
その様は忠家をして「絶対こっちが悪役だ」と憐れんだ程であった。
三浦家
三浦貞勝
美作高田城主。お福最初の夫。第23話のみの登場。
三村家親に攻撃を受けた際、お福に息子・桃寿丸を連れて落ち延びるように命じようとしたところ、全部言い切る必要がないほど瞬時に理解され、その聡明さに感服する。
お福・桃寿丸の脱出を見届けた後、三村軍に最後まで抗った末に自害した。
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軍師黒田官兵衛伝 …初登場作品