概要
航空戦艦とは、空母のような航空機運用能力を付加された戦艦のこと。
と、書くと万能艦のようであり、架空戦記では大人気である。
それどころか、実際に列強諸国の多くで計画されたが、以下に挙げるような問題点が解決されなかったため、実現に至ったのは日本の伊勢型戦艦の伊勢・日向の改装のみである。
問題点
- 艦上機の発着艦には長大な飛行甲板が不可欠だが、主砲などの艦上構造物とのレイアウトが問題となる。武装の邪魔にならない様にすると、飛行甲板を短くしたり斜めにしたりと航空機の運用に問題となる。飛行甲板を優先すると、武装や火器管制装置をオフセットせねばならず、射撃に問題が出る。そもそも大掛かりな艦上構造物があると飛行の妨げになる。
- 艦内スペースも、戦艦としてのものと空母としてのものが取り合いとなる。
- 主砲の爆風は、飛行の妨げになり、甲板上の搭載機を痛める。
- 長大な飛行甲板を装甲するのは重量がかさむ。航空機の燃料や爆弾は砲戦時には危険である。
伊勢型の改装
上記のように航空戦艦は問題点ばかりであるが、やむなく実現した例が伊勢型である。ミッドウェー海戦での敗北により主力4空母を失った日本海軍は、早急に空母の補充を必要とした・・・のだが、その建造には2~3年を要するため、戦艦を改装して空母とする事が検討された。この際大和型・長門型は強力であるので除外、金剛型は速力があり使い勝手がいいので除外され、たまたま日向が事故により5番砲塔を失っていた事もあり伊勢型が選定されるに至った。
さりとて本格的な空母に改装するのには大量の資材と1年半以上の期間を要するため、改装は艦の後部にだけ行われたのである。誰も好き好んでこんなものを造ったわけではないのだ。
結果、主砲の三分の二が残った航空戦艦ができあがった。防御については目をつむり(対空火器は強化された)、搭載機の発進はカタパルトに任せて、回収は他艦(実戦となれば空母艦載機にも被害が生じるので、そちらに収容すればよい)や基地に任すということになった。
これで得られた2隻合わせて44機(おおよそ中型空母一隻相当)と言う搭載機数をどう見るかである。
実戦では航空機が転用されたり生産が遅れたりと員数が揃わず、航空機運用能力が発揮されることはなかった。もっとも、改装が全て無駄になったわけではなく、格納庫を物資の輸送用に転用したほか、後部の飛行甲板には機銃や12cm28装噴進砲を針山の如く装備し、重武装の護衛艦兼輸送艦として威力を発揮した。
第二次世界大戦後
戦後、航空機の発達に伴い、ヘリコプターやS/VTOL機などが実用化されたためアイオワ級戦艦の航空戦艦改装プランが検討されたが、机上プランに終始し実現することはなかった。
戦艦としての復活は結局なされなかったものの、戦後に甲板を備えたヘリコプター塔載護衛艦として「いせ」、「ひゅうが」がそれぞれ襲名されている。
航空戦艦「ミズーリ」
冷戦末期、戦艦という艦種はすでに過去の遺物となっていた。しかしそれでも『戦艦』へのロマンを諦めきれない派閥が中心になって提案されたのが、ハリアー(AV-8A)やヘリコプターを搭載する「航空戦艦化改造」だった。「攻撃機発着に使えるからいいよね?」という訳である。
これにより航空戦力にも対応し、ミズーリは再び海軍の看板役へと祭り上げられるはずだったのだが、航空戦艦の欠点は上記のとおり(=中途半端)であり、だいいちそこまで金をかけて改修するほどの事でもないとされ、結局ミズーリは最後まで戦艦であり続けたのだった。
なお、改修の際は後部の第三主砲塔を取り外し、そのスペースを飛行甲板にあてるつもりだった模様。もちろん「艦載機の収容スペースは?」とか「主砲使うときは発着できないよね?」やら「そも攻撃機使えるなら主砲いらなくね?」などと言ってはいけない。そこはロマンの問題である。
SF作品において
近代SF(アニメ)作品などでは、宇宙戦艦ヤマトやガンダムといったアニメに宇宙戦闘艦が登場しており、艦載機やロボットを搭載した戦闘艦が良く出てくる。以下に航空戦艦(もと航宙戦艦・航宙母艦とも言う)が登場する主なアニメ作品並びに艦艇を挙げる。
「宇宙戦艦ヤマト」シリーズ
SFアニメの金字塔とも言える宇宙戦艦ヤマト(リメイク版ヤマト2199含め)だが、本作品はかなりの頻度で航空機運用の能力を持った戦闘艦(戦闘空母とも呼ばれる)が多数登場している。
ヤマト
当然の事ながらヤマトもその1隻である。本艦は艦尾(艦底)内部の空間に宇宙艦上攻撃機を多数格納するという、航空戦艦の性質を持っている。搭載機数は不明で、どう見ても収容しきれないというツッコミもあるのだが・・・。また宇宙空間と言う事もあって、飛行甲板無しで発艦可能である。宇宙戦艦ヤマト2199では333mに大型化され、同時に艦載機の発進方法も改められ、後ろ向きにカタパルトで発射される。
空母(地球側)
ヤマト2にて、地球防衛軍が再建を果たした時に登場した宇宙空母で、前部に主砲塔と艦橋、後部は飛行甲板という、航空戦艦化した伊勢型戦艦を模したとも言えるデザインである。何故か後のシリーズでは後継艦が姿を見せていない・・・。(宇宙戦艦ヤマト復活篇では、デザインまでされたが未登場)
戦闘空母ヒュウガ
宇宙戦艦ヤマト2205で登場。時間断層で建造され、数が多く持て余したドレットノート級を改造して作られた。一部の武装はドレットノート級のものをそのまま利用しており(波動砲も健在)、砲戦も十分行える。
ブルーノア
『宇宙戦艦ヤマト復活篇』で地球防衛軍最新鋭艦として登場したのがブルーノアである。外見的には三連装砲塔8基24門を有する強力な戦艦だが、両翼の巨大な三角翼が左右に展開することで、翼内部にある多くの艦載機を発艦させることが出来る。
戦闘空母(ガミラス側)
敵勢力の1つガミラス帝国では、戦闘空母と呼ばれる戦艦と空母の両方を兼ねたハイブリッド艦が登場。全長は200m程。こちらは上記の地球側空母と逆の思想で、飛行甲板を艦前方、艦橋や主兵装を後部に纏める形となる。また飛行甲板の裏側にビーム砲を多数備えるなど、かなりの重武装艦である。
デスラー戦闘空母
戦闘空母の準同系艦で、デスラー総統専用ということから『デスラー戦闘空母』と呼ばれる。全長が260mと大型化し、武装が減らされるなどの改装を受けたが、デスラー砲などの決戦兵器を付け加えるなど、相対的な戦力向上を成し、高い戦闘能力を見せつけた。
ゲルバデス級航宙戦闘母艦
リメイク版ヤマトではゲルバデス級航宙戦闘母艦として登場。ただしオリジナル版とは設定変更され、全長も390mと大型になった。建造過程やコスト面での難点・不備を抱えるなど、リアリティを含んだ戦闘艦とされる。劇場版『星巡る方舟』では迷彩柄も登場し、最終的に撃沈こそしたがかなりの戦果を挙げた。
デウスーラⅢ世
同じくリメイク版より。デスラー戦闘空母のリメイクとして登場。ゲルバデス級と同時期に建造されていたが同様の理由で建造が中断されていた。しかし、デスラーがガミラス人の移住可能な惑星を探索するという途方もない航海に旅立つことになった際、副官のガデル・タランが、この航海に耐えうる艦が必要であると考えた。 そこで指揮能力を持ちながらゼルグート級より小型で取り回しが良く、ゲルバデス級と同様多機能で長期航海に向いた本艦が徴用されることとなり、建造が再開されたがほぼ同時にガルマン星が発見され奪取計画が立案されたため、技術的に解決しきれなかった部分の機能は廃したうえで工期を短縮して急遽完成させられた。完成と同時に投入されたため船体色は試作用を示す赤のままであり、デスラー座乗艦を示す「高貴な青」に塗り直す暇がなかった(肝心の総統は「たまには赤でも良かろう」と満更でもない様子)。ゲルバデス級に比べると武装面はかなり強化されており、デスラー砲も健在。
詳細は→デウスーラⅢ世にて
メダルーサ殲滅型重戦艦メガルーダ
ガトランティス帝星(リメイク版)に登場した505mの大型宇宙戦艦で、火焔直撃砲や大口径五連装砲塔を始めとして、非常に凶悪な打撃力を有する。また艦後部にはV字型飛行甲板を備え、最大で12機の艦載機を搭載しているなど、軽空母に匹敵する航空戦力を有する。
戦艦プレアデス
暗黒星団帝国の保有する大型の円盤型戦艦で、全長も500m以上。円盤に艦橋と主砲を乗っけただけというシンプルな構造だが、艦首に開口部があり、そこから多数の艦載機を射出しているこっとから、航空戦艦としての機能を果たしている(飛行甲板は必要ない)。同系艦でガリアデスも登場。
大型空母(ボラー連邦)
ボラー連邦が保有する、平たい潜水艦の様な形状をした大型宇宙空母。上記のプレアデスと同様に、艦首に射出口が存在するのみで飛行甲板は表上にはない。便宜上は空母だが、格納式砲塔を4基備えていることから航空戦艦と言うには十分である。
巨大戦艦ガルンボルスト
ディンギル帝国の有する大型宇宙戦艦で、ガトリング砲主兵装とした特徴的な艦。艦載機を保有していることから一応は航空戦艦とも言える。一応は発進口が2つ存在するのだが(設定上では)、劇中で艦載機を発艦させたことは一度も無い。
ベルデル空母
ベルデル国の有する航空戦艦。楕円状の艦体の下部に、逆三角錐上の巨大な艦載機格納庫を吊り下げるように持つ。搭載機数も相当なもので、100機規模に上るのではないかと推測される。が、格納庫にも被弾しやすい欠点がある。
「機動戦士ガンダム」シリーズ
艦載機は確かに運用されているが、後にロボットことMSにその座を譲っている。かといって母艦がいなくなった訳ではなく、艦載機がMSに置き換わっただけの話で、航空戦艦とも言うべきシリーズを通して艦艇は数多く存在する。また飛行甲板は必要なく、代わりにカタパルトを必要としている。
ホワイトベース
ガンダムの母艦として建造されたのがホワイトベースである。劇中では、その特異な形状から木馬とも言われている艦艇で、MS運用機能以外にもメガ粒子砲といった強力な武装を保有していることから、航空戦艦とも言える存在である。因みに便宜上は強襲揚陸艦である。
アーガマ
一年戦争後に、MS運用を前提に建造された艦艇の1隻がアーガマである。MSは8機を運用可能で、本艦その者の武装も豊富。分類は強襲巡洋艦とされているものの、巡洋艦としては異例の戦闘能力を有している。
アイリッシュ級戦艦
『機動戦士Zガンダム』に登場する戦艦。アーガマを基にして設計されたのがアイリッシュ級である。そのため似通った部分が見受けられる一方で、火力の増強を行った為、航空戦艦と言っても差し付かえない存在である。
ラー・カイラム
『逆襲のシャア』に登場した大型艦がラー・カイラムである。連装ビーム砲を4基備えるなど、戦艦としての機能を有する一方で、MS運用能力も持つため性質としては航空戦艦のそれに近いと言える。
マゼラン改級戦艦
地球連邦の主力であるマゼラン級戦艦を改装したもの。当初はMSを甲板に固定係留するだけという、非常に簡素な改装しかしない為、厳密には航空戦艦といった分類には区別し難い。しかし、小説版である『ガンダムセンチネル』では、艦の前部を格納庫に改装したMS運用艦として就役させている。後に姿を消してしまうが・・・。
ドゴス・ギア
ティターンズの保有する最大級の戦闘艦。モデルはバーミンガム級戦艦だが、MS運用を前提にするために設計を見直して建造された。カタパルト数も14基の上るため、運用能力は極めて高い。また単装型の大型ビーム砲等、多数の重火器を有している事からも、戦艦としても最大級の打撃力を保有する。
アレキサンドリア
ティターンズの保有するMS搭載型の宇宙重巡洋艦が、このアレキサンドリア級である。戦艦に匹敵するであろう火力と、MSの運用能力を保有する事から、旗艦として機能していたこともある。
アークエンジェル
地球連合が密かに建造したMS運用を前提の宇宙戦闘艦がアークエンジェルである。厳密にいうと、強襲揚陸艦に分類されるものの、並みの戦艦を超える過剰な兵装が目立つ。ホワイトベースに似たデザインだが、火力はそれを凌駕すると言っても過言ではない。同系艦にドミニオンがいる。
アガメムノン級宇宙母艦
地球連合軍の保有する宇宙母艦がアガメムノン級宇宙母艦である。元はメビウスを搭載していたが、MS搭載を可能とする為に大幅に改装されていった。火力もそこそこあり、航空戦艦と言っても差し支えない。
ネルソン級宇宙戦艦
地球連合軍の保有する主力艦がネルソン級宇宙戦艦である。ビーム兵器・ミサイル兵器共に充実した戦艦で、MAメビウスを搭載可能な戦艦であるが、後にMSも運用できるように大改装を施されている。そのため、航空戦艦には相違ないであろう。
プトレマイオス2
私設武装組織ソレスタルビーイングが保有する宇宙戦艦。同型艦はない。単独での大気圏内飛行能力を有するガンダムタイプのMS4機の運用を目的に造られたため、事実上の航空戦艦であると言える。あらゆる場所での単艦運用を前提として航空・潜水能力やステルス機能などが搭載され、更には切り札としてオーバーブースト機能も搭載しており、既存の艦艇群とは桁外れの高性能を誇る。しかし、動力源はガンダムタイプが有するGNドライヴから発生するGN粒子に依存しており、内蔵のGNコンデンサに蓄積される粒子量以上が要求される場合、粒子供給のため直掩機を1機減らさなくてはならないという欠点も有る。
SF航空戦艦は「爆風が無く弾薬も要らない(誘爆しない)ビーム兵器」「飛行甲板の要らない人型兵器(戦車以上の防御力を誇りつつも飛行が可能な超兵器でもある)」「燃料補給をする必要のない半永久機関」等で前述の問題点がなくなっている。