憎珀天
ぞうはくてん
竈門炭治郎に頸を斬られかけ、追い詰められた本体を護衛するために"怒りの鬼"積怒が空喜・可楽・哀絶の3名を強引に吸収・合体した姿。
最初に分離した際、可楽と混じっていたことを「腹立たしい」と言っていた積怒が自ら他の3人を強制的に取り込んだのはどこか皮肉だが、一向に炭治郎達を排除できないばかりか、本体がやられそうになっているという大ピンチに陥っている事を踏まえれば、怒りが限界突破して「もういい…儂一人で片をつけてやる」とでも見限ったのかもしれない。
初登場時は既に合体しており、炭治郎の背後にシルエットの状態で現れたが、その直後に玄弥の独白で合体の様子が描かれている。
まず積怒が両手を掲げて一瞬のうちに可楽と空喜を引き寄せ、頭を掴んだまま掌から吸収。そして哀絶の元には瞬間移動し、やはり頭上から掌を押し当てることで取り込み、直後に姿が変わった(積怒から憎珀天への変身はアニメで補完され、背中側から脱皮するように姿を変えたことが判明)。
このシーンには台詞が無く、憎珀天に変身した直後に「カアッ…!!」と一声発した程度。
また原作ナレーションでは
「窮地に追い込まれ、爆発的に力を発揮するのは人間だけではない」
「半天狗という鬼はこれまで何度も窮地に追い込まれた。そしてその度に己の身を守ってくれる強い感情を血鬼術により具現化・分裂し、勝ってきた鬼だ」
「追い込まれれば追い込まれる程、強くなる鬼だ」
という解説がされており、この説明からすると、追い込まれた半天狗が爆発的に能力を向上させた結果生まれた新形態とも考えられる。
雷神や仏像を思わせる出で立ちで、背中には「憎」の一字が書かれた連鼓(雷様の太鼓)を装備。武器として獣の牙を思わせる2本のバチを持っており、これで連鼓を叩くことで血鬼術を発動する。
やや褐色寄りの肌・額から生えた2本の短角・目つきやひび割れたような目元・若々しい姿など喜怒哀楽の連中と同じ要素を持つが、外見の年齢はより若くなっていて、彼ら4人が「青年」なら憎珀天は「少年」と呼べる程。
ちなみに半天狗の分裂体はいずれの姿も舌に「それぞれが司る感情を示す漢字一文字」が刻まれていたが、彼もアニメ版で「憎」と刻まれている事が判明した(原作ではなぜか描かれていなかった)。
また推定180cm程度の喜怒哀楽に対して身長は炭治郎(165㎝)と同等かそれ以下しかなく、作中でも蜜璃や炭治郎、玄弥はいずれも「子供」「ガキ」と評している。19歳の蜜璃が「私の弟とそんな変わらない年格好」と独白していた辺り、10代前半くらいということになるのだろう。
なお衣装や装飾は喜怒哀楽のものが元になっていると思われる。
耳飾り:空喜の腰の装飾
腕:哀絶の作務衣
腰:積怒の衣
足:可楽の袴
積怒がベースだからか、白目に当たる部分は赤く、「上弦」が左、「肆」が右目にあるのも同じだが、瞳は金色。この点だけは空喜に近い(ちなみに半天狗本鬼、哀絶・積怒がこの位置で、あとの二人は逆)。
積怒や他3人とはまた異なる独自の人格になっており、古風なしゃべり方をする。一人称は相変わらず「儂」。
アニメ版では意外に落ち着いたトーンで話すが、性格は傲岸不遜で極めて威圧的な態度を取り、自身を善、本体を「善良な弱者」と称し、大勢の人間を喰い殺してきた事実を棚に上げ、本体の頸を斬ろうとする者たち全員を容赦なく「極悪人」と決めつけて非難・断罪しようとする。
その在り方は、半天狗のネジ曲がった価値観をよく体現しており、彼の醜悪な利己主義と責任転嫁の集大成たる化身といったところか。
初登場時のBGMがまるで勧善懲悪モノの時代劇の正義の味方のようであり、これはある人物との関係の当て擦りで作曲されたものではないかと推測する声もある。寺のお経や神仏を連想させるが、禍々しくもあるBGMでもある。
アニメでは炭治郎とのやり取りが追加されており、「儂が喰った人間共の中に貴様の身内でも居たのか?」「(そうでないのなら)貴様には関係なかろう」とさも当然のように言い切り、
「関係あるかないかの問題じゃない」「人を助けることに理由なんて要らない」「そんなこともわからないお前の方が余程鬼畜だろう!!」と指摘されても、不快そうな表情を見せるだけでやはり耳を貸さなかった。
一方で、主である鬼舞辻無惨への忠誠心は非常に高く、「儂に命令して良いのはこの世に御一方のみぞ」と発言している。
また他の上弦たちと同じく強烈な威圧感を放っているようで、炭治郎は一睨みされただけで「息がつまる なんて威圧感だ 心臓が痛い」と戦慄し、その声を聞いた玄弥は「重い 声が 威圧が 手足に力が入らなくなる 立ってられねぇ」と独白。しかも原作ではミシミシと体が軋むようなオノマトペまでついており、憎珀天の"圧"の凄まじさが窺える(アニメ版では立っているのがやっとで動きが取れない様子も描写されている。加えて玄弥は身体能力が低いせいもあるだろうが)。
加えて積怒ベースのおかげなのか、空喜や可楽とは違って油断・慢心から来る舐めプは全くせず、格下である炭治郎たち相手にも全力で叩き潰そうとする戦闘スタイルも相まって隙がない。
新たに会得した血鬼術「石竜子(トカゲ)」を操って戦う範囲攻撃や、その口を砲台として繰り出す飛び道具が主体。
その気になれば、複数の石竜子を使って喜怒哀楽の能力を同時に放つ合わせ技も可能なので一人で擬似的な連携を取れる。しかも威力が増しているようで、それを裏付けるように哀絶の槍術「激涙刺突」も刺突の数がかなり増えている。
高い攻撃力+広い攻撃範囲に加え、あくまで分裂体の一体に過ぎないため「頚を切ったところで絶対に倒せない(=本体を滅さない限りは再生し続ける)」という特権もしっかり持っており、勝利するにはこいつを相手取りながら本体を捕捉、頚を落とすという絶望的な条件をクリアしなければならない(いっそ陽光を浴びせられれば良いが、逃げ足の早い半天狗を夜明けまで拘束し続けるのも至難の業)。上弦の肆の席次に列席しているのはあくまで本体の方だが、本体の戦闘力は皆無(仮に戦えたとしても、逃走を最優先する為戦闘意欲が皆無)な為、実質席次相応の戦闘力を持つのはこちらの方である。
「痣」を発現させてブーストのかかった柱であれば単騎でも何とか足止めできるようだが、それでも消耗は避けられず、そもそも半天狗の戦闘スタイルは「戦闘を分身体に任せて敵の消耗を誘い、本体自身は逃げ隠れに徹して時間を稼ぐ」事なので、上弦トップ3のような規格外のバケモノではなくても十分すぎるほど手強い。
とはいえ欠点も存在し、分身体故に血鬼術の発動・肉体再生の両方とも本体のエネルギーを使用しており、超広範囲の術を連発することもあってか、非常に燃費が悪い。加えて本体の消耗などお構いなしで動き続けるため、本体には尋常ではない負担が掛かる。
コイツにとっては目の前の「悪人」を滅する事が最優先なのだろう。
血鬼術
「石竜子(とかげ)」
樹木の龍頭「石竜子」を召喚する技。
この石竜子は連鼓を叩いて操作するようで、炭治郎の見立てでは一本あたりの射程は概ね66尺(約20m)程らしい。だが石竜子の口から更に別の石竜子を召喚するという力業でリーチを伸ばすことも可能。
しかもこれ、仮にも樹木のくせに触手のごとく柔軟なので、ロープのように締め上げつつ樹木故の大質量で押し潰したり、枝をムチのようにしならせて攻撃したりと小回りも利き、半天狗本鬼(ネズミ程の体格)を何重にも巻いた枝で匿うという芸当も披露。
喜怒哀楽の使っていた技を強化して(その気になれば複数同時に)放つ砲台としても使える、というのは先述した通りだが、能力の行使にインターバルは必要なく、他の分裂体と互角に渡り合えていた炭治郎が呼吸する余裕すらないほどの速度と頻度で連発してくる。
- 『狂鳴雷殺』
石竜子から積怒の雷撃と、空喜の超音波を放つ技。前者を喰らえば衝撃で動きを止められ、後者を喰らえば鼓膜が破壊され平衡感覚を失ってしまう。
- 『狂圧鳴波』
憎珀天自身の口から空喜の超音波を放つ技。
至近距離でこれを食らった蜜璃は持ち前の特異体質で耐えきったが、憎珀天の独白を見る限り常人なら体の原型がなくなる威力があるようだ。
技の性質上、繰り出す際には大口を開けるため、舌に「憎」の字が確認できる唯一の場面(なぜか原作では描かれず、アニメ版での補完)。
- 『血鬼術 無間業樹』
大量の石竜子で広範囲を埋め尽くす技。この石竜子からも攻撃が放てるため、尋常ではない攻撃範囲を持つ。
半天狗の持つ技の中で唯一血鬼術と呼称されている技でもある。
- 落雷
石竜子を介さずに、憎珀天本体が雷撃を発することも可能。積怒がベースだからだろうか?
初登場は刀鍛冶の里編の終盤である116話。
半天狗本体の頸を斬ろうとするも、爆血刀の効力が切れ、手詰まりとなった炭治郎の背後に突如として出現。石竜子による攻撃で炭治郎たちを一蹴すると本体を石竜子で逃してしまう。
そして本体を襲う鬼殺隊の面々を『極悪人』と称し、凄烈な罵倒を浴びせるが、その言葉で炭治郎の逆鱗に触れてしまう。しかし圧倒的な力で玄弥、禰󠄀豆子、炭治郎を完封し、あと一歩のところまで追い詰めるが、恋柱・甘露寺蜜璃が参戦。
攻撃そのものを斬るほどの腕前を持つ蜜璃の実力と速度に最初は驚きこそすれ、頸を刎ねても殺せないという初見殺しギミックを活用して『狂圧鳴波』、そして追撃で蜜璃に走馬灯を見せるほどのダメージを与えるが、炭治郎たちの介入により失敗。
そして後輩たちの言葉に奮起し、痣を発現させた彼女と激突。
痣の影響で身体能力が大幅に向上した蜜璃の想像以上の実力で抑え込まれ、炭治郎たちが本体を滅するための隙を与えてしまう。その状況でも冷静に蜜璃を仕留めるべく絶え間ない猛攻を仕掛ける(しまいには心が折れかけて「もうダメ、殺される」と弱音を吐いた程)が、最期は本体の頸が斬られたことで存在を保てなくなり、あっけなく塵となって消えていった。
消滅する際も表情の変化、台詞などは一切なく、まるで死を受け入れているような、ある意味潔い最期を遂げた(本体が見た走馬灯を見ていたためとも考えられる)。
- 名前
初登場は原作116話だが、憎珀天という名前が判明したのは125話。
両腕を失った恨の鬼が「まずい 再生が遅くなってきた "憎珀天"が力を使いすぎている」とぼやく独白でたった一度しか登場していない。
明王や天部(四天王)といった荒神系の仏像を彷彿とさせる出で立ちであることから、デザインや名前はその辺りがモチーフなのだろう。また憎珀天の背中にある太鼓は連鼓(れんつづみ)といい、雷神はこれを打ち鳴らして雷を起こすとされるが、天部の仏たちも「法輪」というリングを背負っている。
※ちなみに四天王の名前は広目天・持国天・多聞天・増長天。このうちの多聞天がいわゆる毘沙門天である。
- 手からバチ
アニメ版で補完された描写では、掌からバチを出している。積怒は錫杖、玉壺もツボを手から出しているため、鬼の武器は基本的に掌から出すのだろう(元々鬼の武器は自身の血肉・もしくは骨を元に生み出されるということ自体は明かされていた)。
- 「儂が」喰った
「お前たちが喰った人間の数は百や二百じゃないだろう!!」と糾弾する炭治郎に対して言い放った「儂が喰った人間共の中に貴様の身内でもいたのか?」という台詞。「儂ら」ではなく儂「が」とさりげなく罪を被っているのが半天狗の卑劣な性根を物語る。
- 声優予想
見た目がどう見ても少年であることから、アニメ本放送前は四分身同様の若手男性声優か、或いはベテランの女性声優が演じるとばかり思っていた者が多かった様子。
また本体役の古川登志夫による演じ分けを期待する声も多く上がっており、その配役に注目が集まっていた。
そしてアニメ刀鍛冶の里編第七話で満を持して登場を果たしたが、前編の章ボスと同じく、放送中にCVを判別できた視聴者は非常に少なかった。
これは山寺が今まで演じてきたどの役とも全く異なる声色を用いていたためで、放送中は声のイメージから堀川りょうや吉野裕行、くじらなどと予想する視聴者が多く、堀川や吉野の名前がTwitterでトレンドに上がっていた。
ところがEDクレジットにて「憎珀天:山寺宏一」との表示を見た視聴者は驚愕。放送終了後には山寺の技量、声優の本気を思い知らされた視聴者によって深夜のSNS界隈が騒然となり、今度は山寺の名前がTwitterでトレンド入りした。
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