概要
コロナウイルス感染症「COVID-19」への対策として、2020年4月1日に日本政府が発表した、全世帯に布マスクを2枚配布する政策に対する俗称。命名の元ネタは「アベノミクス」と考えられ、海外でも"Abenomask"の名で報道されている。
当初報道されていた和牛や鮮魚の引換券に替わり、全国5000万超の全世帯に、布マスクを2枚ずつ配布する方針の政策として発表された。2020年4月17日に配布開始、6月15日に全国で概ね配布終了、改めて6月20日に完了が確認された。当初見込みでは投函開始の4月17日から一ヶ月強(5月末まで)の配布期間で予算466億円と見積もっていたが、おおよそ倍の期間を要して260億円の費用で配布された。また7月30日に介護施設や保育園向けにさらに8,000万枚を追加配布する計画も発表されていたが、批判殺到により中止された。
批判・炎上
「アベノミクス」同様、その決定から終了まで、あらゆる方角からあらゆる点に対して賛否両論が沸き起こっている施策で、今なお日本政府の対コロナ愚策の代表との主張も一部でなされている。「アベノマスク」という呼び方自体、揶揄・愚弄するものであるから使用すべきではないとする反論さえ存在するくらいである。
配布政策への批判感染拡大とともに、今なお継続する雇用や生活への不安が広がっていた4月1日というタイミングであったとされる。それら経済的損害への手当として米国が1人当たり12
この方針発表が特に問題となったのは、給付を打ち出すなど諸外国で都市封鎖の代償として現金の給付が行われる一方、日本政府が肉や鮮魚の引換券しか配当しないとの報道に国民のいら立ちが募り、また特別定額給付金も検討段階だったため(4月30日に予算成立し具体化)、マスク生産体制の強化や病床確保など、その他の政策が実行されていたにもかかわらず全世帯に布マスク2枚を配布するというこの政策は衝撃が大きく、まるで「それ以外何も政府がしていない」かのように映ったのである。
仕様への批判
マスクの配布そのものは、国民全体にマスク不足が問題化している時期であり、布マスクは一般的な使い捨てマスク(サージカルマスク、不織布マスク)と比べて機能面で優れている訳ではないが、洗って再利用でき、使い捨てマスクがない時の緊急用のマスクとしての機能があるため、決して無駄ではないと評価する向きもあった。実際のちに布マスクの配布は多くの国や地域で行われることとなり、欧州では再利用できる不織布マスクFFP2の普及に努めている。また、現在一般的なウレタンマスク等もそれほど普及しておらず、当時COVID-19の感染経路の研究が進んでいない状況で、使い捨ての不織布マスクでないと無意味との風評が国民の間に広がり、この布マスク批判を後押しした。
実際に配布されたのは「給食マスク」とも呼ばれる一般的なガーゼマスクで、不織布マスクに比べて明らかに密閉感が低く、大人が使用するには小さい。言うまでもなく、マスクはしっかり鼻から顎まで覆うことが正しい使用法である。
実を言うとこれは仕様にばらつきがあったためで、中には比較的余裕のある個体もあったのだが、よりにもよって当の安倍首相が小さな個体を無理くり付けたような状態で堂々とメディアに露出し、しかもそれを長期間続けたことから一層のシリアスな笑いを呼んでしまった。
その他、すぐに耳掛けがほつれることなどを嫌う人もいた。
この政策の立案にかかわった経済産業省の官僚のFacebookページによると(参考)、使い捨てマスクを医療機関に優先的に回すため、一般国民に布マスクを配布し、現在の日本の世帯の平均人数が2人に近いことから、各世帯に2枚ずつ配布したとのこと。が、このFacebookページもまた炎上する事態となり、書き込みは削除された。
調達過程への批判
しかし後にマスクを集める過程に、恐るべき問題が多々ある事が判明した。最初に依頼を受けた『興和』はマスク製造に実績のある企業だが、主力商品は使い捨てマスクで、布マスクは補助程度に製造している企業だった。また、全世帯に配給とCOVID-19のパンデミックによる、材料確保の至難さの二重苦に、興和は政府に対し「質と早さ、どちらですか?」と尋ねると、政府は「早さです」と答えた。
この「(国民配給の為の)早さ」を重視した結果、「最終検品はしなくて良い」「製品に問題があったとしても、政府は企業に対し一切の問題言及をしない」といった、粗製濫造とも言える契約を交わしていた。
人名が関わる早急の対処であったため速度そのものを優先すること自体は間違ってはいないのだが、汚れを始め、酷い物ではカビの発生や虫の混入すら確認されたため、更なる批判を呼んでしまった。
配布遅延への批判
日本政府はこのマスクを5月末までに配布し終える予定であったが、実際には上記の不良品を弾くための検品を行う必要が出たために大幅に遅れ、全体の3割程度しか配布できなかった。
2020年6月15日に全国で概ね配布完了と厚生労働省のサイトで発表され(厚生労働省の布製マスクの都道府県別全戸配布状況)、実際の配布は6月20日に終了確認されている。この15日発表の時点でまだ届いてない事や重複して届いた報告が相次いだり、空き家に投函されたりと問題が多々あり、改めて政府への怒りの声が寄せられ、そしてなにより開始から全国に配布完了まで約2ヶ月と遅きに失した。
さらなる飛び火炎上
こうしたマスク政策の不手際と、生産会社が明らかにされなかった影響もあり、生産会社と思われる企業や政府要請でマスクを作っているとデマを流布された企業が誹謗中傷の的になる事件もあった。
実際に不良品や説明書きとの矛盾などで関わった企業の品質管理が問われる事もあるが、先述の通り、このマスクの製造に限ってはそれが免責される契約になっているため、全ての責任は政策を打ち出した方にある。
また税金を投入し、発注したのも政府であるため、その方面で企業を批判するのも的外れである。手元に届いたマスクの不満を言う自由は当然あるが、情報の出所を確認すると共に誹謗中傷に発展するような批判をしないように心掛けたい。
それで起きた事件が2015年に羽生結弦が着用したことで話題になった日の丸ロゴ入りマスクが政府要請の元で作成され、都道府県や医療機関に配布するというデマが流され、著名人もそのデマに翻弄されて批判し、制作した企業がSNS上で誹謗中傷されるという事件があった。
実際は政府とは無関係の企業だったが、誹謗中傷が殺到した結果、ロゴ入りマスクは生産休止した模様。
さらに埼玉県深谷市の公立中ではアベノマスクの着用を生徒に義務つけたと誤認するようなプリントを配布したとして物議を醸した。
マスク寄付呼び掛け
アベノマスクの寄付を呼び掛けるNPO団体もある。
無くなると惜しい?
配りきれなかったアベノマスクは2021年3月の時点で8300万枚の政府在庫があった。2022年になって岸田文雄内閣が発足すると、マスク保管の費用を問題として処分する方策を出し、これまた批判が殺到した。
ところが、別の反応もあった。厚労省には連日、「どこへいけば貰える?」との質問電話が殺到したというのである。理由は、予備として持っていたい、記念として持っていたい、等様々で、中には正式に苗床として使いたいといった謎の発想まであって担当者は色々な意味で困惑したそうである。
ともあれ、可能な限り放出することに方針転換。その予算として10億円が計上され、最終的に30万枚の焼却処分まで抑えられている。
医療現場への貢献
実を言うとこの政策、単体でポンと出されたものではなく不織布の大量生産の支援及び病院などの重要施設への優先配備と並行して行われていた。原料確保や生産設備の数の問題もあり不織布マスクオンリーで最大限増産したとしても手が届かなかったがゆえの苦渋の政策でもある。
価格への影響
マスク価格への影響を巡っては、今なお激しい意見の応酬が繰り広げられている。マスク価格は発表から23日後、配布が開始された4月17日より7日後の4月24日を境目に急速に下落しているのだが、同月の途中からかねてより日本が国内で使用するマスクの8割を供給、そのほとんどを受け持っていた中国の一時的な感染拡大が終息し、輸出解禁が本格化して2月の5倍、3月の3倍近くものマスクが供給された時期とも重なることが、意見の応酬が終わらない大きな原因となっている。
なお、マスク価格の安定化はアベノマスク以前から試みられており、2月下旬より政府はマスクの国内生産を呼びかけると同時に、3月15日には転売の原則禁止を法制化してインターネット上での急速な価格下落に成功している。
関連イラスト
「小さいマスクが2枚」ということで、このようなネタもちらほら見られた。
プロの作品では、浦沢直樹先生がTwitterに投稿したこのイラストが有名。