「柔道は嫌いじゃないわ。でも、あたしは普通の女の子でいいの、普通の…」
プロフィール
概要
CV:皆口裕子
『YAWARA!』の主人公にしてヒロイン。初登場当時の年齢は16歳(高校2年生)。
恋もおしゃれもしたい都立武蔵山高校に通う女子高生だが、実は祖父・滋悟郎から幼年期より柔道の手ほどきを受けた天才柔道少女。少し小柄な体格で階級は48kg以下級。得意技は一本背負い。その雰囲気からは柔道が強いようには見えず、転んだ時もわざと受身を取らないなど、実力をひた隠しにしていた(これは祖父がセンセーショナルなデビューを果たすように、柔本人に対外試合を禁じていたのもある)。しかし反抗期で少しやさぐれかけていた所、街でひったくり犯を巴投げしたことが日刊エヴリースポーツの記者である松田耕作にスクープされ、その後、次第に存在が知られてゆく。
その実力は天賦の才も滋悟郎の厳しい稽古、指導もあるが、並の柔道部員では一日として実行できない練習を毎日欠かさず行っている(行わされている部分もあるが)こともある。その普通の女の子らしくないことと、柔道が原因で片想いの先輩(錦森)に距離を取られたことがコンプレックスとなり、柔道を避けるようになっていた。
段位は第1回クジTV(名前の由来はフジテレビから)杯柔道選手権大会直前に初段。鶴亀トラベル入社後の全日本選手権では二段として紹介されている。
家族は基本、祖父の滋悟郎と二人暮らしで、時々父親捜しの旅に出ている母親の玉緒が帰宅してくる。一方、父親の虎滋郎は自分が5歳の頃に巴投げで投げ飛ばしてしまったことで修行の旅に出てしまったと思い込み、そのため自分のせいで家族がバラバラになったことにトラウマを負っているとともに、父親に対して強いコンプレックスを抱いている。そのため、松田の顔、声が父親に似ていたことも、彼女が深層で松田を意識することになったきっかけ(ソウル五輪からそれを自覚する)。
また、アニメ版で猪熊柔役を演じた皆口裕子であるが、これには数奇なエピソードがある。アニメスタッフ側がオーディション前から既に是非、皆口裕子に演じて欲しい、むしろ彼女の声以外はありえないと考えており、その一人が皆口にそれまでの単行本を手渡した。当日、本人がオーディションを志願して来てくれたので、そこでほぼ決まったようなものだったらしい。また、小説版1巻には、皆口裕子本人のコメントが記載されているが、それによれば「それまでアニメのアフレコは逃げていたのに、これだけは絶対やりたい、これができなければ自分は一生アニメの役はできない」という強い思いでオーディションを受けにいったほどだったという。更に浦沢直樹は、柔の声に「ねるとん紅鯨団」のナレーションの声(いわゆる普通の女子高生っぽい声だったが、それが皆口裕子とは知らなかった)をイメージしていたらしく、まさに皆口裕子に演じてもらうために生まれたようなキャラクターだったことが暴露されており、作者も完全版のあとがきにて讃辞を述べている。
柔道選手としてのモデルは女三四郎といわれた山口香(原作には山田香というキャラが登場する)といわれていたが、作者からの明言はなく、むしろ男子選手ではあるが古賀稔彦をモチーフにしていた。なお、今では黒歴史となった実写版では浅香唯が猪熊柔役を務めているが輪郭、眉、左分けの髪型などが、アイドル時代の浅香によく似ている。
いでたち
12月8日生(原作の履歴書より)、東京都出身(合コンでの自己紹介より)で、世田谷区北下沢(同じく履歴書より。架空の地名。実在のモデルは井の頭線沿線という本人の発言と滋悟郎の接骨院が商店街に面していることから、北沢と推測される)の邸宅街に自宅を構える。身長は少し小柄で、一般女性より低い(松田や富士子の胸元ぐらい)。初登場時は武蔵山高校2年生で、普通の女子高生を振る舞っていた。そのときは柔道は嫌ってまではいなかったが、普通の女の子でいたいという思いが強く、あまり柔道をすすんでやらなかった。また、本阿弥さやかのコーチだった風祭進之介に憧れており、風祭とさやかとの三角関係で、絶えず悩まされていたと同時に、この頃柔道をしていた行動原理は、彼からの「柔道をやっている君は輝いている」という甘言を真に受け、それが本当か試すためでもあった(かたや松田耕作はあまり相手にされていないようだったが、後々彼の記憶もしっかりと刻まれていたことが原作で解り、本人は彼を投げ飛ばしたときが馴れ初めだと考えていた)。
そんな彼女に転機が訪れたのは三葉女子短期大学家政科入学後で無二の親友、伊東富士子に出会ってからであり、背が伸びすぎてトゥシューズを履けなくなりバレリーナの夢を挫折した彼女の願いを受けて、柔道を厭わず始めることを決意。また、入学試験での出来事以後、松田のことも異性として強く意識し始めるが、自分はただの取材対象じゃないかというジレンマも抱えることになり、加えて恋敵、加賀邦子の登場で、尚更本心に蓋をするようになってしまう。
ソウルのワールドカップの後、自分のせいで父親が失踪した事実を知りショックを受け、また柔道をやめてしまおうとするが、富士子が秘密裏に短大で柔道部を創設し、彼女たちとの友情がきっかけで復帰(自宅で稽古は続けていた)。その後は親友の富士子らとともに柔道に打ち込み大会決勝では、最強軍団相手に五人抜きの偉業を達成した。だが、卒業後をめぐって企業間同士の争奪戦となってしまうとともに、カウンターに座ってくれるだけでいいと告げてくれた鶴亀トラベル入社を決意。また、この頃には、自分の本当の想いは松田にあることをだんだんと実感していく。
卒業後は業界4位の旅行代理店「鶴亀トラベル」に入社し神保町支店配属のOLとなるが、彼女が旅行代理店を選択した本当の理由は、父親を捜すことだった。その後、ふとした社内のクレーム処理などが原因で、父親がさやかのコーチになっていた事実を知ってしまい、とうとう大会をボイコットするほどショックを受けてしまう。だが、柔道をやめることによって松田との関係も喪いそうになり、自分を見守ってくれていた彼の大切さに気づき、記者をやめてほしくない(ずっと見守っていてほしい)と彼の前で復帰宣言。その後も多様なハプニングがあったが、最後には体重別、無差別級の二階級制覇の偉業を達成、国民栄誉賞授与式の際、彼と劇的に再会し最後の最後で想いが成就した。
性格・性質
朗らかで情に熱く、涙もろい感動屋さん。また、世話好きで困った人は見逃せない心の純粋さ、優しさもある。だが、相当思い込みが激しいところがあり、簡単に弱みに付け込まれてしまう精神的な脆さもある(試合時とは無関係)。高校時にはけっこう身勝手で、自分のペースで周囲をかき回すタイプだった。短大で富士子に出会ってからは周囲への気配りができるようになったものの、それでも直情径行型の部分は相変わらずで、時折感情的に行動してしまい、毎度毎度のように騒動を起こしている。他に家族思いで甘えっ子、寂しがり屋の一面もあり、何かあると祖父や母親に抱きついている。また柔道以外だと好きな人の面前で電話の受け答えもできない、受験結果を見ることもできない臆病、上がり症の一面も持っている。
お人好しなぐらい社交的な性格で、初対面の相手に対しても積極的に話しかける方だが、公衆の面前に立つことは大の苦手で、普段からマスコミのインタビューを避けていたり、テレビ出演でも辿々しい返事しかできなかったりしている(ここは猪熊滋悟郎、本阿弥さやかと真逆)。その割に、松田の前では色々と本音を語ることができ、彼しか独占インタビューができないのも彼女の性格が大いに関係している。
自分が(柔道をやっているせいで)どこか女らしくないというコンプレックスを少なからず抱いており、事あるごとにそれを意識する言動が見られる。それは口調にも現れており、語尾に「~(だ)もん」「~(なん)だから」とつけるなど、少しあどけない言い回しが多い。また、劇中には滋悟郎が「柔よ、ちょっと座りなさい」と呼びかけると、柔が「もう座ってます!」と返すやりとりも一種のお約束になっている(柔が真似たこともあった)。
趣味・嗜好
オシャレが趣味で、特にサブタイトルにa fashionable judo girlとあることからも原作の扉はほとんどが猪熊柔のプライベート姿である(一部例外あり)。OP、EDアニメなどでも柔の柔道着が登場したことはない(これはアニメ版監督のときたひろこが、年頃の娘が柔道着ばっかり着せられるのは可哀想なので、せめて主題歌のアニメーションだけは目一杯おしゃれさせたいという計らいでもあった。だが、そのせいで放送当時は、何のアニメなのか初見でわかりづらかったという声もあったという)。髪型は左の内分け、高校時代はミディアムショート、短大時代はミディアム、社会人からはセミロング寄りでワンレンやハーフアップが多く、カチューシャやリボン柄のバレッタを好んでいるほか、社会人になってからは三つ編み(一本)も多い。柔道着を纏っている時でも、友人の助言もあって髪型にこだわりを見せており、五輪でのスタイルだったサイドポニーのほかにアップスタイル、ハーフアップ、ポニーテールなど実に多彩。滋悟郎の話を聞かされているときもファッション雑誌片手ということが多い。
母親の影響で料理も趣味となっておりフランスやイタリア、スペイン、ロシア料理などバリエーションは多彩、そしてあまり世間に知られていない料理を振る舞うことが多い(スペイン料理のガスパチョやパエリア、フランス料理のコルドンブルー、イタリア料理のラビオリ、カンネッローニなど)。ただし、滋悟郎からは飽きるとケチをつけられている。また、おせち料理や揚げ出し豆腐、焼き魚といった和食も普通に作っているほか、三葉女子の調理実習では中華料理も作っていたことがある。
また、履歴書には趣味として読書やレコード鑑賞なども書かれており、高校時にはアイドルの追っかけをやったり武道館コンサートに足を運んだりしていた。柔道以外のスポーツはほとんど経験ない上にスポーツ選手の知識も疎い(そのエピソードの一つとして、長嶋茂雄を知らなかった)が、当初所属していたゴルフサークルなどでスーパーショットを出している。しかし、腕力は普通の女子並みで、柔道用の青畳(3枚重ね)を重たがるシーンもある(富士子はピンピンしていた)。
作品から大好物とわかるものはドリアで、普段の食事は魚介類が多い。ほかに、ユーゴ遠征時にはおしるこを食べたいと発言したり、紅茶を普段から愛飲したり、パフェやケーキを平らげたりしているなど甘いもの好き。高校時には祖父滋悟郎ばりのやけ食いを披露したこともあるが、決して健啖家ではない。
けっこうおしゃべりで、人の恥ずかしい噂話も平気で話してしまう癖もある。また、きれい好きの掃除好きで、散らかった部屋を見ると片付けずにはいられない性分でもある。
恋愛について
「あ、あたしと松田さんなんて全然関係ないもん!!」
ぶっちゃけ、ツンデレそのものである(巷では、元祖とまで言われるほど)。
相当の奥手で自分から積極的にアピールできず、それが原因で簡単に恋敵の奸計に引っかかってしまう。その割に相手の気持ちに疎い天然要素に加え、他人を揺動する小悪魔的性格、加えて、自分が素直になれない(他人に指摘されると「関係ないもん」と毎度のように口癖を放っている)天邪鬼でもありながら、かなりのヤキモチ妬きという困った要素満載で、松田に対してその傾向が著しい。特に加賀邦子が登場してからは松田に対して裏腹な言動を返すことが多くなった。また、松田が自分を追いかけるのは取材目的じゃないかという疑念が晴れないことも、二人の恋仲が進展しない原因だったが、後に彼の仕事が人を元気づけることもあることを羽衣係長から教えられ、表向きは取材対象でも満たされるようになる。その後も周囲のせい(原作では加賀邦子や風祭だけでなく、味方だった羽衣までが恋路を妨害する敵となる)で、色々ややこしいすれ違いが起きるが、最後には松田こそ自分を見守ってくれていた意中の人だと気付き、強く彼に想いを偲ばせるようになった。
柔道の実力
そもそもの作品の方向性が柔道をやりたくないが才能で勝ち続けてしまう少女の、アンチスポ根ドタバタ劇だったために、試合では向かう所敵なしという、フィクション作品でも極めて珍しいキャラクターでもある(こういうキャラだと普通、話を膨らませられない。だが、そこを不敗神話の天才を追うもう一人の主人公、松田耕作の設定によって活かしている。次作では、資質はあるが何度か試合にも負けて、だんだん強くなっていく努力型キャラ、海野幸が作られた)。
周囲からは天才の名をほしいままにしているが、本人に全くその自覚はなく、また祖父のように地位、名誉欲もなく、他人に強さをひけらかしたりもしない。ただ、柔道一家の血筋なのか強い柔道家を相手にすると燃える本能は持っており、本当に強い相手は「強い」と認めている(劇中では「ジョディ・ロックウェル」「本阿弥さやか」「アンナ・テレシコワ」そして「マルソー」の4人、ほかに伊東富士子やクリスティン・アダムスなどにも見せたことがある)。一方で、毎朝の習慣で、打ち込みや走り込みを祖父に言われずともしており、その強さは日頃の鍛錬の賜物である。劇中では無敗(不戦敗を除く。また練習だが、伊東富士子に一本取られたこともある)を誇ったが、必ずしも100%の実力を発揮できるわけではなく、特に父親のように見守ってくれる松田耕作の存在がないと、途端にプレッシャーを感じてしまうなどして調子を崩してしまい、まるで本領を発揮できないようになっている。それどころか、後に柔道は松田への想いをつなぐものへと変化し、彼と喧嘩して一時的に別れた後は柔道すらやめてしまう場面もあり、再び柔道に復帰したのも、彼への想いを確信してからであった。
伝家の宝刀の得意技は祖父仕込みの一本背負いだが、ほかに抱え袖釣り込み、大内刈り、体落としなど技は多彩で、しかも技に入る感覚に天性の勘を持っている。また寝技も得意としており、特に相手の寝技を避けることに長けている。巴投げも持っているが、この技で5歳の時に父親を投げ飛ばしてしまい、失踪の元凶と思い込んでいるためトラウマを持っており、父親の失踪発覚以後、劇中で巴投げを披露したのは過去への訣別となったさやか戦のみである(それまでは割と試合でも出しており、何より第一話で、ひったくり犯をパンチラで投げ飛ばした技でもある)。
その他
劇中随一の美少女でもあり、高校時代はそこまででもなかったが、短大生になってからはナンパに巻き込まれそうになったり、合コンで複数の男から目をつけられたりと、周囲の視線がまるで変わっていた。一方、本人はプロポーションに著しいコンプレックスを抱いており、それで本阿弥さやかに対し劣等感を感じたり、加賀邦子とイチャつく(邦子が一方的に攻めてるだけだが)松田に対し、「どうせあたしはお色気もないし胸が小さいですよ!」「いやらしい」などとヤキモチを妬いたりしていた(原作では邦子に「プロポーションは悪いけど」と露骨に言われ、怒りを顕わにしているシーンがある)。
他のフィクションほど露骨じゃないが、けっこう方向音痴(ここは松田と真逆)である。オリンピック強化合宿では渋谷駅前で迷子になりかけており、藤堂のお陰で元に戻れている。同じような状況で、ソウル市街でも仲間とすぐはぐれている。トロントでは空港の出口が分からずうろたえていた。鶴亀トラベルでの添乗でも、早めに家を出ているのに「電車を一本乗り遅れた」と上司に答えており、羽田空港でも搭乗カウンターの場所もわからず目をキョロキョロさせていた。そして、バルセロナでは市街地で迷ったせいで松田に会うことができなかった上、邦子と遭遇した帰りも選手村の逆方向に進んでいた。
なお、ねとらぼの人気投票は2位で、松田と柔でワンツーフィニッシュとなった。
関連タグ
YAWARA! 松田耕作 猪熊滋悟郎 猪熊虎滋郎 猪熊玉緒 伊東富士子 本阿弥さやか ジョディ・ロックウェル ツンデレ 小悪魔 天然
海野幸……『Happy!』に登場するヒロインでテニスプレイヤー。見た目は柔に酷似しているが、下町育ちで兄弟がいる。また、天才型の柔に対し、彼女は努力型で、試合でも何度も負けて成長しているなど色々な部分で好対照。