概要
1908年に二日市から甘木(現在の西鉄・甘木鉄道甘木駅とは違う場所)間を開業。その後子会社も含めた路線延伸を経て、1940年に全廃されるまで福岡県の朝倉郡一帯を中心とした軌道線路線網を経営した。
客車改造によるガソリンカーや自社製のガソリン機関車を投入していたことでも知られる。
これだけならありがちな昔の鉄軌道事業者である。
だが朝倉軌道は少し…いや、いろいろと違っていたのだ。
朝倉軌道の真髄「届け出なんか飾りです」
特筆すべきは通常の鉄軌道事業者なら遵守する、あるいは少々なりと気にする国や福岡県の各種の許認可・法令を完全に無視していたことである。
- 経営難によって無認可で休業した隣接の軌道(中央軌道)を、無認可で購入して自社の支線にした
- 法令上では入線できるはずのない車体幅の客車(これが在籍してる時点で既におかしい)を、そのままガソリンカーに改造すると届け出た
- 結局当局と4年以上もすったもんだの上、図面の車体幅は誤記であるということで決着した(現車は法令違反状態のままである)
- 届出書には『ケヤキ材を使って優美に造る』など、本来まるで関係の無い謳い文句が羅列してあるけれど、肝心のことは何処に書いてるか分からない
- しかも届出書と図面で書いてることが違ってる
- というか届出が許可されようがされまいが、知らん顔で改造をやっちゃってた
- 届出では全部同じ形式になってるけど、余ってるのを片端から改造したから実は全部別の形
- さらに届出た改造を途中で勝手にやめて客車に戻したり、補助金が出るからと代用燃料(木炭)駆動にするのも朝飯前
…ノンフィクションである。
あまりのことに鉄道省がブチ切れ「とにかくいいからおまえんとこの現有車両を全部書き出せ」と指示したところ、朝倉軌道は車両番号を記載した書類を出してきた。
…だが。
その書類には載っていない車両が実在していることが確認されていたりする。
この他にもガソリンカーの方向転換用の転車台(運転台が一方にしかない奇特な車両を使用していたため必要であった)の設置をめぐっても、設置申請をしたら勝手に構内配線を変えていたことが発覚して申請を取り下げたにもかかわらず、なぜか転車台は設置・使用されたというめちゃくちゃな話もある。
もうやだこの会社。
さらにはガソリン機関車もビュイック(現在のゼネラルモーターズの一部)製の自動車の部品を使ってデッチあげている。この行為自体は他にも例があるのだが、驚くべきは申請の際「トラックの中古エンジンを流用したため、カタログも図面も存在しない」などと平然と言い放ったのである。鉄道省と交渉するのが嫌だったのか、行き当たりばったりで作ったから本当に図面が存在しないのか、この会社だとどちらでもありそうな話である。が、鉄道省はその言い訳で申請を通してしまった。
ちなみにこの他「無届けで運賃半分」「無届けで休廃止」などの大技も披露している。
最後は鉄道省(国鉄)甘木線(現甘木鉄道甘木線)の開業を前に補償金を目一杯ふんだくって廃止しようとした(そのために本来不要なはずの中古車の購入までしている)が、さすがにここでは鉄道省側が一矢を報い、車両、設備に関しては「書類不備」を理由に最低限度の補償のみを認めている。
並行区間に関しては純粋な並行区間は上田代線の飛行隊前~依井と本線の依井~甘木だが、二日市~依井も並行路線として認めている。それでも朝倉軌道が求めていた甘木~杷木はばっさりカットされている
ただし、朝倉軌道の名誉(?)のために記すと、運行期間中には大きな事故・トラブルは記録されておらず、また全期間を通じて無借金経営を続けていた。
地域住民には利益還元及び利便向上という観点ではまともな事業者だった、のかもしれない。
ただし、あくまで「当時としては大きな事故」。
非舗装の砂利道に敷かれた貧弱な線路ゆえ、脱線は日常茶飯事、片道数回以上がデフォルトだったと言われる。
路線廃止に伴って特別に沿線から存続の陳情が会社や自治体に出されたという話もなく、おそらく住民も「存在自体がギャグ」ということは薄々感づいていたのだろう。
ついでに言うと、確かに朝倉軌道本体は無借金経営だったが、経営難から事業の統合を図った両筑軌道の抱えていた借金はどうやってなくなったのかわからない分がある。
さらに経営統合後は朝倉軌道の支線として、運行上は朝倉軌道本線との直通まで含めて一体化したのだがこれまた無届である。(上記の車体幅に抵触する車両は、中央軌道や両筑軌道から引き継がれた車であると思われ、当然法令上入線不可能な区間でも普通に使われていたことは容易に想像できる)
なお、バス事業は紆余曲折を経て西鉄バスに継承され、現在まで存続している路線もある。
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ただし
このように数々の法令違反で知られる朝倉軌道であるが、この手の所業は当時の軽便鉄道クラスの会社では大して珍しい事ではなかった。(新車を無認可で購入・使用した会社すら存在した)
しかしながら他社では「雉も鳴かずば撃たれまい」と内密にされる事柄を、当局を相手に大っぴらに「杜撰さ」を貫いたため、朝倉軌道だけがやたら悪目立ちしてしまったことは否めないだろう。
それでも現存する大手私鉄の大半が(特に戦前に)やっていた数々の所業からみれば、そのスケールはまだ可愛いもんである。
こちらも参照→インターアーバン
ホントもうやだこの国。