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「本当の悪は笑顔の中にある」


「笑いの仮面をかぶれ」


概要編集

バットマン』シリーズで、バットマン最大最凶の宿敵として有名なヴィランであるジョーカーを主役に据えた映画。


ジョーカー役はホアキン・フェニックス監督脚本は『ハングオーバー!』シリーズで一躍メジャー監督となったトッド・フィリップスが務めた。

製作はヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズ、配給はワーナー・ブラザース

2019年10月4日に日米同時公開された。日本ではR15+の為15歳未満の鑑賞は不可。


作品解説編集

ジョーカーの初単独スピンオフであるが、原作でのジョーカーは既に狂気で記憶が混乱しているためにオリジンが確定しておらず、語られる度に変化しているという設定を逆手にとり、敢えて原作コミックのジョーカーのエピソードを一切拾わず、DCEUを始めとする過去のバットマン作品とも繋がらない本作独自のジョーカーのオリジンが描かれる。


マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』が本作の着想の元ネタとなっており、時代設定もバットマンが現れる以前の1970~80年代に設定され、BGMテロップといった作品の節々にも当時の映画作品を意識した演出が施されている。


2010年代のアメリカに蔓延する強烈な格差社会を反映した世界観、決して他人事で済ませられない主人公アーサー・フレックの境遇、妄想と現実が入り混じる描写、絶望の果てに悪と狂気へと転落するカタルシス、そして物語を通して湧くであろうアーサーに対する観客の同情心をも嘲笑するかのようなエピローグ等々、従来のアメコミ映画とは全く異なる雰囲気を持つ、まさにジョーカーに相応しい危険な狂気に彩られた映画である。

全編を通して常にアーサーの一人称で描かれているのも本作の特徴の一つ。作中の出来事は一貫してアーサーの主観を通してのものであり、他の登場人物の客観的な人物像を敢えて描かず、さらにアーサーを「信用できない語り手」であるともとれるかのように描くなど、複雑な演出と解釈の分かれる物語が観客を弄ぶ。


コメディ映画の旗手として知られるトッド監督のフィルモグラフィの中では異色の作品だが、彼のキャリアのスタート地点は生の人間像に迫ったドキュメンタリー映画にあり、また本人も「既成価値観の逆転という意味において、本質的にやっていることはコメディと変わらない」とコメントしている。


世界三大映画祭の一つヴェネツィア映画祭では最優秀作品賞にあたる金獅子賞をアメコミ原作映画としては初めて受賞するという快挙を達成。

第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、作曲賞など最多11部門へのノミネートを果たしたが、受賞は惜しくも主演男優賞と作曲賞の2部門のみとなった。

また、本作での演技を絶賛されたホアキンは、第92回アカデミー賞主演男優賞を受賞した他、第77回ゴールデングローブ賞にて二度目となる主演男優賞を、第44回トロント国際映画祭においては映画で傑出した演技を行った俳優に対する新設の功労賞である第一回TIFFトリビュート・アクター・アワードをメリル・ストリープと共に受賞した。


商業的にも大きく成功し、制作費5500万ドルと低予算でありながら世界興業収入は10億7400万ドルを達成。R指定作品としては2018年の『デッドプール2』が達成した世界記録7億8500万ドルを塗り替えることとなり、この記録は2024年に『デッドプール&ウルヴァリン』が更新するまでダントツの1位であった。

日本国内でも公開後4週連続で全国観客動員数1位を記録し、11月時点で興業成績は50億円を突破するという、R指定映画としては異例のメガヒットを記録した。


一方、トーマス・ウェインアルフレッド・ペニーワースといった従来のバットマンシリーズの登場キャラクター達が意図的に醜悪な人物として描かれているといったアーサーを対象とする判官贔屓的な展開から、古参のバットマンファン達の中には、難色を示したり反感を抱いているものも少なくない。


また、前述のアーサーの一人称で描かれる内容の点や、物語の途中で発覚する事実、エピローグでの描写から、作品のストーリー全体がアーサーの「妄想」によって歪められたもの、もしくは全て「ただのジョーク」だったのではないかと考察する視聴者もいる。


物語編集

バットマンが現れる10数年前。財政難から貧困と格差、犯罪と公衆衛生の悪化の嵐が吹き荒れ、人心の荒廃が著しいゴッサム・シティ

富裕層は富を独占して腐敗、政治は機能不全を起こし、追い詰められた困窮者たちが軽々しく暴力に手を染めていた時代。


貧しい大道芸人のアーサー・フレックは、献身的に母ペニーの介護をしながら、自身もまた発作的に笑い出してしまうという病気を患っており、市の福祉センターでカウンセリングを受けながら暮らしていた。


アーサーは「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、ピエロの派遣会社で働きつつコメディアンを目指していたが、なかなか機会に恵まれず、孤独で報われない人生を送っていた。


そんなある日、アーサーは商店の街頭宣伝の仕事中に不良少年達から遊び半分に襲われて袋叩きにされるという憂き目に遭う。

社長からそのトラブルの責任を一方的に押し付けられて落ち込むアーサーであったが、仕事仲間のランドルから護身用に拳銃を貸し渡される。


ところが、今度は小児病棟での慰問の仕事中に子供たちの目の前でポケットからその拳銃を落としてしまい、それが原因で派遣会社をクビにされ、さらにその帰り道で偶発的にある事件を引き起こしてしまう。

だが、ピエロのメイクをしたままだったことが幸いしてその場を逃げ延びることに成功し、不思議な高揚感に満たされるアーサー。


そして、この事件は意外な反響をゴッサム社会に及ぼしていく…。


登場人物編集

演:ホアキン・フェニックス、吹き替え:平田広明

本作の主人公。貧困や精神的な問題に苦しみながらも、道化師派遣会社『HAHAプロダクション』でピエロとして働く男性。ピエロとしての名前は「カーニバル」。スタンダップコメディアンを目指して毎日のようにネタを書き貯めているが、そのジョークは誰にも理解されない。

脳神経の損傷が原因で発作的に笑ってしまう病気を患い、それが元でトラブルに巻き込まれることも…。ヘビースモーカーで、暇さえあれば煙草をふかす。


アーサーを演じたホアキンは、役作りのために食事を1日リンゴ1個だけにするといった過酷な食事制限によって、20kg以上もの減量を行って撮影に臨んだという。

Happy Face

演:ロバート・デ・ニーロ 、吹き替え:野島昭生

アーサーが大ファンである人気トーク番組「マレー・フランクリン・ショー」の司会者。

アーサーが初舞台に立った映像を番組内で流し、彼を「ジョーカー」として紹介したことが思わぬ事態を引き起こす。


マレー役を演じたデ・ニーロは、本作の元ネタとなった『タクシードライバー』『キング・オブ・コメディ』両作の主演を務めており、トッド監督たってのオファーによって起用された。デ・ニーロが出演オファーを快諾してくれたことを知った監督は飛び上がって喜んだという。


演:ザジー・ビーツ、吹き替え:種市桃子

アーサーのアパートの同じフロアに住む女性。シングルマザーで、娘のジジと二人暮らし。ふとした切っ掛けでアーサーと親しくなり、彼のジョークやデートを楽しむ場面も。


  • ペニー・フレック

演:フランセス・コンロイ、吹き替え:滝沢ロコ

アーサーの母。心臓を病んでおり、彼の介護を受けながら二人で暮らしている。アーサーのことを「ハッピー」と呼ぶが、その由来は…。

かつてはトーマス・ウェインの屋敷で家政婦として働いており、自分たちの窮状を訴える手紙を彼に出し続けている。


演:ブレット・カレン

ゴッサム・シティ最大の富豪にして実業家。

ゴッサムの現状を憂いて市長選に打って出るが、その言動は「持たざる者」である下層の人々の目には「持つ者」による傲慢で尊大なものにしか映らない。それに加えて劇中で起こった事件の首謀者を批判するコメントから、市民の反感を買うことに。


  • ギャリティ、バーク

演:ビル・キャンプ、シェー・ウィガム

ゴッサム市警の刑事。地下鉄事件を捜査している。


  • ランドル

演:グレン・フレシュラー

アーサーの同僚の道化師。仕事中に不良少年たちに襲われたアーサーに、護身用として一丁の拳銃を貸し渡したことが事件のきっかけの一つとなる。


  • ゲイリー

アーサーの同僚の道化師。小人症でよく身長のことをランドルにからかわれている。アーサーの境遇や障がいを理解して接する数少ない人物。ジョーカーの昔の相棒で、同じく小人症の男「ギャギー」がモチーフになっている。


  • ホイト・ヴォーン

HAHAプロダクション社長。障がいによってトラブルを起こしがちなアーサーを持て余している様子。


  • ソーシャルワーカー

ゴッサム・シティの福祉サービスでアーサーのカウンセリングを担当している女性。しかし、実際には機械的な受け答えばかりで、アーサーの話や彼のジョークにも耳を傾けることはない。

彼女の出す処方箋で貰える向精神薬がアーサーの命綱の一つだったが、市の財政難によって福祉事業が縮小されたため、部署は閉鎖。薬を貰えなくなったことでアーサーの症状は一気に悪化していく。


演:ダグラス・ホッジ

ウェイン家の執事。従来の温厚なアルフレッド像とは打って変わり、排他的な人物として描かれ、(立場的に仕方ないとはいえ)屋敷の外でブルースに話しかけたアーサーを露骨に毛嫌いして追い払おうとする。


演:ダンテ・ペレイラ=オルソン

トーマス・ウェインの息子。子供ながら感情表現に乏しく笑顔を見せない。門扉の格子越しに手品を披露するアーサーに興味を惹かれ、彼に歩み寄るが…。

名前が示すように後のバットマン。しかし劇中ではまだ幼い少年であり、アーサーとの年齢差が大きい。

ジョーカー


  • テッド・マルコ

演:マーク・マロン

トーク番組のブッキング・エージェント。


関連動画編集


続編編集

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

前述した通りの大ヒットであったため早くからファンの間で予想や期待はされていたが、フィリップス監督やホアキン・フェニックスは当初否定していた。


その後2022年8月に制作発表された。

少し前に先行解禁されていた副題『Folie à deux』(フォリアドゥ)は直訳だと「2人の狂気」という意味。ジョーカーの相棒として有名なハーレイ・クインレディー・ガガが演じ、アーカム・アサイラムが舞台のミュージカル風になる模様。


また一般的な用語としては「感応精神病」(1人の妄想がもう1人に感染し、複数人で同じ妄想を共有するのが特徴の精神疾患)を意味することから、第1作の出来事が全てアーサーの妄想だったという考察との関連が予想されている。


他キャストはソフィー役のザジー・ビーツが続投、またジェイコブ・ロフランド、キャスリン・キーナー、ロバート・スピーリング、ブレンダン・グリーソンなど。


2024年10月公開予定。


余談編集

  • 本作の象徴的な場面の1つである、ジョーカーがダンスをしながら下りていくシーンのロケ地となったニューヨークのブロンクス地区のシェークスピア通りの階段は、本作公開後に観光名所となり、世界中からファンがいわゆる聖地巡礼のために訪れるようになった。→ジョーカー階段
    • 報道された撮影風景から、続編でも登場が見込まれている。
  • 企画段階ではDCユニバースに含まれ、『スーサイド・スクワッド』でジョーカーを演じたジャレッド・レトが主演として続投、タイトルも『ザ・ジョーカー(仮題)』となる予定であったが、諸事情で現在の形となった。

関連タグ編集

DCコミック ジョーカー(バットマン) 映画

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

アーサー・フレック マレー・フランクリン ソフィー・デュモン

ジョーカー階段


小丑…中国語表記。

조커…ハングル表記。


ザ・バットマン…バットマンの単独映画。こちらも当初はDCユニバースの一環として作られる予定であった作品。


外部リンク編集

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