「アメリカってのはチートなんだよな、ってこと。」
「僕の書いた架空戦記ってのは日本が勝つために、ひどいことばかりしています。一応、バランスを取っているつもりで、かっこいい日本人が世界に死と破壊をまき散らす。」
経歴
1964年4月3日生まれ。石川県出身。
自他ともに認める書痴癖をもち、そこから得られた知識は創作に際して遺憾なく発揮されている。
1980年代、駒澤大学在学中にボードゲームのデザイナーとして活動し始め、界隈には名の知られる存在となった。
その後、ボードゲームの市場が縮小する中、1991年に『逆転・太平洋戦史』に小説家デビュー。
膨大な知識と徹底したシミュレートにより、架空戦記のジャンルで高い評価を得る。熱心なファンがいることはウィキペディアの充実ぶりを見ればわかるだろう。
ファンからの愛称は「佐藤御大」「御代」。
また複数の作品で「ともあれ合衆国は分割されるべきである」と言わんばかりに「分断されたアメリカ合衆国」を取り上げたことから、大カトーに引っ掛けて「大サトー」という渾名もある。
また、『レッドサン ブラッククロス密書』に収録された短編「初級歴史改変講座 第1講」および「タイムパトロール秘密報告」の内容から「時間犯罪者」という肩書きで呼ばれることもある。
※作品内では基本的に「アメリカ」「米軍」とは書かず「合衆国」「合衆国軍」と表記していた。他にも一般的には「原子力」「核兵器」とするところを「反応動力」「反応兵器」と表現するなど、御大の使用する用語には独特の癖がある。
2017年3月22日、虚血性心疾患により死去(52歳没)。葬儀は近親者のみで営まれた。
作品
小説
- 逆転・太平洋戦史
- 信長新記
- 征途
- レッドサン ブラッククロス
- 侵攻作戦パシフィック・ストーム
- 遙かなる星
- 東京の優しい掟
- 虚栄の掟
- 地球連邦の興亡
- 皇国の守護者
- 鏖殺の凶鳥
- 黙示の島
- 平穣クーデター作戦 静かなる朝のために
- 晴れた日はイーグルに乗って
- エルフと戦車と僕の毎日
- 帝国宇宙軍
漫画原作
- 東京兵団 - 作画:小林源文
- 日米決戦2025―そのとき、日本は決断した! - 作画:小林源文
- 戦火の掟 - 作画:居村真二
- 戦場の絆 - 作画:居村真二
- 戦場ドラマコミックシリーズ JAPAN WAR 1945 新大東亜戦記 - 作画:萩原玲二
- 皇国の守護者 - 作画:伊藤悠
- 学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD - 作画:佐藤ショウジ
ゲーム
監修や一部関与を含む。
ゲームブック
- 天空の城ラピュタ 天界の迷宮
ボードゲーム
- レッドサン ブラッククロス
- リターン・トゥ・ヨーロッパ:「レッドサン ブラッククロス」の続編。
- エスコート・フリート:同上。
- 北海道共和国
- ニイタカヤマノボレ:「北海道共和国」の続編。
- 幻の八八艦隊
- SDF-01 第七機甲師団
- SDF-02 北部方面隊(アド・テクノス):「SDF-01」の続編。
- SDF-03 第五師団(アド・テクノス):同上。
- 北海道侵攻
- ベトナム戦争
- PANZER BLADE パンツァーブレード 白い谷の攻防:アニメ「機甲界ガリアン」が原作。
- 北海道戦争:「征途」2巻を原作とする。
TRPG
- トーキョーモンスターバスターズ
コンピューターゲーム
作品群が与えた影響
御大自身をして
- 「必勝の信念と物質的基盤は、一定の範囲でしか交換できない。(中略)どんなに戦意があっても装備がなければ勝てない。」
- 「利根のカタパルトを直しにスパナ1本もってミッドウェー海戦の前夜にタイムスリップしたところで太平洋戦争が勝てるわけねーだろ(意訳)」
という言葉の通り、ご都合主義を廃した上での戦術や戦略はもとより兵站(=ロジスティクス)までを追求し、『改編』を加えてからの情勢の推移にもこだわった徹底的なリアリティの中で展開される重厚なシミュレートや戦記は多くの読者を魅了した。また、皇国の守護者等で登場する主要キャラクターの多くは田中芳樹作品に見られるようなリアルチートなイケメン主人公はほとんど見られず、対照的に卑屈な、あるいは臆病な側面を持つがゆえに人間的な魅力を多分に有した人物(早い話しが問題児)が困難に立ち向かっていく場合が多いのも魅力の一つに数えられる。
さらには、御大自身が日米安保体制下での戦後日本、つまりベトナム戦争や学生運動に関連するゴタゴタや平和の名の下に物質主義化していく社会を横目に育ってきた影響なのかパクス・アメリカーナな世界情勢やリベラルの言葉を借りた体制批判に嫌悪を示している発言が見られ(いわゆる反戦平和運動に対して「‘ねがい’や‘おもい’という気色の悪い世代性の強い感情論」と評している)、この影響からか彼の作品一般は「日本人が活躍する世界」の構築に注力するストーリーな上に「そのために必要ならば何万ガロンの血も油も流す」仕様となっている。実際、真田忠道少将や藤堂明中佐、新城直衛少佐といった主人公らはことごとく日本人ないしは日系人(あるいはそれに類似した文化圏の人間)であり、唯一の例外といえた『平壌クーデター作戦 静かなる朝のために』の皇鉄龍少佐も北朝鮮の将校とはいえその母親は日本人拉致被害者であったことが最後に判明している。
このような日本人のための唯我独尊と紙一重なストーリーもアメリカナイズや平和主義で調教されかけていた読者に強烈なインパクトを与える結果となった。
90年代~2000年代にかけて紋切り型の勧善懲悪もの等が衰退する一方で、セカイ系に代表されるような(主要キャラが本来ある筈の中間領域である『社会』をすっとばしてそのまま上位領域たる『世界』の在り様や命運に相対する‐言い換えれば風呂敷は大きいけれど語られている視点は主要キャラの周辺と日常に終始する)作品が隆盛していく中で、攻殻機動隊で有名な押井守をして『仮想戦記というジャンルを自己実現』させたと言わしめた御大のシミュレート重視の路線を継承する者や、また何よりも『戦争』という異常事態に際しても『夢』や『生』を追い求めるがゆえに主人公たちの言動からほとばしる狂気を再現しようとする作家も現れ、御大の死後も架空戦記だけでなくマンガやライトノベルといった分野にも彼の影響を受けたとみられる作品が続々と出現している。
そいつは素敵だ!面白くなってきた!!
人物
しかしその一方で、超が付くほどの遅筆で、一向に続刊が出ないことでも有名だった。原因はこだわり過ぎと怠け癖。30年近くにわたった作家人生で、完結した長編作品が『征途』(全三巻)のたった一作しかない。漫画原作も同様で、打ち切り・休載の憂き目に遭っている。ほとんどの長編が単行本3巻目で打ち止めになっていることから、三巻王なる渾名すらある。
その上未完結作をほっぽり出して新作を立ち上げる上に、タチの悪い事にそっちも続きが気になる面白さのため、熱心な読者ほど氏を恨んでいるとか。調教された読者の認識ではたとえ数年新作が無くても、新装版が出たらちゃんと仕事してる事になるらしい。
数字に基づいた説得力のある描写に定評がある一方で、シミュレートできない事物に関しては極度に嫌っている(もしくは理解できなかった)ふしがあり、リアルチートな人物・事物は過小評価する傾向があった。例えば、アレクサンドロス大王の死因をただの奇説の一つでしかない「どぶにはまって溺死」を真実のように書くなど。一種完全に憎悪しているのか『皇国の守護者』8巻冒頭で大王のエピソードを基にしカリカチュアライズした話を、新城直衛に揚げ足を取らせているなどの描写もある。また、近年のオタク層にみられる「乃木希典叩き」は、元祖である司馬遼太郎よりもはるかに露骨かつ頻繁にやっており、むしろ佐藤作品の影響のほうが大きいとも言われる。
作風も初期と後期で分かれており、初期は冷戦下の全面核戦争・総力戦を前提とした混沌の論理に基づく硬質な作風であったが、それが決定的にそぐわなくなった9.11以降の作品から覇気があまり見られなくなり、若干粘液質な作風になる。
また、初期の作品に晩年加筆した部分がちぐはぐで釣り合わなくなっており、一例としては、
- 『地球連邦の興亡』4巻に在来型戦車の発展型「コンカラーⅡ」を登場させているにもかかわらず、外伝『宇宙軍陸戦隊』作中では「主力戦車とは浮遊移動要塞のようなもの」となっている。
- 『地球連邦の興亡』シリーズでは戦場におけるナノマシンの電子的脆弱性を口を酸っぱくして自ら言っているにもかかわらず、『帝国宇宙軍』ではナノマシンを万能ガジェットとして乱用する。
など、自作の設定を忘れている部分が多々ある。構成力が無視できないレベルで低下しているところも多々見られ、ファン個人にとっての評価もかなり分かれる。いってみれば、思考のベクトルが完全に混沌向きのため、風呂敷を広げてもさらに不要に不安定要素をこれでもかと盛り込んでしまうため、終わりという秩序や中庸にたたむことができなかったのである。
晩年は現実離れした頑迷な部分も多く見られるようになった。9.11以降の著書『真珠湾の暁』の一節『エアパワーとしての空母』で、「超音速ステルス戦略爆撃機を100機揃えて敵国の要所をスマート爆弾でピンポイント空爆すれば必ず勝てる」という、既にとっくに意義を否定されたアーセナルシップの空中版焼き直し計画を有力なものとして紹介するなど、冷戦時代の総力戦構想にひきずられた時代遅れの説を推す、後期の作品では大威力戦略兵器をたやすく作中で使用してしまう等。
また、なろう系のパロディである『エルフと戦車と僕の毎日』を執筆する一方で、生来の60年代SFやサンダーバードマニアが高じてなのかSFものの新作に取り掛かっていたが、その最中に『光帯の向こう』に行ってしまった。
絶筆にして最後の作品となった『帝国宇宙軍』の初刊の概要には『架空戦史の雄による新シリーズ、初巻にして最終巻』と、煽りとも絶望ともつかない一文が付くことになった。
一部ファンは未完作品の多さに掛けて彼の命日である3月22日を「蜜柑忌」と呼び、その業績とついに出なかった続刊を偲ぶ日としている。
その他の一面としてはオカルトマニアな一面があり、『侵攻作戦パシフィック・ストーム』等でオカルト用語の「マジェスティック・トゥウェルブ」「MJ-12」(元来の意味は合衆国政府の秘密の宇宙人調査委員会)等を文中に小ネタとして織り込んだり、『鏖殺の凶鳥』ではステレオタイプまんまなグレイ型宇宙人とUFOを登場させつつも、氏の精緻な文才と情景描写で恐怖の対象として書ききっている。
ゾンビものも好きらしく、『鏖殺の凶鳥』『黙示の島』でゾンビ(のような存在)を登場させたり、『黙示の島』では登場人物にゲームの『バイオハザード』みたいだと言及させる場面もあった。その後、佐藤ショウジ作画で本格的なゾンビサバイバル漫画『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』の原作を担当。同作ではゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロなどのオマージュが見受けられた。いずれの作品でも他作と比べて濃厚なミリタリー描写(黙示の島と学園黙示録では、ゾンビものにしては珍しく自衛隊と警察が仕事をしている)とともにゾンビの恐怖を演出している。
また、教師を過去の経験もしくは日教組への反感ゆえか異常かつ極度に敵視しており、作品に登場する教師はほぼすべて狂人および人格破綻者しかおらず「主人公や味方の足を引っ張る」「事態を悪化させる」など存在そのものを全否定する描写も目立ち、悪感情を抱く人物については後年に至るほど一面的な見方しかできなくなった理性的からは程遠い部分もあった。
名言
- 『自分の祖国は何故、あんな下手くそな戦争をやらかしてしまったのだろう?(太平洋戦争から)ほんの40年前の日露戦争で、あれほど見事な戦略的勝利を収めた国が、どうしてあそこまでバカさ加減をさらして敗北したのだろう?ねェ、どうして?』byレッドサンブラッククロス密書
- 『トレーディングカードゲームのデッキの構築法を情念で語る奴はいない』
- 『平和を望むならゲーム感覚を備えよ』
- 『重大な問題を感情でもって語る者たちを信じてならないのは、思想の左右はおろか老若男女すら問わない』
- 『戦争をゲーム感覚で捉えることすらできないような奴が平和を語るな』byエルフと戦車と僕の毎日Ⅰ 冒頭
- 『人は平和というくびきから自由であらねばならない』by創作メモ
路線を継承する者たち
架空戦記作家
画像は、ノベライズを担当した機動戦士ガンダム外伝コロニーの落ちた地でから。
御大と同じくシミュレート重視系な架空戦記界の大御所。デビュー時期はほぼ同じ。
最近はSFものの新作に取り掛かっている、絶妙なまでの社会風刺やパロディ、人間としては決して魅力的でない人物をメインに据える、小手先の改編程度ではアメリカに勝てない、新兵器ものの多くはソロモン戦役あたりまで書いたら部分的なエピローグと余白を残したままで単行本3巻あたりで終了…と似通う部分も多くみられる。
ただし、こちらは乃木希典ではなく山本五十六叩き、そして仕事はきっちりと仕上げるのが大きな違い。
代表作は『クリムゾンバーニング』(画像は作中に登場する機体)。その筋では同作の作中作として登場する怪作「社会主義はメイドスキー」で名高い。
シミュレーション的な作風、俗悪な側面に対し積極的に光を当てる人物描写、風刺やパロディを御大以上に投入する点で御大に通じるものがある。御大ほどではないが速筆とは呼び難い点も共通。
日本戦艦を主役とする「巨竜シリーズ」などで知られる仮想戦記作家。作家になったきっかけが佐藤大輔のファン同人であったこともあり、特に人物造形などは明確に影響を受けている。代表作の一つ「砲煙の巨竜」は佐藤の「逆転・太平洋戦史」に収録されているB65型大型巡洋艦の物語「高速巡戦迎撃命令」を長編化したような作品で、主人公格の大家亮輔司令官のキャラは佐藤作品にいても違和感がない癖のある人物(というか佐藤がモデルなのではないかという説も……)。
一方で佐藤とは異なり非常に勤勉な作家でもあり、打ち切りや未完はほとんどなく、ライトノベルや漫画原作、アニメの軍事監修などを担当して作風を広げており、いずれも高い評価を受けている。ライトノベルの代表作でマブラヴオルタネイティヴのスピンオフ作品でもあるシュヴァルツェスマーケンはアニメ化もされた。
マンガ家
言わずと知れた漫画版皇国の守護者の作画担当。同作は大ブレイクを果たしが、諸般の事情(※一説には漫画版の動向確認を怠っていた佐藤が漫画5巻以降の展開について伊藤と衝突したともいわれるが、定かではない。)によって同作は打ち切りとなってしまった。
しかし、間もなく同じく戦記もののシュトヘルを連載開始。その名を不動のものとした。
代表作であるアンゴルモア元寇合戦記のストーリーと主人公のビジュアルが某作品と比較してとてもn…
代表作である蒼海訣戰が(同上以下略)
おそらくは、御大の影響を受けた人物= の図式で語られることが1番多いであろう人物。ただし、シミュレートよりも戦争に魅入られたが故の狂気や独特のセリフ回しに定評がある。
「皇国の守護者」単行本第8巻のイラストを担当していることでも有名。
ライトノベル作家
代表作は、とある飛空士への追憶をはじめとする飛空士シリーズ。
ジブリ作品やセカイ系のボーイミーツガール的な良さを取り入れながら、正史での紛争などをモチーフにした奥行きのあるファンタジー調の戦記に定評がある。
また、書痴癖持ちであった御大と同じく、「学恩に感謝して」と記した後に、巻末に参考文献を列記しているのも特徴である。
ある意味では御大より過激なオマージュやパロディを満載したうえで、その筆力は御大に勝るとも劣らない重厚な戦局展開や戦闘描写を紡ぎ出す。
処女作である幼女戦記が世に出た当初、御大が再び裏アカを作ったのではと疑った者たちがいるとかいないとか。
- 樽見 京一郎(酒樽 蔵之介)
代表作はオルクセン王国史。
同作で御代的なミリタリーテイストとファンタジー世界の融合や、重厚かつ濃厚な軍事描写を展開し、SNS上にて「大サトーを感じる」と感想する者も少なくない。
当人も御大の作品をこよなく愛しており、Twitter(現X)にて時たま話題に出している。
(要追記求む)
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- 横山信義:佐藤と並んでリアリティに定評のある架空戦記作家。こちらも「横山御大」と呼ばれることがある。シミュレーションに定評のある佐藤御大と比較すると、戦闘シーンの迫力と情感あふれるドラマで評価されている。軍事思想・兵器評価などでも佐藤と対比されることが多く、ファンからは勝手にライバル扱いされていた節もある。思考のベクトルが反対の秩序寄りのため、未完で終わった方が少ないが。
- 押井守:架空戦記にはまったときに一番腑に落ちた内容だと評して対談し、SFマガジンおよび「征途」愛蔵版に追悼文が掲載された。一方で佐藤からは軍事的センスへの評価とともに、思想面でのリベラル傾向を批判されている。
- 小林源文:ご存知一等自営業氏。佐藤とはコミック原作・小説挿絵という形で一時期付き合いがあった。作品多数に登場する目つきの鋭い石破茂風の「佐藤大輔」は、佐藤をモデルとしている。
- 田中芳樹:こちらも風刺と遅筆と中断癖で名高い先達。両者の世界観の違いから、田中ファンが佐藤の作品に手を出した際の反応は多くの場合拒絶か狂喜のどちらかとなる。
- 吾妻ひでお:現代オタク文化の祖となった元祖ロリコン漫画家。佐藤は彼のファンだった(吾妻氏談)。秋葉原のメイド喫茶に行く吾妻を案内したこともあるという。