道教における火神の一人。芸能の神としても知られ、「華光大帝」と呼ばれる。
華南(中国南部)に起源を持つ神。宋から明の時代にかけて中国の他地域に広がったが、それ以降は大陸側では教勢が衰え、福建省の一部や広東にほぼ限定されるようになってしまった。
シンガポール、マレーシア、馬祖島(福建省と台湾本土との間にある列島)においては現在も道教寺院でよく祀られている。
中国仏教にも取り入れられており、寺院の守護神「伽藍神」として祀られている。仏教では「華光菩薩」という。
日本では江戸時代初期に黄檗宗の伝来と共に他の中国系伽藍神と共に信仰が伝わった。
『西遊記』と共に「四遊記」に数えられる『南遊記』の主人公。『北遊記』にも登場。『西遊記』96回でも言及があり、「火炎光仏」という仏の弟子とされ、毒火鬼王を殺害した罪で職をおろされ、五顕霊官の地位につけられた、と三蔵法師の口から語られる。
天界を巻き込んだ騒動も起こす荒ぶる火の神だが、『南遊記』では自身の母を食い殺し、母親のふりをしてきた妖怪を、実母を霊界から救った後も、いちどは母と呼んだ相手である以上、無下にはできない、と大切にするという情の篤い側面を持つ。
中国文化、道教における他の神格「馬元帥」「五顕神」と習合し、「五通神」もそうだという。華光信仰が衰退した後も「馬元帥」「五顕神」は華光要素が薄まったり、あるいは独立した神として篤い信仰を残している。
- 馬元帥
道教における護法神であり、「四大護法元帥」の一柱に数えられる。火をもって魔を退ける存在で、殷元帥(太歳星君)と同じく、悪事をなす悪鬼や鬼神を退ける呪法「天心法」と深い関わりを持つ。
「四大元帥」の一人に数えられる武神。他のメンバーは関元帥(関羽)、趙元帥(趙公明)、温元帥(温瓊)。
馬氏金母の息子(『南遊記』によると父親は馬耳大王)で、生まれ持った特徴から三眼霊光と命名された。その後輪廻転生を重ねる過程で馬霊耀、馬勝という個人名を得る。
後述の金磚(きんせん)、白蛇鎗(はくじゃそう)、風火二輪は馬元帥を特徴づける要素である。
華光そのものの性質に強く影響を与えた神格で、『三教捜神大全』の「霊官馬元帥」の項目では馬元帥の物語が華光神の来歴として語られている。
「妙吉祥(文殊菩薩の異名でもある)」という超常的存在の化身であったが、焦火鬼という鬼を殺害し、それを悲しんだ釈迦如来によって下界に移される。
五つの火光となった彼はやがて一つにまとまり馬氏金母の子宮に宿った。生後三日で戦闘能力を有し、東海龍王を斬って水害を防ぎ、北極紫微大帝の金槍を盗む等大暴れする。
その後三角金磚(さんかくきんせん)を得た彼は玉皇大帝の命令を受けて風火の神を退治し、風輪火輪使という名の部下とした。
母の死後は地獄に行き、さらに海中や天界も駆けて哪吒太子と対決する。その後仙桃を盗んだことで斉天大聖孫悟空と敵対する事になるが、釈迦如来のはからいで和解することができた。
それから功績を積み上げた彼は玉皇大帝に認められ、玄天上帝の部下に任じられた。
余象斗作『南遊記(『五顕霊官大帝華光天王伝』)』は上記の馬元帥物語を元にした小説である。
- 五顕神
『南遊記』の別名『五顕霊官大帝華光天王伝』に習合の跡を残している。この物語においても彼は転生を繰り返すが、転生先の一つが蕭家荘の五兄弟の一人であり、彼らは別の伝説において「蚕花五聖」と呼ばれる人々である。彼らは祁家の五姉妹と結婚するが、その過程で寿老星から「三角金磚」と「定風珠」と授けられる。
「蚕花五聖」は「五通」「五顕」の別名でも呼ばれており、後者がタイトルの元になった。
「五顕」は「蚕花五聖」とは別起源の伝承に登場する五兄弟の神の名であり、蕭の姓が与えられることで同一視がなされた。
- 五通神
五通とは五つの神通力、という意味であり、華光はこれを持つとされる。この事から「五通大帝」とも呼ばれる。
かつて宋の時代にこの名を持つ「五通神」への信仰が広まった。「独脚五郎」「独脚五通」とも呼ばれる一種の動物霊であり、『夷堅丁志』巻第十九「江南木客」によると、器の小さな人がこれを崇めて富を得るが、機嫌を損ねれば逆に富銭を奪い去りどこかへ行ってしまう。
さらには淫らで色を好み、美男子などの姿や、好まれる姿をとるが、真の姿を現すだけの者もいるという。
その正体は犬や猿、蝦蟇と様々。体は冷たいが頑健であり、逞しいペニスを持つ。といった特徴を持つ。
同書の巻十三所収の「孔労虫」のパートにはこちらも極めて批判的な描写のエピソードが収録されている。
それによると、言葉を話す大鼠を正体とする怪しげな存在であり、劉五という人物に対し、言葉巧みに自身を祀るように言い、一時的に富を与えるが一年後に劉五の持つ金銭を全て奪ってしまう。
劉五は法術を修めた孔思文に相談し、孔は香を炊いてこの「神」にお伺いをたてる。退治にきたと警戒する相手をうまくあしらい、その後剣でもって黄色い服装をした何物かを着ると鼠の上半身が落ちており、祀っていた祠に下半身があった。祠と神像を壊すと同時に起こっていた怪異も止んだという。
こちらは流石に『三教源流捜神大全』『南遊記』での転生先にも盛り込まれていない。
華光には「五通」という「わけあり」の要素を付加させるような「まつろわぬ神」としての側面があった、とは言えるのかも知れない。