概要
特に鉄道車両の三相交流モータ(電動機)駆動方式。半導体を使ったモータ制御用インバータにより、三相交流モータに印加する交流の電圧と周波数、それに応じた電流を変化させる制御。
「可変電圧可変周波数」に英単語を当てはめた和製英語であり、Variable Voltage Variable Frequencyの略語。
海外では一般にAVAF(Adjustable Voltage Adjustable Frequency)と略するが、意味はほぼ同じ。他にVFD(Variable Frequency Drive)という略表記もある。
近年新製される電車・電気機関車のほぼ全てがこの制御方式を採用している。インバータ装置の動作中「磁励音」と呼ばれる音が出るのが特徴。ドイツ・シーメンス社製造のインバータ制御装置を搭載した車両のそれは「ドレミファインバータ」として鉄道ファンの間で有名である。
交流モータ制御の歴史
基礎知識
モータが回転する原理は、回転子の磁界とその周辺部の磁界の吸引・反発力を利用するというものである。
誘導モータの場合なら、周辺部に3系統の電磁石ABCを、ぐるっと囲むようにABCABCABCABCABC…と配置してやり、これらを制御してA・B・C・A・B・C…の順番で電磁石をONすればよい。回転子は電磁誘導という現象によって自ら電磁石になってくれるため、ご察しのとおりA・B・C・A・B・C…の順に引き付けられて回転を始めるだろう。
上記のとおり誘導電動機は回転子が自ら勝手に電磁石となるため、回転体に摺り合わせる電気接点(カーボンブラシ)が要らず、機構の簡略化とメンテナンスフリーが期待できる。昭和初期よりエスカレータやベルトコンベアなどには使われていたが、鉄道用途に普及するのにはさらに長い年月を要した。
VVVF制御ができなかったころの三相交流モータ制御
後述する問題により、鉄道車両用としては使われていなかった。
問題は2つ、起動時に工夫が必要なのと、回転速度のコントロールが出来なかったからである。これらは大容量インバータが実用的・経済的になってようやく解決したのである。
インバータの無い大昔は、電力会社からやってきた50Hz/60Hzの三相240V(大工場などで使う大型機となると三相3,000V~6,000V位)を、三相誘導モータに直接投入するしか手段が無かった。
モータの始動の際、そのままフルパワーの電源を投入すると過電流が流れて焼損につながるため、リアクトルや起動補償器(変圧器の一種)、磁石を使った自動スイッチによる結線切り替えなどにより、まずは電流を絞って起動し、その後定格電流に切り替えという制御をしていたが、それでも起動時には運転時よりもはるかに大きな電流が流れてしまい、起動トルクも低かった。始動そのものも急なトルク変動のある段つき加速だった。
また、停止してる回転子にいきなり最高速でABCABCされても回転子が付いてこれるわけもなくトルクが足らず起動すらしない(補足参照)ので、起動時に流体継手や電磁クラッチなどで負荷を切り離したり軽減する工夫も必要だった。
例外的に、ハンガリーでは単相交流50Hzを回転式変換機で任意(と言っても今ほど滑らかなわけではない)の回転を得られる三相交流に改変、これによって三相誘導電動機を駆動するものが1930年代より存在した(同様の構造をのちにフランスなどでも採用)。
これは、開発者「カンドー・カールマーン」の名をとって「カンドー式」と呼ぶ。主眼は、三相誘導モータを使うことにあった。元々ヨーロッパでは電気鉄道黎明期に三相交流で電化した線区もあり、この技術はそこからの派生である。
回転式の変換機は相当に重く、むしろ変圧器や整流器を介した直流モータ駆動のほうが数段軽く作れたので、車両の重量制限が厳しい日本では全く作られていない。
補足
- かご型三相誘導モータは起動トルクが最大トルクより低い(すべりが過大で回転子磁束を捉えられないことが原因)。
VVVF制御ができるようになってからの三相交流モータ制御
三相誘導モータの特性に合わせた電圧と周波数の三相交流が出力できるため、起動時の大電流(突入電流)が解消でき、また強い始動トルクも得られるようになった。電車が発進するときに聞こえる個性的な音(「キーン」や「シュゥゥゥー」や「ファソラシド…」など)は、モータに流れる大電流を高速でスイッチングすることで、スイッチングの周波数がモータに印加されて発生しているものである。
加えてゼロスピードの状態から回転子に合わせてゆっくりと周辺部のABCABCを同期できるので、始動が滑らかかつ容易になった。
ただ、誘導モータではすべりが過大になってしまうと不安定域に入り電流を大幅に浪費するばかりでトルクが低下していってしまいやがて走行に必要なトルクも得られなくなるため、回転速度やモータ電流を測定して現在の速度を検出・推定しながら適切なすべり率になるよう制御している。
また、地下鉄や通勤電車、入換用機関車などで使用される同期モータでは相差角(回転子と回転磁界との角度差)が大きくなりすぎると同期はずれ(「脱調」とも)を起こして回転が維持できなくなるため回転角度を検出・推定しながら適切な相差角となる様制御している。
VVVFインバータは周波数も電圧も0からそれぞれの定格まで自在に出力できることを利用して、車輪の空転抑制を素早く行ったり、発電制動や回生制動による制動力の見込めない低速~停止寸前の電制も可能となった。
さらに、ブラシがないことでフラッシオーバのリスクがない誘導モータの利点と、電圧と出力周波数、すべり周波数の制御によるトルクと回転数の制御を自在に行えるVVVFの利点を活かし、電動機の定格を超えた性能を容易に引き出すことを実現している。
例えば、起動時にすべりや印加電圧を増やして大電流を流し、トルクを増やして起動加速度を高めたり(789系など)、定格回転数の低い電動機を、途中からすべりを増やして大電流を流し、定格速度を引き上げる(京急新1000形など)といった芸当ができる。
一般にVVVFインバータ装置は、大容量のスイッチングモジュールなどが配置された三相ブリッジ回路と、スイッチのON/OFF制御やトルク演算を行う制御ユニットで構成されている。
VVVFの交流電流生成方式には、一般にパルス幅変調方式(PWM)が用いられる。スイッチONの時間(パルス幅)を変化させることで電気の密度(≒電圧)を制御し、回路上のONにするスイッチを変化させることで交流の周波数を制御する。スイッチングによって印加する電圧・周波数に応じた電流がモータに流れる。
交流電流の周期中に多数のパルス列が含まれており、これがVVVFの音の成分になる。
三相交流モータは単相交流モータより電力→運動エネルギーの変換効率に優れているため、半導体のコストダウンと共に家電機器にも使われるようになってきた。ちなみに家電機器ではモータが小さく、高効率な同期モータを使用するメリットのほうが大きいため一般には同期モータが採用されている。
※すべり・・・回転子と回転磁界の回転数の差。すべりがないと電磁誘導が起こらない。すべりが大きいほど大電流が流れ、トルクは強くなるが、大きすぎるとむしろトルクが減少し、損失が増える。
使われる半導体素子
電気信号で高頻度のON/OFFを大電力相手に行うため許容電力に優れるサイリスタやON/OFFの制御をやり易くすべく大電力用に作ったトランジスタを採用している。
それぞれの素子は下表のように改良され世代交代しており、鉄道では
サイリスタ、パワートランジスタ ⇒ GTOサイリスタ ⇒ IGBT ⇒ SiCハイブリッドモジュール、SiC-MOSFET
と世代交代している。また最近は珪素半導体の欠点を克服した炭化珪素半導体の採用も進んでいるが、まだ素子単価が高いためスイッチング素子・還流用ダイオード共に炭化珪素半導体の「フルSiC」とよばれる構成のほかに、スイッチング素子は従来通りIGBTだが、還流用ダイオードは炭化珪素半導体を使用して価格を抑えつつ電力消費効率を改善した「ハイブリッドSiC」と呼ばれる構成のものもある。
モータへの電圧印加時や回生ブレーキ時の逆電流を逃がすため、スイッチング素子には必ず還流用のダイオードが逆並列に接続される。従来はスイッチング素子に併設されていたが、近年は樹脂製のパッケージに納められ一体となっていることが殆どである。
そのダイオードも通常のPN接合のものとショットキーバリアダイオード(SBD)の2種類があり、後者はオン電圧が低く導通損失が少ないが逆電流が流れやすいという特性から、電界強度の高いSiCを使用したものが高周波特性や回生ブレーキ性能を高めるため採用されることが多い。上記の「ハイブリッドSiC」「フルSiC」はそれに当たる。
サイリスタ
ターンオフ(ON⇒OFF)が面倒だが、トランジスタでは足元にも及ばないほどの許容電力の大きさが特長。
名称 | 略称 | 備考 |
---|---|---|
サイリスタ | SCR | 還流用ダイオードとセットになっているものはRCTと略される |
自己消弧型サイリスタ | GTO | ゲートに工夫がなされ、ゲートからある程度の電流を引き抜くと自己消弧ができ、サイリスタに比べ駆動回路の簡略化ができる |
ゲート転流型サイリスタ | GCT | ゲートにさらに工夫がなされGTOサイリスタの消弧時の欠点が改善されておりスイッチング周波数も高くできる |
トランジスタ
許容電力はサイリスタにとても及ばないが、スイッチング(OFF⇒ON / ON⇒OFF)がやり易く、スイッチング周波数もそれに伴って高く取れる点が特長。
名称 | 略称 | 備考 |
---|---|---|
パワートランジスタ | PTr | 大電力制御用に作られたバイポーラトランジスタ。高耐圧かつ低損失のものが作れないため鉄道車両での採用例は少ない |
金属酸化膜型電界効果トランジスタ | MOSFET | 電圧による制御が可能でスイッチング周波数も高く取れる。しかし耐圧を高くするとON抵抗も高くなるため高耐圧品が作れない |
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ | IGBT | MOSFETとバイポーラトランジスタの複合素子。それぞれの欠点を打ち消しあうように動作するため高耐圧品が作れて、同電力帯のMOSFETに劣るもののスイッチング周波数も高い |
炭化ケイ素製MOSFET | SiC-MOSFET | 炭化ケイ素の物性によりケイ素製MOSFETの欠点が改善されており高耐圧品が製造できる。そのため、鉄道車両の主回路用素子にも使えるようになった |
音楽の演奏
電車の騒音を解決するには消音することが一番だが、それが困難なのであれば、音階を一定に揃えてやれば、それは騒音でなく音楽となる。
「電車の騒音がうるさい!」
シーメンス「それなら音階を揃えて、音楽を奏でるようにしたら、気にならなくなるのでは?」
ドレミファインバータは、そんな発想から来るものだったとか、なかったとか。日本では京浜急行電鉄新1000形/2100形・JR東日本E501系に一時採用され、歌う電車と呼ばれていた。
また個人でVVVFのミニチュアを制作する人も多く、音楽を演奏させている人も。
関連タグ
インバータ シーメンス GTO IGBT 炭化ケイ素(SiC) PMSM 音鉄 SIV
大阪市営地下鉄20系:高速鉄道用としては日本初だが、営業開始は4番目。
近畿日本鉄道1420系・新京成電鉄8800形:直流1500V鉄道路線用としては早期に採用。