概要
危険・危機が差し迫った状況で発揮される、普段は出せないような本気の力・能力のこと。
人間に限らず全ての動物は、全力を出すと筋肉や神経系に大きな負担が掛かるため、筋肉痛になったり、身体を痛めたりしてしまう。
酷い場合は筋肉や腱が切れたり自分の筋力で骨折したりするなどして、体が破綻してしまう。
そういったことが起きないよう、普段は100%の力を発揮しないように、脳が無意識のうちに身体にリミッターを掛けているのである。
だが、火事や事故など、非常事態が起きた場合は、極度の緊張や興奮によってこのリミッターが解除されることがある。
この時、無意識的に「普段以上のパワーを出せる」感覚に陥り、本来出せる力が完全に解放される。
これが「火事場の馬鹿力」である。
この「力」は物理的なパワーだけでなく、人や状況によっては「時間の流れが遅く(あるいは止まったように)感じる」(走馬灯が見える現象)、「苦痛や疲労を感じなくなる」といった方向で現れることもある。
ただし、いずれの場合も身体にかかる負荷は(個人差はあるものの)軒並み大きく、危険を回避したり危機から逃れるなどで脳が「安心」してしまうと、途端にツケが跳ね返ってくる。
上述の通り、身体が破綻してしまわないように抑制しているリミッターを解除してしまうのだから、(行動如何にもよるが)その代償は大抵の場合大きいものとなり、最悪の場合死に至る。
メカニズムとしては、脳内麻薬であるβエンドルフィンの分泌によって引き起こされる、生命危機に際した場合の保存本能であるが、このβエンドルフィンというのは長時間の分泌が行われると脳に与える毒性の影響も強すぎるのでそれこそ事件や事故の時も瞬間的に発揮される事が多い。
比較的に長時間これがゆるく発揮されている事例は「ランナーズ・ハイ」などが該当する。
戦争漫画やバトル漫画などでよく見られる「戦闘中に獅子奮迅の活躍をしていた者が、敵を殲滅した瞬間に盛大にブッ倒れる」「死闘を繰り広げていた者が、決着と同時に真っ白に燃え尽きる」などはいい例だろう。
…そう、真面目な意味で「身体は正直」なのである。
また、スポーツや格闘技などで「掛け声」を重視するものが多数あるが、これも「火事場の馬鹿力」と関係がある。
最初に掛け声をやり始めた人は当然詳細なメカニズムを理解した上ではなく、「なんとなく」程度のものだろうが、今は医学的に「掛け声をかけると同時に運動すると、わずかだが何もしない時の全力を上回る力が出せる=若干リミッターが外れる」事が確認されている。
火事場の馬鹿力を活用する創作の例
・『キン肉マン』
火事場のクソ力という特殊能力が発揮される。
元ネタはもちろん「火事場の馬鹿力」で、類似系の能力でもあるが、あの極端な現象の大半は漫画の中だけの能力なのであまり勘違いしないように注意。
・北斗の拳
北斗神拳の技の一つ「転龍呼吸法」がある。
この特殊な呼吸法を持って「人間の体の普段使われていない残りの70%の潜在能力を自在に引き出す事が北斗神拳の神髄」とされる。
ゴレンジャースーツを着用することで、変身者は常時「火事場の馬鹿力」が出せるようになる。
Z編でも初期段階に登場する『界王拳』が「火事場の馬鹿力」に近い性質を持つが、正確には「力の前借り」であらゆる身体強化を行う技。
倍率を上げるごとに戦闘力も上昇するが、その分負担も倍増して使用後に肉体への反動が起こる。
また後に登場する『超サイヤ人』も同質の強化能力で、こちらの方は人口の少ないサイヤ人の「種の保存本能」も影響して発揮されている事で、より「火事場の馬鹿力」に近いメカニズムが公式設定されている。
一見すると界王拳程目に見えての負荷や反動はない様に見えるが、原作中でも「カラダにムリがありすぎて寿命を縮めている」と明かされている。
キック力増強シューズを履くことで一時的にリミッターを完全解除可能。
ただ靴の強度は普通なので硬い物を蹴ると足を悪くしかねない。
主要人物の一人、平和島静雄は特異体質の持ち主であり、生まれつき任意で「火事場の馬鹿力」を出すことが可能。
ただし幼少期は肉体の方は馬鹿力にはついていけず、彼自身短気な事で力を発揮しては肉体を壊す→入院して復活する事を繰り返した。結果肉体の方が徐々に強化され馬鹿力に見合う様に形成されていく事になった。
しまいには通常状態でオリンピック選手の全力を超えるほどの超絶怪力野郎になってしまった。
・バキ
主人公・範馬刃牙は脳内麻薬の一種エンドルフィンを任意に分泌させる事で「火事場の馬鹿力」を引き出す事が可能。実際の医学的な面からも設定が明言されている珍しい例。
人によって異なる「スイッチの動作」があるとされ、刃牙の場合は耳たぶをクイっとひねるような仕草でスイッチが入る。
主人公の相川歩はゾンビであり、自力で「火事場の馬鹿力」を出せる。
勿論、既に死んでいるため静雄のように再生を繰り返して強化ということはできない。
「そもそもゾンビにリミッター(肉体保護本能)は存在しない」と言う設定である。
まぁそれでも一般人相手ならともかく主要人物達から見たら雑魚だが。
詳しくはスーパーマサラ人を参照。
木の葉の里に伝わる『体術(忍者組手とも)』の中に、肉体のリミッターを意図的に外して運動性能を爆上げする秘術『八門遁甲』がある。
忍術のエネルギーである「チャクラ」の流れる量のリミッターを外す事も同義であるため、累乗で爆発的な身体能力の増加を見込めるが、その分明確なリスクがある。
八門全てを開いた後には、術者は必ず死ぬと言われる。
サイタマが常に格上の怪人達と命懸けで戦い続けた結果、生物のリミッターが外れる形で、驚異的な実力を手に入れるに至った。
ほぼ「火事場の馬鹿力」に近い。
ヒロインのミカサ・アッカーマンを始めとしたアッカーマン家は任意で「火事場の馬鹿力」を出すことが可能。
そのため、彼女らは頑強な骨と筋肉を持っているので外見よりも体重が重い。
ピアスと呼ばれるデバイスの施術者はガンダム・フレーム機の『阿頼耶識システム』と接続した場合、リミッターを解除することで身体の一部の不随と引き換えにガンダムのツインアイが真っ赤に発光し、性能が大幅に上がるという諸刃の剣を持つ(特に名称はなし)。
本編で解除できたのはピアスを3回移植することに成功した三日月・オーガスのみ。
「火事場の馬鹿力」の類義語である「窮鼠猫を噛む」を体現している。また、『The Milky Waif(捨てネズミ)』では、ニブルスがトムに懲らしめられた際、ジェリーがトムに対して怒りを爆発し、そのままトムをフルボッコにするというシーンが存在している。
・劇光仮面
登場人物の1人で単行本第3集の「第2の主人公」というべき藍羽ユヒトは「火事場の馬鹿力のリミッターが壊れている」人物として描かれる。
いわば、常時、火事場の馬鹿力を発揮出来るが、火事場の馬鹿力を制御する事は出来ず、「子供の頃は友達の手を握っただけで相手が痛みで泣き出してしまう」「小学生時代は、ドッジボールなどでは相手チームのメンバーを怪我させかねないのでハブられる」「身体能力・運動神経は天才的にもかかわらず、高校時代にボクシングをやっていた際は『自身の力で逆に負傷してしまう』『パンチの強弱の使い分けが出来ない』というボクサーとしては致命的な欠点により挫折する」という火事場の馬鹿力の負の側面によって人生を狂わされた者と言える。
選択出来る職業の中に、防具の使用に制限が有る代りに怒りの感情などにより一時的にパワーアップ出来るタイプの戦士である「バーバリアン」が有る。
ただし、版にもよるが、この能力を使った直後は疲労状態となる。
・漫画版闘神伝
格闘ゲーム『闘神伝』のコミカライズ版でエニックスから刊行されている物を指す。物語は第一作目をベースにしているが、2で原作ゲームに追加されたシステムであるオーバードライブを人体の100%を引き出す能力として作中で登場させている。本作の主人公であるエリスはこの能力で元々一般人でか弱い少女という状態から急速に成長して強者達と渡り合っている。