概要
古代インドの民族叙事詩『マハーバーラタ』第2巻第48章第4節に記述がある、巣の中に金を蓄えるという蟻の幻獣のことで、日本ではパイッピリカ、ピピーラカ、ピピラカとも表記される。この名は蟻のことだけではなく、蟻が集めた金(蟻の金=砂金)のことも指す。
現在でもヒンドゥー教を信仰する文化圏では、単に蟻という意味としても使用されている。
古代インドの古文書でこの蟻について言及されているのはこの部分だけであり、後述の古代ギリシャの伝承が関係しているといわれる。
古代ギリシャのヘロドトス著『歴史』によると、イヌより小さくキツネよりも大きい蟻がインドにおり、土中にトンネルを掘って掻き出した砂には砂金が含まれていると記述される。
また古代ローマのプリニウスは『博物誌』このように記述している。
この蟻は北インドのダルダエという地で冬の間に金を集めて巣の中に蓄えているが、現地の住民は蟻が活動しない夏の暑い時期に巣穴から金を盗み出す。
しかし、人の匂いを嗅ぎつけた蟻は巣穴の奥から飛び出し襲いかかってくるという。
なおこの蟻は猫の毛のような色で、大きさはオオカミほどあり、俊足のラクダに乗って逃げていても、たちまち追いつかれて多くの者は金を持ち帰ることなく体を刺され命を失うという。
そのため金は貴重なものとして扱われているのである。
『インド誌』を著したメガステネスは、ダルダエとはインド東部の蟻の巣から金を採取する民族の名だとしている。
なお同様の伝承はチベットやモンゴルなど広範囲に伝わっているという。
これはヘロドトスが言及していたのが、同地に生息して土中にトンネルを掘るマーモットという齧歯類の一種のことであったからだといわれる。
日本では金箔の加工にタヌキの皮が用いられていたことから、中東に生息するイワダヌキ(ハイラックス)という動物のことだとする異説もある。
類似した伝承
中国ではシロアリが銀を食べて蓄えるという話が、清代に書かれた『嶺南雑記』や『天香楼外史』に記述されている。どちらとも銀が無くなるという事件があり、近くに巣食っていたシロアリを焼いたところ、無くなったものと同じ量の銀が炉の中に残ったという。
ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』によるとチリにはアリカントという金銀を砂嚢に蓄え羽色をその色に輝かせる鳥がいるといい、一攫千金を狙う者たちが鉱脈の近くにいると探しているとされる。
また、日本の妖怪・大百足には『おあし(≒銭)が沢山ある地虫』という連想から、地下金脈の管理者であるという俗説がある。(金鉱脈の特徴的な模様が百足に見えるとも)
創作での扱い
海外ではヒンドゥー教文化圏であるインドネシアの企業名や、赤い蟻のマスコットとしてLINEスタンプなどに使われている。
イムチャック王国出身のヒナホホの妹の名前の元ネタ。連続する音と「金」という意味から名付けられたと思われる。 詳細は →ピピリカ
※メイン画像左右
押井守監修のインド神話的世界が舞台のロールプレイングゲームで、このモンスター名の表記や設定に澁澤龍彦氏の著書の影響が多く見られる。
砂地や荒野に出現する金色の蟻モンスターで、金の蟻というわりには獲物とした場合の売値は序盤に倒せるモンスターの中では多少高い程度である。
ゴールドアントという金の蟻のモンスターと、そのモンスターが群れとなった金の絨毯が登場。守備力が高く固いが、倒すとたくさんのお金が手に入る。
シャクラミの地下迷宮で出現するヴォイドウォーカーの内の一体、アントリオンの亜種、フォミセラス族のノートリアスモンスター、オグブナバリを倒すと戦利品としてピピラカベルトというアイテムが手に入る。