概要
通称パワハラと呼ばれ、職場での上下関係(上司と部下)や人間関係などの職場内の優位性を背景に、適正な業務の範囲を超えて、身体的・精神的な嫌がらせを行ったり、職場環境を悪化させたりするような行為を指す。
上司から部下だけに限らず、部下から上司、同僚に対して行われるのもパワハラとされる(逆パワハラ)。また、同じ職場内で働いてなくても、取引先や顧客などからの、取引関係を理由にした行為もパワハラとみなされる場合もある。
本人にとっての問題人物や、嫌いな人物を追い出す目的で行うこともある。
なお、学校内で教員と生徒(その逆)の立場を背景にした嫌がらせ行為は、アカデミックハラスメント(アカハラ)と呼ばれる。
パワハラとされる行為
厚生労働省が示す、パワハラの典型例は以下の6つの行為に類型化される。
- 暴行・傷害→身体的攻撃
- 脅迫・誹謗中傷・名誉棄損→精神的攻撃
- 無視・仲間はずれ・隔離→人間関係からの切り離し
- 業務上明らかに不要なことや、遂行不可能な事の強制→過大要求
- 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、そもそも与えない→過小要求
- 私生活への過干渉→個の侵害
また、厚生労働省の定義には含まれていない具体例としては
- ガスライティング、マンスプレイニングなど、優位性をモラハラによる嫌がらせを行う
- 上司や取引先といった相手に向かって感情的になってしまう、仕事を失敗してしまうような場面を第三者が作り、評価を下げさせたり、関係性を故意に悪化させたりする
- 大勢の前で部下を叱責する・恥をかかせる
- 冤罪や濡れ衣を着せ、職場内での信頼関係を貶す
などが挙げられる。
また、これらの行為を、社内での問題行為が目立つ人物、リストラしたい人物を追い出すために組織ぐるみで行う場合もある。
労働者の権利を行使させない(残業代を支払わない、有給休暇を取らせない、ノルマ買取の威圧的な強要、退職の妨害や条件付けなど)というのも立派なハラスメントだが、これらは上司となる1人の裁量だけの問題ではなく、組織全体の問題であることが多い。ブラック企業の記事も参照のこと。
第7のパワハラ
上記の6つが「立場を利用して無茶を押し付ける」行為であるのに対し、「その立場(=パワー)を利用せずに問題解決を遅らせる、事態を複雑化させる」のもパワーハラスメントにあたるのではないか、という考えから「第7のパワハラ」と呼ばれることがある(正式名称ではなく俗称)。
特に、スポーツにおける重大な反則や、違法行為などを諌めたり、処罰したりする立場にある人(主にスポーツの審判・協会員・学校の教師・警察官など)が、その責任を放棄して、問題を放置したり黙認したりする事を指す。
日大アメフト部悪質タックル事件を受け一部で提唱されたが、その後特に定着することはなかった。
パワハラの影響
パワハラを受けた人は精神的・肉体的に深い傷を負うことになる。ひどい場合は休職、退職を余儀なくされ、適応障害やうつ病などの病気になってしまうこともあり、最悪の場合自殺に追い込まれてしまう。
一方(パワハラが発覚した)加害者は周囲からの信用を無くし、懲戒処分などで仕事を失うことになってしまう。訴訟問題に発展した場合は損害賠償など経済的な負担もある。
また企業側も、パワハラに加担していなくても信用悪化による業績不振や人材損失など、企業全体に悪影響を与える。
ただし、パワハラを組織ぐるみで隠ぺいし、責任や処分をうやむやにして終わることは珍しくない。
加害者が経営陣にとって使いやすい、もしくは贔屓の対象である場合、被害者の退職や異動をもって問題解決とすることもあり、被害者ばかりが泣き寝入りするケースが後を絶たない。
パワハラに悩んでいたら
うかつに「辞表パンチ」など暴力に訴えることはせず、まず初めに労働基準監督署(労働局)に相談する事をお勧めする。労基は労働環境の是正を目的にパワハラの実態調査を行い、必要によって会社への指導などが入ることとなる。
ただし、労基は本来個人間のいじめやパワハラを解決するための機関ではないため、問題の絶対的な解決には至らないこともある。パワハラによって精神疾患などを発症した、退職に追い込まれそう(あるいは無理やり辞めさせられた)という場合、またそれを理由に訴訟を起こしたい場合は、弁護士への相談・依頼が必要である。
2020年6月からは、企業に職場でのパワハラ防止を義務付ける「改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が施行されている。2022年4月からはそれまで努力目標扱いであった中小企業にも義務化されており、今後ますますパワハラに対し厳しい目線が向けられることになる。
これに関連して、労基等の公的機関への報告のほか、企業独自のパワハラ通報窓口を設けているケースもあり、それぞれの企業の法務や人事、監査といった部門が相談を受け持っている。
また、労働組合が持つ団体交渉権を利用して訴えるケースもあるが、職場内の窓口や労働組合は(とくに中小企業の場合)会社とのつながりが強く「見て見ぬふり」になってしまうことも少なからずあるため、外部の個人加入型労働組合を通じて報告・交渉する方法もある。
パワハラを含めた職場の問題に関する厚労省等に向けた内部告発については、公益通報者保護法によって告発者の解雇や降格・減給等が行われないようにされている。このため、もしパワハラを受けた・見かけたことで労基などに告発した人が、告発したことを理由に会社から不当な扱いを受けるのは違法である。
ただし、告発の内容はパワハラではないが、ミートホープ事件など内部告発を行ったことで会社が倒産、告発者は元社員や取引先から恨みを買い、マスコミに追い回されて地元にいられなくなり、家族とも離縁することになったケースもあり、この告発者は(内部での解決が望めないと判断した時点で)告発せず無言で退職するべきだったという見解を示している。
また刑法第239条においては
と定義されている。
つまり、ある行為について犯罪の可能性があると判断したときには告発することができ、また公務員に関しては職務上見かけた犯罪行為について告発する義務があるということで、これを「犯罪の域に達しているようなパワハラについての告発」も同義と捉えることができるが、ハラスメントが必ずしも明確に犯罪行為へ該当するとは限らず、また立証できなければ犯罪ではないため、パワハラの告発の取り扱いは「犯罪行為の告発権利と義務」だけを論拠とするわけではないことに注意が必要である。
退職は労働者の権利であり雇用者の意志よりも優先され、妨害したり損害賠償や特別な条件をつけることはできない。また退職前に有給休暇もすべて消化する権利がある。
近年は退職代行などのサービスも活発になっており、パワハラを受けていても、第三者を挟むことで円満に退職を進められるケースも増えている。
逆パワハラ
下の立場の者が上の立場に対して嫌がらせする行為「逆パワハラ」も存在する(部下→上司のハラスメント)。
例えば「指示された仕事を拒否する」「在籍年数や年齢など、業務上の立場以外の部分でマウントを取る」といった行動が挙げられる。
上司のほうは、部下の機嫌を損ねたり、部下から「それってパワハラですよね」と言われたりするのを恐れるあまり萎縮してしまう、警戒して逆に高圧的に迫ってしまうなどして、本来の業務としての指示・指導に悪影響が出るといった危険性がある。
関連タグ
アウティング:パワハラに含まれる場合もある
- 夢野カケラ:雑誌編集者からパワハラを受けている漫画家。
- 鬼舞辻無惨:別名「パワハラ上司(鬼滅の刃)」。個人的かつ理不尽な理由で、落ち度のない部下の鬼4名を粛清した。
- なぜなぜ分析:本来の目的から乖離し、自己批判を強要するだけのパワハラの道具となっている場合が多い。
他のハラスメント
セクシャルハラスメント モラルハラスメント アルコールハラスメント