第64回安田記念
さいごのさいごのさいごとらえたかじゃすたうぇい
前日から降り続く雨により、タイキシャトルが勝った1998年以来16年振りの不良馬場、それも武豊騎手が『「不良」のカテゴリーよりさらに悪い』と言うほどの馬場となった本レース。
圧倒的1番人気は前走ドバイDFの圧勝により、ワールドベストレースホースランキングで世界1位に立ったジャスタウェイ。今回はチャレンジャーではなくチャンピオンとして凱旋レースに臨む。
迎え撃つはNHKマイルカップを逃げ切った2番人気ミッキーアイルを筆頭にGIウィナー8頭含む計16頭の豪華布陣。
中でも前走で長期休養やスランプから復活勝利を果たした3~5人気ワールドエース・グランデッツァ・カレンブラックヒルらはジャスタウェイとは3歳以来の再戦となる。
世界王者のリベンジマッチか?
チャレンジャーの完全復活か?
枠番 | 馬番 | 馬名 | 性齢 | 騎手 | 人気 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | グランデッツァ | 牡5 | 石橋脩 | 4 |
1 | 2 | レッドスパーダ | 牡8 | 四位洋文 | 15 |
2 | 3 | カレンブラックヒル | 牡5 | 秋山真一郎 | 5 |
2 | 4 | リアルインパクト | 牡6 | 戸崎圭太 | 14 |
3 | 5 | エキストラエンド | 牡5 | 横山典弘 | 12 |
3 | 6 | グロリアスデイズ | 騙7 | J.モレイラ | 13 |
4 | 7 | ホエールキャプチャ | 牝6 | 蛯名正義 | 7 |
4 | 8 | ミッキーアイル | 牡3 | 浜中俊 | 2 |
5 | 9 | ダノンシャーク | 牡6 | 内田博幸 | 9 |
5 | 10 | ジャスタウェイ | 牡5 | 柴田善臣 | 1 |
6 | 11 | ショウナンマイティ | 牡6 | 北村宏司 | 10 |
6 | 12 | グランプリボス | 牡6 | 三浦皇成 | 16 |
7 | 13 | フィエロ | 牡5 | 岩田康誠 | 6 |
7 | 14 | クラレント | 牡5 | 川田将雅 | 11 |
8 | 15 | サダムパテック | 牡6 | 田中勝春 | 17 |
8 | 16 | トーセンラー | 牡6 | 武豊 | 8 |
8 | 17 | ワールドエース | 牡5 | C.ウィリアムズ | 3 |
【実況全文】
スタートしました!
フィエロ出遅れました
さあ先行争いですが
やはりミッキーアイル出て行きました
先手を取ってリードは1馬身です
あとはリアルインパクト、ダノンシャーク
内、3番カレンブラックヒル四番手
あとクラレント上がっていきました
そして1馬身差、中団の前にはグロリアスデイズ
外トーセンラーです
中団内に2番レッドスパーダ─3コーナーへ向かいます─ワールドインパクトがいて
そして外を回りましてワールドエースがいて
その内には12番グランプリボスです
そして内を突いて1番グランデッツァ
更に外には追走していきます5枠のジャスタウェイ
中団グループ、3コーナーをカーブしていきます
後はサダムパテック、フィエロ、ショウナンマイティ
後方から2頭目、7番ホエールキャプチャ
最後方は5番エキストラエンドで
3・4コーナー中間を通過
先頭は8番ミッキーアイル、リードは半馬身です
2番手には4番リアルインパクト
各馬接近していって
外からクラレント早めに行きました
更にはダノンシャーク、4頭広がって
その直後には差を詰めていくトーセンラー
第4コーナーをカーブ。今、直線コース
中団馬群の中にジャスタウェイはいる!
さあ直線に向いて横に広がりました!
今度は先頭は9番ダノンシャークか?
ダノンシャークか?クラレント!
更には内を突いて追い込んでくる6番グロリアスデイズです!
横に広がっている!
さあ先頭ダノンシャーク、グロリアスデイズ
そして間からは懸命にグランプリボスも追い込んでくる!グランプリボス追い込んでくる!
そして、その内からは10番ジャスタウェイ!
さあ!残り100m地点になって
グランプリボス!グランプリボス!
そして、その内ジャスタウェイが2番手!
3番手ダノンシャーク!
内を突いて11番のショウナンマイティ
さあ、前2頭並んだ!!
ジャスタウェイか─並んでゴールイン!!
最後の最後の最後、捉えたか!?
ジャスタウェイ!!!
一旦、抜けたグランプリボスを
どうでしょう、ゴール寸前、躱したか!?
レースではミッキーアイルが逃げの手を打つ。不良馬場の中、先行馬が失速していくと脚を溜めていた後続が芝の状態のいいところに殺到し4コーナーで急速に馬群が密集。直線ではいっぱいに広がり、各馬の叩き合いとなった。まず前年3着ダノンシャークと香港マイル覇者グロリアスデイズが先頭を争うが、その間を突くのは16番人気の伏兵グランプリボス。残り200m地点ではグランプリボスが完全に抜け出し、三浦皇成騎手が初G1勝利を掴むかに思えた。
そこへジャスタウェイが内から迫る。馬群の密集に巻き込まれたことに加え、グランプリボスのマークで芝の状態がいい外に出ることができず、馬場の悪い内から抜け出さなければいけなくなった彼は懸命にグランプリボスを追う。
ドロドロの不良馬場に二度三度と脚を取られバランスを崩しながらも、残り150mで2番手に上がるジャスタウェイ。完全に2頭の競馬となった一戦は、残り100mから壮絶な叩き合いとなった。
ラスト50m、ジャスタウェイは更に加速。泥にまみれた2頭はほぼ同時にゴールへ飛び込んだ。勝負の行方は写真判定へ。
結果、わずかにハナ差出たのは内、緑の勝負服ジャスタウェイ。9cm差の勝利であった。
これでジャスタウェイはGI3連勝。そしてライバルたちとのリベンジマッチに勝利。
ヨシトミ騎手の「普通の馬だったら諦めてもしょうがないっていうぐらいのバランスの崩し方だったんですけど、それでも諦めないっていう気持ちがやっぱり世界一だなって思いましたね」の言葉のように王者が世界一の意地を見せたレースであった。
柴田善臣騎手とジャスタウェイ陣営
騎乗停止中の主戦福永騎手の代打を務めることになったのは柴田善臣騎手。彼のファンである馬主大和屋暁氏の希望によるものである。
元々サダムパテックの先約があり、不義理を嫌う先約主義のヨシトミ騎手であったが、「日本を代表する馬がベストのレースをするためには騎乗経験のある騎手に」という関係者の気持ちから最終的にヨシトミ騎手から電話をし、西園師や大西オーナーらサダムパテック陣営の理解を得られたという。ジャスタウェイ陣営は口々にサダムパテック陣営への感謝の言葉を述べており、大和屋氏はセレクトセールで大西オーナーに直接、挨拶した。その後、サダムパテックは中京記念で勝利し、応援していた大和屋氏は喜んでいた。
サダムパテック陣営へ申し訳ないと思う一方、騎手として世界一の馬の手綱を任されたことは嬉しかったという。ジャスタウェイを管理する須貝師は競馬学校の同期であり「2人で一緒にGIを勝てたらいいね」とレース前にやり取りしていた。また、過去に2回、ヨシトミ騎手が騎乗した際には2着であり、パーティーで「勝てなくてすみません」という謝罪するヨシトミ騎手に対して「滅相もない。去年も一昨年も天皇賞に出られたのは善臣さんのおかげです!」と大和屋氏が返すこともあった。そもそも大和屋氏がジャスタウェイ所有に至ったのは
という流れである。この安田記念でヨシトミ騎手は見事、三度目の正直を、大和屋氏は愛馬に好きな騎手を乗せてG1を勝利するという馬主の夢を、須貝師は同期との勝利を、それぞれ実現したのであった。レース後、ヨシトミ騎手は次のように語っている。
「それにしても競馬学校で一緒に遊んだ同期の須貝君が調教師で、自分が乗ったアイリッシュダンスの孫なのか。自分もずいぶん長いことやっていますね(笑い)。でも、こういった縁こそが競馬の良さだと思う。勝った時の喜びが2倍、3倍にもなるよね。こういう気持ち良さがあるから、今も騎手を続けています。いくつになっても馬に乗るのが楽しい。これからも若いやつに負けないように頑張るので、引き続き応援よろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。」
激走のグランプリボスと矢作調教師
ハナ差2着に激走したグランプリボス。矢作芳人調教師は元より「いつ走るのかがわからない馬」と評しているが、特に「この好走だけはどうしても説明できない」と語る。彼は以下のように振り返っている。
「あの安田記念はグランプリボスの真骨頂を見たレースだった。まるでアテにならないのに、底力だけは驚くほどある。性格が曲がっているわけでもなく、走りも奇麗。なのに、なぜこんなことが起きたのか? 現在もさっぱりわからない。長い付き合いだったのに、最後まで正体がつかめなかった。一度は一緒に酒を飲み、心の底を聞いてみたい。そんな思いにかられる馬だったよ」
ミッキーアイルとジャスタウェイ
東京競馬場の馬房ではこの2頭が隣となった。ミッキーアイルを担当する平井助手は「隣がNo・1ホースだから、夜のうちに走り方を教えてもらえるのでは」とレース前日に冗談を飛ばしていた。