概要
自己愛性パーソナリティ障害とも。
ごく簡単に言えば、一見「自分が大好きな人」のように思えるが、根底では「ありのままの自分を愛せない」障害である。 2009年アメリカでの調査によると、総人口の16人に1人は自己愛性人格障害を経験していることになり、生涯有病率は1%とされている。
自分の能力や容姿、出自や持ち物などを周囲に誇示し、優越感に浸っているように見える一方で、心の底には強い劣等感、コンプレックス、自己無価値感が渦巻いている。
そのため、「自分は万能で特別な存在だと思い込む」、「他者から無条件で肯定的に評価されることを要求する」、「優越感を得るため身近な弱者を貶め見下す(パワハラやモラハラ)」といった、自分の優位性を示すマウンティングを行い、精神の均衡を保っている。
いわゆるナルシスト(ナルシシズム)の一つの形であるが、一般にナルシストと聞いてイメージされるような「自分が大好きなため自分以外のものに興味がない」というわけではなく、「他者から見られる自分に自信がないため、虚勢を張っている」状態であると言える。
自己愛性人格障害の人は、何らかの要因でありのままの自分に自信がなく、「自分はありのままでも周囲から認められ、愛されている」と感じることができないほど精神的な余裕がない。このため、自分を優れた、強い存在に見せることに固執し、そのイメージが脅かされることに不安を感じている。
表面的なプライド(自尊心)は非常に高いが、本来の自尊心は低く、非常に傷つきやすい。そのため他者に少しでも見下された、攻撃されたと感じるとひどく落ち込んでしまったり、過剰かつ執拗に攻撃的になってしまったりする。
他者を見下すような言動も、基本的には「弱い自分」を見られる恐怖により、自分の価値観を正当化しようという考えからくるものである。
基本的に「他人から自分はどう思われているか」に執着し、自分が周りに与える影響を大きく捉えてしまう自意識過剰な傾向があり、自己評価よりも他人からの評価に、また第三者の客観的な評価より身近な人や「自分より優位」と思う人の主観的な評価に依存しがちである。
自意識過剰と関連して、共感性が弱い(周りがよく見えていない)傾向にあり、自己中心的な言動や思い込みの強いところが多々見られる。ストーカーの中には自己愛性人格障害の傾向を持つ人が少なからずいるという見解もあり(福島章『ストーカーの心理学』など)、ストーカーにまで発展しなくとも、人間関係の適切な距離感がうまく掴めず、トラブルを起こしやすい。
診断基準と性格傾向
アメリカの診断基準であるDSM-IV-TRによれば、以下の基準により障害かが判断される。
誇大性(空想または行動における)、賛美されたい欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
- 自分が重要であるという誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)
- *限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想に囚われている。
- 自分が “特別” であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達(または団体)だけが理解しうる、または関係があるべきだ、と信じている。
- 過剰な賛美を求める。
- 特権意識(つまり、特別有利な取り計らい、または自分が期待すれば相手が自動的に従うことを理由もなく期待する)
- 対人関係で相手を不当に利用する(すなわち、自分自身の目的を達成するために他人を利用する)。
- 共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
- しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
- 尊大で傲慢な行動、または態度。
上記の診断基準とは別に、罹患者が持つ言動の特徴には以下のようなものが挙げられる。
- 第一印象は良いが、思想は表面的で主張がコロコロ変わる
- 衝動的かつ感情的な言動
- 漠然とした快・不快で人や物事を判断しており、時に極端な行動をとる
- 理想が非常に高く、空想家である
- しかし創造性・個性に乏しく、他人の猿真似に終始してしまうことも多い
- 孤独を嫌うが、友人間でも上下関係や支配関係を作りたがり、長い付き合いの対等な友達がほとんど居ない
- 共感性が低く、自分と違う価値観や個性を受け入れられない
- 完璧な自分の虚像をおびやかす者は、優秀な人間であっても許せない
- 恥をかくような場面を極端に嫌い、プライドが傷つくことを受け入れられない
- 被害妄想、加害妄想のどちらも抱えているが、どちらかといえば被害の方が強い
注)罹患者がこのすべてに該当するとは限らず、このすべてに該当するように見えたとしても罹患者とは限らない。安易な決めつけはしてはならない。
原因となる要素
発症にはさまざまな要素があるが、物事に過剰に敏感であるというような生まれ持った性格傾向に加え、生育環境や家族との関係、成功体験、またそれによる評価(賛美)の経験などが影響すると考えられている。
とくに、毒親や虐待など、家族関係に恵まれないことも大きな要因となる。
片や無関心・暴力的な親、片や過保護・支配的な親という家庭で育ち、幼い頃に充分子供らしくいることが許されず、親の望むよい子を演じなければ見捨てられてしまうという恐怖から、表面上は完璧な人間を演じようとする。しかし、そうやって親から注目されることで、余計にありのままの自分は無条件で愛されないという自己無価値感に苛まれてしまう。
成長過程で自己無価値感を克服することで治っていく事もあるが、コンプレックスを解消できないまま成人・壮年期を迎えると人格障害として確定する。
他にも、脳の特定の部分の脆弱性から不安を感じやすく、集団生活に馴染めないなどの性格傾向や、発達障害に由来する感情・感覚処理の特殊性など、生まれ持った特性が原因と見られるケースもある。
上記に加え、(本来の成果や実力よりも)周囲から非常に高く評価され、賛美を受けることで、自分の能力の正当性に自信を無くし、不安を感じるような体験をした人なども発症しやすいと考えられている。
インターネット上のコミュニティ、特にSNSは多くの人と気軽に交流できることや、非現実の存在として自分の理想的なキャラクターを演じることも難しくないことから、症状を増幅させる要因ともされている(例えば動画等の配信者【資料】など)。
治療
一般的には心理療法(行動療法など)が治療に用いられる。ただし、医師が関与できるのはあくまで症状の理解と克服のための指導と治療の手助けであり、医師の力だけで治す訳では無い。
広義の精神障害全体に言えることだが、改善・寛解のためには患者本人が主体的に自身の障害と症状を把握し、治療に向き合う必要がある。
他のパーソナリティ障害や精神疾患を併発することも少なくない。
例えば境界性人格障害や演技性人格障害は一部の症状が類似しており、療法も共通するものが用いられることがある。また、幼少期に保護者から十分な愛情を受けられず、適切なコミュニケーションを身につけられなかったことによる愛着障害を抱えている人もおり、愛着障害が原因でパーソナリティに影響を及ぼしていると考えられる。
抑うつや強い不安を抱えている人も多いため、うつ病や不安障害を発症したり、薬物などの依存症になったり、更に、元々の「自分の思い描く理想通りにならなくてはならない」という性質から強迫性障害(潔癖症など)を発症することも見られる。
抑うつなどの症状には抗不安剤や向精神薬といった薬物による療法が用いられるが、基本的には医師との対話や行動のトレーニングによる療法がメインとなる。
レッテル貼り
主にネットスラングとして、特に自己顕示欲が強く見える、傲慢で攻撃的な振る舞いをしている人を指して「自己愛性人格障害」と呼ぶことがある。
ただし、他の精神疾患用語(アスペ、糖質など)と同様に、医師が正式な診断を下したものではないため、SNS等で観られるものは単なるレッテル貼りにすぎない点に注意。
関連タグ
理想主義 コミュ障 自己顕示欲 承認欲求 承認欲求モンスター エナジーバンパイア
境界性人格障害…一部類似する症状があるパーソナリティ障害。当然併発している者も少なくない
ソシオパス…反社会性パーソナリティ障害のうち、幼少期の生育環境などに影響されて発症するもの。類似性が高い。
ネット依存症…併発しやすい症状の1つ。優越感に浸りたいがためにのめり込みやすい。
強迫性障害……併発しやすい症状の1つ。両方の症状が重なると、過剰な執着や無自覚な荒らし行為を招く。
統合失調症…共通点があり併発しやすい症状の1つ。
神咒神威神楽…この作品の舞台となる世界に敷かれている法則「大欲界天狗道」。
天狗道の世に生きる者は程度の関係こそあれ誰も彼もが基本的に自己愛性人格障害を発症しているとされ、「己や自身のやりたいことや自己満足や承認欲求>それ以外の人や獣や森羅万象」の自己中心的・利己・独善思考がデフォルトであり、利他・博愛などの「本当に他者を【自己のセカイのオマケ】とは見なさずに考えられる」思考を持つ者こそ異常者とされている。