概要
一言主神はその名の通り、吉凶を一言で言い放つ託宣の神であり、言霊信仰を表す存在とみなされている。
「古事記」の下巻には、ある時雄略天皇が百の官人を従えて遊猟のため葛城山に登ったところ、向かいの尾根から天皇と同じ行列を整えて来る者に出会った。
『この倭の国に、吾以外に王はないはず』と立腹した天皇が官人共々矢をつがえて相手の名を問うと、行列の主は『吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神、葛城一言主大神ぞ』と答えた。天皇は恐れかしこまり、矢を収めて百官の衣を脱がせて一言主神に献上した。
「日本書紀」でも一言主は登場し、雄略天皇四年春二月の時、天皇が葛城山で狩りをしていたところ、背の高い人が谷を見降ろしていた。
その顔が雄略天皇に似ていたことから、天皇は神であると考えた後にわざと誰何したところ、相手は『自分は現人神である。まず名を名乗り給え』と言い、天皇が名乗ると、『自分は一言主である』と返答した。
その後、一言主神は天皇と轡を並べて終日狩りに興じ、一匹の鹿を射る時も互いに譲り合って矢を放たないなど、その様子は仙人のようであったという。
日が暮れて天皇が帰ろうとすると、来目川まで見送ったという。
記紀より時代が降った「日本霊異記」では役小角によって使役される鬼神の一柱として扱われており、“金峯山と葛城山の間に石橋を架けろ”と命令を受けている。
この難題に鬼神達が悩んでいると、一言主神は朝廷に『役行者が天下を傾けようとしている』訴えて、役小角を捕えさせ、伊豆国に配流させた。
しかし役小角は後に恩赦を受けて解放され、讒言した一言主神を捕えて呪法で縛りつけたという。
時代が降るとともに、天皇よりも上位の神から、対等の存在、使役される鬼神として凋落した一言主神だが、これは葛城氏の衰退・滅亡に起因するものとされる。
さらに「日本霊異記」の件は、仏教の伝播による日本の神への信仰が衰退した様子を、修験道の祖・役小角に使役される姿で物語っていると解釈される。
一言主神は、葛城神、葛城一言主神等の異名を持ち、里人から“いちごんさん”と呼ばれて、一言であればどんな願いでも叶える神として古来から信仰されており、その参拝は願いを一言だけ口にすることが許されていることから“無言参り”とも呼ばれた。
女神転生シリーズのヒトコトヌシ
初出作品は「真・女神転生」で、種族は“鬼神”。SFC作品時代のデザインは豚の様な頭部に丸い胴体という姿で、下級の鬼神族悪魔と言う扱い。「真・女神転生Ⅱ」では国津神に分類されている。
「デビルサマナーソウルハッカーズ」において、青々とした木の葉が集積した人型というデザインで登場し、以後の作品でもこの姿で通している。
「デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団」では、超力兵団計画に加担する国津神の一柱として物語に絡むボス悪魔として登場、台詞中でも“一言”を強調し、計画の障害である葛葉ライドウを“悪事”と断じて襲いかかり、撃破時に役小角に敗北したことをうかがわせる発言をする。後の「真・女神転生Ⅲマニアクスクロニクルエディション」では葛葉ライドウの専用スキル“ヒトコト大風”で、仲魔の一体として活躍する姿が見られる。