概要
初代『ゴジラ』に登場する、天才科学者・芹沢大助によって開発された科学物質。
またそれを散布する装置を指す。別名「水中酸素破壊剤」。
その名の通り、水中で使用すると周囲の酸素を徹底的に破壊する作用を持つ。この結果、一定範囲内の水中の生物は酸素を取り込むことができなくなるどころか、細胞中の酸素さえも破壊されて肉体が崩壊する(ただし、作品によっては酸素がない環境でも生存可能な宇宙怪獣などには効果はない)。
そして影響を受けた範囲の海中の生態系は完全に破壊されて死の海と化し、この影響は長期間にわたって残る。
実は地上や空中でも使用でき、その場合はもっと恐ろしいことが起きるという(後述)。
人間側の道具の中で、ゴジラを完全抹殺できた数少ない存在の1つでもある(戦闘機のミサイルでやられたアメリカ版ゴジラはもちろん除く。また、後の作品でGフォースのスーパーメカゴジラやGグラスパーのディメンション・タイド、潜水艦「さつま」等ゴジラを追いつめた兵器や戦法などはいくつかあるが、いずれも劇中復活を許したりラストで生存を予見させる描写があったりとトドメをさしきれておらず、ゴジラの生命活動を完全に停止しきれたものは殆ど存在しない)。
劇中では容器に入った実験用のあめ玉サイズの物とゴジラに使用した容器に入った物が使われたが、砲丸玉ぐらいの量でも東京湾を死の海に変えられる程の威力を持つ。
2022年現在、ゴジラシリーズのいずれの時系列においてもオキシジェン・デストロイヤーに迫るものは生まれても完全な再現は成されていない。
劇中での活躍
オキシジェン・デストロイヤーは「兵器」として開発されたものではなく、酸素の利用法・性質などを専門に研究を進めていた芹沢が、その途上で偶然作りあげてしまった副産物である。
芹沢本人もその効力に戦慄したらしく、「初めて実験をしてから二、三日は食事も喉を通らなかった」と回想している。彼は何とか平和的な利用法を見つけようと研究していたようで、それが可能になるまでこの薬品の存在を誰にも明かすつもりはなかったが、かつての許婚・山根恵美子に打ち明けたことから、その恋人である尾形秀人にも存在が知られることとなった。
芹沢は彼らからゴジラに対抗できる唯一の手段として使用を求められるが、当初は何としても攻撃的な使い方は許さない構えだった。それはこの薬品が兵器として知られれば間違いなく、原爆や水爆を超える最悪の大量破壊兵器と化すであろうという確信があったからである(後年同様の研究に携わった科学者たちも同じ懸念を抱いており、後述の伊集院は「水中で使用したからまだ被害は東京湾だけで済んだ」「地上で使用していたら東京が死の町と化していただろう」とコメントしている)。
しかし被災者達の悲惨な現状を見て、彼もついに使用を決断。2度の東京襲撃を経て東京湾海底に潜んでいたゴジラは至近距離で水中にばら撒かれたオキシジェン・デストロイヤーによって完全に溶解・消滅させられることとなった。
芹沢は使うと決めたその時、この危険極まりない発明をただ1度きりの装置として、世に出すことなく葬り去る決意もまた固めていた。尾形達の目の前で一切の研究資料を焼き捨てたばかりか、拷問などによってその知識を引き出される可能性さえ残さぬように、オキシジェン・デストロイヤーは海底で直接彼自身の手によって起動され、その直後に潜水服のロープと送気管を切断することで、ゴジラ共々その秘密は完全に抹消されるのであった。
芹沢の犠牲によって製造法は失われたが、文献として残らずとも『水中で使用すると、周囲の酸素を破壊してその場にいる生物を死滅させ、液状化させてしまう』という効果と使用法は初代ゴジラ討伐に立ち会った人々の記憶に強く刻み込まれており、後述するように後のシリーズ作品においても多大な影響を与えている。
しかし、約40年後…
初代ゴジラと地続きである平成シリーズにて、伊集院研作博士が酸素を極限まで微小化させた「ミクロオキシゲン」の開発に成功する。
劇中では「酸素ボンベの小型化」「家畜に与えてより大きな身体への成長を促し、食糧問題の改善につなげることができる(劇中では魚の巨大化に成功している)」等の平和的利用方法(裏設定ではオゾン層修復のため)が語られていたが、軍事転用された場合、他の分子の隙間に入り込んで崩壊させてしまう(=物質を溶解させる)という、オキシジェン・デストロイヤーと非常によく似た効力を持つ。
そう、ミクロオキシゲンはオキシジェン・デストロイヤー開発のために必要な技術的な関門の一つであったのである。伊集院自身も「オキシジェン・デストロイヤーを意識しての開発」を行っていた。(芹沢も、自らの研究の過程でミクロオキシゲン生成を経ていた可能性が高い)。
しかし、これはオキシジェン・デストロイヤーから四十年以上の時を経て、当時よりもすぐれた実験器具・コンピューターの導入により『克服しがたい技術的な関門』(後述)をクリアする環境がより整えられた事による結果にすぎず、未だ残る「容易には克服しがたい技術的な関門」により伊集院はオキシジェン・デストロイヤーを開発するに至らなかった。
芹沢の元許婚でオキシジェン・デストロイヤー使用に直面した山根恵美子はミクロオキシゲンについてオキシジェン・デストロイヤーの再来ではないかと危惧しており、さらに義理の甥(山根博士の養子となった山田新吉の息子)である健吉の「核エネルギーの暴走したゴジラに対する兵器として使用する」という意見に対して「芹沢が自らの命を絶った意味がなくなってしまう」と恐れ、強く反対していた。
伊集院自身は意識こそすれどあくまで平和的利用を望んでおり、ゴジラのバーニング化による地球の危機に際してオキシジェン・デストロイヤーの開発を迫られた際には明確に反対の意思を示していた。
ミクロオキシゲン使用による対ゴジラ戦
1954年のオキシジェン・デストロイヤー使用は東京湾一帯を一時的に無酸素の死の海とせしめ、海底の土の中に眠っていたデストロイアを復活させてしまう。これはデストロイアが先カンブリア時代=地球上が無酸素であった時代の生物だからであった為、一時的に酸素が消滅した生存区域が発生したからである(これらの事から、実証する手段こそないものの、先カンブリア時代の微生物にはオキシジェン・デストロイヤーは通用しない可能性が存在する)。
やがてこのデストロイアは40年後の東京湾海底トンネル開発に伴って酸素に触れ、適応反応によって異常進化を起こし、平成ゴジラ史上最大最後の敵怪獣となった。
復活したデストロイアは進化過程でオキシジェン・デストロイヤーに直接触れた事が理由なのか、体内でミクロオキシゲンを生成する能力を得ている。
微小体であった頃はガラスの容器を破壊したり、水族館の魚を白骨化するなどの活動をしていたが、やがて幼体と呼ばれる2m程度の形態へ成長すると、口からミクロオキシゲンをビーム状に発射し、対峙していた機動隊員の体を溶かして殺害することができるまでに至る。
さらに成長が進んで集合体や完全体と化した際には生成するミクロオキシゲンの濃度が極限にまで高まったことで、威力においてはオキシジェン・デストロイヤーと互角となっており、「オキシジェンデストロイヤー・レイ」と呼称されるようになった(名称から誤解されやすいが、実際にオキシジェン・デストロイヤーと化したかについては劇中でもはっきりとは言及されておらず(「ミクロオキシゲンでは実現し得ない威力」と言われた程度)、あくまで「オキシジェン・デストロイヤーに比肩するまでに超高濃度化されたミクロオキシゲン」であると思われる)。
後の伊集院の検証によって、ミクロオキシゲンは零下187℃の超低温下においてその効果を失うことが突き止められ、これが人の手によるデストロイア撃破のきっかけとなった。
『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)
平成シリーズとはまた別の世界線。
オキシジェン・デストロイヤーによって白骨と化した初代ゴジラの遺体がメカゴジラ(3式機龍)開発に使用された。ちなみに本作でも本編中にはオキシジェン・デストロイヤーという名称は明示されておらず「芹沢博士の作った特殊兵器」と呼ばれている。
初代『ゴジラ』ではゴジラが白骨と化した後、それさえも溶け去っていく様子が描かれているのだが、本作では骨は残ったと変更されており、そのシーンは新たに新規で撮影されている。
また手塚昌明監督のこだわりから、オキシジェン・デストロイヤーが使用された場所が東京湾から房総半島沖の海底に変更されている。
これは『ゴジラ』におけるオキシジェン・デストロイヤー使用シーンが「周囲に水平線しか見当たらない海上」であった事から、当時の東京湾の光景ではありえないという考察に基づいたものである(『ゴジラ』本編では東京湾で使用したと明言されていなかったことからこの考察を基に変更している。なお、映像作品内で東京湾で使用したと明言されたのは『ゴジラの逆襲』からとなる)。
結果的にこれがゴジラの骨だけが残ったり、機龍二部作の世界でデストロイアが誕生していない理由になっている……のかもしれない。
その他の作品への影響
複数の時系列が存在するゴジラシリーズの中で、初代『ゴジラ』はそれらの全ての源となっており、オキシジェン・デストロイヤーもまた後の複数の作品に影響を与えている。
『ゴジラ・ジェネレーションズ』(1998年)
プレイアブルキャラクターの1体であるジャイアント芹沢博士の武器として、いかなる原理か芹沢博士もろとも巨大化して登場。放電による攻撃も可能となっている。
『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999年)
小説版にて、山根博士が書き残した手記の中で触れられている。基本的には初代『ゴジラ』での描写をなぞっている。
ただし、芹沢博士がオキシジェン・デストロイヤーの着想を得た時期を戦時中、ナチス・ドイツの原爆開発に留学生の身で携わっていた時とする設定が追加されており、「スイス在住のドイツ人がオキシジェン・デストロイヤーのアイデアについて知っていた」という初代『ゴジラ』の描写を補完している。
『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)
直接その名前が明示されたわけではないが、かつてゴジラを葬ったという“未知の毒化合物”を用いた兵器としてその存在が仄めかされている。
ただし、オキシジェン・デストロイヤーの存在が物語のキーワードとなったわけではなく、「太平洋戦争の犠牲者の怨念が宿った怪物であるゴジラに対して、防衛軍の兵器が全くダメージを与えられなかった」ことを示すための例示の意味合いが強い。
『GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)
ゴジラを一度抹殺した謎の秘密兵器としてその存在が噂された。
噂によれば「ゴジラはセリザワ博士なる人物が開発した新兵器オキシジェン・デストロイヤーで一度抹殺されており、妖星ゴラスを撃墜したりメカゴジラ開発工場を破壊したゴジラは二匹目の個体。セリザワ博士は自らの開発が人型種族同士の争いに利用されることを恐れて命を絶ったが、その研究成果あるいはオキシジェン・デストロイヤーそのものが地球のどこかに隠されており、それを使えばゴジラを再び抹殺することも不可能ではない」と言うのだ。
当然ながら噂の正体はゴジラの脅威に心折られた人々へ希望を与えるためにケイン・ヒルター博士とその仲間達が広めたデマであり、そんな荒唐無稽な兵器など実在するわけは無かった。
しかし、ヒルターの同士・イジュウインはその噂に影響を受け、かつてヘドラを研究していた施設を拠点としてゴジラを倒しうる生物兵器「J-MO-7」の研究を再開する。ヒルターも研究に加わったが、研究施設はある日「赤い骨格を持ち、金属を溶解する能力を持ったガニメの亜種らしき群体」の襲撃によって壊滅してしまう。彼らを襲ったのは本当にガニメだったのか、それとも……?。
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)
初代ゴジラと地続きではなく、賛否両論の議論も多く長大なため分割。
オマージュ・外部出演
『機動警察パトレイバー』(1988年)
初期OVA版第3話「4億5千万年の罠」にて、東京湾に出現した怪獣に対してシバシゲオが持ち出した代物。容器の外見こそ「まさしくオキシジェン・デストロイヤー」と形容されるものだが、中身はドライアイスであり実効力はない。
『竜†恋』(2006年)
ニトロプラスのアダルトゲーム。「1954年に突如として現れた神話の生物ドラゴンは既存兵器が一切通じず、ある天才科学者の開発した超兵器で葬り去られた」という芹沢博士とオキシジェン・デストロイヤーと思わしき存在について語られており、以来ドラゴンと人類の戦いが始まったとされている。
本作は基本的にはラブコメディだが、「竜は英雄でなければ殺せない」「竜は英雄に殺されなければならない」という神話要素が重要なテーマとなっており、初代「ゴジラ」から連なる「竜殺しの神話」へのオマージュとなっている。
『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』(2015年)
「バイオデストロイヤー(BD)」という、あらゆる生命体の分子結合を分解し、超人をも消滅させる特殊な化学薬剤が登場。オキシジェン・デストロイヤーとの類似点を持つ。
本作は随所に昭和の特撮やアニメへのオマージュがなされているのが特徴であり、これもその一つと思われる(ちなみに、主人公の人吉爾朗自体がゴジラのオマージュ要素を含むキャラクターでもある)。
「しんのすけ対シン・ゴジラだゾ」(2017年)
アニメ『クレヨンしんちゃん』のゴジラとの共演回。野原ひろしの三日間履き続けた靴の匂いを基にした、気持ちも体も大きくなる巨大化アイテム「オヤジジェンオオキクナルヤー」と一週間履き続けた靴の匂いを基にしたあらゆるものを萎えさせる超兵器「オヤジジェンデストロイヤー」が登場。砲丸部分がぶりぶりざえもんの顔になっており、デストロイヤーをゴジラに打ち込み、オオキクナルヤーで巨大化したしんのすけの尻で口に栓をして撃退。小さなトカゲサイズにまで縮小し海へと放したが、水に長時間浸かると匂いが取れてしまうという弱点があり、ラストでは再びゴジラが巨大化したことが示唆された。
『スーパーロボット大戦X-Ω』(2017年)
『ゴジラ対エヴァンゲリオン』が参戦した際に、碇ゲンドウの口から「完成すればマジンガーZやエヴァンゲリオン以上の脅威となる」と開発者である芹沢博士の名前と共に語られている。
『PUI PUI モルカー』(2021年)
第8話「モルミッション」で、テディが敵のサメ型戦闘メカを破壊するために形の良く似たカプセル型の時限爆弾を使用した。
あくまで形が似ているだけの完全な別物ではあるが、あまりにそっくりであったためか、放送直後はTwitterのトレンド上位に“オキシジェンデストロイヤー”が入るという珍事が発生した。
『ゴジラS.P』(2021年)
オキシジェン・デストロイヤーのオマージュが入った架空の物質「オーソゴナル・ダイアゴナライザー」が登場。3次元空間では複数の形態(フェーズ)を取る高次元的な新元素「アーキタイプ」の13番目のフェーズで、怪獣の生存に必要な他のフェーズのアーキタイプを変質させる機能がある、すなわち怪獣を倒す力があるとされる。
作中で最初に使用された際には、オキシジェン・デストロイヤーのものと同じ形の容器に収められていた(この時は完全な機能は発揮していない)。
実際にどうなるのか
オキシジェン・デストロイヤーがまず「どの意味で」酸素を破壊するのかという問題がある。
分子レベルで酸素を破壊したとしても、酸素原子は単体では不安定極まりなくそのまま存在しきれないため、すぐに分離された別の酸素原子と結びついて酸素に戻るか、炭素原子を捕まえて二酸化炭素になるか、水素原子を捕まえて水になるかのいずれかである。
ただ破壊された酸素が大量に及んだ場合、不安定な分子結合が起こり過酸化水素や一酸化炭素、オゾンが大量発生し、有毒化する可能性はある。
原子レベルで酸素を破壊した場合、水中の場合は水とそれに溶け込んでいる二酸化炭素の酸素原子が破壊され、切り離された水素原子や炭素原子が結合し、大量の水素とダイヤモンド、それに炭化水素化合物が発生すると思われる。この場合、エタンや、大量に吸入すると危険なメタンなど、水素を含めて常温・1気圧下で気化する大量の可燃性ガスが発生するため、ちょっとでも間違えると周囲が吹っ飛ぶことになる。
地上・空中で使用しても一定範囲の酸素と二酸化炭素の酸素原子を破壊するのが関の山で、その瞬間中心部にいる生物は酸欠状態に陥るが、すぐに周囲の大気と混ざりあってもとに戻ると思われる。
もっとも悪影響を発揮するのは成層圏で炸裂させた場合で、オゾンを破壊してオゾンホールを作り出す可能性がある。