オーギュストロダン
おーぎゅすとろだん
アイルランド生産・調教の競走馬。ディープインパクトのラストクロップの1頭。
馬名は彫刻「考える人」などでおなじみのフランスの彫刻家、フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダンに由来すると思われる。
デビュー前
2020年1月26日、アイルランドのクールモアスタッドで誕生。
父は日本人にとっては言わずと知れた『日本近代競馬の結晶』にして日本競馬史上2頭目の無敗三冠馬、ディープインパクト。
母は現役時代は牝馬戦線で活躍しオペラ賞などのGⅠを3勝したロードデンドロンの初仔。叔母にGⅠを7勝したマジカル。祖母はGⅠを3勝のハーフウェイトゥヘヴン。
母父であるガリレオは英国とアイルランド二ヵ国でダービー制覇を成し遂げ、ゴドルフィンのファンタスティックライトと覇を競い合った優駿である。
クールモアグループがロードデンドロンの引退直後に彼女を日本に送ってディープインパクトと交配し、地元アイルランドに戻して2020年に持込馬の形で生まれた。
ディープインパクトは2019年の交配シーズン中に事故で帰らぬ馬となっており、オーギュストロダンはディープインパクト産駒最終世代の1頭となるが、その産駒の数は日本を含めわずか12頭のみ。その半数の6頭が日本国外でデビューする。
2歳時
母や祖母と同じエイダン・オブライエン厩舎に配属される。2歳時の2022年6月、鞍上にライアン・ムーアを迎えてカラ競馬場でデビューするも不利があり2着に敗れる。翌月2戦目となる、ネース競馬場での未勝利戦では鞍上にシーミー・ヘファーナンを迎えて勝ち上がり、9月のチャンピオンズジュヴェナイルステークス(GⅡ)で再度ムーアに乗り替わって重賞初勝利となった。
翌月でイギリスに渡りフューチュリティトロフィー(GⅠ)に参戦。馬場状態が悪く、エイダンはレースの直前まで回避を考えていたものの、ムーアの進言で予定通り出走。中段から差し切って1番人気で勝利し、GⅠ初出走初勝利を挙げた。出走前から2023年英ダービーのブックメーカーにおける1番人気に軒並み推されていたが、この勝利でさらに人気が集中した。
なお、この勝利によりディープインパクト産駒は全ての世代でGⅠ制覇を達成。この勝利の翌日には日本の菊花賞をアスクビクターモアが制覇しており、ディープインパクト産駒は2日連続でGⅠ制覇となった。
3歳時
エイダンは「今年英国三冠を達成できる馬がいるならば彼だ」とコメントし、3歳シーズンはそのクラシック初戦2000ギニー(GⅠ)から始動。1番人気に支持されたが、スタート直後に他の馬と接触し位置を悪くし、さらに馬場に泣いて全く伸びずシャルディーンの12着と大敗した。
その影響もあってか、ダービーは断然の1番人気の評価から他馬へと並ぶ程の1番人気から3番人気程度にまで評価を落としてしまう。
なお、不利を与えてしまった馬はなんと同厩舎所属のリトルビッグベア。
あまりにもあんまりな結果に騎乗後のインタビューで敗因を聞かれたムーア騎手は「理由?調教師に聞いてくれ。」と漏らすほどだった。
しかし、同厩舎の馬に妨害を指示するとは考えられないので、こればかりは不慮の事態だったと思われる。
ダービーステークス
そして迎えた英ダービー(GⅠ)、前走本馬と同じくエイダンが管理し、オーギュストロダンと同じく2000ギニーで大敗したリトルビッグベアがその後の重賞で勝利し立て直したというのもあり、依然評価は上位の方だった。
またエイダンも前走の大敗を受けても強気な評価は変えず、依然としてダービーを勝てると自信を見せていた。
最終的には前日にイギリスオークスなどGⅠを2勝し、波に乗っているランフランコ・デットーリ騎手騎乗のアレストがブックメーカーで軒並み1番人気に推され、本馬は2021年ダービー馬であり同じくゴドルフィンが所有するアダイヤーの全弟ミリタリーオーダーと並ぶ2番人気タイとなった。
レースは僚馬2騎が先行する中、本馬は中段の外目を通ってレースを進める。
長い直線ではアレストら人気馬が軒並み伸びない一方、一気に差し脚を伸ばして先に抜け出した伏兵キングオブスティールをゴール前で交わしてGⅠ2勝目を挙げた。上りの3ハロンは33.01秒を記録していた。
この勝利により、ディープインパクト産駒は全世代でクラシック制覇を達成した。この記録はサンデーサイレンスも達成できなかった大偉業である(1997年、2002年、2006年のクラシック組が未勝利)。
アイリッシュダービー
次はアイリッシュダービー(GⅠ)へ。最内枠だったため3番手からの先行策をとる。カラ競馬場は強風に晒され、ペースの判断がまともにできずに苦労する中、ムーア騎手は「良馬場にしてはペースが遅すぎる」と判断して早めに進出を開始。ホームストレッチ直前で前にいた僚馬のサンアントニオが転倒し、鞍上のウェイン・ローダンが落馬するアクシデントがあったが、ムーア騎手がとっさにかわして逃げ粘るアデレードリバーを競り落とし、GⅠ連勝。ザ・ダービーに続き2か国のダービーを制覇した。
なお、掲示板に入った馬は1着から4着まですべてがエイダンの管理馬。加えて5着に入った馬は息子であるジョセフ・オブライエン師の管理馬。まさにオブライエン一家のためのレースとなった。
…が、転倒したサンアントニオは予後不良の診断が下され、手放しでは喜べない結果となった。また鞍上ローダンも大怪我を負い長期療養を余儀なくされている。
キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス
インターナショナルステークスやアイリッシュチャンピオンステークスへ向かうプランもあったが、結局アスコット競馬場で7月29日に開催されるキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(GⅠ)が次走となり、レースには同厩舎からルクセンブルクらの僚馬も3頭参戦した。初の古馬との対戦ながらも主要ブックメーカーで1番人気となり、勝利が大いに期待された。
だが、レースで見せたオーギュストロダンの姿は誰もが想像していなかったものだった。
オーギュストロダンは最終コーナーに入る前で既に鞍上ムーアの手ごたえが怪しくなりそのまま力なく後退。もはやムーアも追うことなく歩くようにゴールに入線し、結果として勝ったフクムから約124馬身も離された最下位に終わってしまった(エイダン厩舎の馬はルクセンブルクの4着が最高)。
当初故障かとも思われたが、筋肉がこわばっていること以外に異常はなく、メンタル的な問題とも道悪で走る気をなくしたとも言われた。この大惨敗をきっかけに凱旋門賞など主要レースの人気も大きく後退し、世間からの評価も大きく下がる事態となった。
アイリッシュチャンピオンステークス
キングジョージでの惨敗の不安が拭えない中アイリッシュチャンピオンステークスへの出走が決定。鞍上は引き続きムーア。しかしダービーでは2着に下したキングオブスティールがその後GⅡを勝利しキングジョージで3着となっていたため人気が上昇。オーギュストロダンが今回も1番人気だったが、キングオブスティールとの差はわずかだった。
レースは僚馬のルクセンブルクとポイントロンズデールが馬群を引っ張り、その直後3番手に控えた。直線に入ると逃げるルクセンブルクに競り勝ち、後ろから来るキングオブスティールやGⅠ3勝の牝馬ナシュワを退けて優勝しダービーのように前走惨敗からの巻き返しに成功。再度評価を回復し、凱旋門賞への参戦も期待されたが、陣営から次はアメリカのブリーダーズカップに向かうことが発表された。
なおこの間ジャパンカップへの予備登録も行ったが、出走についてはエイダンからコメントは特にない。一方で日本生まれのハーツクライ産駒コンティニュアスについては出走の可能性があると表明している。
ブリーダーズカップターフ
予定通り凱旋門賞は回避し、その2週間後のチャンピオンステークスも出走を見送った。しばらくしてブリーダーズカップのために渡米することが発表された。なおチャンピオンステークスは名手ランフランコ・デットーリにスイッチしたキングオブスティールが勝利した。
オーギュストロダンの2度の大敗について「彼はとても敏感なので、飛行機での輸送で神経をとがらせてしまったのではないか」とエイダンは分析し、ブリーダーズカップ(この年はサンタアニタ競馬場で開催)への出走のため渡米にあたっては、レースの直前ではなく少し前倒して輸送を行った。エイダンは出走レースについて、ブリーダーズカップのレースのうちダート2,000mのクラシックにするか芝2,400mのターフにするか直前まで迷っていたが結局はターフへと出走させた。また陣営はこの年限りでの引退も示唆するコメントを発表した。
出走馬は5回目の対決となるキングオブスティールに加え、プリンスオブウェールズステークスなどGⅠ連勝中のモスターダフ、日本ダービー馬シャフリヤール(オーギュストロダンと同じくディープインパクト産駒)、アメリカ芝路線の強豪アップトゥザマークなど11頭で、その内9頭がGⅠ馬である。なおエイダンはクールモアと日本人が共同所有しているブルームも出走させている。
レースは中団よりも後ろの内ラチ沿いに控え最終コーナー手前から内ラチ沿いを通って先団に進出し、最終コーナーでは最内が開くとそこを鞍上ムーアが突き一気に先頭に立つ。アップトゥザマークとシャフリヤールが懸命に追ったもののそれを振り切って優勝。5つ目のGⅠタイトルを獲得した。エイダンはこれでBCターフは最多記録を更新する7勝目。
戦前のコメントから今回が引退レースになるかと思われていたが、レース後、馬主サイドから現役続行の可能性を示唆するコメントが出され、その場合は今回出走しなかったブリーダーズカップクラシックへの出走の可能性を残した。
その後A.オブライエン調教師から現役続行すると正式に発表され、多くの同期達が引退した23世代と名実共にバリードイルのエースとして4歳シーズンを戦っていく。
その後、なんと来日してジャパンカップへ出走、ラストランとすることが発表された。更に引退セレモニーを日本で行うとのこと。
陣営は父ディープインパクト譲りで日本の馬場もいけると判断してのことであり、何の因果か、日本総大将として迎え撃つのは国内で唯一父を破ったハーツクライ産駒のドウデュース、しかもその鞍上は父の背を知る武豊。