従来日本のどの作家が、かくまでも純粋に、かくまでも根強く、正統短編探偵小説への愛情と理解を示し得たであろうか。
――江戸川乱歩
概要
1912(明治45/大正元)年愛知県新城町(現新城市)出身。本名は鈴木福太郎。
日本大学商業学校を卒業後地元の役場に勤務、その傍ら探偵小説を書き始め1932年に『デパートの絞刑吏』で商業誌デビュー。一見奇妙なペンネームは江戸川の逆をいったもので、当人は実在する同名地とは一切何の関わりも無い(弟から貰った手紙の「大阪より 圭次」という末尾がキッカケとの説もある。おそらくはその両方の合わせ技?)。
代表作は『死の快走船』『とむらい機関車』『三狂人』『三の字旅行会』など。現存する全30編といわれる作品のすべてが短編小説という「探偵小説界の芥川龍之介」である(出征前に唯一の長編作品を書き残していったといわれるが、不幸にも戦争末期→終戦後の混乱に紛れてその原稿は行方不明になった)。
1945(昭和20)年、フィリピン・ルソン島で戦病死。享年33。
作風と評価
探偵役のメインキャラクターとして天才型非職業探偵の青山喬介、水産試験所長東屋三郎、大月対次弁護士などを起用。鉄道や船、海での犯罪を扱った作品が多い(ただしいわゆる「時刻表トリック」は含まれない)。
戦局悪化に伴う探偵小説禁止時期(=活動末期)にはスパイ物やユーモア小説、捕物帳等も手がけたが、今日評価が高いのはやはり本格推理作品である。
没後も一部の熱心な支持者達によってその作品が幾つかのアンソロジーに単発収録されるなど、この時代の夭折作家としてはその名が地道に知られていた方だった。ただし作者個人名義での作品集が復刊され始めたのは、近年になってから。
著作権はすでに消滅しているため青空文庫作家リストの中に入っているが、行方不明作品を除く全作品の網羅にはまだまだ至っていない。東京創元社等から出されている本を探してアナログで読んだ方が早いかも。
冒頭で紹介した乱歩の賛辞からもわかるようにかなり骨太で正攻法を行き過ぎた感のある、よくこんな大がかりで奇天烈なトリックを惜しげもなくこの短い枚数内にブチ込んできたなと感心するような「ザ・本格」作風。だがキャリア初期の頃は「地味」「文章が平板、ストーリー構成が硬くて未熟」「作中キャラに魅力が乏しい」等の批判・不評もあった。
今では「早すぎた」「もっと長く生かせておきたかった」「戦争の犠牲になった珠玉作家の一人」評と共に語られることが多い。
余談
オシャレからくる大の和服党で知られ、昭和11年6月に東京で行われた処女作品集出版祝賀会には乱歩ら他の参加者達が全員洋装なのに、たった一人和装姿で出席し記念集合写真に納まっている。‥‥それって何の金田一耕助?(まだこの頃登場してない)